【リク】ハイグレ人間に憧れた少年の姉 スイミングスクール編・前編

ハイグレ人間に憧れた少年の姉 スイミングスクール編・前編
Requested by 読者様方

出会い編      

目次
まえがき(別記事へ)

初日と出会い~小6の春
初日と出会い~小6の春*更新部分から読むにはこちらから
回顧~小6の春から秋
魔王とハイグレ~中3の冬
デビューと勝負~中3の冬
水着と仲間~中3の冬
人物紹介(重大というほどのネタバレはないので先読み可)

あとがき(別記事へ)

 




「な、なんとかなった……」
 6年生の登校初日は、みんなとは別の意味でのドキドキを味わうことになった。
 昨日の夜、競泳水着を着ながら眠ったお陰でいい夢を見れたのはいいものの、寝坊しかけて水着を下着代わりにしたまま服に着替えちゃって、あたしはそのまま登校。少しでも早く着替えるために選んだのがワンピースだったから、もしもスカートがめくれたら水着がバレるってこと。いつも以上にお尻に気を遣って歩くと、余計に自分がイケないことをしてる気分になって、そのハラハラが逆に心地よくなってくる。
「今日から2年生だから、おにーさんになるんだよ」と笑顔のアキと二人で通学路を歩いて行く。学校に着くとアキと別れ、今度は春休み振りに会う友達とクラス分けの発表に一喜一憂。次に教室に行って、小学校最後の一年を一緒に過ごす新しいクラスメートと担任の先生と顔合わせ。そして体育館で始業式……なんだけど、床に体育座りをしたらすごくひんやりとした。水着が薄くて、木の冷たさが直接お尻に伝わってるみたいで、いつも通り長い校長先生の話が更に憎く思えた。
 ともかく、それで試練の一日の前半は終わった。家に帰るなりあたしは部屋に駆け込んで、水着を脱ぎ捨てる。夜から丸半日ずっと着てたせいで、肩やお尻をはじめ水着の境界線全部に赤く締め付けの痕が残っていた。全裸になったのに、その線があたしに水着の感覚を刻み込んでいるみたいだった。
 そのままぼんやりしていると扉の向こうから、帰ってきたばかりのアキが呼びかけてきた。
「ねーちゃんお腹減った! お昼食べよー?」
「ちょ、ちょっと待ってて!」
 今日は給食が出ないから、母さんに二人分のお昼ご飯を作り置きしてもらっている。それを温めるため、あたしは急いで下着と部屋着を着て部屋を出た。
 ……だけど、身体がフワフワしてどうにも落ち着かなかった。
 そして、午後は遂に初スイミングスクール。正直言っちゃえば、元はハイレグ水着が欲しいがために言い出したこと。水着を手に入れた今、スイミングそのものにそれほど興味があるわけじゃない。それでもまあ、絶対に嫌ってわけでもないし、今さら「やっぱやめた」なんて言えないから行くけどさ。
「じゃあアキ、行ってくるよ。留守番よろしくね?」
「うん分かった! いってらっしゃーい!」
 ともすれば「さっさと行っちゃえ」という心の声が聞こえてきそうなほどの満面の笑みでの見送り。き、気のせいだよね? アキに限ってそんなことは無いはず、うん。
 水着やタオルを入れた鞄を自転車のカゴに入れ、自転車を漕ぐこと十数分。見えてきた白い建物が、スイミングスクールだ。自転車置場には他にも数台が止まっていて、あたしの後からも同世代の子がやって来ている。その中の一人があたしをちらりと見て、
「ねぇ、もしかして今日から入る子?」
「あ、うん。そうだけど」
 そう返すと、中性的な顔立ちと声をしたその子は怪訝そうな表情を緩めて、笑顔を見せた。
「そっか。私はミズキ、6年生。あなたは?」
「ハル。あたしも6年生だよ」
「本当? ここ、同級生いなかったから嬉しいよ。よろしくね」
「こちらこそよろしく、ミズキ」
 ミズキは鞄を背負うと、「来て」と手招いてくれた。その瞬間、あたしの頭のなかに何か引っかかるものがあった。
 建物正面の階段を上りながら、あたしは尋ねる。
「いきなり変なこと聞くけど……前に会ったこと、ない?」
 振り向いたミズキは、想定外の質問に心底驚いた表情をしていた。
「え? いや、記憶にはないよ。私、北小だし」
 南小のあたしが他校の子と会うこともないし、気のせいだったかな。
「ごめん、勘違いだったかも」
「別にいいよ。でも、これからは仲良くしようね、ハル」
 あたしは素直に頷いた。初日から友だちが出来るなんて、幸先がいい。
 ……でもこの後姿、どこかで……。
 煮え切らない思いに悶々としていると、いつの間にかあたしたちはエントランスに入っていて、ミズキはベンチに座っていた体格の良い男の人と何やら話をしていた。その人は立ち上がると、ズンズンあたしの方に歩いてくる。
「君が、ハルちゃん?」
「は、はいっ」
 身長は180センチくらいかな? 半袖半ズボンから覗く手足も筋肉ががっしり付いている。その雰囲気に圧倒されて、あたしは首をすぼめて返事をした。
 すると男の人はあたしの頭に手を置き、「はっはっは!」と笑った。
「俺が君たちのコーチをする、ケイタだ。よろしくな!」
「コーチ、ハルが怯えてますよ?」
「ん? おお、スマンな」
 ミズキの助け舟のおかげで、その大きな手がどけられる。手そのものが怖かったわけじゃないけど、圧迫感が無くなっていくらか心が落ち着いた。
「全く、コーチはいつもいつも新入生にそうやって。だから嫌われるんですよ?」
「人聞きの悪いことを言うなよミズキちゃん。誰が誰に嫌われるって?」
「少なくとも私は嫌いですけど」
「知り合って6年目初っ端から教え子にそんなこと言われると流石に凹むぜ……」
 ケイタコーチは大げさに肩を落とす。あたしとそう背丈の変わらないミズキと、同じくらいまで背が縮んだようにさえ見えた。
 だけど次の瞬間には元気を取り戻して、
「それにこれは俺なりの挨拶だ。やめろっつわれてもやめねぇよ」
 と笑い、ミズキに呆れられるのだった。その様子を眺めていたあたしも可笑しくなって、つられて笑ってしまう。
 それからコーチが私の方を向き、こう言った。
「ハルちゃん。悪いんだが入会初日はプールには入らないで、見学だけしてもらうようになる。ここの建物がどうなってるかとか、練習はどんな感じか、とかな。実はハルちゃんの他にも2人、男の子が入会してくるんだ。練習の最後に皆に紹介しよう。――改めて、これからよろしく!」
「はい! よろしくお願いします!」

