【インスパイア】魔法少女マホ 最終話 ~最終決戦! マホvsハイグレ魔王!~

鉄は熱いうちに打て。ネタは新鮮なうちに食え。疾風迅雷香取犬です

えー、今回は予告していた小説とは違います、ということをはじめにお詫びさせていただきます
それで何を書いたかというとですね、二日前、スレの終わり際に話題になったネタのインスパイア小説です
一連のレスを見て「こりゃ絶対書くっきゃない!」と感じ、勢いに任せて二万字を書き上げました

そういうわけで書き込まれたとしあきさん方もそうでない方も、お楽しみいただければと思います

なお、タイトルに「最終話」とありますが、この世界のどこにもこの物語以前のお話は存在しませんのでお気をつけ下さい



わたし、卯里マホ! どこにでもいる中学1年生の女の子! ……の、はずだったんだけど……。
ある日わたしは、異次元の地球から来たアクション豚のアクとんと出会って、魔法少女マホになっちゃったの!
わたしの使命はハイグレ魔王を倒すこと。ハイグレ魔王を倒して、わたしはみんなを――ミホを助けるんだ!


魔法少女マホ 最終話 ~決戦! マホvsハイグレ魔王!~
Inspired by としあき


目次
Aパート
Bパート
回想
回想明け~Bad End
Good End

あとがき
あとがき2




「いっけぇー! ホライゾンサンダー!」
 わたしは幅広の階段を駆け上がり続けながら、杖を構えて魔法を唱えた。身体の中から魔法力が湧き上がり、腕へ、杖へと集中していく。その先っぽの赤い宝玉から扇状に迸った稲妻が、壁のように立ち塞がるパンスト兵たちを一瞬で薙ぎ払う。
 すると、前の方に光が見えた。あの先がハイグレ城のてっぺん。ハイグレ魔王の待つ、わたしたちの目的地。
『マホくん……準備はいいか?』
「もちろんだよ、アクとん!」
 わたしの肩にだらんと乗っているアクとんが、左右で大きさの違うお鼻の穴をヒクヒクさせながら聞いてきた。わたしはすぐにそう返事をして、更に足を速める。ピンク色に染まったツインテールや腰の大きなリボンをなびかせて、前へ、前へ。
『そうだ、一つだけ忠告がある』
「なに?」
『ハイグレ魔王のハイグレ光線は、これまでの敵のものとは比べ物にならないほどに強力だ』
「そ、それってわたしの魔法力じゃ耐えられないほど?」
『確証は無いが、恐らくは……』
 背筋に悪寒が走る。パンスト兵をはじめとした敵との戦いで、わたしは何度も光線を浴びせられ、ハイレグ姿にされてしまってきた。だけど魔法少女は、魔法力を消費することで光線の洗脳に抵抗できる。そうして完全なハイグレ人間になる前に決着をつけさえすれば、支配が途切れた一瞬の隙に元の姿に戻れるのだ。
 まあ正直、危なかった戦いは片手じゃ数えられない。ハイレグ一枚で戦うのはすっごく恥ずかしいし、頭の中がどんどん自分じゃなくなっていくのもすっごく怖い。
「けど、大丈夫だよ。それなら喰らわなきゃいいんでしょ?」
 わたしは自信を持って答えた。アクとんも満足気に笑う。
『良し、ならば行こうか。私たちの最後の戦いへ!』
「うんっ!」
 ハイグレ魔王を倒せば、これまでにハイグレ人間にされちゃった人たちは元通りになる。それに、アクとんが一つだけ、わたしの願いごとを何でも叶えてくれるんだ。
「待ってて、ミホ……!」
 わたしの願いごと……それは、親友のミホの病気を治すこと。

 ミホはわたしの幼なじみで、笑顔と長い黒髪の素敵な女の子。小さい頃からずーっと一緒に遊んでて、幼稚園も小学校も中学校もおんなじ。だけど、中学校の入学式にマホは来なかった。マホは朝、突然倒れて病院に運ばれたんだって。わたしは毎日お見舞いに行った。ほとんどは眠っていたけれど、時々目を覚ましているときには、中学校であったいろんなことを話して聞かせてあげた。その度にミホは楽しそうにしていたんだ。でも、病気はどんどん悪くなっていった。面会も許されなくなったときに、わたしはミホのパパとママから聞かされた。
 ――ミホはもう、あと半年しか生きられないってこと。
 わたしは学校では元気にしていたけれど、家ではずっと悲しくて泣いていた。そんなときだったんだ。アクとんが現れたのは。
 手のひらサイズのアクとんは言った。『もうすぐこの地球にもハイグレ魔王が襲ってくる。お願いだ、キミが魔法少女となって、ハイグレ魔王を打ち倒してくれ!』って。最初は全然信じてなかったんだけど、次の日、本当にハイグレ魔王が来てしまった。魔王軍は日本中の人たちを次々に、ハイグレ人間にしていったの。私たちの町にもたった二週間で敵が来てしまう。そうなったら……!
 それでも決心が付かなかったわたしにアクとんは、わたしが魔法少女になってハイグレ魔王を倒せば、代わりに願いごとを叶えてくれると言った。
 だからわたしは、魔法少女マホになった。みんなを守るために。そして――大切な友だち、ミホの笑顔を取り戻すために。

