【リク】小学生だってハイグレ人間だよ! その3

どうも、三週間以上更新が途絶えて申し訳ありません、香取犬です
こちらとは関係ない感じでまた忙しくなっており、あまり時間が取れませんでした

とりあえずそろそろ執筆途中のリク作品を再開・完結させようと思いまして、その第一陣として『小学生~』を進めて参ります
と言っても今日の時点ではとりあえず一人(の洗脳途中)分までです。なお物語はその4で完結となる予定です
用事は一段落したので、続きはまた近日公開します
【7/10】『その3』全三章、完結しました!



小学生だってハイグレ人間だよ! Original by 犬太(>>15)
その3


目次
晴馬「何だこれ……か、身体が、勝手に……っ!」
碧羽「あおといっしょにハイグレしよっ!」
凪沙「見て分からないの? ハイグレよ!」

登場人物(前記事へ)
あとがき




【須藤晴馬】

「須藤くん! 早くプールサイドの水掃いて!」
 いち早く自分で振り分けた掃除の分担を終わらせた篠宮が、先生のように鋭く叫んだ。名前を呼ぶと同時にビシリと突きつけられた指に、心がムッとした。だから大きなワイパーのようなブラシでプールサイドの水分を排水口へと掃いている最中のおれは、「はいはい」と適当に返事をしてあしらうのだった。掃除をする羽目になったのは、確かにおれが競争に勝てなかったからだ。だけど、ああやって上から目線で指図されるのは何か違う。声と態度の大きい篠宮のことが、単に気に入らなかった。
 それにどうせ、プールサイドよりも掃除が簡単なはずの更衣室や体操場担当の4人もまだ帰ってきていない。急いで掃除を終わらせる必要なんてないじゃないか。
「碧羽も、早くビート板を片付けなさいよ!」
 続いて篠宮は、用具倉庫前でビート板を重ねて抱えている大瀧に命令した。ビート板は専用の棚に重ねて置くのだが、
「ほーい全部のせー! ――あっ、いててててっ」
 大瀧は腕いっぱいのビート板を横着して一気に載せようとしたため、結局バランスが崩れて頭にビート板の縁の連打を食らうことになってしまった。おれはそれを遠目に見て思わず吹き出す。
 篠宮が深い溜息を吐いて、ビート板に埋もれた大瀧の元に向かう。まだまだ掃除は終わらなさそうだった。
 そんな二人を尻目におれはワイパーで水をかき集め、排水口へ流し込む作業を続けていた。とりあえずプールサイドの三方は終わり、残り四分の一となったそのとき。反対の岸側の階段を、誰かが登ってきた。別の場所の掃除が終わってしまったのだろうか。
 だんだん長い髪が見えてきて、来たのが東郷だということが分かる。そりゃあ体操場の掃除は楽に終わるだろうしなあ。……って。
「あ……!?」
 おれは思わず目を擦り、改めて東郷の姿に視線を向けた。しかし、見えていた色は何も変わらなかった。
 階段を登り切った東郷が着ていたのは、今篠宮や大瀧が着ているような普通の紺色の水着ではなかった。真っ赤で、しかも足のところの切れ込みが異常に鋭い。確か、ハイレグって言うんだったか。遠すぎてよくは見えないけど、東郷のあの、む、胸が、やけに大きく感じられる。何で、あんな姿に?
 呆然としていると、更に続けて喜多村と陸斗も階段から姿を現した。――ピンクと黄緑の同じ女のハイレグ水着姿で、平然と。
「ど、どうなってんだ?」
 向こうの3人は驚きっぱなしのおれを気にも留めず、篠宮たちの方へ歩いて行く。しかし2人は一生懸命にビート板をかき集めていて、東郷たちには目もくれていなかった。一瞬でもあの格好を見たなら、作業の手が止まらないはずがないのだ。
 もしかして田中もああなのか? と思った矢先、その想像が当たっていたことを確認してしまい複雑な気持ちになる。階段を登ってきた田中も紺ではなく青のえげつない水着姿。しかも、何か手に持っている。……あれはピストルか? よく見たら、喜多村も持ってる。
 何だあいつら。ドッキリでも仕掛けるつもりなのか? 陸斗まであんな気持ち悪い格好しやがって。まさか女装趣味があるとは思わなかったぞ。
 だけど、変な胸騒ぎがした。特にあのピストルに。だからおれはブラシを放り、海パン一枚でプールサイドを駆けた。
 おれがあちらに辿り着く前に、作業に没頭している二人に東郷が声を掛ける。
「あ、あのー」
「るる? そっちの掃除は終わったの?」
 篠宮は東郷たちの方を見ずに背中越しに返事をする。それから大瀧が振り返り、何かを言おうとしたようだが、
「るるっぺいいなー。もう終わっ――お、おぉ……?」
 脳天気な大瀧でさえも、あんな変な水着を着た四人の姿には目を丸くしてしまったようだ。作業の手が止まる。それを篠宮が注意する。
「ほら、手が止まってる!」
 そこでおれも現場に到着。何と言うか、近くで見ると余計に気持ち悪いな。
 大瀧は注意を受けてもなお、四人の姿に釘付けだった。そして呆然としたまま、口走る。
「みんな、すっごいはいぐれ……」
「大瀧、『ハイグレ』じゃなくて『ハイレグ』だぞ」
 おれは大瀧の言い間違いを訂正する。しかし間髪容れず喜多村が首を振った。
「ううん。碧羽の言った通り、ハイグレで合ってるよ」
「はぁ?」
 もう、全く訳が分からない。何なんだ四人とも。まるでこの数分の間に、顔だけ同じ別の人間になってしまったかのようだ。
 おれたちの会話が耳に障ったのか、ようやく篠宮も、こめかみに血管を浮かべながら振り向いた。
「ああもう! さっきから何の話を――え?」
 そして大瀧と同じように目を剥き、口を金魚のようにパクパクさせる。
「あの、ちょ、いつの間にそんな、っていうか一条くんまで? それ何だか分かって着て……あ、あなたたち、どういうことか説明しなさいよ!」
「大分混乱してるね」
「ま、しゃーねぇだろ」
 田中と陸斗は、うろたえる篠宮の様子にくすくすと笑う。いや、どう考えても当然の反応だと思うんだが。
 それに対して喜多村と東郷の方はやや得意げな表情をして、口を開いた。
「さっきも言ったけど、これはハイグレっていうの。そして、私たちはハイグレ人間!」
「あのね、ハイグレを着てハイグレすると、とっても気持ちいいんだよ」
「ハイグレ、する?」
 何やら解説をしてくれたようだが、やっぱり意味不明。とりあえずおれは、「ハイグレする」という動詞について問い返した。すると東郷が突然足を開いて「こうすることだよ。――はいぐれっ!」と切れ込みを両手で上下になぞる動きをしてみせた。それも、全く躊躇いなく。
「るる……恥ずかしくないの?」
 篠宮は怪訝そうに訊ねる。それはおれも思った。いつも普通の水着ですら恥ずかしがっている東郷が、こんなアホらしいポーズをするなんて想像だにしなかった。
 しかし東郷は平然とこう言ってのける。
「全然。だってハイグレ人間がハイグレするのって、当然のことだもん」
「る、るるっぺが恥ずかしがり屋をコクフクしたー!」
 大げさに驚く大瀧。いや、こんな大事件とあってはこのくらいのリアクションは、大げさではないのかもしれない。