 その後あたしは、入会前の見学のときと同じ、ブールをガラス越しに見下ろすギャラリー席に通された。プールサイドには、あの競泳水着に揃って身を包んだ女の子たちが5人集まっていた。長い髪を白のスイミングキャップの中にしまっているミズキが一番年上て、あとは低学年の子が1人と中学年くらいの子が3人、かな。どうやら、少なくとも今日は中学生以上の子はいないみたいだった。
 続いて高学年くらいの男の子が2人来て、女子たちに文句を言われる。声は聞こえないけど多分、「遅いよ!」だと思う。男子の水着は黒にラインの入ったビキニパンツ。パツパツに張っているみたいだから、当然あそこの膨らみも分かってしまう。……アキや父さんのものなら今更どうとも思わないけど、それ以外の人だとやっぱり抵抗がある。まあ、ハイグレに包まれたひろしや園長先生とかのだと、逆の意味でゾクッとくるけど。
 そして全部で7人の生徒たちにケイタコーチを加えた8人が輪になって、体操を始める。「いち、にー、さん、し!」と声が揃って、ガラスを僅かに通り抜けてきた。ストレッチは身体だけでなく心の準備だとも言うけれど、見ているだけのあたしも少しワクワクしてきた。確かに動機は不純だったかもしれないけど、今は純粋に水泳を楽しんでみたいという気持ちも少しは芽生えているから。
 と、そこに。
「うわ、すっげ!」
 階段を上る足音と、小さな男の子の驚きの声がやって来た。あたしが振り向くまでもなく、想像通りの年頃の男の子はあたしの方に駆け寄ってきて、ガラスにべったり張り付いた。やがて大きく息を吸い込んだかと思うと、
「――タークミーっ! シンタロぉーっ!」
 至近距離で男の子特有の響く叫びが爆発した。慌てて耳を塞いだものの、脳を揺すられたような衝撃をあえなく受けてクラクラしてしまう。
「聞こえてないのかなぁ」
 プールを見ながら残念そうに首を捻る男の子。あの、あたしにはイヤという程聞こえたんだけど……。
 まだ残響が残る耳に、さらに別の男子の声が聞こえて、男の子をたしなめた。
「ヤマト、大人しく座ってな」
「でもマサヤぁ、オレプール行きたいー」
「今日は見学だけで、泳ぐのはダメなんだってコーチが言ってただろ」
「でもー!」
 ヤマトと呼ばれた男の子は不満気に振り返って、そのときようやくあたしの存在に気がついた。
「……誰?」
 すると落ち着いた声の主であるマサヤも前にやって来て、申し訳なさげに癖っ毛の頭を掻いた。
「やっぱもう一人の人がいたか。いきなり叫ばれてビックリしたろ? 俺もビックリしたけど」
「う、うん」マサヤの言葉に頷くあたし。続けて言う。「もう一人ってことは……二人が今日ここに入会する人?」
「そう。俺は6年生のマサヤ、こっちの小さいのがヤマト」
「あたしはハル。あたしも六年……って、あれ?」
 自己紹介の際にマサヤの顔を改めて見たとき、また既視感を感じた。でも、ミズキのように曖昧な記憶じゃなく、それこそついさっき見たような。
「「――あ」」
 あたしたちは同時に気付いた。あたしたちが6年1組のクラスメートで、しかも隣の席の相手だったということに。マサヤは、今年から南小に転入してきた男子だった。
「マサヤもここに入るんだ?」
「今の家から一番近いとこだからな。俺、前のとこでもスイミングやってたから。……ハルは経験者?」
「恥ずかしながら、素人です」
「へぇ、珍しいな」
 やっぱり6年生からじゃ珍しいんだ。他の人にも、怪しまれたり変に思われたりしないかな?
 この話題を続けていくと次には動機を聞かれそうだったから、あたしは無理やり話を逸らすことにした。
「そ、そうだ。ヤマトくんは、マサヤの弟?」
 するとマサヤは一度、背後でつまらなそうに椅子に座っているヤマトくんを見やってから、首を振った。
「違う違う。さっき受付でコーチと話をしてたら、こいつを連れてきた親に押し付けられてさ。なんかすぐに懐かれちゃったから、無視もできないだろ?」
「そっか。優しいんだね」
「優しいっつーか、小さい妹いるから慣れてるんだよ。チビは放っておいたら何するか分からねぇ」
「確かに。あたしも小2の弟がいるから分かるよ。ねぇ、妹さんいくつ?」
「まだ1歳。動き出すようになってから目が離せなくて」
 そこからはマサヤと兄姉トーク。ほとんど初対面だったのにすごく話が合って、見学時間をそれに費やしてしまった。途中、ヤマトくんがあまりの退屈さに寝てしまってからは声を潜めて、だけど面倒を見なくて済むと安心しながら、話を続けた。
 すると一時間なんてあっという間に過ぎてしまい、そのことを告げるためにTシャツを着ただけのコーチがやって来た。