 階段を登り切ったわたしに突然、上空600メートルの風が吹き付ける。思わず顔を、二の腕の半ばまであるグローブをはめた手で覆ってしまう。それが収まると、屋上の中央に人影が見えた。場は、直径20メートルほどの円形をしていて、端から落ちれば地上まで真っ逆さまだった。
 ひょろひょろの人影は、赤いモヒカンの飛び出たへんてこな色の仮面に、黒いマント。あれこそ間違いなく恐ろしい侵略者――ハイグレ魔王だ。
『ハイグレ魔王……っ!』
 宿敵の名前を呼ぶアクとんの声にも力がこもっている。アクとんが元いた次元の地球は既に、ハイグレ魔王の手に落ちてしまったらしい。それでこちらの世界に助けを求めに来たんだって。
 魔王はわたしたちを迎えるように、マントの隙間から青い肌の両腕を出した。
「よォうこそアタシのお城へ、魔法少女マホ! それと……随分と可愛らしくなったのね、アクション仮面♪」
「えっ……アクション、仮面……!?」
 わたしは驚いて肩を、額に汗を浮かべるアクとんを確認してしまう。そう言われてみればアクとんのカラフルな身体の色は、アクション仮面のコスチュームに似ているような。
 アクション仮面と言えば、男の子も女の子も観ている子供向けヒーロー番組のヒーローだ。わたしも昔は観てたけど、どうせ嘘んこなんでしょ、と思ってしまってからは興味を失ってしまった。そのうちに、気付けば番組が終わってしまっていたのだけど……もしかして。
『……貴様に敗れ、次元の狭間を彷徨う今の私に十分な力は残っていない。だが、例えこのような姿に身をやつしても、貴様を倒す心だけは変わっていない!』
「アクとん……本当にあなたがあの、アクション仮面なの?」
 恐る恐る尋ねると、アクとんはコクリと頷いた。
『そう、私こそがアクション仮面だ。別次元で怪人たちと戦う私の姿が、こちらではヒーロー番組として放送されていたのだったな。……隠していてすまなかった』
「そんなことないっ! わたし、あなたが本当にいてくれて、すごく嬉しい。あなたみたいなヒーローに、ずっと憧れてたから……!」
 わたしが魔法少女になるって決めたのは、確かにマホを助けたかったから。でも、小さな頃からアクション仮面のようなヒーローになることを夢見ていたからというのも、大きな理由の一つだった。わたし、そんな憧れの人と一緒にいたなんて!
 思わず口元が緩むわたしに、『だが』とアクとんが釘を刺す。
『今の私はアクション仮面ではなく、アクション豚のアクとんだ。そして今、この世界を救うのもアクション仮面ではなく――魔法少女マホ、キミだっ!』
「うん!」
 なんて力強い言葉。憧れのヒーローの励ましに、わたしは大きく頷いた。そして長い杖を握り、ハイグレ魔王に向き直る。
「ホッホッホ! 改めて歓迎するわ、魔法少女マホ♪ よくぞアタシの部下を倒し、ここまで来たわネ」
 頭の中に敵たちの顔が浮かぶ。Tバック男爵やハラマキレディースやブランジャー……。強敵たちを倒すたび、わたしは一回りずつ強くなった。そして今なら、魔王だって倒せるはず!
「ケド、それもここでぜーんぶオシマイよォ」
 やれやれ、と魔王は肩を竦める。だけど、見くびってもらっちゃ困る。
「おしまいなのはあなたの方よ、ハイグレ魔王! みんなの仇……絶対に倒してやるんだから……!」
 この長い戦いが始まってから、もう一ヶ月が経とうとしていた。わたしの町の人たちは――中学校の友だちや、わたしとミホのパパとママも――、二週間前にパンスト兵に襲われてハイグレ人間にされちゃった。幸い少しだけ体調の安定していたミホは、アクとんの協力者である北春日部博士の研究所へと搬送が間に合ったけれど、他には誰も助けられなかった。あの時の悔しさが、わたしを強くした。
 ホッホッホ! とまた魔王が高笑いをする。挑発的なそれに、わたしの手にも力が入る。
「やれるモンならやってみなさァい♪」
「言われなくてもっ! ――撃ち抜け! ボルテックシュート!」
 わたしは杖を突き出し、拳大の雷球を生み出して発射する。遅れてバリバリと音が轟くほどの速度をもって、魔王目掛けて飛んで行く。
「な、何てコトすんのよォ!」
 それを魔王はすんでのところで回避する。が、
「――五連発!」
 わたしは続けて四つのボルテックシュートを放った。魔法少女になりたての頃は一つですら精一杯だったこの魔法も、今は緩急自在に操れる。
 魔王が雷球の一つを横っ飛びに避け、続く二つを両腕で左右に受け流す。しかし最後の一つは、
「んぎゃああああああああ!」
 ばっちり命中し、魔王は雷の中で身体を仰け反らせて苦しんだ。黒いマントが焼け焦げて消えていき、内側のショッキングピンク色をしたハイレグが露わになる。
 光が止むと膝と肘を床につき、肩で大きく息をしだす。はずみでポロリと仮面も外れて転がった。どうやら相当なダメージが入ったようだ。
「ゼェ……ハァ……! くそ、がァ……っ!」
「あなたがみんなにしたことは、そんなものじゃ済まないのよ! はあぁぁぁぁぁっ!」
 わたしはとどめの高位魔法のために、魔法力を高めていく。二重のフリルがあしらわれたスカートが、その立ち上る奔流によってひらひらと巻き上がってしまうけれども、我慢するしかない。
 化粧の濃い顔を歪めて、よろめきながら魔王は立ち上がる。これなら次で確実に仕留められる。わたしは魔法力が十分に溜まったことを感じ、杖を大上段に振りかぶった。
「これで終わりよっ! ライトニングブレイ――」
「――なァんてね♪」
 が、その刹那。魔王がニタリと笑って指を鳴らした。同時に屋上の床全域が強力な電灯のように輝きだす。
 罠!? もしかしてハイグレ光線!? そう思って攻撃を中断、防御の姿勢を取ろうとしたのに、
「か、身体が……っ!」
 ピクリとも動かなかった。敵に脇の下を見せつけるような格好でわたしは、光に拘束されてしまったのだった。アクとんも一緒に。
『マホくん、や、奴が来るぞ!』
 魔王は光る床を何事もないかのように歩き、近づいてくる。
「あらあら無様ねェ、魔法少女ちゃん? 身動きの取れない気分はどォ?」
「うるさい! こんなの魔法で……!」
 わたしは帯電魔法を応用して拘束を打ち消そうとした。だけど魔法力そのものがまともに集まってくれなかった。まだまだ底をついたわけじゃないのに。
「ンフフフっ♪ 何したって無駄よ。この光の鎖は今日のために用意した、一回こっきりの切り札だもの。そんなものが簡単に破れるハズなァいじゃない」
『決闘場に罠を張るなど、男らしくないぞ! ハイグレ魔王!』
「どォういたしまして! アタシは男じゃないのっ♪ オ・カ・マ♥」
 言うなり、わたしの額の前でハイグレ魔王は手のひらをかざした。そこに見覚えのある、ピンク色の光が現れる。これってまさか!
『いかん、マホくん! これを喰らっては――』
「そんなこと言ったってどうすればいいのよーっ!」
 魔王の光線は受けるのは危険だと、アクとんが戦いの前に忠告してくれた。でも、絶対に耐え切れないというわけでもないはず。
 ……しょうがない。またいつものように、ハイグレに抗いながら戦うしかないか。
 わたしはそう覚悟を決める。でも、目の前のハイグレ光線はいつものものよりも一段階、禍々しい輝きを放っていて――
「さァ……アタシのハイグレ光線を浴びて、ハイグレ人間におなり♪」
「え、きゃああああああああああああああ!」
 一瞬怯えた直後、全身にそれが注ぎ込まれた。魔法少女のコスチュームがハイグレパワーに侵食され、形を保てなくなっていく。ふわふわのミニスカートドレスの代わりに、桜色のハイレグ水着が現れてくる。ここまでは正直に言えば、過去に何度もやられているので慣れたものだ。
 だけど、
「な、何これ!? 頭が、痛いっ! ああああぁぁ!」
「教えてあげましょうか? これが本家本元のハイグレ光線よ。部下に持たせている紛い物に耐えられるだけでも上等だけど、果たしてこれを浴びても無事でいられるカシラ♪」
 脳が締め付けられるように痛む。肌が燃えるように熱い。そして、そこかしこに気持ちよさが……。
 ああ、これが本当のハイグレ光線。わたしはとうとうハイグレ人間になっちゃうんだ。でも、別にいいかな。だってこんなに心地よくて、こんなに素晴らしいハイグレ魔王さ――
『――マホくんっ!!』
 バチンっ! と、静電気の弾けるよりも何十倍もの大きさの音が耳から飛び込んできて、正気を取り戻させてくれた。
 わたしはバランスを崩し、尻もちをついた。お尻に痛みとひんやりとした感覚が伝わってきたことで、自分がまたしてもハイレグ姿にされてしまったことを理解する。
「くぅ……っ!」
 でも、さっき感じた強烈な洗脳は免れたようだった。光の鎖もなくなっていたため、魔法力を発動してこれ以上の洗脳を食い止められる。
 一体どうして完全にはやられなかったのだろう。その答えは、見上げたすぐそこにあった。
「ア、アクとん!」
 アクとんが空中で磔になって、ハイグレ魔王の光線をわたしのかわりに受け続けていたのだった。
「アクション仮面……小賢しいマネを!」
『貴様に比べれば、大したことではないだろう……ぐぅっ!』
「大丈夫なの!? アクとんっ!」
 わたしの必死の呼びかけに、アクとんは何とか薄目を開ける。
『キミこそ大丈夫かね、マホくん……?』
「うん、アクとんが助けてくれたから! 待ってて、今助けてあげるよ!」
 ハイグレ光線に縛り付けられているアクとんに手を伸ばそうとするけれど、寸前で、
『やめたまえ! 私に触れては、光線が再びキミにも伝わってしまう!』
「じゃあ魔法でズガンと――」
『それでは私が痛いではないか!』
「じゃあどうすればいいのよ!」
 するとアクとんは、静かな声で言った。
『……いいのだ、このままにしたまえ。これは、キミという少女を戦いに巻き込んでしまった私自身への罰だ。甘んじて受け入れよう』
「そんな! このままじゃアクとんが、アクション仮面がハイグレ人間に――」
『いや。確かに猛烈な苦しさは感じるが……次元の狭間にある私の身体にまでハイグレ光線の効果は、及ばないようだ。ハイレグを着せられることもないだろう』
「でしょーね。けど、アンタがこの次元に召喚しているアクセス端末――そのブタさんは破壊させてもらうワ。そうすればアナタはしばらくの間、こちらへの一切の干渉が不可能になる」
 光線を放つ手は休めず、つまらなそうに横槍を入れてきたハイグレ魔王の言葉に、アクとんは憎らしげに首を縦に振る。
『解説を奪われてしまったが、そういうことだ。……マホくん、暫しの別れだ』
「アクとん……っ!」
『心配するな。あちらで休息をとってから、必ずキミに会いに来る。約束しよう。そしてもちろん、キミの友人を救うことも』
「本当に……?」
『ああ。正義のヒーローは、約束を破らない。――が、代わりに頼みがある。私が帰ってくるときまでに、この世界を平和にしてくれたまえ』
 言われなくてもそんなこと分かってるよ、アクとん。
「うんっ!」
 すると魔王がより一層、光線を強力にした。悲鳴を上げるアクとんはもう、保ちそうになかった。
『ぐぅおおおっ! い、いいか、マホくん。キミにはそれが出来る力がある。自分を信じ抜け、そして必ずやハイグレ魔王を――』
「三文芝居はオシマイよ。さよォなら、アクション仮面……♥」
『ぬ、ぬわーーーーーっ!!』
「アクとおおおおおおん!」
 その断末魔を最後に、アクとんは燃え尽きたかのように姿を消した。まるで最初から、この世界にはいなかったかのように。
 ……でも違う。アクとんは確かにここにいた。わたしの身体の中に感じる強い力が証明している。
 そしてわたしのヒーロー……アクション仮面は、わたしの心の中に今もいる!
「……あら、立ち上がるのね?」
「もちろんよ。だって、アクとんと約束したから。――ハイグレ魔王を倒して、この世界を平和にするって!」