 ……そう、こんなことはあの東郷に限ってはあり得ない。田中とか、百歩譲って陸斗や喜多村なら、おれたちを驚かせようとしてこんな格好をする可能性はあるのだが。
「でも、流石に様子が変じゃないか?」
 おれの言葉に、篠宮も同意するように頷く。いつも反りが合わないおれたちだが、どうやら考えることは一緒のようだった。
 おれが篠宮を気に入らないのは、ある種の同族嫌悪みたいなやつだ。あいつに指図されるほど、おれは何も自分で考えられないガキじゃない。あいつが自分で考えてみんなを引っ張ろうとしているのと同じように、おれも自分で考えて自分のペースで動いているんだ。こう言うと子供っぽいけど、おれも篠宮も考え方が大人になりつつあるらしい。そしてそれを自覚していて、周りの同級生を少し見下してしまっている――お互いを含めて。だから、格下と思っている相手に歯向かわれるのが気に障る。……そんなことで腹を立てて対立しているあたり、やっぱりおれたちもまだ子供なのかもしれないが。
 そんなことを考えていると、黄緑のハイレグの一部分を膨らませた陸斗が、一歩前に踏み出してきた。
「お前ら人間には、オレたちが変に見えるだろ? でも、オレたちからしたらハイグレを知らないお前らの方が勿体無いと思うけどな」
 言って、ニヤけ顔のまま「ハイグレ! ハイグレ!」と、さっきの東郷と同じポーズを繰り返し始めた。それを見て同性のおれですら、眉をしかめるような嫌悪感に襲われたのだ。篠宮の受けたショックは相当なものだったようで、完全に怯えきって腰を抜かし、背中でビート板タワーを崩壊させてしまう。ただ、大瀧は興味深げに「ほぅほぅ……!」と頷いていたが。お前、もっと恐ろしがれよ……。
 おれが色々と呆れていると田中も進み出てきて――右手の銃を、構えた。
「やっぱり、言葉で言っても分からないよね。私もそうだった」
「なほたん……!?」
 銃口の先は、尻もちをついた体勢の篠宮に向けられていた。あのオモチャにしか見えない銃を使って、何をするのかは分からない。だけどそこから発射される何かを食らってしまうとヤバいことになると、直感で思った。
 このままでは篠宮が撃たれる。……くそっ、おれはどうして、
「だから、教えてあげる。この銃は、きっとそのための銃」
「た、助けて……!」
 何をしてでもあいつを助けたいと思ってるんだ!?
「―― 一緒にハイグレしよう?」
「篠宮ぁっ!」
 田中の指が引き金を引くのと同時に、おれは弾かれたように床のコンクリートを蹴り、篠宮の前に大の字になって立ち塞がる。そして正面から飛んでくるピンク色の怪しいビームを、おれは腹に食らってしまった。
「うわああああああああっ!」
「す、須藤くん!」
「るまっ!」
 二人がおれを呼んでくれた気がしたが、そんなことに意識を向けている余裕はなかった。光は一瞬のうちに全身に広がって、半裸の皮膚の上をバチバチと駆けずり回る。真冬にセーターを何枚も着せられたかのような、暑さと痺れが胴体中にまとわりつく。
 そんなうざったさと苦しさは時間と共に少しずつ薄くなっていって、光が消える頃には薄手の生地一枚だけの涼しい姿にしてもらえたようだった。……だけど、こんなぴったりとした着心地は今までに感じたことがない。おれは一体、どんな格好をしているんだろう。そう思って目線を下ろすと。
「う、うわっ!?」
 おれの胸元が――いや、肩から胸、腹そして股間までが、あいつらと同じ形と水着によって包まれていた。海パンはどこかに消えてしまい、代わりにあったのは水色一色のハイレグ水着。それが与えてくる不思議な締め付け感と、下半身を否が応でも意識させられる恥ずかしさ。おれは現実を受け入れられずに身震いした。
「る、るまもハイグレになっちゃった……!」
 ば、馬鹿を言え大瀧。確かにおれはいきなりハイレグ姿にされたが、陸斗たちのようにあんな変なポーズはするつもりはない。それにこんな水着姿でいるなんておれは嫌だ。女子には悪いが、こんなのさっさと脱いで全裸にでもなんでもなってやる。そう決意して肩紐に手を掛けようとしたのだが。
「何だこれ……か、身体が、勝手に……っ!」
 上げるつもりだった手は意志に反して逆に下がり、同時に腰も落ちてがに股にされてしまう。身体が誰かに操られてしまったかのように、自由が効かなかった。そのことを自覚した瞬間、恥ずかしさや怒りの感情を恐怖が上回った。
「やめろ! 嫌だ……くそぉっ!」
 このままだとおれがさせられてしまう動きは、想像がついていた。あんな馬鹿な真似を、おれは抵抗も叶わずにさせられるのか。あの光線を浴びたばかりに。
 でも、これで良かったのかもしれない。おれがやられたことで、篠宮と大瀧はこいつらのしようとしていることを知ることが出来た。人間が怖いと思うものとは、得体の知れないものだ。篠宮が怯えていたのは、こいつらが何をしでかすか全く分からなかったから。でも今なら篠宮は冷静さを取り戻して、大瀧を連れて逃げられるはず――
 頭の中にあの単語が響き渡って、おれの思考を邪魔する。意識を一瞬奪われた隙におれは、
「ハイグレっ!」
 下腹部でV字を描いている水着の線に沿って、両腕を動かしてしまった。そして身体中に走る、言葉に出来ないおかしな感覚。身体だけでなく、心まで奪われてしまいそうだった。
「……くそ、止まれよ……ハイグレっ! ハイグレっ!」
 なおもハイグレのポーズを勝手にとるおれを尻目に、ハイグレ人間の四人は喜び顔を突き合わせていた。
「やったね那穂! 晴馬くんもハイグレ人間にできたよ!」
「でも那穂ちゃん、本当は凪沙ちゃんのこと狙ってたのに」
「ううん、誰が先でも関係ない。銃の効果が分かっただけで十分」
「だよな。どうせ全員――ハイグレ人間にすんだからよ」
 陸斗の鋭い眼光が、おれの背後の二人を射抜く。おれは気力を振り絞って、
「し、篠宮! 大瀧! に、ハイグレっ! ハイ……グレっ! 逃げろ――ハイグレっ!」
 おれがやられたことを無駄にしないでくれ、という思いをなんとか絞り出す。しかしそれ以上は、おれの口がハイグレ以外の単語を発することはなかった。
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 自分がどうしてこうなったのか、あいつらの目的が何なのか。どれだけ考えても答えは出ない。だが少なくとも、これ以上の犠牲者が出るのは嫌だった。
「あ、碧羽……逃げよ? 早く逃げて、先生に言わないと」
 背後で篠宮がそう、大瀧に促しているのが聞こえた。しかし、大瀧は逃げる気配を見せなかった。それどころか篠宮の制止を振り切り、おれよりも前にスッと歩み出て、
「ねえ、みんなっ」
 あろうことかハイグレ人間たちに呼びかけた。田中と喜多村が反射的に銃を向けるが、大瀧は全く怖気づかない。
 そして弾んだ声で、こう言うのだった。
「あおもハイグレしたい! それ、ビビーッてやって!」