「これで今日の練習は終わりだ。君たちを皆に紹介するから、下に来いよ」
「はいっ」
「ほらヤマト起きろ。行くぞ」
「……うぅ?」
 寝ぼけたヤマトくんの手を引っ張り、マサヤはコーチの後についていく。あたしもそれに従って、プールサイドに入っていった。
 扉を潜った瞬間に鼻に充満する、強い塩素の香り。建物の中はどこも微かにその匂いがしていたけれど、やっぱりここは段違いだ。慣れるまではクラクラするかもしれない。
 一日の練習を終えて濡れた身体をタオルで拭いている7人の前に、あたしとマサヤとヤマトくんが並ぶ。ミズキを除けば全員初顔合わせになる。
「いいか皆。この3人が、これから皆と一緒に授業を受ける友達だ。仲良くするんだぞ? ――じゃ、軽く自己紹介を頼むよ」
 コーチの振り、そして拍手があってから、マサヤとあたしが順に名乗る。あたしが学校以外での水泳経験はないと正直に言うと一瞬驚かれたものの、すぐに「大丈夫」「心配ないよ」というフォローをくれた。ほとんどが年下の子だろうに、初対面のあたしにもそう言ってくれる、優しい子たちばかりだった。
 ヤマトくんはまだ半分眠っていたので、また代わりにマサヤが紹介した。そのついでに知ったけど、どうやら向こうの男子2人もマサヤと共に先ほど、ヤマトママに声を掛けられていたらしい。困った表情をしていたけれど、迷惑というのではなく単に心配そうだといった顔だ。
 それから、自己紹介はあちらの番に移る。正直、全員をすぐに覚えられる自信はないけど、まあ一週間ぐらい一緒にいれば大丈夫かな。
 まずは男子の、スポーツ刈りで身体の大きな子と物静かそうで華奢な子が口を開いた。
「オレは5年生のタクミ。よろしく」
「僕はシンタロウです。タクミと同じ5年生」
 その言葉はほとんどあたしに向けられていた。そっか、マサヤとはもう話をしてるからか。
 続いて女子。ミズキが初めに、マサヤとヤマトくんに名乗る。
「北小6年のミズキです。よろしくね」
 ミズキの声が終わらない内に食い気味に、元気そうな女の子が飛び出した。
「――んで、ウチがアズサ! 4年生! こっちはマナミ!」
「ちょ!? どうして勝手に言っちゃうのアズサぁ!」
 次は自分の番と意気込んでいた隣のマナミちゃんは、にししと笑うアズサちゃんにブーイングした。仲よさげな2人の様子に、あたしは思わず笑ってしまう。
 これで残りは女の子2人だけど……どうしよう、何だかすごく名前を聞きづらい。小さい方の子は大きい方の子にべったりとしがみつきながら、時々こちらをチラリと見ては直ぐに怯えたように顔を隠してしまう。そして大きい方の子は雛を守る親鳥のように鋭い目をしていて、まるであたしたち新参者を追い払おうとしているかのよう。
 仕方がないので意を決して尋ねようとした瞬間、代わりにタクミくんが教えてくれた。
「こいつはオレの同級生のジュン。んで、こっちが2年生で妹のレイだ。見ての通り2人とも人見知りで――」
「別に……そういう訳じゃないけど」
「だったら挨拶くらいすればいいだろ?」
 一度は反論したもののもう一度は無かったジュンちゃんは、小さい会釈をしてくれた。それを見てレイちゃんも頷くようにコクンと頭を下げた。
 知らない人、ましてや上級生相手なら萎縮しちゃう気持ちは分かるから、あたしは不快だとは全く思わない。きっとこれから仲良くなっていけば、どっちも心を開いてくれるだろうし。
 ……一旦整理。大きい方から順に、ミズキ、タクミくんとシンタロウくんとジュンちゃん、アズサちゃんとマナミちゃん、そしてレイちゃん。あたしと一緒に入会するのが、マサヤとヤマトくん。あたしも含めると小学生コースは全部で10人ってことだ。
 そこにケイタコーチの手拍子が鳴らされて、皆の視線が集まる。
「じゃあこれで今日はおしまいだ! ――ハルちゃん、タクミ、ヤマト。今日は小学生コースの子しかいねぇけど、木金曜は中学生とも、土曜日には小中高合同で練習すっから、そっちの子達とも顔合わせをしような。年が近いアンズなら仲良くしてくれるんじゃねぇか? まあそれは次回のお楽しみってことで。とにかく3人とも、これからよろしくなっ!」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
 あたしとマサヤの声が重なった。それから他の皆も口々に「よろしくお願いします」と改めて挨拶をしてくれた。
「よぉし! タクミ、号令!」
 コーチに促され、タクミくんが頷く。
「気をつけ! ――礼っ!」
「「「ありがとうございました!」」」