 わたしは涙を拭ってから両の足で立つ。その姿を見て、魔王は高笑いをした。
「ホッホッホ! そんなカッコでよく言えたものね♪ ホントは今すぐハイグレしたくってたまらないんじゃないのォ?」
「え――きゃぁ!?」
 指摘されて気が付いた。杖を持っていない左手が、ピンクのハイレグの切れ込みに添えられていたということに。慌てて両手で杖を握りこむ。
 そう、ハイグレ光線を受けてしまったわたしは、今も少しずつハイグレ人間になりかけている。見た目で言えば、魔法少女のコスチュームのうち服の部分だけがハイレグに変わっただけで、腰のリボンやブーツ、グローブ、ツインテールを束ねるリボンなどの装飾は残された状態。でも、精神面は必死に魔法力で進行を抑えているものの、着実に洗脳が浸透してきている。無意識のうちに身体がハイグレポーズを取ろうとするのも、その初期段階の症状だ。
 もう少し洗脳が進むと、口が勝手に「ハイグレ」と言う、時々ハイグレポーズをしてしまう――ここまでくるとほとんど戦いにならなくなる――、ハイグレポーズをとり続けてしまう、ハイグレポーズに夢中にさせられてしまう――過去一度だけここまで洗脳されてしまったことがあるけれど、ギリギリでアクとんに助けられた。今思い出しても気持ちよかっ……じゃなくて、恐ろしかった――、そしてハイグレ魔王やハイグレ軍に忠誠を誓うようになって、洗脳は完了となる。
 洗脳の進行を抑制するために、わたしはこれから残った魔法力を使わなければならない。現時点から考えてまともに戦えるのは、全魔法力を抵抗に回せば10分、魔法戦を始めればもっと短い。たったそれだけの時間で決着をつけなきゃいけない。
「……大丈夫、やれる!」
 身体中に走り回るハイレグの感覚をあくまで無視して、攻撃のための魔法力を集中させる。
 だけど、ハイグレ魔王も黙ってはいなかった。
「アクション仮面はもう手出しできない。アンタも必死で抗っているようだけど、まもなくハイグレ人間になる。アタシの勝利はほとんど決まったようなものね。ケド――油断はしないワよ」
 屋上の中央に床からせり上がってきた二振りのサーベル。その片方を魔王は引きぬき、構えた。
「アンタも使いたければ使えばいいワ。まあ、魔法少女さんには必要ないカシラ?」
「そう、わたしにはこれがある! ――ボルテックシュートッ! 三つ!」
 吹き上がる魔法力を魔法に変えて、三発の雷球を同時に撃ち出す。魔王目掛けて恐ろしいスピードで突き進むそれらは、一刀のもとに切り捨てられた。
 まあ、こんな牽制が通じないのは想定内。
「まだよ! ホライゾンサンダー!」
 続けてわたしは杖を横薙ぎに振るう。動きに合わせて稲妻が扇状に広がって、闘技場のほぼ全域の床を舐めた。魔王はホライゾンサンダーをギリギリまで引きつけてから、一気に空へ跳び上がった。
「甘いッ!」
 魔王は太陽を背にして目眩ましをし、わたしを上空から急襲しようとしている。やはり戦い方を知っている、そう思う。
 でもこの展開は、わたしの狙い通り!
「――百発百中! トールコーディネイト!」
 魔法を唱えた直後、瞬時に周囲が雷雲に包み込まれる。空中で血相を変えた魔王に対して、四方八方から一斉に数十の雷が襲いかかった。
 全てはこの大魔法のための布石。わたしは命中を確信した。トールコーディネイトはその瞬間に敵のいる空間、座標そのものを攻撃する魔法。だから術者が狙いを付ける必要はないし、敵がどれだけ素早く動こうとも関係ない。全方位から放たれる何十もの亜光速の雷を避けきることは物理的に不可能。まして、回避のしようのない空中ならば尚更。
 だけど、
「だーから甘いッつってんの――よォっ!」
 あろうことか魔王は、雷を食らう寸前に剣をわたしへ投げつけた。するとトールコーディネイトの雷は、避雷針に引きつけられるように剣へと狙いを変えてしまった。雷鳴の中心でサーベルがボロボロに融解する。それを尻目に魔王が身を前方に一回転させ、
「とぉーッ!」
「きゃああああっ!」
 勢いの乗った踵落としを繰り出してきた。わたしは予想外の展開に避けることもできず、派手に床に叩きつけられた。背骨がバウンドの衝撃に悲鳴を上げる。
「かは……っ!」
「流石はあのアクション仮面と共にいただけあるワ、面倒な攻撃を仕掛けてくる。けど、その程度じゃアタシは倒せないワ♪」
 魔王は余裕の表情で背中を向け、もう一本のサーベルを手にしようとして、やめた。まるで、それはわたしのものだから使わないでおいてやる、と言うように。
 悔しい……! わたしの魔法が通じないなんて……。
「ハ、イグ――っ!?」
 心が折れかけた隙に、また身体が勝手にハイグレポーズを取ろうとしてしまった。でも、ギリギリで手を離す。
 今の一連の攻撃で、だいぶ魔法力を使っちゃった。ここからは気をつけないと。
 と、
「それじゃ、そろそろ反撃といきましょうか♪」
 魔王が地面を蹴り、手ぶらのまま10メートル弱の距離を肉薄してくる。わたしは、
「――エレクトロヴェール!」
 体内の筋肉を電気で活性化すると同時に触れるものに電気ショックを流す帯電魔法を自分に掛けて、魔王を迎え撃つ体勢を整える。これで接近戦もまともに戦えるはず。
 そして、魔王が重い右ストレートを打ち込んできた。わたしはそれを見切って右へ回避。続く魔王の振り向きざまの回し蹴りも、限界を超えた筋肉の力で空振りに終わらせた。
「ちぃッ!」
 ここで魔王の脇腹に、大技を繰り出したことで隙ができた。わたしはそれを見逃さず、素早く左でジャブを入れる。スタンガンが弾けるような音と、魔王の「んひっ!」という情けない悲鳴が聞こえたのは同時だった。
 魔王はわたしのエレクトロヴェールによって怯んだ。この絶好のチャンスにわたしの身体は――
「ハイグレっ!」
 ピシリときれいなハイグレポーズをとってしまったのだった。腰を落として、切れ上がった水着の線を両手でなぞり上げる、恥ずかしいポーズを。
 何やってるのわたし、こんなときに!
「隙だらけよォ!」
「痛っ!」
 迫ってくる魔王の拳に、わたしは気づいていても構えるのが遅れてしまった。変な角度で左腕に打撃を受けてしまい、肘にダメージが溜まる。そこを思わず右手で抑えたので、杖が手を離れてカランと転がった。追撃がないのは、再びヴェールの痺れが魔王を包んでいるからだ。
 これはマズい。ハイグレ魔王が痺れている間に、少し距離を取る。
 身体があちこち悲鳴を上げ始め、体力は限界に近く、魔法力も残り半分を切った。精神の方もだんだん洗脳が進んできていて、正気を保てる時間が短くなってきた……。
「ハ、ハイグ……うぅ……」
 早くハイグレ魔王を倒さないと――!
haiguremahousyoujo
「ホッホッホ! 満身創痍ねぇマホ。いい眺めだわァ♪」
 わたしが肩で息をしている前で、余裕の表情を崩さない魔王。
「そろそろ諦めて楽になっちゃいなさいよ。ハイグレはとっても気持ちいいわヨ?」
「約束……から……!」
 わたしは再び杖を拾って、戦う意志を見せつける。
「あァん?」
「アクとんと約束したから! わたしは絶対に負けたりしないっ! はああああああっ!」
 気合を杖に込めていくと、宝玉がキラキラと輝きを放つ。わたしに残る最後の魔法力を、ありったけぶつけてやる。
 戦いを長引かせずここで勝負を決めるとしても、撃てるのはあと高位魔法二つが限界。それを二つとも当てるくらいでないと、きっと魔王は倒れない。
 失敗すれば……わたしはこのハイグレに呑まれちゃう。それだけは絶対嫌!
 わたしの魔法力の高まりに恐れをなしたのか、魔王は二本目のサーベルを装備した。これで、トールコーディネイトは同じ方法で避けられてしまうことになる。
 ……そうじゃない、逆だ。一箇所を攻撃するから避けられちゃうんだ。なら――!
「エレクトロヴェール!」
 さっきのヴェールの効果が切れる前に、重ねがけをする。身体に走り回る電圧が増して、効果と比例して負荷も二倍になる。
「う、ああぁ……っ!」
「自分の魔法で苦しがってるんじゃ世話ないワね。それとも単なる自虐趣味?」
 ふざけた冗談を無視して、更に杖先に力を集中させていく。が、ここで、
「あ……ハイグ、レぇっ!」
 がに股と右手だけの不完全なハイグレをしてしまう。何とか左手だけは杖を握ったままだけど、魔法力がいくらか散ってしまった。
 その隙に、
「じれったい! さっさと負けを認めなさいっ!」
 魔王がサーベルをフェンシングのように半身に構え、突撃してくる。
 今さっきのハイグレのせいで、予定通りの出力まではいかなかった。だけど――きっと出来る!
「集え! トールコーディネイトっ!」
 一気に解放された魔法力が雷雲を呼ぶ。それを見て魔王は、再び投剣せんと柄を持ち替えた。
「バカのひとつ覚えね! アタシにゃ当たらないのが理解できてないの!?」
 当然、分かってる。だから魔王には当てない。だけど、必ず当たる。
 ゴロゴロという僅かな前兆に耳ざとく反応し、魔王が振りかぶった剣をわたしへ投げた。そして柄が手を離れた瞬間、一点目掛けて無数の稲光が空間を切り裂く。その座標とは――わたし自身の位置。
「何ィ!?」
 四方八方から轟音を伴って雷が集まる。だけどわたしの身体にまとわりつくだけで、表面にすら届かない。何故なら事前に張っておいたエレクトロヴェールが、猛烈な電流から守ってくれているから。
 もちろん、攻撃は終わりじゃない。今度はわたしを中心にして、ヴェールの電気によって増幅された雷を解き放つのだ。そう、決闘場を塗りつぶすように床も空も、全方位に!
「――行けぇぇぇっ!」
 合図は雷鳴に掻き消された。いや、周囲のどんな音も、これだけの稲妻が空気を急膨張させる音の中を通り抜けることは出来なかった。例えば、
「ひぎえええええぇぇぇぇぇぇっ!」
 避雷針も意味をなさず雷に灼かれたハイグレ魔王が、苦悶の表情で上げているだろう絶叫とか。
 数秒後、黒い雲と閃光が晴れる。すると所々焼け焦げた床の上に、身体中から煙をブスブスと漂わせる魔王が倒れていた。手のひらの代わりに頬と肩を付けた土下座のような、だらしなくお尻を上げた体勢で。サーベルも遠くに転がっている。流石にもう、戦える状態じゃない。
「や、やった……うぅっ」
 勝利の喜びに握ろうとした二つの拳が、開かれたままひとりでに下へ動く。そうして腰も落ちてしまい、
「ハ、ハイグレ! ハイグレ! ハイグ……レっ!」
 三度のハイグレポーズをさせられて、疲れ以外のいくつかの理由で顔が熱くなる。
 わたしの身体を動かす権利が、もうすぐ完全に奪われてしまう予感がした。残り僅かな魔法力で抗っていてさえそうなんだから、もし先に魔法力が尽きてしまえば一瞬で洗脳が完了してしまう。
 そんなギリギリの状況なのに、まだしなければいけないことが残っていた。
「……倒さなきゃ、ハイグ……っ! 魔王! ハ、ハイグレっ!」
 わたしの洗脳も、ハイレグ姿も直っていない。つまり、あそこで倒れている魔王の精神支配が続いているんだ。魔王はまだ、勝利を諦めていない。
 でも、あと一息で倒せることは間違いない。しかもあんなに無防備な格好なら、魔法を避けられる心配もない。
 一つだけ心配なのは、
「ハイグレ! お願い、もう少しだけ……ハイグレぇっ! ハイグレっ! えへへ、ハイグレ気持ちい――くないっ! ハイグレなんかに負けちゃ……だめっ!」 
 魔法が間に合って魔王を倒すのが先か、わたしがハイグレ人間になってしまうのが先か、ということ。
 ここまで来て負けるなんて絶対に嫌。世界を平和にするまで、あとほんのちょっとなんだから。
 ハイグレポーズをする度に緩む頬をバチンと叩き、気合を入れなおす。そして杖を両手で握って垂直に構えて、
「わたしは……勝つっ! はああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 文字通りありったけの魔法力を、宝玉に注ぎこむ。手や杖の周りにバチバチと放電が発生する。この魔法が外れた後のことなんてもう考えない。これでとどめを刺したら全部が終わるんだから。
 脳内に「ハイグレ」という単語が渦を巻く。それを口にしたら、そのポーズをしたなら、どれだけ気持ちよくなれるだろう。誘惑は次第に強くなっていくけれど、わたしは頑として全神経を杖の先へ集中させる。外へ開こうとする脚を無理やり閉じて内股にする。
 そして、宝玉の周りの雷が大剣のような形を作る。準備は整った。魔王は未だ動かない。今度こそ――終わりにするっ!
「これで決めるっ! ライトニングっ……ブレイドぉぉぉぉっ!」
「――サイクロンウォーーール!」
 わたしが巨大な雷の剣を振り下ろすのとほぼ同時に、別の魔法が発動した。ハイグレ魔王を一刀両断しようとした剣が、なんと魔王の周囲から一気に立ち上った竜巻に弾かれて消えてしまった。
「きゃっ!?」
 反動で体勢を崩してしまうけれど、すぐに構え直す。すると魔王の隣にまた別の人影が立っているのが見えた。緑がかった長い髪に緑のハイレグ姿の、華奢な女の子。持っている杖やグローブ、ブーツなどはわたしの魔法少女装備によく似ていた。ちょっと違うのはリボンが腰じゃなく、ストールか天女の衣のように肩の後ろに漂っていることくらい。
 わたしはあの子を知っていた。目を擦って確かめる。
 あれは、まさか……!
「嘘、だよね……?」
「嘘じゃないよ。二週間ぶりだね、マホ。――ハイグレッ!」
 その顔。その声。間違いなく正真正銘、わたしの大切な親友、ミホだった。ミホは見慣れた笑顔のまま、お手本のようなハイグレポーズの動きをした。
 わたしには今の状況が全く理解できない。どうして研究所で匿われているはずのミホがここにいるのか。どうして病気のミホが元気に立っていられるのか。どうしてミホが魔法少女のコスチュームを着ているのか。どうしてミホがハイレグ水着でハイグレポーズをするのか。
「ホッホッホ! 最高の援護だったわよ、マホ♪」
 耳障りな声に視線を移す。魔王はセミの羽化を思わせる動きで、背中をくねらせて立ち上がった。
「お褒めに預かり光栄です、魔王様。ハイグレッ! 本当はお怪我をされる前に飛び出したかったのですが」
「それだと隠し玉の意味がないじゃないの。今だからこそ良かったのよ」
 驚きのあまり、頭が真っ白になる。
「どうして……ミホ、が……っ!」
「それはアタシが答えましょうか?」
 魔王の言葉にミホは首を振り、一歩前に進み出た。
「いえ、魔王さま。どうか私に言わせてください」
「そう。分かったワ」
 そのまま、立ち尽くすわたしの目の前までやってくる。わたしの目から涙が溢れた。ほとんどは困惑と悔しさの涙。でもほんの少しだけ、嬉しさが混じっていた。
 そして、ミホは口を開く。
「実は、ね――」