【大瀧碧羽】

 目の前でいきなりるまがピカっとしたと思ったら、なほたんたちと同じ水着のカッコになっちゃった。それを見てあお、思ったんだ。
 ……スゴい! 魔法みたい!
 なんだかよく分かんないけど、とにかくあのビームに当たったらいきなりはいぐれの水着になる、ってことは分かった。あと当たったら、「ハイグレ!」ってしなきゃいけないのかな。
 るまはすごく苦しそうだけど、さっき「ハイグレ!」ってしてたりっくとるるっぺは、すごく楽しそうだった。特にるるっぺなんて、恥ずかしがり屋が治っちゃうくらいだからとってもとっても楽しい気持ちなんだと思う。
 確かに、あのビームに当たったら死んじゃうんだったら、あおも怖くなって逃げちゃったと思う。けど、撃たれたるまは生きてる。
 だったら、あおもやってみたいよ。あおもはいぐれ着て、みんなと一緒にハイグレしたい。……逃げろって言ってくれたるまには、ごめんねだけど。
 でも、あおの言ったことには、なぎーも反対だったみたい。
「碧羽! バカなこと言わないで! ここにいたら、ウチらまで須藤くんみたく――」
「えー? でも、みんなお揃い、いいじゃん! ね?」
 なんだかなぎーが、すごく「えー」って目であおのことを見てきた。
「碧羽、恥ずかしいとか怖いとか、思わないの……?」
 む、難しいな。あおだって、全然思わないわけじゃないんだけど。
「だって、ゆーひんもるるっぺもなほたんも、りっくもるまも、みんなハイグレでしょ? じゃあ、あおも仲間にしてほしいもん。みんなと一緒に、楽しいことしたいもん!」
 それに、あのビームをビビーってされてみたいのもあるし、はいぐれの水着を着てみたいのもある。あおだって、もしもみんなが普通なのにあのカッコのままにされたら恥ずかしいと思う。けど、みんな同じなら。
 ――仲間外れのほうが、あおはイヤ。
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 るまの声が少しずつ、マジメに変わってきてる。やっぱりるまも、ハイグレ楽しいって思い始めてるんだ。
 なぎーは、あおがもうハイグレになるって決めてるのを理解して、悲しそうに下を向いちゃった。逃げたいなら逃げればいいのに、なぎーはそうしなかった。
「碧羽」
 ゆーひんに呼ばれて、もう一度ハイグレのみんなの方を向く。ゆーひんは笑って、あおに銃を向けていた。
「碧羽もハイグレになってくれるんだよね?」
「うんっ」
「よかった……ハイグレを嫌って言われると、結構傷つくから」
 その気持ちはあおにも分かる。自分の好きなもの嫌いって言われたら、ヤな気分になるよね。逆に他の人にも気に入ってもらえたら、すごくうれしくなる。
 るるっぺとなほたんは、ゆーひんの言葉を聞いてちょっと困ったような顔になってた。
「あ、あの、夕日ちゃん、私……さっきは、本当にごめんね……」
「……まさかハイグレがこんなに気持ちいいなんて、思わなかったから」
「そ、そういうつもりで言ったんじゃないの! 二人とも今はハイグレ人間でしょ? だからいいの!」
 あわてて首をブンブンするゆーひんに、りっくはイジワルっぽく言う。
「でも、実際本心だろ? オレのが先にキレたけど、夕日も相当頭にきてたみたいだったしな」
「あのときの一条センパイ、怖かったです……」
「ああもう! 悪かったよ田中、流石に言い過ぎた。それとセンパイはやめろって」
 いちど本気で悲しそうな顔をしたなほたんだったけど、謝られるとすぐにニヤリと笑った。それを見てため息をついたりっくは、もう一度ゆーひんに声をかけた。
「あとさ。オレがハイグレ着てもいいって言ったとき、お前本当に嬉しそうだったよな」
「う、うん……まさか本当に着てくれるとは思わなかったし。心の中ではムリって言われるって覚悟してたから」
 ほっぺたを赤くしてモジモジするゆーひんを見て、るるっぺとなほたんはりっくから三歩離れた。
「一条くん、じ、自分から着たの?」
「センパイ、どうしようもない変態さんですね」
「だああーっ! いいだろ別にっ!」
 一人ぼっちになって叫ぶりっくが面白くて、あおも我慢出来なくて笑っちゃう。
「……くそ、言わなきゃよかった……」
 なんか、みんないつもどおりだ。水着は着てるけど、やっぱりみんなはみんななんだ。
 今ここではいぐれじゃないのは、あおとなぎーだけ。あおたちの方が、仲間外れ。
「ねえ……まだぁ……?」
 待ちきれなくて、言っちゃった。こんな学校の水着なんて着てたくなくて、自分の体をぎゅっとしちゃった。
 あおも早く、みんなと同じキモチになりたいよ……!
「ご、ごめんね碧羽! 置いてけぼりにしちゃって!」
 あわててゆーひんが謝ってくれる。そしてもう一度、あおにピストルの先っぽを向けてきた。
 あの丸っこいところから出てくるビームで、あおはハイグレになっちゃうんだ。もうすぐ、あおも……!