   *

 こうしてあたしの、スイミングスクールに通う生活が始まった。
 一週間の半分以上、あたしはハイレグの競泳水着を着てプールを泳いだ。学校の体育くらいでしかまともに運動をしていなかったあたしにとってそのスケジュールは、疲れの抜ける暇さえない過密で過酷なものだった。いつもクタクタになって家に帰って家族に心配される、その繰り返し。
 正直、何度辞めようと思ったか分からない。最初の一ヶ月の間は、ほぼ毎日思ってたはずだ。いくら合法的にハイレグが着れるからって、ただそのためだけに水泳に時間と体力を捧げるなんて、覚悟が全然足らなかったと思う。
 でも、あたしは諦めなかった。ハイグレのため、ってのが一番の理由なのは揺るがない。だけど第二に――水泳が、とっても楽しかったから。
 コーチに教わって、皆を見習って、たくさん泳げば速くなれる。そうやって自信を付けて、仲間と競い、敵と競い、自分と競う。そして勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。そしたらまた速くなりたいと思う。だから楽しい。だから頑張れる。
 多分ターニングポイントは、春と夏の記録会だったように思う。初めての記録会であたしは、4年生のアズサちゃんたちにすら歯が立たなかった。経験の差が有るのは当然……だけどすごく悔しかった。次こそはリベンジするんだ、という強い思いがあたしの足を否応なくプールに向かわせた。コーチにもその思いが伝わったのか、それまで以上に厳しい特訓をしてくれて、3ヶ月後には自分でもびっくりするほど泳ぎが上達していた。ほんのコンマ数秒だったけど、夏の記録会ではアズサちゃんに勝つことが出来た。そのときの嬉しい気持ちは、きっとずっと忘れないだろう。
 『忘れられない』と言えば、そのまた3ヶ月後の秋の記録会の日のこともそうだ。スイミングスクールから家に帰ったら、アキがあの映画を観ながらハイグレポーズをとっていたのだった。まさかあり得ないだろうけど、アキまでもがあたしのようにハイグレに憧れているのだとしたら……。その僅かな希望を確かめるため、あたしは水着を餌にした罠を張ることにした。でも、今のところアキが引っかかる様子はない。
 衆人環視の中でちょっとだけハイグレポーズをしちゃったのは、その少し後の初大会でのこと。成績は予選のボーダーには遠く及ばなかったものの、全力を尽くすことができたから自分の中では納得がいっている。それにこの悔しさも、水泳を続ける原動力になっているのだから。ちなみにミズキはと言えば2種目で決勝まで残り、その片方で見事優勝の栄光を得た。いつかはあたしも、あんな風になれるだろうか。
 
 みんなと水泳に明け暮れる日々と、孤独にハイグレに勤しむ日々を繰り返して。
 再びあたしの人生が動き出したのは、中学3年生の冬の、とある寒い夜だった。

   *
 
 今日も今日とてタンスから競泳水着を取り出すあたし。でも、スイミングに行くためじゃない。パジャマの下に着込むためだ。
 競泳水着というものは消耗品だ。いくら高価で高性能なものでも、使い古せば十分なパフォーマンスを発揮できなくなる。水泳を始めてそろそろ4年。その間に買い替えた水着は、全部集めると意外とかさばる。あたしはそれらを捨てずに普段着のアンダー用として、こうしてタンスの一角にハンガーに吊るして保管しているのだった。ちなみに同じ並びに小中学校のスクール水着もある。これらは自分用であるのと同時に、アキを釣るための餌でもある。まあ今の今まで全く掛かる気配はないが。
 生地が痛んで伸縮性が十分じゃなくなった水着は水泳用にこそ使えないけれど、長時間着るのには負担が少なくて適している。お古は、まさにあたしの長年のハイグレライフのお供なのだ。
 あたしはもはや完全に慣れた手つきで水着に身を包んでいく。それでも、人間の姿からハイグレ人間の姿に生まれ変わるこの瞬間は、何度経験しても全く飽きることはなかった。
「ぁ……っ!」
 水着がしっとりと身体に馴染んでいく。鏡に映るあたしの身体は、この約4年間でだいぶ女性らしいバランスに変わっていた。……確かにまだ足りない部分もあるかもしれないけど、それはまだこれからのはず。
 とにかく、昔に比べてハイレグ水着が似合うようになったのは間違いない。これならいつハイグレ人間にされても、自信を持ってハイグレができる。
 そしてあれから一日も欠かしたことのないハイグレポーズを、動きは精一杯大きく、声は部屋の外に漏れない程度でし始める。
「……ハイグレっ、ハイグレっ、ハイグレっ……」
 水着の線のV字をなぞるように、勢い良く両腕を上下させる。脚は当然平泳ぎで鍛えたガニ股の体勢だ。あたしの目の前の少女は、いかにもはしたないポーズを頬を緩めながらとり続けていた。
 こんなあたしが普通じゃないことくらい、ずっと前から自覚してる。だからこの趣味は家族にも誰にもバレてはいけない、バレたらもう一生顔を合わせられない赤っ恥だ、ってことも分かってる。
 だけどずっと思ってるんだ。あたしも家族も友達もみんなみんなハイグレ人間になれたらいいな、って。
 この願いが叶うことは絶対にない。なぜならあたしのハイグレへの想いが世界の常識として上書きされることは決してなく、みんなにハイグレを布教したところで変態扱いされるのがオチだからだ。万に一つハイグレを受け入れてくれる人がいたとしても、そんな危ない橋を渡ることはあたしにはできない。
 まあ、「どうにかすれば最終的に誰でも100%ハイグレ人間になる方法がある」とすれば、あたしはどんなに長く苦しい道のりでも進むだろうけど。でもそんなの、ハイグレ光線銃がポンと手渡されるか、「ベントラーベントラー」と叫んで魔王さまを呼び寄せるかくらいしかない。要するに現実にはあり得ないのだ。
 それでもあたしを信じさせたければ、誰かあたしに魔王さまの存在を証明してみせてよ。
 ……ね、無理でしょ? そういうことなの。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ……ハイ、グレ……」
 あたしは日陰者。あたしは世界に一人きり。あたしはたった一人の、ハイグレ人間に憧れる人間。
 そう思ってしまうと途端に、悲しさや虚しさが心の中に満ちてきた。ハイグレポーズをとっていた腕が少しずつ重くなって、最後にはだらんと下がってしまう。
 トリップしていた気分はどこへやら、あたしは競泳水着姿で一人、部屋で立ち尽くした。
 ……仲間が欲しい。だけど……。
 それは叶わぬ夢。
 ……魔王さま……助けて……!
 それも届かぬ声。
 これまで自分に何度も何度も言い聞かせてきた。でも諦めきれない。無理やり欲望を押し込める度に、心が軋む。
 ――いけない。これ以上考えてたら、本当に心が壊れてしまう。
「もう、寝よう……」
 こんなときは全てを忘れて眠っちゃおう。そうしたら明日にはいつもどおりに戻れるから。
 重い気分と疲れによる眠気のせいで視界が、黒いフィルターが掛かっているかのように暗く、もはや自分が立っているのか座っているのか、起きているのか眠っているのかの境界すらも曖昧に溶けていく。
 部屋の灯りは消したのか、パジャマは着たのか、ベッドに潜れたのか。そんなことを確認する暇もなく、あたしはただなるがままに身を委ねていった――。