 二週間前、遂に私たちの町にもハイグレ魔王様の手が伸びてきたよね。あの日も私は何も出来ずにただ病室から、遠くの空を飛ぶパンスト兵様の姿を見たり、少しずつ大きくなっていくどこからともないハイグレコールを聞いていたの。もうすぐ病院も襲われて、私もハイグレ人間になっちゃうのかな、って思ってた。だったら最後にパパやママやマホに会いたいな、とも。
 そうしたら本当に三人が駆けつけてくれたんだよ。私、すごく嬉しかったよ。でも……覚えてるよね。
『ミホ、大丈夫か!?』
『パパ……! ママも、それにマホもっ!』
『ミホ、ミホぉ……っ!』
 スーツ姿のパパと、エプロンを掛けたままのママ、それとピンクの可愛い服を着て、豚さんのぬいぐるみを肩に乗せたマホ。三人が病室の扉を開けて、雪崩れ込むように入ってきた。願いが通じたんだ、って思わず泣き出した私を、パパとママは強く抱きしめてくれた。
 マホもベッドの側に来て、
『ミホ、間に合ってよかった』
『もしかしてマホが、パパとママを連れて来てくれたの?』
『……うん』
「だが代わりに、この姿を見せることになってしまったがな」
『しょ、しょうがないじゃん! 緊急事態だったんだし……』
『そうだよ。マホ、何でそんな可愛い格好してるの? それに、この喋る豚さんは?』
 そう私が尋ねると、マホと豚さんは一緒に目を見開いた。
『こ、これはその……! っていうかミホには見えるの? アクとんのこと』
『アクとんって言うの? その豚さん』
「わ、私はただの豚ではないっ! アクション豚のアクとんだ――ってやめたまえキミ! 頬をつつくな!」
 そのときは教えてくれなかったけど、アクとんのことが見えるのは魔法少女の資質がある子どもだけなんだよね。研究所の人から聞いたよ。
 あと、マホのことも後で知ったんだ。魔法少女としてハイグレ軍と戦ってたんだよね。それを聞かされたときには、流石はヒーローに憧れていたマホだなって、誇らしく思ったよ。
 ……とにかく、まともに話ができたのはここまでだった。マホやアクとんの返事の前に、窓の外に浮かんでいたパンスト兵様にパパとママが撃たれちゃった。
『ぐわあああああっ! ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!』
『ミホ、どうかマホちゃんと逃げて――きゃああああああっ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!』
『パパ! ママ! いやああああああっ!』
 私をかばうようにハイレグ姿になった二人を見て、私は発狂したように泣き叫んだ。そんな暴れる私を抱えて、マホは一気に窓から飛び降りた。
『ミホ、ごめんね、パパとママを助けられなくて。でも、ミホのことだけは絶対に守るから!』
『マ……ホ……!』
 私の意識が保ったのはそこまでだった。ショックが大きすぎたのか、そこで気絶しちゃってからのことは覚えていない。
 次に目を覚ましたのは二日後、北春日部博士の研究所のベッドでだった。その時にはもう、マホは出発しちゃってたんだよね。
 私は博士から、今世界で起きていることを色々教えてもらった。ハイグレ魔王様は異次元からやって来たことや、アクとんことアクション仮面は次元の狭間から、魔王様を倒す魔法少女としてマホを選んだのだということや、北春日部博士はアクション仮面の協力者で、マホたちに指令や支援を送っているということを。
 でも一週間後、私の体調は急激に悪化してしまった。医療設備は病院以上に揃っていたけれど、私の感じた苦しさは今までで一番だった。高熱にうかされて、息も詰まって、全身が痛くて、死んじゃった方が楽だって何度も考えた。だけどその度にマホの姿が頭をよぎって、頑張らなきゃって思えたんだ。
 やっぱり死にたくない。もう一度マホに会いたい。ううん、出来れば病気なんてふっ飛ばして、マホと元気に遊びたい。その一心で、私は三日三晩地獄のような苦しみに耐えた。
 それでも自分自身の身体のことだから、何となく分かるんだ。もうすぐ……長くても一ヶ月、短ければ明日にでも、私は死んじゃうんだって。何ヶ月か前にお見舞いに来てくれたパパとママが突然泣き出したときから、薄々分かってたけどね。
 町が襲われた日に一度、マホたちに会いたいって奇跡が叶った。だからもう二度目の奇跡なんて起きるはずない、って思ってた。でも、また起きたんだ。
 病状が峠を超えたのと同じ日、つまり一昨日の夜、研究所がハイグレ魔王様とパンスト兵様の大軍に襲撃された。……あ、マホは知らないよね。アクとんも知らなかったはず。理由は簡単。実は襲撃は魔王様のスパイの手引によるものだったのだけど、博士を含めて全員をハイグレ人間にした後で魔王様が、協力者のふりをしてアクション仮面と接触し続けろと命令したの。だからこの二日、本当は博士は既にハイグレ人間だったのよね。
 とにかく、話を続けるよ。
『敵襲! これは訓練ではないっ! ハイグレ魔王が研究所内に侵入したぁっ!』
『司令部を守れ! 絶対に魔王を近づけ――うわあああああ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!』
『民間棟、実験棟は放棄するわ! 各員司令本部へ避難……嘘、も、もうこんな所まで――い、いやああああ! はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!』
 けたたましくサイレンと放送が鳴り響く中、私は一人で民間棟内に取り残されていた。博士も他の研究員も誰も、重篤な病人である私のことを連れて逃げてはくれなかった。それでも助けを待っていたけれど、民間棟の放棄という言葉を聞いて諦めた。私はこのままハイグレ人間にされるか、ハイグレ軍にすら見つけてもらえずに独りぼっちで死ぬんだって、本気で思った。
 でもね、そこにある方がやって来たの。
『あら。アナタ、こんなところでどォしたの? 他の人間はすっかり逃げちゃってるわよ?』
『ゴホッ、ゴホッ……! は、ハイグレ魔王……っ!?』
 激しく咳き込み、涙目の向こうにお立ちになっていたのは紛れもなく、何度もテレビに映っていた侵略者……ハイグレ魔王様その人だった。
 魔王様は滑るようにベッドに近づいていらっしゃって、私の顔を覗き込まれた。
『落ち着きなさい。見たところ病人のようね。……しかも死相が浮かんでる。こんなコを放って逃げるたァ人間ども、血も涙も無いのカシラ』
 表情は仮面に隠れて見えなかったけれど、その声色だけで十分にお怒りであることは感じられた。そして仰った。
『良かったら、アタシに全部話しちゃいなさいな。辛いコト、苦しいコト、そして……思い残すコト。もしかしたら力になってあげられるかもしれないし、そうでなくてもアナタの気持ちを少しでも楽にしてあげたいの』
 だから私はこれまでのことを全て申し上げた。幼なじみのマホのこと、病気のこと、マホが魔法少女だったこと、そして研究所でのことや今日のこと。不思議なほど言葉が口をついて出てきた。その間魔王様は全てに――マホのことを話すときには特に――興味深げに耳を傾けてくださった。
 すっかり話し終えると、興奮してしまっていたせいかドッと疲れが押し寄せてきた。病気の苦しさも加わって、これは本当に危険かも、と思った。
 すると魔王様は私の額にそっと冷ややかな手のひらを乗せてくださり、こう仰った。
『ねぇ、ミホ。あなた、病気を治したいと思っているのよね』
『は、はい。出来ることなら。……でも』
『そうね。正直言って、地球の文化レベルでこれだけの衰弱状態から完治させることはまず不可能ね。それどころか、今まで生きながらえてるのが不思議なくらい。……ゴメンナサイね、嫌なこと言って』
『……いえ。分かってましたから』
 お医者さんもパパもママも一言も口にしなかったけど、やっぱり私はもうダメなんだ。それをズバリと仰ってくれて、少しだけ気持ちが楽になった。でも代わりに、今まで漠然としていた"死"のイメージが、更に重くのしかかってきた。
『……どうしても、治りませんか……?』
『ミホ……』
 どうしようもなく怖くなって、震える声で私は心の内に秘めていた願望をさらけ出した。
『もう私、元気になれないんですか? 外で遊べないんですか? ……マホと、もう会えないんですか? 私、もっともっと……生きてたかったよぉ……!』
 たまらず泣き出した私を、魔王様は黙って腕に迎えてくださった。しっかりと頼れる胸に抱きすくめられ、私はしばらく泣きわめいた。
 それが収まった頃に、魔王様が私の頭を優しく撫でて微笑まれた。そうして仰った言葉に、私は耳を疑った。
『一つだけ、方法があるワ』
『ほ、本当ですか……!?』
『ええ。アナタがこれを受け入れればすぐにでも、どんな病気も体調不良も一発で全快しちゃうワ。ケドその代わり、アナタにお手伝いをしてもらうことになる』
『やります。どんなことでも』
 この瞬間まで私は、目の前の人物が何者なのかをすっかり忘れていた。魔王様は私の返事を聞くなり、両手を揉み合わせて呪文を唱えなさった。数秒後手を広げるとそこには、光沢ある緑の布――ハイレグがあった。
『ハ、ハイレグ……っ!』
『そう。これがハイグレ人間の正装、ハイグレ。実際、アナタだって地球人……アタシたちの侵略対象に代わりはないワ。初めはちゃっちゃと洗脳してやろうと思ってたけど、話を聞いたら情が移っちゃったし、それにもしかしたら役に立ってくれるかも、ってね。……どう、気が変わった?』
『……もし、やっぱり断ったら?』
『たかが今際の際の人間一人の命のためだけに一肌脱ぐつもりは無いワ。どうせ放っておいても死ぬアンタをハイグレ人間にするパワーが勿体無いから、このまま置いてけぼりにして北春日部博士を探しに行く。アンタはここで残り少ない人生を病に苦しんで過ごし、二日以内に死ぬ』
『――っ』
 死ぬ。無慈悲に言い放たれた単語が、私の心にグサリと突き刺さった。
『……お手伝いします、と言ったら?』
『そしたらこの緑のハイグレを今ここで着て、ハイグレ人間になってもらうワ。そしてアタシのハイグレパワーの半分を分け与え、病気を完治させた上でアナタを魔法少女にする。本来、魔法少女になった女の子は使命を果たしたときにどんな願いをも叶えられるって約束なんだけど、ま、今回は特例で前借りというコトで』
『魔法少女……って、マホと同じ!?』
『ええ、あっちはアクションパワーの魔法少女だけどネ。あんにゃろーに出来ることはアタシにも出来んのよ。……ハイグレ魔法少女となったアナタにはアタシと協力し、地球侵略の手伝いをしてもらう。目下の目標はアクション仮面と魔法少女マホの排除、あるいはハイグレ転向。つまりこちらを選べば、アナタはマホと再会できるってワケ。まァ、最初は敵同士だけど、勝ちさえすればマホもこちらの仲間よ』
 私はこの究極の二択に言葉を失った。死ぬか、ハイグレ人間になるか。
 死ぬのは絶対嫌だ。やり残したことはいくらでもある。パパ、ママ、マホや友達のみんなともう会えないなんて、悲しませてしまうなんて考えたくもない。
 でも、ハイグレ人間にだってなりたくはない。テレビで観たあの恐ろしい侵略風景、洗脳が完了したキャスターの変わり果てた姿、私を守ってハイグレ光線を浴びたパパとママ……。日本を、私たちの生活をあんな風に壊した奴らを崇めて、恥ずかしいハイレグ姿で恥ずかしいポーズをするなんて。しかもその侵略の手伝いをさせられるなんてもっと嫌。……当時は本気でそう思っていました。
 だけど死と天秤に掛けたとき、まだハイグレ人間になった方がいいと思えた。死んだら全て終わりだけど、生きてこそ幸せは生まれる、って。例えどんな姿になったっていいから生きていたい、って。
 それに、ハイグレ魔法少女になることを受け入れれば、またマホに会えるのなら。それだけでも、私は自分の命以外のどんなものでも捨てられるって思えたの。
 だから私は、魔王様のハイレグを手に取って、パジャマと下着を脱いだ。
『……う……』
『そちらを、選ぶのね?』
 これを着れば私はハイグレ人間だ。あれだけ嫌っていたハイグレ人間に、これから自分からなろうとしているのだ。目の前で口を開くハイレグに、身体を呑み込まれにいくのだ。
 ハイグレ人間になってでも、どうしても死にたくないから。ごめんね、マホ。私がハイグレ人間になってても、どうか嫌わないでね。
 ……それとできればマホも早く、私と同じになってほしいな。
 そして私は意を決し、ハイレグを引き上げた。ピチピチの生地が胸を包んで、肩紐を引っ掛けると全身が震えた。
『はうぅ……こ、これがハイグレ……!』
『そうよ、ミホ。さ、ハイグレ人間の証を見せてちょうだい!』
 魔王様に促され、私はベッドから降りて両の足で立った。それを大きく外側に広げ、股間に両手を添えて、
『――ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!』
 何度も何度も、ハイグレポーズをとった。身体がものすごく軽かった。ハイグレをするとどんどん頭がトロンとしてきて、幸せな気持ちでいっぱいになった。やっぱり死じゃなくてハイグレ人間になることを選んでよかったって、心から思った。
 私が一心不乱にハイグレを繰り返していると、魔王様が手のひらを向けて何やらまた呪文を唱え始めなさる。そこから生まれた光に私は無抵抗のまま包まれて、
『『『願い事を、一つだけ、叶えよう』』』
 自分でも魔王様でもない誰かの声に対して、私は――