「じゃあ、今から撃つね?」
「うんっ!」
 心臓のドキドキが、耳まで聞こえてくる。運動会とか学芸会の本番でも、こんなになったことないのに。
 他に聞こえてくるのは、
「あお……ば……!」
 なぎーがあおのことを呼ぶすごく小さい声と、
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 マジメな顔でハイグレしてるるまの声くらい。屋上のプールは、人が少ないとけっこう静か。
 そんな静かなところにこれから、あおの「ハイグレ」って声も混ぜるんだよね。それで、みんなの「ハイグレ」って声も混ぜて、一緒にハイグレするんだ。
 考えてるだけで、頭がヘンになっちゃいそう。ゆーひん、早く……っ!
 そう思った瞬間にはもう、ピンク色の光があおに向かってきてた。
「きゃあああああっ♪」
 痛くも、苦しくもなかった。ビームが当たったとき体中がビリッとして、すぐにフワッとして、最後にキュッとなった感じがした。そしたらあおの着てる水着は、みんなと同じに変わってた。
「あ……っ!」
 紺色じゃなくて黄色。すっごくはいぐれで、ピターって体に張り付いてる。さっきまでと全然違って、すっごく気持ちいい。ゆーひんたちも、こんな思いをしてたんだね。
 でも、あおもこれでいっしょ!
「碧羽ちゃん、似合ってるよ!」
「ほんと!?」
 赤いハイグレのるるっぺも、すっごく大人っぽくて似合ってると思う。けどやっぱり、ほめられるのはうれしい。それって、あおがハイグレ人間って認めてくれた、ってことだもんね?
 ……あおも、ハイグレ人間なんだよね。じゃあ、アレしなきゃだよね。
 あおはそう思って、足を広げて腰と腕を下ろした。そのカッコをすると、ハイグレを着てる感じがすごくして、ハイグレを着れて良かったって思った。
 みんなへのありがとうの気持ちを、あおはハイグレのポーズでお返しするんだ!
「――はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ! あははっ!」
 みんながやっていたポーズを真似っこして、思いっきりハイグレしてみる。そしたら、初めてやったはずなのに昔から知ってたみたいな感じがして、ふしぎだった。
 あと、すっごくすっごく気持ちよかった。水着の線をこすったら、なんか体の中の方がキュウゥってして、もっとハイグレしたいって思った。くすぐったい、に近い感じだったけど、もっとハイグレし続けたらもっと違う感じがしそうな予感もする。
 その予感を、確かめてみたくて。
「はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ!」
 あおはハイグレ人間。みんなと同じでハイグレを着てて、ハイグレすると気持ちよくなっちゃう。ハイグレ人間になれてほんとよかったって、あお、思ってるよ。
「はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ!」
 ハイグレポーズのポカポカは今でも充分気持ちいい。だけど、多分みんなといっしょにハイグレしたら、もっともっと気持ちよくなれると思うんだ。
 だから、
「ねえ! ゆーひん、るるっぺ、なほたん、りっく、るま! あおといっしょにハイグレしよっ!」
 あおはみんなにお願いした。そしたらみんなは、「うん」って言ってくれそうな顔をしてるのに「うん」ってはしてくれなかった。
 どうして? って悲しくなってきたとき、なほたんが言った。
「碧羽。もうちょっとだけ待てる?」
「なんで!? ……あっ」
 なほたんの目線の先をあおも見て、やっと意味が分かった。プールサイドの床にペタッと座り込んだまま動けなくなっているなぎーは、あおたちハイグレ人間にじーっと見られてることに気付いて、涙目でイヤイヤするみたく首を振った。はいぐれじゃない、紺色のカッコ悪い水着姿のままで。
 そっか。そうだよね。なぎーを仲間外れにしたままじゃ、ダメだよね。
「……なほたん。あお、ガマンする」
 なほたんはコクンとうなずいて、ハイグレ光線銃の持つところをあおに向けてきた。意味が分からないけどなんとなくそれを受け取ると、
「凪沙をハイグレ人間にするの、碧羽に任せる」
 って言われた。
「ほ、ほんと?」
「嫌ならあたしたちがやる。だけど、碧羽は撃ってみたくない?」
「――撃ちたいっ! あおもビビーってしたい!」
 そう返事すると、ハイグレ人間のみんなはなぎーのことを、かごめかごめで囲うみたいにして立った。一人分空けてくれたスペースにあおも入って、震えてる可哀想ななぎーを見下ろした。
 これからあおが撃つんだ。また心臓の音が大きくなってきたときに、いきなりなぎーが怒った顔で、あおたちのことをぐるっと睨んできた。
「皆、ふざけるのもいい加減にしなさいよぉっ!」