 ――ホホホ……ろそろ……頃合い……♪

 太いのにやたら色っぽい声が響いたと思うと、直後にパチンと指の鳴る音がして、それであたしの意識は覚醒した。
「ここは……?」
 周囲は、目をつぶっているよりも暗い真っ暗闇。それでも目を開いていると分かるのは、見下ろすと自分の競泳水着姿の身体がくっきりと見て取れるからだ。
 地面や床といった概念もそこにあるのか分からないものの、あたしは確かにそこに立っている。ただ、一歩先に踏み出す勇気はなかったけれど。
 夢にしてもやけにリアルなのだ。自分だけが見える闇の世界だというのに、そこには何があっても信じられるという、奇妙な説得感があった。
 無言のまましばらく立っていると、あたしだけの世界にもう一つの影が現れた。
『初めましてネぇ、ハル♪ 今更そう言うのもちょっと不思議な感じがするんだケド、アナタにとっては紛れもなく、アタシと会うのは初めてだものねェン♪』
 それは提灯かランタンのように、ぽうっと目の前の空中に浮かび上がった。
 赤、青、黄、緑、原色だらけの鮮やかで妖しい仮面が。あたしの敬愛する、あの方のお顔が。
「ま、おう……さま!?」
『何よォ、そんなに驚いちゃって』
 仮面越しの声が呆れたように嗤う。そんなこと言ったって、こんなのが現実であるはずがない。そうだよ、夢なんだ。確認のために思い切りつねった右頬が、思い切りダイレクトに痛みを伝えてきた。
「い、いひゃい……ってことはこれ、本当に、魔王さま……!?」
 涙で視界がぼやけているのは、痛みのせいだろうか、それとも感動のせいだろうか。
『二度も言わなくたって聞こえてるワよぉ。そう、アタシはハイグレ魔王。本当に本物の、ネ♪』
 あたしはその言葉に息を呑んだ。だって、だってこんなことがあるなんて考えてもみなかった。ハイグレ魔王は映画の中だけの存在なんだから。漫画でもアニメでもゲームでも、その登場人物が現実にやって来ることなんてあり得ないんだから。そんなの小学生でも知ってる。あたしも知ってた。
 なのに、目の前の被創造存在は、そんな常識の壁をいとも容易くぶち壊してきた。
 あたしの気が狂ったとかのほうが、まだ現実味がある話だ。正直、まだ心の底まで事実だと信じきったわけじゃない。でも一つだけ思うのは……この魔王さまが本物であるかなんて関係ない。今あたしが見聞きしていることは少なくとも、あたしが長年望んできたことであり、最高に幸せなひとときである、ということ。
 だからあたしは、今は魔王さまを嘘か本当かと疑うことをやめ、魔王さまの次の言葉を跪いて待った。
『あら、いきなり畏まっちゃうの? 顔を上げなさい、ハル。折角だしお話しましょお?』
「は、はいっ」
 そう返事をしたところ、幻滅したかのような溜息が聞こえた。
『アンタ、アタシに向かって「はい」とはいい度胸ね。わざわざそんなカッコして、仮にもハイグレ人間のつもりなら、もっとちゃんとした態度ってモンがあるでしょ? えェ?』
 そうだ。気が動転していてすっかり忘れていた。あたしは慌てて立ち上がり、仮面を真正面に見据えて叫んだ。
「申し訳ありません、ハイグレ魔王さま! ――ハイグレ!! ハイグレ!! ハイグレ!!」
 憧れの魔王さまの前で、ハイグレポーズをしてしまった。いや、よく考えたらこれが、初めて誰かに見せつけたまともなハイグレだった。あたしの初めてを、ハイグレ魔王さまに捧げられただなんて……!
 しかも、
『いィいでしょう♪ さすが、アタシが見込んだ子だけあってキレのあるハイグレね。人間にしておくには惜しいくらいヨぉ』
 魔王さまは一転上機嫌となって、あたしのハイグレを褒めてくださった。
「ありがとうございますっ! ハイグレ!! ハイグレ!!」
『でも、やっぱり残念ネぇ』
 あたしはハイグレを止め、言葉の意味を恐る恐る聞いてみる。
「な、何が、でしょうか……?」
『せっかくアナタには資質と意気込みがあるのに、そんな紛い物を着てるんですもの。どうしてハイグレを着ないのカシラ?』
「それは……」
 出来ることならあたしだって、ちゃんとした単色のハイレグ水着を手にしたい。でも、その条件に合う水着は、心当たりのスポーツ店をどれだけ巡っても出会えなかった。インターネットでお店を調べることも考えたけれど、学校で「ネットは必ず足跡が残る」って教わったから、パソコンに詳しくないあたしが親や学校のパソコンを使ってボロを出す可能性を思うと手が出せなかった。そしてあたしのケータイにもホワイトリストとかいうフィルタリングが付いているので、変なサイトには繋げないようにされている。
 八方塞がりのあたしの環境で、唯一ハイグレに近づけたのがスイミングの競泳水着なのだった。
 そのことを伝えようと口を開いたが、魔王さまのほうが一瞬早かった。
『いいのいいの。アタシだってアナタに同情してンだから。ハイグレ人間の心が芽生えてしまったのに人間として生きなくてはいけなくて、これまで大変だったでしょォ?』
「……はい……!」
 魔王さまは、全部分かっていらっしゃるんだ。そういえばあたしのことも初めから"アキ"と呼んでくれてた。他の発言も振り返ってみると、もしかすると魔王さまはあたしが気づかなかっただけで、ずっと前から見守ってくださっていたのかもしれない。
 感動が押し寄せて言葉に詰まっていると、魔王さまの仮面が左右にカタカタと揺れだした。やがて仮面の裏から朝顔が花開いたようにバサリと黒いマントが翻って、それが重力に引かれて落ちると人の形を成した。マントから青く細い腕が伸びてきて仮面を捻って取り外し、現れたのは、恐ろしいほど中性的に整った顔だった。映画からそのまま飛び出してきたかのように現実味がなく、それでいて圧倒的な雰囲気を帯びている不可思議な存在――ハイグレ魔王さまが、そこにいた。
 あたしはどうしようもない敬服の念に突き動かされて、思考する間もなく腰を落としていた。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレっ!」