「――そうして私はハイグレ魔法少女になったの。しかももう病気に苦しむこともなくなった。私今、人生で一番幸せな気分なの! ハイグレッ!」
 長々と語り終わったミホは、うっとりとするような表情でハイグレの忠誠の動きをとった。今まで見てきたどのハイグレ人間のハイグレよりも、美しいという印象を与えてきた。
「……ミホ……」
 わたしの心はもうグチャグチャだった。まさかアクとんが通信していた博士がもうやられていたなんて。まさかミホがハイグレ人間、しかもわたしと同じ魔法少女になっていたなんて。そして病気が治っているなら、わたしが戦う意味の半分が消えてしまうことになる。
 でも、一つだけ確かなことがある。それは、
「ハイグレ魔王……許さない……っ!」
 どんな理由があるにせよ。例え病気を治したとしても。わたしの大切な友達を洗脳して手下にしたことは、絶対に許せない!
 ミホに守られるような位置の魔王は、腰に手を当てて高笑いをする。あちらだって立っているのもやっとのはずなのに、余裕は全く崩れない。
「ホッホッホ! 許さないならどォだって言うの、魔法少女マホ?」
「倒してやるに決まってるでしょ! そしてミホを助けるっ!」
「『助ける』だってよォ、ミホ」
 馬鹿にしたようにオウム返しして、ミホに笑いかける。するとミホもくしゃっと頬を緩めて、
「ふふふっ! 変なこと言わないでよマホ。私はもう助けられたの、魔王様に。私の悩み事は全部、ハイグレ人間になって消えたんだよ」
 わたしの大好きな笑顔を見せたのだった。
 直後、わたしの頭は何も考えられなくなった。
「返して!! その顔は――ミホのものだっ!」
 残りカスのような僅かな魔法力をかき集め、がむしゃらに発射する。
「ボルテック……シューーーート!」
 発生しては一直線に飛んで行く雷の球の数々。ミホも魔王も狙った最後の足掻きはしかし、
「ソニックニードル!」
 ミホが唱えた魔法による風の針にぶつかって、全て空中で相殺し合っただけに終わった。魔王とミホは目を合わせ、ニヤリと笑みを交わす。
 話によればミホが魔法少女になってからまだ二日のはず。なのに、わたしと変わらないだけの魔法力と技術を持っているなんて信じられない。でも、現実は変えられない。
 ここで、
「う……あぁ……!」
 わたしの魔法力が、尽きた。
 ドクンと心臓が跳ねる。杖が右手を離れて床を転がった。そして身体中を優しく弄られるような感覚と、脳みそが沸騰していくような感覚が同時に襲ってくる。
 まるで卯里マホという存在が、別の何かに塗り替えられていくかのよう。
「やだ……待って、わたしは、まだ……!」
 戦える。戦わなくちゃいけない。魔王を倒さなきゃいけない。ミホを助けなきゃいけない。日本のみんなを元に戻さないといけない。世界を平和にしないといけない。アクとんとの約束を果たさなくちゃいけない。
 なのに。
「ハ、イグ……や、だよぉ……ハイ、グレ……っ!」
 ハイグレ洗脳に抗うための力が尽きたわたしはもはや、普通の人間と変わらない。普通の人間はハイグレ光線を浴びたら、数秒から数分でハイグレ人間になる。
「だめっ……ハイグレ……ハイグレ、まだ、負けて、な……」
「ホッホッホッホ! もォおしまいよ! アンタは負けた。アタシとミホに勝てなかったのよ!」
 負けた。わたし……負けたの? ずっとずっと頑張って来たのに、アクとんと約束もしたのに、最後の最後に……?
「ハイグレ、ハイグ……レ! 違う、わたしは、まだ、たたか……ハイグレぇっ! 戦えるっ!」
 気持ちよさの波の中、必死に意識を繋ぎとめて叫ぶ。わたしの心はまだ挫けてない、って。
「でもマホ、さっきからハイグレポーズすると嬉しそうに笑うよね。それでも負けてないの?」
「嘘……ハイグレ! ハイグレ! そんな、ハ、はず、な……!」
 ミホの指摘も嘘に決まってる。確かに動くたび、ピンクのハイレグ水着が擦れて頭がおかしくなりそうだけど、わたしはまだハイグレ人間にはなってない!
 ううん、なるもんか。いつまででもずっと耐えてやるんだ。だってわたしはハイグレ魔王さ……を倒す、魔法少女なんだから!
「ハイっ……く……うああああああっ!」
 四股を踏むように踏ん張っていた足を、絶叫とともに前へ進める。その勢いで走り出し、一気に距離を詰める。例え素手でも絶対に諦めない。それがわたしの使命だから。
 あと一歩。あと一歩で拳が魔王に届く。なのに、わたしの動きに気付いたミホが素早く杖を振るい、
「ウィンドバインド!」
「あう……っ!」
 巻き起こった突風に真正面から押し返され、わたしは勢いに負けてしまい十字の磔の体勢で縛りつけられた。魔法力があればどうとでも対処できたのに。
 わたしは、無力だ……!
 腕が下に伸びようとする。足が外に広がろうとする。でもウィンドバインドがそれを許さない。
「ハ、イグレ! ハイグレ! ああああっ! ハイグレぇっ! はぁ、はぁ……ハイグレぇっ! だめ、しちゃだめ、だめなの……っ!」
 ちゃんとしたハイグレポーズがとれなくなると、言葉で表せないような不快なムカムカが心に湧き上がってきた。でもそれはハイグレ人間としての感情。わたしはそんなの、認めないから……!
 すると魔王さま……じゃなくて、魔王が大きな溜息を吐き、ミホと相談を始めた。
「ミホ、どォしましょうかこのコ」
「恐れながら。どう、とは?」
「マホ、結構しぶといじゃない? このままアナタが縛り付けたまま転向を待つのも一興だけど、そろそろ引導を渡してやるのもまた慈悲かしら、と思うのよ♪」
「そうですね……」
 ハイグレに抗い続けるわたしと、ハイグレ魔法少女となったミホとの視線がぶつかった。相手を想う気持ち、憐れむ気持ち、救いたい気持ちは同じはずなのに、どうして何もかもが正反対なんだろう……。
 わたしが悲しさに打ちひしがれる中、ミホは返答する。
「――私、早くマホを楽にさせてあげたいです」
「そう? じゃァそうしましょ♪」
 魔王……さまはニコリと頷くと、ミホの背を押した。
「マホをハイグレにしてあげる役目は、親友のアナタのものよ。ミホ」
「わ、分かりましたっ! ハイグレッ!」
 ミホはハイグレで答える。その顔は、今日見た中で一番嬉しげな表情をしていた。
 拘束を解かないままゆっくり近づいてくるミホ。それは同時に、わたしにハイグレ化のときが迫っていることをも表していた。
「い、いや……ハイグレ、ハイグレ、ハイグレぇっ! 来ないでミホ、わたしは、わたしはまだぁ……っ!」
「来ないでなんて言わないで。私はただ、マホのことを――」
「ハイグレっ! ハイグレ人間なんて、嫌……! だって、だってわたし、ハイグレ! ハイグレ! うぅ……!」
 言いたいことも満足に言えないのが、悔しくて仕方がなかった。でも、今のわたしにできる抵抗はそれしかなかったから。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレぇ! 戦わ、なきゃ……わたし、は……ハイグレ!」
「マホ。いいの、もう頑張らなくて」
 ミホはほんの目の前までやって来て微笑んだ。その瞬間にウィンドバインドが解かれ、わたしは倒れこむようにミホに寄りかかった。ハイレグ越しに伝わってくる人肌の暖かさが、わたしとミホが今生きていることの確かな証だと思えた。
「ミ、ホ……」
「一人で辛かったよね? 抵抗し続けて苦しかったよね?」
「うん……」
「だったらもう、終わらせよう? マホもハイグレ人間になって、一緒に魔王さまにハイグレを捧げよう?」
「……う……」
 夢見心地の中で頷こうとしたわたしだったけれど、それはダメだと呼び止める声が聞こえた気がして、
「い、やだ……!」
「え――」
「わたしは、魔法少女、マホ……! 最後の瞬間、まで……ぜ、絶対、諦め……ない!」
 ようやく邪魔されずに言えた。わたしが何者なのかを。
 それを聞いてミホは悲しげに肩を落とす。
「……そう。どうしても分かってくれないんだね。――なら」
 横目に、ミホの杖がピンクに輝くのが映った。ハイグレ光線の予兆だ。避けなきゃ、とミホから離れようとしたけれど、腕の力が思いの外強くて放してくれない。
 このままじゃ――!
「私がハイグレ人間にしてあげる」
「ハ、イグレ……や、めて……ミホぉっ!」
 足掻いても藻掻いても、もう遅かった。わたしの言葉はミホには届かず、
「きゃあああああああああああああああっ!」
 ハイグレ光線が容赦なく身体に注ぎ込まれた。
「あああ……うわあああああああああっ!」
 ピンクと青に点滅する光の中でも、わたしの格好はハイレグを着た魔法少女のまま。
 だけど脳内は違う。長い時間洗脳に抗い続けたわたしの意志は、二度目の光線によって粉々に打ち砕かれた。
 ……ごめん、アクとん、みんな、ミホ……わたし、負けちゃっ……た……。
 それを最後に、わたし――卯里マホは人間じゃなくなった。
「あ……う……」
 わたしは数秒の間、その場に立ち尽くす。でも視界にミホと魔王さまが飛び込むとすぐさま、自分のしなければいけないことを思い出す。
 暖かな力を受け入れて体力も魔法力もいくらか取り戻したわたしは、自分が何者なのかを行動で示した。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 そう、わたしはハイグレ魔王さまに忠誠を誓う、ハイグレ人間。だから魔王さまには、心からのハイグレで挨拶をしなきゃいけない。
 あと、この報告も。
「ハイグレ! わたし、魔法少女マホは、ハイグレ魔法少女マホになりましたっ! これからわたしは魔王さまに従う下僕ですっ! ハイグレ!」
 自分をハイグレ魔王さまの家臣だと名乗るたびに、身体中が喜びで満ちていくのを感じる。あれだけ魔王さまに歯向かっていたわたしをもハイグレ人間に転向させてくれた御心の広い方に従えるんだ、と思うだけで幸せだった。
 そしてもちろん、
「マホもこれでやっと、ハイグレ人間だねっ」
「ハイグレ! ミホ、本当にありがとね。これからもずっと一緒だよ!」
「――ハイグレッ! うん!」
 これでミホの隣にずっといられるのも、最高に嬉しいことだった。魔王さまのお陰で病気が治って、ミホはもう苦しむことも死に怯えることもなくなった。しかもミホはわたしと同じハイグレ魔法少女。同じ力を持ち、同じ目標を持つ、最高の仲間なんだから。
「ホッホッホッホ! どうやら転向は済んだようねェ、マホ♪」
「ハイグレ! はい、魔王さま!」
 魔王さまは大きな声でお笑いになり、わたしの転向を喜んでくださった。
「さっきの宣言、ちゃァんと聞き届けたワ♥ モチロン歓迎よ、これからはアタシの手となり足となり働くことネ♪ そうすればこの傷のことも不問とするワ」
「は、はいっ! 本当に申し訳ありませんでしたっ!」
 そう、魔王さまの肌に根っこのように焼き付いた火傷の数々は、まだ愚かにも魔王さまに楯突いていたころのわたしが付けてしまったものだ。その分、ううん、必ずそれ以上の働きをして、魔王さまに恩返しをしなくちゃ!
「それじゃ、戦いも終わったことだし行きましょうか」
「ど、どこへですか?」
「決まってるじゃない――地球侵略の続きよォん♪ ついてきなさァい! ハイグレ魔法少女マホ! ミホ!」
「ハイグレ!」
「ハイグレっ!」

