「変わりゆく若人たち」《IF√》

「変わりゆく若人たち」恵美香パートNo.55から直接続く《IF√》です。
こんな形ではありますがどうぞお楽しみ下さい。





 ――おかしいよね、私、ハイグレ人間のはずなのに……。

 その声は、ひどく掠れ、震えていた。まさか、泣いているの? そう思って羽衣の目を覗きこむと、本当に涙目になっているのだった。

 ――今、「助けて欲しい」って、思ってるんだ……!

「羽、衣……っ!」
 届いたんだ! 羽衣の心に、あたしの思いが!
 これが、ハイグレ人間になってしまった人でも人間の心を残していることの証拠になるかは分からない。この出来事が羽衣だけに起きた奇跡である可能性もある。でも、何にせよ今、羽衣は間違いなく「助けて欲しい」と言ったのだ。
 あたしは泣き崩れる羽衣の肩に手を置き、確実に聞こえるような声で言う。
「絶対に羽衣を……ううん、みんなをハイグレから助けてみせる。約束するから」

 ――うん、お願い……ね?

 苦しさを感じているのだろうか、羽衣は引きつった笑顔をあたしに向けた。けれど、それが羽衣の本心であることは確認できた。
 あたしはみんなの希望の星にならなければいけない。この先にどんな辛い道が待っていようとも、みんなを救うまでは足を止めずに進むんだ。

 ――羽衣さん!? 何をしているのですか!

 未だ光線銃のチャージを行っている須原生徒会長が、うずくまる羽衣を一喝する。すると羽衣はゆらりと立ち上がると、あたしを会長たちから守るようにして手足を大の字に広げたのだった。

 ――行、って。恵美……香。
 ――あなた、まさか……っ! そのような真似をすると、どうなるか分かっているでしょう!?

 羽衣の意図に気付いた会長は露骨に激怒して、照準をあたしから羽衣に合わせた。さらには周囲のハイグレ人間たちも同じようにした。
 どう考えても今度こそが、あたしに与えられた最後の脱出のチャンスだった。もう、一刻さえも無駄にはできない。
「ありがとう羽衣! 約束、絶対に守るからっ!」
 あたしは羽衣の返事を待たず、踵を返して再び柵越えに挑む。助走をつけて柵に跳びかかり、片足ずつ引き上げる。

 ――ピシュンピシュン!
 ――きゃあああああっ!!

 その瞬間、背後で羽衣の断末魔が聞こえた。だけどあたしは振り返らない。神話の時代から、逃げるときは後ろを振り向いてはいけないと相場が決まっているんだ。
 これは羽衣がくれた時間なのだ。さっきは焦って転落したけれど、今度はそうならないよう慎重に柵に両足を付けて……一気に向こうへ飛び降りる!
 空中を舞うこと数瞬。なんだか予想よりもだいぶ跳んでしまっている。うっすら危機を感じた直後に重力に引かれたあたしは、見事にバランスを崩した。
 グキリ、と嫌な音がした。本来両足を揃えて膝を緩衝材にして着地すべきところを、誤って右足一本で着いてしまったことが悪かった。
「く、ぅぁ……!」
 肘をも擦り剥くが、そんなものが気にもならないくらいに右足首が痛い。折れてはいないはずだけど、確実に捻挫をしている。地面に倒れて呻きながら、その箇所をおさえるあたし。
 これでは走ることはおろか、立ち上がることすら出来るかどうか。そして、今はまだ校門の目の前。身動きの取れない状態で狙われたら、どうしようもない。
 折角……折角学校の外に出られたのに……!

 ――恵美香さん! 覚悟しなさい!

 柵の隙間から、何十丁ものハイグレ光線銃があたしに向けられていた。全て、いつでも発射できるような状態で。
 背筋が凍り、這って少しでも校門から遠ざかった。ほんの僅かな衝撃が加わるごとに、足に激痛が走る。それでもなんとか、道路を挟んだ民家の塀に寄りかかることができた。だが、そこまで。それ以上の逃げ場は存在しなかった。
 ああ、こんな馬鹿なことってあるのかな。足首捻ったせいで、これまでの全てが無駄になるなんて。
 ……ごめん羽衣、みんな。あたしを、呪っていいよ。

 ――撃てっ!
 ――キキィィーーーーーッ!
 ――ピシュンピシュンピシュン!

 その一瞬に何が起きたのか、あたしは一部始終を目にしたのに、信じれない気持ちでいた。
 まず、須原会長が射撃命令を下した。直後に突然、向かって右側から黒い壁が猛スピードでやって来て、あたしとハイグレ人間たちの間に割り込む位置で急停止した。それから発射されたピンクの光線は、例の壁によって防がれてあたしには全く届かなかった。
 守られた? 助かった? そのことだけを認識するのにさえ、あたしは数秒を要した。
 呆然とするあたしの目の前で黒い壁がパカっと割れ、中から白衣を着た大人の女の人が現れた。よくよく見てみると、壁と思っていたそれは黒いワゴン車であった。

 ――立てる!?

 掴まれとばかりに手を伸ばしてくる女の人。しかしあたしは痛みのため、それを掴むことができなかった。
 そんなあたしを見かねた女の人は車から降り、素早くあたしを抱えて有無を言わさず車に収容してしまった。車内はフロントガラス以外に黒いカーテンが引かれており暗い。あたしはほとんど光の届かない後部座席に横に寝かされたが、そのとき足を軽くぶつけて痛みに顔をしかめた。
「いた……っ」

 ――大丈夫? ……捻挫していたのね、ごめんなさい。

「い、いえ」
 怪我を心配してくれた? 誰だかよくわからないけれど、少なくともこの人はハイグレ人間でもなければ悪い人でもないように感じられた。
 すると女の人は何も言わずあたしの服をはらりとめくり、それから叫んだ。

 ――負傷した人間の女性一名回収。これ以上の人間の発見は困難と判断。現場を離脱します!
 ――了解!

 運転席の方から聞こえた男の人の返事と同時に、車は急発進をする。エンジンが唸り、直後に後方へと重力がかかる。
 外の様子は見えないが、それでも学校から遠ざかっていることくらいは分かる。……あたしは、
「助かった、んだ……」
 呟きを聞いた中部座席からこちらを振り向いた女の人が、微笑んだ。

 ――そうよ、あなたは助かったの。これからは私たちが保護するから、安心してちょうだい。

 彼女の言葉を、頭の中で何度も反芻する。大丈夫、無事、あたしは高校から脱出できたんだ。間違いなく。
 そのことを理解するや否や疲れがドッとのしかかり、睡魔までもが襲いかかってきた。張り詰めていた緊張の糸が、切れてしまったんだろう。

 ――お疲れ様、大変だったでしょう。……ゆっくり休んでね。

「は、い……」
 だんだん足の痛みよりも睡眠欲が勝っていき、車の微細な振動が苦痛から心地よいものに変わっていく。
 あたしは揺り籠の中で、全てを忘れて目を閉じた。

   *

 ……夢をみたんだ。
 あたしも、羽衣も、友達も先輩も後輩も、みんなが制服姿で学校で過ごしている……そんな素晴らしい夢だった。


     *続く?*
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遂に自らハイグレ小説を書くようになってしまいました
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