 幸福感が身体を包む。魔王さまにハイグレポーズを見てもらえていることで、段違いにハイグレポーズが気持ちよくなるなんて想像だにしなかった。
「ハイグレぇっ! ハイグレぇっ! んはぁっ、ハイグレぇぇっ!!」
 心臓の音が大きくなって、肌が火照りだすのにあわせて吐息に新たな感情が乗ってくる。疲れなんかじゃ決してない。ハイグレに溺れて何もかも分からなくなっていくような、これ以上ハイグレし続ければ自分が壊れてしまいそうなくらい爆発的に熱い、どうとも表現できないキモチなのだ。
「ハイグレぇっ! ハイグレぇっ! ハ――っ! はぁ、はぁ……」
 心がはちきれる寸前で、魔王さまの手のひらが制止を求める。それに気づいたあたしは急ブレーキを掛けた。
『あのさァ、ハイグレにのめり込むのはハイグレ人間の習性だケド、今はアタシの話を聞いてくれないかしらァ?』
「わ、分かりました、魔王さま」
 肩で息をしながら、反省する。一線を超えた先を見てみたかったという悔いが生じるけれど、魔王さまのお言葉には逆らえない。
 そして魔王さまは言った。
『オッホン。ハル、アナタを見込んで2つ頼み事があるの』
「頼み事、ですか?」
『えェ』
 他ならぬ魔王さまの頼みなら断る選択肢はない。でもその前にあたしは、
「……あたしのお願いも1つ、叶えてくれますか?」
『うーん、内容によるワ。褒美として分不相応なものなら、ちょっとランクを落としてもらうカモだし』
 そうは言われたものの、このくらいならきっと大丈夫だろう。あたしは早鐘のような心臓の鼓動を感じながら、緊張のせいでねばつく口を開いた。
「どうかあたしを……ハイグレ人間に、してくださいっ!」
 これだけは譲れない。この願いを断るような人をあたしは、ハイグレ魔王とは認めないから。
 すると目の前の人物は、ニヤリと口を裂いた。
『心配して損した。どうやら意見は一致したようネ♪ その願いは、あたしの1つ目の頼み事そのものよ』
「――ってことは!」
 信じられない。信じられない。こんなに嬉しいことが……!
『それじゃあハル、アナタもハイグレ人間におなりなさァい♪』
 魔王さまの言葉の意味を頭が理解するより速く、あたしの身体は魔王さまの指から迸った光線に包まれた。
「きゃああああああああぁぁぁ!」
 ……これ、ホントに、ハイグレ光線……っ!?
 ピンクと青にまばゆくフラッシュするなかで無理やり四肢を大の字にされ、肺から悲鳴を絞り出しながら、あたしはそんなことを考えた。身体の奥深くの芯がじんじんと痺れてもがく時間が一秒、二秒と経っていくにつれて、その疑惑は確信へと変わっていく。着慣れた競泳水着の感覚と、もっと何か気持ちよく密着する衣装の感覚が、光の色に合わせて切り替わっていたからだ。
 苦しい時間はあっという間に終わり、あたしは光から解放される。そのときあたしは、予想通り――夢にまで見たハイグレ水着を身にまとっていた。
「――っ!」
 確かに着心地は新品の競泳水着に似ている。似ていても、これが全くの別物だということは実際に着れば一発で分かる。
 生地の締め付け具合が違う。ハイレグの角度が違う。デザインも違う。
 今あたしが着ているのは、映画でハイグレ人間にされた人たちが着ていたハイグレ、そのものだった。
『ホッホッホ! 黄色のハイグレ姿、よォく似合ってるワよ♪ さぁ、改めて挨拶と自己紹介をなさい、ハイグレ人間ハル?』
 そう、あたしはハイグレ光線を浴びせていただいて、ハイグレ人間になったんだ。やっと、やっと……!
 脚をガニ股に開き、腰を深く落とし、腕を股間の切れ込みに添えて、あたしはそれを――宣言する!
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! あたしはハイグレ人間、ハルですっ! ハイグレ人間にしてくださって、ありがとうございます!! ハイグレ!! ハイグレ!!」
 初めてハイグレを着用してしたハイグレポーズは、この15年の人生の中で間違いなく一番気持ちいい行為だった。
 魔王さまも満足気に頷いてくださった。あたしをハイグレ人間として、認めてくださったんだ!
『おめでと。長年の夢が叶ったわね、ハル♪』
「ハイグレ! 魔王さまのお陰です! ハイグレ! ハイグレ!」
 してもしきれないくらいの感謝の思いを、あたしはハイグレに精一杯込める。
『だけどハイグレポーズは今はお預けよ。後でたっぷりしていいから、まずは用事を済まさせて』
「えっと、もう一つの頼み事、ですよね。あたし、魔王さまのためならどんなことでもします!」
『ホホホ、いい心がけね。さすがはハイグレ人間よ』
 そう褒めてくださってから一拍置いて、その頼み事を聞かされる。
『じゃあ2つ目。アナタに、アナタの周りの人間たちを少しでも多くハイグレ人間に洗脳することを頼みたいの』
「洗脳活動……!」
『その通りよ。でも、問題があってねェ』
「ハイグレ銃を使うのでは、ダメなのですか?」
『アレは結構エネルギー喰うから、現時点では使えないのよ。そっちの地球には今、ハイグレパワーが足りなすぎる。アタシの力を送ろうにも、そのための余力すらまだ回復してないの。今のアタシにはこうして、次元の狭間から人間と短時間交信する程度が限界。……まったく、自分で解説しててもヤーんなっちゃうわ』
 両手のひらを上に向けて、やれやれのポーズをする魔王さま。詳しい仕組みは知らないけど、とにかく銃には頼れないらしい。ハイグレ銃、撃ってみたかったんだけどなぁ。
『そこでアナタには、何か別の方法でハイグレ人間を増やしていって貰いたいの。もちろん最低限のサポートはするワ。でもそのための方法を考えたり、実際に行動に移すことはハルに一任するわ。どう? 何かいいアイデアはある?』
 どう、と言われてすぐさま浮かんだことを、よく考えもせずに口に出してみる。
「例えば、あたしの通っているスイミングスクールの水着を、全員分ハイグレに変えてしまう、とか……」