 ……わたしのしなきゃいけないこと。
 それは魔王さまのご意向に従い、命令を遂行すること。
 でも、忘れちゃいけない大事な約束がもう一つある。
 アクとんと消える直前、交わした約束。
 ――私が帰ってくるときまでに、この世界を平和にしてくれたまえ。
 大丈夫だよ、アクとん。いつか帰ってきたら、見せてあげるね。
 ハイグレ魔王さまとハイグレ魔法少女の活躍で平和になった、この世界を!

  *Bad End...*





「――私、早くマホを楽にさせてあげたいです」
「そう? じゃァそうしましょ♪」
 魔王……さまはニコリと頷くと、ミホの背を押した。
「マホをハイグレにしてあげる役目は、親友のアナタのものよ。ミホ」
「わ、分かりましたっ! ハイグレッ!」
 ミホはハイグレで答える。その顔は、今日見た中で一番嬉しげな表情をしていた。
 拘束を解かないままゆっくり近づいてくるミホ。それは同時に、わたしにハイグレ化のときが迫っていることをも表していた。
「い、いや……ハイグレ、ハイグレ、ハイグレぇっ! 来ないでミホ、わたしは、わたしはまだぁ……っ!」
「来ないでなんて言わないで。私はただ、マホのことを――」
「ハイグレっ! ハイグレ人間なんて、嫌……! だって、だってわたし、ハイグレ! ハイグレ! うぅ……!」
 言いたいことも満足に言えないのが、悔しくて仕方がなかった。でも、今のわたしにできる抵抗はそれしかなかったから。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレぇ! 戦わ、なきゃ……わたし、は……ハイグレ!」
「マホ。いいの、もう頑張らなくて」
 ミホはほんの目の前までやって来て微笑んだ。その瞬間にウィンドバインドが解かれ、わたしは倒れこむようにミホに寄りかかった。ハイレグ越しに伝わってくる人肌の暖かさが、わたしとミホが今生きていることの確かな証だと思えた。
「ミ、ホ……」
「一人で辛かったよね? 抵抗し続けて苦しかったよね?」
「うん……」
「だったらもう、終わらせよう? マホもハイグレ人間になって、一緒に魔王さまにハイグレを捧げよう?」
「……う……」
 夢見心地の中で頷こうとしたわたしだったけれど、それはダメだと呼び止める声が聞こえた気がして、
「い、やだ……!」
「え――」
「わたしは、魔法少女、マホ……! 最後の瞬間、まで……ぜ、絶対、諦め……ない!」
 ようやく邪魔されずに言えた。わたしが何者なのかを。
 それを聞いてミホは、一層腕の力を強めた。逃がさないようにと言うよりはむしろ、優しくいたわるような手つきで。
「ミホ……?」
 するとミホが耳元で囁く。
「……よく頑張ったね、マホ」
 横目に、ミホの杖が緑に輝くのが映った。何らかの風魔法の予兆だ。こんな至近距離で喰らったらひとたまりもない。
 このままじゃ――!
「ハ、イグレ……や、めて……ミホぉっ!」
「後は私に任せて」
 わたしの目の前に、懐かしく頼もしい幼なじみの笑顔があった。
 何かがおかしい。わたしは何かを勘違いしている気がする。ここに至って、ようやくそのことに気付いた。
「ま、まさかミホ――」
「――ヒールブリーズ!」
 ハイグレ魔法少女の杖から放たれた癒やしの風がわたしを包む。治癒魔法は怪我を治すだけではなく、体力と魔法力も少しだけ回復させてくれた。たった下位魔法一回分程度の魔法力であっても、ハイグレの洗脳から数分間精神を守るには十分な量だ。
「ミホ、アンタ、な、何してんのよッ!」
 わたしが爽やかな風にツインテールやリボンをはためかせるのを遠くから見ていた魔王が、ミホを怒鳴りつけた。ミホはさっきまでと違い、魔王に振り向きもせずわたしに微笑み続ける。
 そうだったっんだ……ミホは敵なんかじゃなかった。ミホは初めからわたしの……!
「ごめんねマホ。敵を欺くにはまず味方から、って言うし……後でちゃんと謝るね」
「いいよ! そんなのどうだっていい! ……ありがとう……っ!」
 わたしの味方でいてくれて。
 心の中から溢れ出す思いをどうしても止められなかった。それは涙となって頬を濡らす。魔王に向き直ったミホの背中に守られながら、わたしは泣き伏した。
「ミホ。アタシはそいつをハイグレ人間にしなさいと命令したのよ……!?」
「はい。けれど、あなたに命令される筋合いはありません」
「ふっざけんじゃないよオ! どうしてこのハイグレ魔王の命令が聞けないのよ! だってアンタは、アタシがハイグレ魔法少女に――」
「その通りです。私を魔法少女にしてくださって心から感謝しています。そのおかげで――あなたを倒せるからッ!」
 取り乱す魔王とは正反対に落ち着いた様子から一転、ミホは大きく叫ぶと凄まじい速さで魔法力を高めていく。緑のストールが風を受けて凧のように広がる。
「行きます! ウィンドバインド!」
「ッ!?」
 突風が魔王を空中に縛り付ける。口では威勢が良かったけれど、やっぱりわたしとの戦いで戦闘不能に近い状態にはなっていたらしい。動きを封じられ、ただミホを睨みつけるしかできない魔王は、哀れでさえあった。
 ミホの魔法力の上昇はまだ止まっていなかった。限界まで高めた力を、杖から解き放つ。
「……バキュームホール!」
 それは握りこぶし大の透明な塊。真っ直ぐ魔王に向かって飛んで行きながら、猛烈な勢いで周囲の空気を吸い込んでいる。わたしまでも追い風に負けないように踏ん張らなければならないほどだった。まるで台風の目だ。その中央ではきっと、想像を絶する圧力が生まれているんだろう。
 間もなく魔法が直撃してしまう魔王は取り乱し、声を荒げる。
「や、やめなさいっ!」
「そう言った人たちを、あなたは今まで何人ハイグレ人間にしてきたんですか……!? これは報いですっ!」
 表情に本気の恐怖が浮かべた刹那、
「ぎょ、ぉぉおああああああああああ!」
 魔王の胸元にそれが触れた。バキュームホールは、磔にされた手足をも無理やりねじ切りそうなほどの吸引力をもって、魔王の肉体そのものにダメージを蓄積させていく。風圧に抗いきれずに体位は十字から卍型のようになり、そしてもうすぐ人間型の骨格を無視して団子状に固められようとしていた。
「ごががががぁ! じ、じんじゃう! だずげで! あぉあああああああ!」
 醜く歪んだ口からの悲鳴。正直見ているだけでも哀れな光景だった。まあ、間違っても助けてあげようだなんて思わないけれど。
 でも、ミホは違ったらしかった。軽く杖を一振りすると、風の塊は嘘のように消え失せた。再び十字の磔に戻された魔王の目がミホを向く。でもそこにさっきまでのような力強さは存在しなかった。
「……アンタ……何のつもり、よ……?」
「どれだけ憎くても……直接人を殺したわけでもないあなたのことを、殺したくはありません」
 俯き、怒りを滲ませつつ静かに言うミホ。わたしはそれを聞いて、確かにミホの言うとおりだと思った。
 ハイグレ魔王は人間をハイグレ人間に洗脳して、地球征服を目論む侵略者。あくまでも支配が目的であって、一度たりとも命そのものを狙ってはいないんだ。
「それにあなたは、例え方法がなんであれ、私の命を救おうとしてくれましたから」
 魔王が唾を吐き捨てる。
「……ハッ! とんだ甘ちゃんね、ミホ。……じゃあ何、アタシのこと許すってーの?」
「いいえ」
 気持ちいいくらいスッパリと首を振るミホ。溜息をついた魔王に対し、「でも」と続ける。
「あなたに選択肢をあげます。さっきの魔法で潰れるか、それとも今までに洗脳した人たちを全員解放して、地球から出て行くか」
 それはミホが魔王に選ばされたという二択によく似ていた。どちらにせよ魔王は地球の支配を諦めなくちゃならない。優しくて、命の重さを知っているミホだからこその条件だと思えた。
 魔王は一頻り悔しげに歯ぎしりをした後に、
「……もういいワ。地球侵略は諦めることにするワ」
「本当ですか?」
「嘘じゃないわよ。オカマに二言はないもの」
 もう一度大きく息を吐き、断言した。これまで何度もわたしたちを騙してきた魔王のことだから、こんなに潔く引き下がるのも怪しく見えはする。でも、今度こそはこれ以上の策や罠は無さそうだった。光の鎖とかミホとかの秘策が残っているときの雰囲気とは全然違っているから。
「ミホ、わたしもそれでいいと思う」
 磔の魔王の前、ミホの隣に歩み寄りながらわたしは言った。命を奪わないで問題が解決できるなら、そのほうが絶対にいい。
「うん」
 ミホは頷き、ウィンドバインドも解除した。床に崩れ落ちたハイグレ魔王は上目遣いとなって私たちを見上げる。
「……こんなアタシに情けを掛けてくれるなんて、ホントに優しいコたちだこと。感謝するわ、ミホ、マホ。アナタたちに倒されたのだから悔いはないワ」
 わたしたち二人は顔を見合わせ、笑った。なんというか、今やっとわたしたちが勝ったんだ、っていう実感が湧いてきたから。
 すると、
「ホント、仲良しさんなのね二人とも。やっぱり女のコ同士って美しいわネ。アタシも仲間に入れてほしくなっちゃうワ♪ チュッ♥」
 なんて魔王が心底羨ましそうな視線と、投げキッスを送ってきた。オ、オカマさんのくせに……! とわたしは思わず身震いをし、ミホは、
「マ、マホとはそういうわけじゃ……っ!」
 と慌てて否定して、頬を赤らめた。そういうわけって、どういうわけなんだろう……?