【篠宮凪沙】

 お腹の底から空気を吐き切るくらいに、ウチはそう叫んだ。体中にふつふつと溜まっていた訳の分からない感情を、声にまとめて吐き出したのだ。
 当然、六人はウチに注目する。まともじゃない目を、向けてくる。その視線にウチは、今までに感じたことのない不快感を抱くのだった。
 ……ウチの言ってることを、どうして聞いてくれないの……?
 掃除に行っていたはずの四人が、おかしなハイレグ水着姿になって帰ってきて。須藤くんはどうしてかウチをかばって。碧羽は自分からあんな姿になりたいなんて言って。
 ……もう、意味分かんない……っ!
 何もかもが、自分の想像を超えていた。理解できないことそのものが、怖かった。お化け屋敷のお化けは単なる人間だから、ビックリはするけど怖くはない。けど皆は――ついさっきまで普通に話していた皆は――今や色違いの水着を着て気持ち悪いポーズをするようになってしまっていた。
 原因も原理も分からない。ウチが何とか理解したのは、あの銃から発射されるビームに撃たれると皆みたいにされちゃうってことと、ウチは絶対にそうなりたくないって思ってることの二つだけ。
 だからウチは叫んだ。まだ、皆にいつもの皆の心が残っていることを期待して、ウチの命令なら聞いてくれるはずと祈って。
 でも、
「わたしたちはふざけてなんてないよ、凪沙」と夕日は真剣な表情で首を振り、
「みんな本当に、ハイグレが好きなんだよ」とるるは大きな胸を恥ずかしげもなく張り、
「今の凪沙には分からないかもしれないけどね」と那穂は憐れみの目を向けてきて、
「オレたちから見たら、ふざけてるのは篠宮のほうだけどな」と一条くんは自分の格好も顧みないで断言し、
「ハイグレ光線を浴びれば、篠宮も分かる」と須藤くんは最早「逃げろ」とも言ってくれず、
「なぎーもすぐ、ハイグレにしてあげるからねっ!」と碧羽は銃を握って楽しそうに笑う。
 そして、六人揃って「ハイグレ! ハイグレ!」とあのポーズと声を繰り返しはじめた。
 ウチの言葉が全く届かなかったという絶望と、ウチだけが世界に取り残されたみたいな孤独と、ウチまでもあの格好にされてあのポーズをさせられるのかもという恥ずかしさ、三つが心の中でグチャグチャに混ざった結果、至ってシンプルな「恐怖」という答えが生まれるのだった。
 ……怖い……怖いよ……っ!
 立ち上がる力すらも失った今更、逃げ出すことも不可能だった。須藤くんが身を挺して作ってくれた時間も、碧羽の言葉にショックを受けているうちに無駄にしてしまった。そのことは、本当に申し訳なく思う。
 ウチは、味方がいないと寂しくなるんだと思う。皆のリーダーみたいに振る舞っていたのは、真面目に正しいことを守っている限りは自分に大義名分があって、付いてきてくれる人がいると分かっていたから。他人を言った通りに動かす快感も感じないわけじゃない。けど、それ以上に仲間となってくれる人、ウチの存在を認めてくれる人が欲しかったからだったんだ。夕日のコイバナの相談に乗っていたのも、「自分は夕日に頼られてるんだ。必要な人間なんだ」って思いたかったからだ。
 でも、今はもう……。
 夕日たちは人間としてのウチを、これ以上ここにいさせまいとしている。ウチを否定して、ウチじゃないウチにしようとしている。
 ……ウチは、いらない子なの……?
 得体の知れない水着姿の六人が、ずいずいと歩み寄ってきた。ウチは何とかお尻を引きずって後退する。背中で積んでいたビート板の塔を崩し、それでも下がっていくと、今度は壁にぶつかった。六人に囲まれて、もう逃げられない。
 再び始まったハイグレコールに気圧されて視線を落とすと、自分の胸に張り付いていた白い布が見えた。学年と組と、『篠宮』というウチの苗字が書かれたゼッケン。それがウチに、ほんの少しの勇気を取り戻させてくれた。
 ……そうよ。ウチは篠宮凪沙。他の誰でもない。だから、ウチのしたいことはウチが決める。誰にもウチのことを好きにはさせないんだから……!
 誰かに頼るのは、もうやめた。だってウチは、自分でいる限り自分なんだから。
 名前を奪われ、色こそ違えど全く同じデザインの水着を着せられた皆とは違うんだ。
 ウチが今着ているのは、紺色一色で個性の無いスクール水着。でも、ウチの名前が刻まれた、世界で一つだけのウチの水着。動きやすくて恥ずかしくない程度のローレグで半乾きな布地が、今は堪らなく愛おしかった。
 スクール水着に励まされて、ウチは今度こそ皆を睨み返す。ハイグレ人間とやらになってしまった六人は一様に、駄々をこねる子供を見下すような目をしていた。
「……なあ大瀧、さっさと撃っちまおうぜ?」
「りょーかい、りっく! みんなもいーよね?」
 当然というように、四人はすぐ頷いた。それを確認して、碧羽はウチの足に触れるくらいの位置まで進み出る。
「じゃあ行くよ、なぎー!」
「……やれるもんなら、やってみなさい」
 ウチの言葉に、「え」と疑問や驚きの表情をするハイグレ人間たち。ウチは、心の中の不安を押し込めて続ける。
「ウチは、もしその銃に撃たれても、絶対にハイグレになんか負けたりしない。ウチはあんたたちの仲間になんか、ならないから」
「なるよ」
 即座に、夕日が言った。売り言葉に買い言葉で、ウチも返す。
「ならない」
「なる!」
「ならないっ!」
 夕日も皆も、ハイレグ水着姿になってからはまるで別人だ。でもウチはそうはならない。銃で撃たれたら同じ格好にはされるかもしれないけど、この心までは決して失ったりしないんだから。
 そして皆に、自分たちの方がおかしかったんだと認めさせる。ごめんなさいと言わせて、ウチが許してそれで全部終わり。明日からはまたいつも通りの皆に戻るんだ。
 だから、ウチは負けない。
 ウチに向けられた、銃の銃口らしき部分を真正面から見据え、身構える。両手は胸元のゼッケンに、重ねるように添えていた。
 次の瞬間、碧羽は大きく息を吸い込んで、
「――ハイグレ光線、発射! ビビビーッ!」
 引き金が引かれるのと同時に、ウチの体にピンク色の光がまとわりつく。
「ああああああああぁぁっ!」
 体中の皮膚の表面で、パチパチとピンポン球程度の大きさの小爆発が起きているような感じがした。爆発はスクール水着を巻き込んで、生地を穴だらけにしていく。その跡には謎の布があてがわれ、光の中でウチは水着を継ぎ接ぎにされていった。