『ふぅん、実現すればなかなか面白そうネ。ケドぉ、アナタのお友達全員にこんな風にコンタクトを取りに行くのは無理ね。そんな力は無いのよ』
「なら、コーチを洗脳して――」
『確かに一人くらいなら洗脳出来るワ。でももしそこの制服がハイグレに指定されたところで、果たしてそいつらはそんなに簡単にアタシに忠誠を誓ってくれるかしら』
「……」
 次の案は、浮かばなかった。このままじゃ折角魔王さまに会えたのに、失望されてしまう。見捨てられてしまう。そんなのはイヤだ、けど。
 すると魔王さまは、さっきの突き放すようなトーンとは打って変わって、優しく撫でるように言ってくださった。
『いいのよハル、アナタの責任じゃない。アタシが難題を押し付けてるだけってことは重々承知してるワ』
「魔王、さま……っ!」
『だから、これから一緒に考えましょ♪』
 そういうことであたしは魔王さまと二人きり、闇の中で相談をした。そこであたしは、ハイグレ人間についての知識や、魔王さまが一度アクション仮面に敗れて逆襲の機会を伺っていること、力の回復の足がかりの1つとしてあたしに4年近く前から目を付けていたこと、今の回復具合では数人をハイグレ洗脳するか、複数の物体にハイグレパワーを宿らせる程度しか出来ないことなどを聞いた。あの映画が別次元では史実だったってことも驚きだけど、魔王さまがその頃からあたしを知っていて色々見られてたってことはもっと信じられなかった。今更何を言われても、信じないわけにはいかないけど。
 そうして相談が行き詰まってからどれだけ経った頃だろうか、不意にあたしの頭にとあるアイデアが浮かんできた。
「……あたし、十何枚か使い古しの競泳水着を持っています。それらに魔王さまのお力を注ぎ込んで、ハイグレにすることは可能でしょうか?」
『無機物にはハイグレパワーは宿し易いわ。その程度ならただハイグレにするだけじゃなく、もうちょっと機能を追加することも出来るでしょうね』
「そうですか! ……スイミングスクールはそもそも、どんな水着を着て行っても構わないんです。だから、こうするんです――」
 あたしはそのアイデアを、順を追って解説していった。
 まず、ハイグレ人間となったあたしがハイグレを着てスイミングに行く。その時みんなにはビックリされる、というか引かれるだろうけど、「この水着にすると驚くほど速く泳げる」と説明すればいい。ハイグレ人間は肉体も強化されるのだから、自己ベストの更新は間違いない。そうすれば水着の効果は本物だということが知れ渡るだろう。
 次はタイム短縮に飢えた誰かからのアプローチを待つ。「その水着どこに売ってるの?」と来れば上出来だ。向こうからハイグレを求めさせれば、抵抗感もある程度薄まっているはず。あたしはどこかでハイグレを手渡し、そして同時にハイグレ人間への洗脳を施す。どうせハイグレポーズをさせれば、どんな人間も簡単に洗脳されるはずだ。
 そして更にハイグレの実績が証明されていけば、確実に仲間が増えていく。あわよくば、スイミング指定の水着の座を奪えれば最高だけど、そこまでうまくいくかはまだ分からない。
『そのハイグレはどう用意するの? 結局アタシは何をすればいいのカシラ?』
「さっき言ったあたしのお古の競泳水着を全て、ハイグレにしてください。出来れば、違和感を覚えさせない程度の洗脳効果付きで」
『了解よ。でもそれじゃあ数が足りないでしょう?』
 そう、そこがこの作戦の難点だった。まさか一度洗脳したハイグレ人間からハイグレを奪って使いまわすなんて非道なことは出来ない。スクールの小中学校コースの人数ですら、多分足りないだろう。
 困り果てていると、魔王さまが助け舟を出してくれた。
『だから一緒に、ハンガーの方にもパワーを注ぎましょう。"ハイグレの掛かったハンガー"の状態で"時"を固定しておけば、そのハイグレの所有権がアナタから移った時点で再びハンガーの"時"は巻き戻って、ハンガーにハイグレが複製される。これでどォ?』
「それならハイグレ人間を増やす度にハイグレが増えていきますね!」
 えェえ、と魔王さまは笑顔で頷いた。
『上出来ね♪ 作戦としては申し分ないわ! ……でもいいの? アナタの負担は相当なものヨ?』
「構いません」
 あたしはその気遣いに即答する。だってあたしは魔王さまに見込まれたハイグレ人間。魔王さまの為にならどんなことでもする覚悟がある。
 その思いは、こうして洗脳していただく前からずっと抱いていた。だからこれは紛れもなく、あたしの純粋な気持ちなのだ。
『ホッホッホ! 素晴らしい意気込みネェ、惚れ惚れしちゃうワ♪ オカマなのに』
「そ、そんな……えへへ」
 魔王さまに褒められたことがどうにも嬉しくて、身体の奥がジンと熱くなったのを感じた。
 魔王さまは指を一度鳴らすと、手のひらにビー玉程度の光の球を創りだす。それを両手でもてあそぶ内に球は2個3個4個と増えていき、やがて大道芸人のジャグリングのように見事に10以上の球を操ってみせた。
 それから魔王さまは球を手元に戻してから全てを暗い天空に向けて勢い良く投げてしまう。球たちは一瞬輝いて、闇に溶けてしまった。
『今、現実のアナタの部屋にある水着とハンガーにハイグレパワーを注ぎ込んだワ♪ 向こうに戻ればたくさんのハイグレがアナタを迎えてくれるでしょう』
「あ、ありがとうございます! ハイグレ! ハイグレ!」
 あたしが礼を言った直後、魔王さまのお姿にノイズが走った。青い肌と黒いマントが、ものすごい勢いで薄くなっていく。
「魔王さま!?」
『アラ、どうやらここらへんが限界みたい。予想より長くお話しちゃったから、また力を回復させないと』
 弱々しい高笑いが響く。
『じゃァまたね♪ 期待し――ワよ!』
 そのお言葉に、あたしは力強く応える。
「ハイグレ!! ハイグレ!! ハイグレ!!」
『お行きなさい、ハル! アタシた――望は――に掛かって――』
 魔王さまの声が消えてなくなっていくのに合わせて、あたしの五感も霧がかかったように薄くなっていって。
 そしてあたしも、消えてなくなった。