 やってきたときの逆回しの動きで宇宙船型に変形したハイグレ城が、大きなジェットを吐き出して宇宙の彼方へ旅立っていく。
 それをわたしとミホは都庁の上で、夕暮れに照らされながら見送った。
「これで終わったね、ミホ」
「うん。そうだね」
 宇宙船が星よりも小さくなると、わたしたちが魔王に着せられてしまったピンクと緑のハイレグが光りだした。そしてポポン! という軽い爆発音と一緒に、元の魔法少女のコスチュームが戻ってきた。ちなみに初めて見るミホの普通の魔法少女姿は、和服のデザインをあしらったものだった。
 ハイグレ魔王がいなくなったことで、ハイグレ人間にされた人たちも今頃洗脳が解かれて人間に戻っているはず。これで世界は平和になったんだ!
 ただ、ほんのちょっとだけ。ハイグレ姿でハイグレポーズをしたときの感覚がもう味わえないのは寂しい気も……って何でわたしそんなことを!?
 わたしが変なことを勝手に想像して勝手に顔を沸騰させていたその瞬間、
 ――どさり。
 糸が切れたようにミホの体がぐらつき、受け止める間もなく倒れた。
「――ミホぉっ!?」
 慌ててしゃがんで上半身を抱き上げる。苦しそうに細かく呼吸するミホの額は、とても熱かった。
「すごい熱……どうして……!?」
「はぁ、はぁ、はぁ……っ! マ、ホ……」
 この状況は見たことがある。ある日の学校帰りに病室に行くとこんな風に発作を起こしていて、すぐさまナースコールを押した記憶がある。間違いなくこれは病気の症状だ。
「あ――」
 そうしてわたしは一つの可能性に気付いた。
 もしかしてミホの病気はまだ、治ってない……?
「ご、め……」
 薄目を開け、必死に唇を動かそうとするミホ。わたしの脳裏にこういうときにマンガやドラマでよく使われるセリフがよぎって、
「喋らないで! 大人しくしてて!」
 と窘めたけれど、ミホはお構いなしに続けた。
「ごめんね、マホ……私、嘘、ついてた。本当はね、病気、治って、なく、て……」
「そんな……」
 息も絶え絶えの口から出た真実に、わたしはサーっと血の気が引いていくのを感じた。ミホを抱きしめる腕に力がこもる。
「あのとき、ね。魔王に、ハイグレ魔法少女に、されて……前借りで、お願い、したのは……『ハイグレ魔王を、倒す、まで……私が私で、いられます、ように』ってこと……。洗脳とか、病気とかに負けないで、魔法少女、になって……マホと一緒に、戦いたくて……」
「何で、何でそんなことっ!」
 だから魔王がいなくなって願いの効果が切れて、病気が再発したってことなの?
 そんなことのために、せっかくの病気を治せるチャンスを捨てたの?
 ……ミホのバカっ!
「私だって、魔王を、倒したかった、から。頑張ってるマホの……力になりたかったから。……ねぇ、私、役に立てた、かな?」
「うん! ……うんっ!」
 強く二回頷くと、ミホは本当に嬉しそうに微笑んだ。そして、ゆっくり目を閉じた。
「ミホぉぉぉっ!」
 一瞬最悪のことを考えたけれど、まだ何とか息はあった。ただ、意識を失っただけとは言えどう見てもミホの限界は近い。それにミホに言った魔王の言葉が正しいなら、ミホの命が持つのは今日までってことになる。
 このままじゃミホは……!
「ミホ、お願いっ! 目を覚まして!」
 確かに、ミホが魔法少女になっていなかったら魔王には勝てなかったかもしれない。それに病気の完治を願いごとにしていたとしたら、本当にミホはハイグレ魔法少女になっちゃって、わたしもあのまま洗脳されていた。
 それでもミホは生きていられた。わたしもミホもみんなもハイグレ人間になって、地球が全部ハイグレ魔王のものになっちゃっていても、一緒に生きていられた!
「ミホぉ……」
 世界の平和は何よりも大事だよ。でもそこに、ミホがいないのなら……!
 そこでふと、思い出した。
「――そうだ、アクとん!」
 わたしの願いはまだ叶えてもらっていないんだ。魔法少女になって世界を平和にしたらアクとんが願いごとを叶えてくれる、そういう約束だったんだから。
 でもアクとんは魔王に消されてしまった。休んでから会いに来るとは言っていたけど、いつになるかは聞いていない。
 そんなのないよね? アクとんは、アクション仮面は困っている人のところに駆けつける、正義のヒーローだよね?
 ハイグレ魔王は退治したよ。ちゃんと世界は平和になったよ。だからわたしの願いを叶えてよ! 約束したでしょ! ミホを助けてって!
 後でじゃ遅いんだよ! 今じゃないとダメなんだよ! じゃないと、ミホが、ミホが……っ!
「早く来てぇっ! アクとん! アクとおおおおおおおおおん!」
 わたしの絶叫が、赤い空に吸い込まれて消えていった。それだけだった。空は何も答えてくれなかった。
「……どうして……?」
 じわりじわりと涙がこみ上がってくる。瞬きをする度に目尻から雫となって落ちていく。
『む、雨か?』
 この、声は?
『こんなに綺麗な夕焼け空だというのに、珍しいこともあるものだな』
 膝下から聞こえる、力強い声。まさか、と思いながら首を下げていくと、
「……アク、とん……っ!」
『どうしたマホ。顔がグチャグチャではないか』
 ミホの側で自分の顔に当たった涙を蹄で拭う、豚の姿のヒーローがいた。
 帰ってきてくれて嬉しいとか、ちゃんと約束は果たしたよとか、間に合わないかと心配したんだよとか、言いたいことはたくさんたくさんあった。
 でも、今一番大事なのは。
「――願いごとをっ!」
 早口で言うと、アクとんはすぐさま頷いた。
『うむ。では目を閉じるのだ』
 指示のままにわたしは目を閉じる。すると白い光が瞼の裏までも差し込んできた。
 そのまま不思議な浮遊感に身体中が包まれると、聞き覚えのない誰かの声がした。
『『『願い事を、一つだけ、叶えよう』』』
 そんなの、初めから決まってる。
「ミホの病気を治して、元気にしてっ!」


「マホーっ! まだなのー?」
「待ってて今行く――いったぁーっ!」
 わたし、卯里マホ! どこにでもいる中学1年生の女の子! ……でも、その正体は……。
 なんと地球を侵略しにきたあのハイグレ魔王を倒した一人、魔法少女マホだったのです!
 "だった"ってことでつまり、今はもう魔法少女じゃなくて普通の女の子なんだけどね。
 どのくらい普通かっていうと、親友のミホがやっと中学校に通えるようになった日に寝坊して、わざわざ家まで迎えに来てもらうくらい。……ってこれ、普通じゃないかな?
「もう、大丈夫?」
 慌てて階段を下りているときに、着かけの制服がこんがらがって転んだわたしを、ミホは玄関から心配してくれた。わたしは先に顔だけを上げて、何とか「大丈夫だよ」と返事する。
 身体を起こし、手早く服を整える。そしてカバンを手に、ダイニングのパパとママに挨拶をした。
「それじゃ、行ってきまーす!」
 二人の「行ってらっしゃい」に背中を押され、わたしはミホと一緒に家を出る。そして歩き慣れた通学路を進んでいく。
 しばらくすると、わたしと同じこの制服を着ているところを初めて見るミホが、不思議そうに尋ねてきた。
「そう言えばマホ、目の下にクマが出来てるけど……遅くまで起きてたの?」
「え!? 本当に!?」
 いくらミホにでも言えない。この歳にもなって、昨日の夕方に放送されたあの番組――久しぶりの再開だからと名前の変わった、『帰ってきたアクション仮面』の初回の録画を徹夜で見続けてしまったなんて……!
 だからわたしは、無理やり話題を変えることにする。
「そ、そんなことよりミホ。初めての学校だけど、不安だったりしない?」
 一瞬呆れたように肩を竦めてから、ミホは答えた。
「まあ、ちょっとはね。でも心配はしてないよ」
「どうして?」
「だって――マホがいるからっ」
 その明るい笑顔に、わたしは思う。
 この世界を救えて良かった。ミホを救えて良かった。辛いことはたくさんあったけど、頑張って良かった、って。
 この平和が、いつまでも続きますように――。