 それでも、胸元の手だけは最後まで離さない。自分が自分である証を、少しでも長く抱いていたかったのだ。紺色の布が完全に別の色に変えられてしまっても、そこだけは抑え続ける。
「ううっ! ああああっ!」
 けど、耐え切れなかった。ウチは思わず立ち上がり、身体を大の字に仰け反らされてしまい、顕わになったゼッケンは爆発に食いつくされて消えた。それに合わせて、光も止んだ。
 さっきよりも身体を締め付ける感覚と、腰から脇腹にかけての開放感が増している。それもそうだ。見下ろせばウチは、紫一色のハイレグ水着姿に変えられてしまっていたのだから。
「く……っ」
 ウチのことを篠宮凪沙と証明してくれるものは、もうどこにも見当たらなかった。でも大丈夫、ウチの心はそれを忘れていない。ウチのハイレグ姿を見て満足している皆の勝ち誇った表情を、今にも崩してやろうじゃないの。
 そう思って、ウチは足の付根に手を添えて、
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 ハイグレのポーズを三度、素早く繰り返した。
「あ! なぎーがハイグレした!」
「これで凪沙ちゃんも、ハイグレ人間になっ――」
「そんなわけないじゃない!」
 ウチは、目を輝かせている碧羽やるるの言葉を遮った。ウチは決して、ハイグレ人間になったわけじゃない。勘違いはしてほしくない。
「ハイグレッ! ハイグレッ!」
 腰を少し落として、足をガニ股に開いて、腕を大きく動かす。その一連の動きに合わせて、「ハイグレ」と口に出す。
「……なら凪沙。今、何してるの?」
 怪訝そうに眉を顰めて、那穂が答えの分かりきった問いを投げかけてくる。ウチは呆れながら、こう断言した。
「見て分からないの? ハイグレよ! ――ハイグレッ! ハイグレッ!」
「なのに、ハイグレ人間じゃないの?」
 夕日の声にも、戸惑いが混じっている。
「そうよ。さっきから言ってるじゃない、ウチは絶対にハイグレ人間になんかならないって」
「……ダメだ、訳わかんねぇ」
 ウチはちゃんと説明しているのに、六人のハイグレ人間たちは未だに状況を理解してくれていないようだった。
 ……何なのよ。ウチの方がおかしいって言うの?
 おかしいことなんて全然ない。ウチは自分の考えていることが間違っていないという自信を持っている。その自信と、自分の姿に従ってウチは、
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 ハイグレポーズをしている、ただそれだけなんだから。
 すると、少し前から腕組みをして考え込んでいた須藤くんが口を開いた。
「篠宮、聞いていいか?」
「何よ? ハイグレッ!」
「お前は、自分のことをハイグレ人間じゃないと思っているんだな?」
「当然でしょ。ウチはあんたたちとは違うの」
「だが、今篠宮がしているのは、おれたちと同じハイグレポーズだ」
「そうね。ハイグレッ!」
「ハイグレ人間じゃないのに、ハイグレをしている理由。それを教えてくれ」
 ……もしかしてみんなは、それが分かってなかったの?
 なら、とウチは頭の中にある確かな理論を、みんなに分かってもらえるよう丁寧に話した。
「だって、ウチは今ハイグレ姿だもの。ハイグレ姿になったらハイグレをしなきゃいけないのは当たり前でしょ。……でも、ハイグレ姿でハイグレをしてたって、ウチは心までハイグレ人間になったわけじゃないから。ハイグレポーズをしてるのは、ハイグレを着た人間の義務だからよ。ハイグレッ!」
 光線を浴びてハイグレを着せられた瞬間から、ウチの中には『ハイグレをしなさい』という使命感が芽生えていた。ルールは守らなきゃいけないもの。ルールに逆らうことは、ウチの性格上絶対にできない。だけど、『ハイグレ人間になれ』なんてルールは聞かされていない。その命令がない限りは、ウチはハイグレ人間になるつもりは決してない。例えハイグレポーズをするたびに体中がジンジンと火照って、気持ちよくなっていても。
 言い切ると、六人は息を呑んだ。ウチの言葉を理解はしてくれたらしい。けれど、いまだに信じられない――あるいは、憐れむような表情でこちらを見ていた。
「凪沙、かわいそう……」
 夕日、どうしてそんな顔をするの? ウチの何が可哀想なのよ。そう思うと、何故か無性に腹が立ってきてしまう。
「ねえ那穂ちゃん、何とかしてあげられないのかな?」
「……もしかしたら、光線の調子が悪かったのかもしれない」
「そーだ! じゃあ、もう一回ビビーってしてみようよ!」
 るるも那穂も碧羽も、どうしてウチのことをそんなにハイグレ人間にしたいのよ。ウチは何度あの光を浴びせられても、あんたたちの仲間になんかならないって言ってるのに。
 こんな、頭のおかしなハイグレ人間の仲間になんか。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 こんな格好でこんなポーズを、自分から好き好んでする奴らの仲間になんか。
 無駄な相談を終えたハイグレ人間たちは、銃を持った那穂をウチの前に立たせた。普段からウチも一目置いている那穂だけど、今のハイレグ水着姿では威圧感も何も感じられない。
「凪沙。そういうわけだから、もう一度撃つよ」
「勝手にしなさい。ハイグレッ!」
 最初に撃たれたときに感じた。ウチは何度撃たれても心をねじ曲げられはしない、って。
 那穂の銃から一直線に向かってきたピンク色の光に、ウチはまた身体を広げて悲鳴を上げてしまう。
「あ、ああああああっ!」
 だけど、実際に二度目を浴びて自信は確信に変わった。ハイレグ水着にもウチの心にも、何の変化も起きなかったからだ。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ……ほら、やっぱり効かないでしょ?」
 水着を着ているからハイグレポーズはする。でも、ハイグレ人間じゃない。それが今の篠宮凪沙。
 ウチの勝ち誇った表情に、六人は再び仰天する。しかし今度はそれだけでは収まらず、
「う……うぅ……っ」
 突如として嗚咽の声が聞こえて、ウチは慌ててその方向を見る。ピンク色のハイグレ姿の夕日が、ボロボロと涙を零していたのだった。
「何でぇ……? ひどいよぅ凪沙ぁ……!」
「あー! なぎー、ゆーひん泣かしたー!」