   *Good End!*





いかがでしたでしょうか?
今回のレス元は、
無念 Name としあき 15/09/02(水)21:47:56 No.20505362
無念 Name としあき 15/09/02(水)22:39:33 No.20505451(絵師さま)
無念 Name としあき 15/09/02(水)23:03:31 No.20505494
無念 Name としあき 15/09/02(水)23:23:53 No.20505538
無念 Name としあき 15/09/02(水)23:28:26 No.20505552

などとなっております。要約すると「ハイグレ光線を浴びつつも魔王に立ち向かう魔法少女。徐々に抵抗ができなくなり、最後には元は仲良しの、洗脳済みのハイグレ魔法少女の妨害で時間切れ」という流れでした
なお、上記二番目のレスが、本文中に転載させていただきました絵の転載元となります
普段のインスパイア小説ではしていませんが、今回はどうしてもインスパイア元の絵をご紹介したく、誠に勝手ながらブログに転載させていただきました
事後承諾となり申し訳ありませんが、お許しいただければ幸いです。もちろん、削除要請のご一報を頂ければ対応しますのでよろしくお願いします
また二週間前のレスで、
無念 Name としあき 15/08/23(日)21:07:41 No.20488741
「大病のヒロインに『ハイグレを着れば病気が治るよ』と誘惑して、こうするしかないんだと思わせて着させるシチュ」というものがありましたので、合わせて使わせていただきました
絵師さまはじめ各としあきさま方、大変ありがとうございました

レスを読んだとき、初めこれをRPGの単発ボス戦として作ったら面白いんじゃなかろうか、と(技術もソフトもないのに)思いました
プレイヤーの魔法少女は光線を浴びると永続毒(MPスリップでもいいかも)状態になり、HP(MP)が減るとハイグレしてしまい一回休みの確率が増え、0になるとハイグレ人間化する。そんな状態でも上手く戦って魔王のHPを削ると、今度はハイグレ魔法少女が増援で現れる。妨害を退けて魔王を倒せばクリア!――みたいな感じで

さて、本編について
舞台的には過去インスパイア作品『三人のアクション戦士・コロシアムの決戦!』と似てしまいました。が、屋上での魔王戦なので仕方ないです
そちらではアクションレッドが先にハイグレ剣を足に受け、まともに戦えなくなる展開を書きました。ですがこのとき初めは、ハイグレ姿になりながらも戦うレッドを描こうかなともちょっと考えていたのです
一年以上越しに書きたかった展開が書けて満足です

はぁ、こんなアニメがあったら絶対観るんですけどね……
本当は魔王戦で初めてのハイグレ人間化だとより良かったんでしょうけど、ニチアサ魔法少女枠のイメージで書こうとしたら、毎週毎週ピンチになっている(がそれでも逆転してぶっ倒す)のがセオリーじゃなかろうかという意識が出てしまいまして、こんな設定になりました
一応マホは雷の魔法少女、ミホは風の魔法少女となります。魔法のネーミングが安直だとかは言わない約束です。気にしないでください
最初は炎属性とか全属性とか格闘系とかにしようとしたのですが、何となく孤高の勇者的なイメージに引きずられて、某ドラゴン探求RPGの勇者風な電撃使いになりました。でも書きながら魔法を作っていって、これで正解だったなと思っています
あ、雷の性質はこんなんじゃないとかいうのも言わない約束です。文系に理系の知識を求めないで下さい(これほどの即興でないならばちゃんと調べますが)
魔法少女といえばマスコットキャラがいると相場が決まっています。このお話では最近話題のあの人がデザインした某6豚さんの元ネタとの疑惑が掛かっている豚さんをモチーフにした、アクとんがそれです。性格や口調はアクション仮面のものですがね
やっぱり少女を魔法少女にする際には、願いごとを一つ叶えなきゃですよね。ボクと契約して云々のセールスマンとアクとんが違うのは、ご褒美が後払いということでしょうか
というか魔王のハイグレ魔法少女契約では「特例で前払い」ができるのだし、人の命がかかった願いなのだからアクション仮面もそうすべきだったのでは? と自分の作品に対してツッコんでおきます
あとはアレですね。ハイグレパワーを半分ミホに分け与えた状態ですらあれだけの戦闘力を持つ魔王とは一体何なんだと

ところでこんな主人公敗北ENDをニチアサに流すわけにはいきませんよね
なので、ちゃちゃっと追加で主人公勝利ENDも書こうと思います。伏線、というか構想は書きながら考えましたので、明日、遅くとも明後日中には上げられるはずです
その次こそは『小学生~』を……!

ではー
【2015/09/04】




……あれ? なんだろう、書き終わったときのこの爽やかな達成感は。これが、これがハッピーエンドの素晴らしさってやつか!
人間側の完全勝利エンドなんて初めてに等しいので(『~若人たち《IF√》』『カメラが捉えた~』は微妙ですし、『Side:LAB.』も原作そのものですし)、とんと味わっていないカタルシスでした

ニチアサと言いながら、この文量は30分じゃ収まりそうもないですね。まあ気にしない方向で
最後、アクとんが帰ってこられたのは、魔王のジャミング的魔力が地球からなくなったからという感じです。アクション仮面本人の次元転移には大きなエネルギーが必要ですが、アクセス端末であるアクとんを送る程度なら難しくありません。それに流石にミホの命の危機にはゆっくり休んではいられませんでした
魔法少女になった代償で「どんな願いも叶えられる」なら、「死んだミホを生き返して」とか「ハイグレ魔王を追い払って」とかもありな気もしますが、そういうのはアレです。どっかのドラゴンと同じで『その願いは私の力を越えている』って言われるんです、多分。ツッコミは無粋です
それと、ここの魔法少女は役目を終えれば普通の女の子に戻れます。魔女になる設定なんて当然ありませんので
……そういやハイグレ魔女って単語はどこかで聞きましたね……
どうでもいいネーミング由来一言。「卯里(うさと)」は魔法使い=「ウィザード」のもじり且つアニメ的な創作名字……のつもりだったのですが検索したらごく僅かにいらっしゃるっぽいです。ひゃー。そして「マホ」は単に「魔法」から、「ミホ」は初めマホの妹にするつもりで付けた名残でした

あとは、マホが倒してきたパンスト兵や幹部についてですかね
結論から言うと、全然何も考えていません。殺しちゃったのか、再起不能にしただけなのか、改心させたのか。生きているとしたら地球に残ったのか、魔王と一緒に宇宙に戻ったのか
個人的にはマホの発言から、無理に殺すつもりはないにせよ殺してしまった敵もいる、再起不能になれば追い打ちはしないスタンスだと思っています
まあしょうがないね、悲しいけどこれ戦争なのよね

長いお話の最終話だけ書くとかいう訳の分からないチャレンジでしたけど、突貫にしては上々の出来かな、と思いました

改めて、絵の掲載許可及び磔マホ絵を下さいました絵師さま、それに色を塗って下さったコラあきさま、そしてとしあきの皆さまに御礼申し上げます
ありがとうございました! これからも頑張りますよー!
【2015/09/06】
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tag : インスパイア 単発

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非公開コメント

なにこれ最高やろ・・・・

こんばんハイグレー!

さっそくですが読ませて頂きましたー(*´д`*)素敵な作品だったので読後すぐに読み直ししちゃいました!

>はぁ、こんなアニメがあったら絶対観るんですけどね……
激しく同意……そして「毎週毎週ピンチになっている(がそれでも逆転してぶっ倒す)のがセオリー」が丁寧に作品内に組み込まれているおかげで妄想が捗ってしまいます(*´д`*)変身シーンとハイグレ着用シーンで二度おいしい! でもって↓

初めての変身からの初陣でパンスト兵に呆気なくハイグレ姿にされちゃって戸惑う魔法少女マホちゃんとか
ハラマキレディースの奸計(洗脳済みクラスメートのスパイ化とか?)によって陥落寸前な魔法少女マホちゃんとか
悪の幹部なのにどこか憎めない脳筋Tバック男爵との死闘(でもあんまし強くない)を繰り広げる魔法少女マホちゃんとか

↑みたいな「たぶんここまで色々あったんだろうなぁー」って嘘回想を脳内妄想出来て三度おいしい!(*´д`*)マホを一度ギリギリまで追い詰めたのはおそらくハラマキレディース様かなぁと勝手に予想
アクとん(CV.玄田哲章)やカリスマ溢れる魔王様もイイ味出していてカッコイイ!とか香取犬さんの着想得てから書き終えるまではやくてスゴイ!とかなにより
灰昏さんのハイグレ魔法少女かわいい!
とかもっともっと褒め殺ししたいけどさすがに長文になり過ぎてしまってるのでこの辺で失礼させて頂きます(`・ω・´)ノシ ではではー!

Re:なにこれ最高やろ・・・・

ちょーっと(*´д`*)ハァハァしすぎじゃないですかねやだもー
ほんとありがとうございますです

今回は自分でも驚くくらいにキーボードが進みました。『ハイグレ人間に憧れた少年』ぐらいかそれ以上でした。それというのもひとえに灰昏氏のおかげで……!
絵の上手い方の落書きを見ると、落書きの定義が崩れますよね。少し前に描かれていた洗脳椅子によがってる子も凄まじかったです

>変身シーンとハイグレ着用シーンで二度おいしい!
自分は基本的に、書いた内容内に書きたいことを全部突っ込む性格なので、『魔王戦で初めてのハイグレ人間化だとより良かった』(→「い、今までやられないで頑張ってきたのに遂にハイグレにされちゃった……!」)と思ったのですが、なるほど妄想を広げる意味でも今回はこの設定にしておいて正解でしたね
ぜひぜひたくさん嘘回想しちゃってください
毎週毎週(作中では連日連夜)ハイグレ光線を浴びて解除されての繰り返しをしていたら、頭が正気でいられるか心配ですが……
魔法少女マホの放送期間中はきっと某エール氏に迫る勢いでハイグレ姿を晒してくれることでしょうぞ

No title

本スレからはじめまして
適度にスラスラと読める描写でテンポ良く読むことが出来ました
長さも短編として丁度良く所謂「実用性」の高い作品だと思います
本スレでコレと思ったアイデアをすぐに作品に仕上げるフットワークの良さが素晴らしいですね
それも勢いに任せたわけでもなくしっかりした出来となれば猶更です
過去のSSもじっくりと読ませていただきます
今後の楽しみがひとつ増えました
応援しています
プロフィール

香取犬

Author:香取犬
ハイグレの洗脳を受けて早幾年
遂に自らハイグレ小説を書くようになってしまいました
いつでもネタ募集中です
酉◆RYenwqtp9Y

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新興宗教ハイグレ教
 →ハイグレアイドル候補生!
ハイグレ小説王国
 →変わりゆく若人たち
 →帝後学園の春


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