「え、ウ、ウチのせい!?」
 五人は間髪容れず頷く。ウチはいつの間にか、夕日を泣かした悪者になってしまったらしい。友達を泣かせる奴はみんな悪者で、どんな理由があっても非難されるべき。ウチは昔からそれが正しいと思ってきたから、いざ自分がその立場になるとどうしたらいいか全くわからなくなってしまった。
「ど、どうしたの夕日、そんな、なにも泣かなくたって……」
 ウチは悪くない。そう思おうとしても、目の前で泣かれるとやっぱりウチのせいだと感じてしまって腰が引ける。
 涙を腕で拭いながら、少しずつ夕日は語った。
「……ねえ、凪沙……何で、うっ、分かってくれないの……?」
「え……?」
「凪沙もハイグレ人間になろうよ……ねぇ、なってよぉ……!」
 喉の奥から絞りだすような声。とても嘘や冗談だとは思えない、グチャグチャの顔。
 そういえばさっき夕日は、『ハイグレを否定されるのは嫌』って言ってたっけ。
 どうして夕日たちがそんなにハイグレにこだわるのか、ウチには分からない。分からないけど……分からないことが申し訳ないような気分になってきて、
「……ごめんなさい」
 自然と謝罪が口をついて出た。
 するともう、自分の中でも悪者なのは自分の方なんだ、とポジションが決まってしまう。どうしたら夕日に許してもらえるか、という方向に思考がシフトしていく。
 そんな中、更にウチを追い詰める言葉が畳み掛けてくる。
「ゆーひん泣かすなぎーなんて、もうあおたちの友達じゃないよっ!」
 頬を膨らませてそっぽを向く碧羽。さっきからそう言ってるじゃない、とは思うのに、心がズキリと痛んだ。
「凪沙ちゃん、今なら間に合うよ。ね?」
 るるは仲裁をするように、優しく言う。何が『間に合う』なのよ……。
「本当、篠宮は頑固だよなぁ。それがどんだけ迷惑か、分かってんのか?」
 相変わらず軽い調子だけど、一条くんの言葉には刺があった。
「ハイグレ着てて、ハイグレしてて、ハイグレ人間じゃないとか、そんなのあり得ないから」
 冷たく言い放つ那穂。あり得ない? あり得なくなんて……ない。
「よく考え直せ、篠宮。お前は間違ってる」
 真剣な表情で、須藤くん。ウチが間違ってるなんて、そんなはずは……。
「う、ウチは……」
 ほぼ全員から責められ、ウチは完全に孤立してしまっていた。やっぱり、悪いのはウチなんだ。だから誰も味方してくれないんだ。
 皆が言ってた。ウチは、自分がハイグレ人間だと認めてないから、おかしいんだって。
 ずっと自分だけが正しくて、周りがおかしいんだと思ってた。でもそれは、逆だったんだ。
 ハイグレを着ているのにハイグレ人間と認めないのは変なことで、異常で、異端で、だから悪なんだ。皆と違うから、悪なんだ。
 ……そんなの嫌。ウチは、おかしいなんて言われたくない。悪じゃない、正しい方にいたい。皆と、一緒がいい。
 ならどうすればいいか――答えは決まってる。ウチは直立状態から腰を深めに落とした体勢になって、
「ハ……」
 しようとして、躊躇った。さっきまで『ハイグレ人間になったわけじゃない』と否定しながらも平然とできた、ハイグレポーズを。
 理由は心が理解している。次にするハイグレできっとウチは、生まれ変わってしまうから。
 ついさっき、自分で『ハイグレ人間になんてならない』と宣言してしまった。次にハイグレをすることはつまり、自分への裏切りになってしまう。信念を曲げることになってしまう。
 ……それでも……!
 ウチは腕と喉に力を込めた。そして夕日に、皆に見せつけるように、
「――ハイグレッ!」
 ……悪でいるよりいい。皆の仲間になったほうが、ずっといい!
 勢い良く両腕でV字を描き、背中を大きく反らす。全身でハイグレポーズをすると、ウチを包む紫色の生地が心地よく肌を撫でた。まるで『よくやった』と優しく撫でられているみたいな安心感が、ブワッと湧き上がってきた。
「ん、あはぁ……っ!」
 これが、本当のハイグレだったんだ。自分に嘘をついていたときとは全然違う感覚。もう、我慢なんてしなくていいんだ。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 心が踊るのと同時にじわじわと、罪悪感が巻き起こる。当然、皆に対する、だ。
 いきなり晴れやかな顔でハイグレを再開したウチに驚いている六人に向かって、ウチはもう一度心から謝った。
「ごめんなさい、皆。皆に言われてやっと分かった。ウチは、ハイグレ人間。とっくにハイグレ人間の、篠宮凪沙だったんだって。……意地を張って困らせてしまって、本当にごめんなさいっ」
 頭を下げた。これで許してもらえるとは到底思っていない。特に夕日なんて、ウチが泣かせてしまったんだから。でも、虫が良すぎるとは思うけれど、もしもウチを仲間として受け入れてくれたのなら。
 しばらくの沈黙の後、夕日がぺたぺたと近づいてきて、息を吸った。そして。
「……凪沙も、分かってくれたんだよね?」
「うん……」
「なら、いいよ」
 え、と弾かれたように視線を上げると、まだ少し目の赤い夕日が微笑んでいた。
「本当に、いいの?」
「あ。やっぱりダメ」
 言うやいなや、夕日の笑いはいたずらっ子のような色に移り変わる。
「――みんなでハイグレしよう? そしたら、いいよ」
「そ、そういうことね。ビックリした……」
 ほっと胸を撫で下ろす。許さないと言われることを覚悟していたとはいえ、一瞬本当にドキッとした。
 周りの皆もそれぞれ、笑ってウチらの会話を聞いていた。皆も同じ気持ちだってことみたいだ。
 そしてプールサイドに七人で円を作って、互いの顔と姿を見回した。ここにはハイレグの水着を着たハイグレ人間が七人いる。ハイグレの色は違っても、心は同じだった。
 ……皆、ありがとう。
 そう心の中で感謝した数秒後、ウチは皆の仲間になった。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
「はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ!」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
「はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」

   *続く*




~プールサイドの様子~
小学校_a凪沙まで_水着
ショタなんて要らん派の方向け
背景素材・きまぐれアフター背景素材置場様
人物素材・キャラクターなんとか機様/キャラクターなんとか機 追加パーツ保管庫様/Cha.Pa.様
 また、ハイグレはハイグレスレ用4のキャラクターなんとか機用ハイグレ.zipを元に改変させていただきました


【6/22】
次回の凪沙編で、『その3』は終わりとなります
最終章となる『その4』にすぐ取り掛かるは決めていませんが……他のアイデアを書きたい欲を抑えられるかどうか。ぐぬぬ……
とにかく今は凪沙編に専念して参りますです
ではではー

【7/10】
間隔が空いてしまいましたが、何とかこれで『小学生~その3』は完結となります

恐らく前にも書いたと思うのですが、『小学生~』ではキャラの個性化・個別化を図ることを目標にしてきました
少なくともこれまでに書いた別のハイグレ小説よりは、それは達成出来ているかなという手応えを感じられています
(主にnotハイグレパートで)キャラ同士の掛け合いがポンと浮かんだときなどは、「これがキャラが勝手に動くってやつか!」と感動さえ覚えます
そういう意味では個人的に、那穂と陸斗と碧羽がお気に入りです。ただ、碧羽は書くのがものすごく疲れますが

ここ最近、本家の頃から活動されているハイグレ小説書きさん方の話題をよく見ます
今の自分があるのは、間違いなくそういった方々のお陰です。あれだけ多くの、そして素晴らしい作品があったからこそ、自分も書きたいと思うようになったのですから
今やそんな方々と同じように小説を書いて、皆様に読んでもらえていると思うだけで、ドキがムネムネして仕方ありません
……ものし氏のあの文体や題材選びで、どうして気付けなかったんだろう。いや、何となくは感じてたんだけど……ぐぬぬ、悔しい……
そうした精神的なことだけでなく、もちろん技術的なことにおいてもです
「少しのことにも先達はあらまほしきことなり」とは兼好法師の談ですが、ハイグレ小説の表現に於いても、過去の作品に影響を受けることが多々あります。ハイグレ小説のセオリーや、洗脳描写の仕方やパターンなどを先達が確立させてくれたからこそ、自分のような後発者はそれを踏襲したり、あえて破ったりということが出来るのです
もうホントに、感謝感激ちょーリスペクトって感じです
踏襲の例で言えば、今回の凪沙の「ハイレグを着てるからハイグレはする、でもハイグレ人間とは認めない」というのは(ハイグレ小説ではありませんが)某エールさんの某SSから拝借したアイデアだったりします。この場で感謝の意をば

そんな大先輩も大先輩、0106氏が先日個人ブログを開設なさいました!

ハイグレ小説書かなきゃ(使命感

再び氏の小説の続きや新作が読めるとなったら、もう嬉しいのなんのって。ちなみに自分は『To LOVEる ~舞い降りた魔王~』が大好きで何十度もお世話になりました
……で、この更新に合わせて、またしても勝手に→にリンクを追加してしまいました(また、同時に氏のブログへも趣旨を同じくしたコメントを送信させて頂いています)
もしもまだ読んだことのない方がいれば、元作品を知らなくても是非とも読んでみてください。物語の展開の仕方や読みやすい文章、そして描かれる女の子の可愛さは未だに参考にしたいと思うほどです
但し、このブログ自体はnotR18ではありますが、リンク先については必ずしもその限りではありませんので悪しからず。まあ、あまり意味のない警告だとは思いますけどね、念の為(とリンク先様に気を遣わせたくないので)です


さて、そんな風に書いてきたのだから「先輩方に負けないようこれからも頑張ります!」とでも記事を締めれば綺麗なのですが、後味を悪くさせてしまうことを先に申し訳ないと述べさせていただきます
約一か月『小学生~』を久々に書いていて、楽しかったのは間違いありません。しかしどうにも自分の文章に納得がいかずにいました。どれだけ頭を絞っても、出てくるのは首を捻ってしまうような文章ばかりでした
乱暴に言うと「オレの書きたいのはこんなんじゃねぇっ!(ガシャーン」って感じです。もちろんこれはあくまでも不出来な文章に対してであって、『小学生~』を書きたくないというわけではありません
ですがとにかく今のままでは、書き続けていられなくなってしまうかも、と感じました
そこで度々毎度毎度申し訳ありませんが、しばらくの間キーボードの前から離れさせて頂きます。今のところ、[2~3週間+次回作執筆期間]くらいを考えています
そしてその間、ストイックな生活(要するに○○禁)をしてもう一度自発的にハイグレ小説を書きたいと思えるようにしておきます。前にも書きましたけど恥ずかしながら自分には、創作意欲を高めるにはこれが一番効きますから

ではまた、次の更新で必ずお会いしたく思います

P.S. 執筆中に地震とかやめてホスィ
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

読ませていただきました。
小さな男の子と女の子がいろんなシチュエーションでハイグレ姿になっていくのは良いですね。小さな子特有の仲間意識というか、気づくとちゃんとハイグレ人間になっているのが凄く良かったです。
ありがとうございます。
続き楽しみにしていますね。
プロフィール

香取犬

Author:香取犬
ハイグレの洗脳を受けて早幾年
遂に自らハイグレ小説を書くようになってしまいました
いつでもネタ募集中です
酉◆RYenwqtp9Y

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