「……ぐれ、はいぐれ……ん?」

 こうして今朝、あたしは自分の寝言で目覚めるという珍しい経験をした。
 なんだかものすごく長い夢を見ていた気がする。どんな夢だったか、喉のあたりまで出かかっているんだけど。
 目覚まし時計を一瞥して、アラームが鳴るよりも早起きだったことを確認すると、もう一度布団を被ろうとした。だけどその瞬間、身体じゅうに電流のような快感が走り抜けた。
「――ぃひぁっ!?」
 肌を直接撫で上げられたかのような感覚。慌ててパジャマのボタンを外していくと、そこにあったのは着慣れ見慣れたスイミングの競泳水着なんかではなく、
「はい、ぐれ……!」
 ……全て思い出した。そうこれは、夢の中で魔王さまに着せていただいた、黄色のハイグレ。あたしは昨晩魔王さまに出会って、本物のハイグレ人間にしていただいたのだ。
 あたしはベッドから転がるように降りてタンスの扉を開けに走る。これでもし魔王さまの言うとおりになっていれば、あの夢の出来事は全て本当に本当の真実だったということになる。
 ガチャン。そして、この目で見た。
「……ハイグレ魔王さま……あたし、これから精一杯頑張ります……っ!」
 溢れてきた涙をカーペットにこぼしながら、あたしは腰を落として大きく股を開いた。
 今日。とうとうあたしは憧れの、ハイグレ人間になった。

   *

「ハルちゃん、それ、どうしたの……?」
 更衣室で、驚くを通り越して怯えたように尋ねてきたのは、小学3年生のアイリちゃん。その隣でお揃いの競泳水着に着替えていた、同じく3年生のサユちゃんが振り返って、「私知ってるよー!」と得意顔で声を上げた。
「こういうの、ハイレグって言うんだよ! ママが言ってた!」
「サユちゃん、よく知ってるね」
 あたしが感心して褒めると、サユちゃんは満面の笑みを見せてくれた。
 それでもアイリちゃんの警戒心が解けることはなく、
「な、何でそんなのにしたの? 恥ずかしく、ないの?」
 と、人間にとっては当然の疑問を投げかけてきた。あたしは素肌むき出しの腰に手を当てて答える。
「ぜーんぜん。それを言ったら水着なんて全部恥ずかしくなっちゃうよ? アイリちゃんだって今、裸に布一枚だけなんだよ?」
「っ!」
「あー、アイリ顔真っ赤ー」
 可愛らしく胸を隠すアイリちゃんを、サユちゃんがからかう。あたしもつられて笑ってから、「それにね」と続けた。
「これ着ると、泳ぎがすっごく速くなるんだよ」
「……ほんと?」
「ほんとほんと。後で見せてあげる」
 そう言いくるめて、あたしは6歳年下の子2人と一緒に、みんなのいるプールに向かって歩いた。
 2人が指摘したとおりあたしは今日、青のハイグレを着てスイミングをすることにしたのだった。魔王さまからハイグレを授かってから、2日が経っていた。
 ……結局、着ていた黄色を含めると、魔王さまがハイグレに変えてくれた水着は全部で12着だった。それぞれ全て色が違っていて、タンスの中はものすごくカラフルな魅力に満ちていた。
 あたしは早速計画を実行に移すため、最初にケイタコーチにスイミングスクールのルールについて聞いてみた。そして「水着は推奨の競泳水着でなくても、泳ぎに支障がないものなら可」ということだったので、晴れてハイグレデビューを決断したのだった。
 コーチにもどんな水着かは言っていないし、ミズキにも誰にも何も教えていない。だからこそ、アイリちゃんのリアクションも想定内だった。この後も同じように言われるだろうけど、「本人の勝手」として認めさせる方向に持っていければいい。難しいことじゃない。
 ……そうそう。スイミングを始めて3年以上が経って、あたしもなんだかんだで成長した。未だにミズキには勝てないものの、中3としては決して悪くない成績を出せるようにはなった。もちろんそのミズキやみんなも強くなったし、後輩もできた。
 現在小学3年生は3人いて、この子たちに加えてリュウゴくんという男の子がいる。で、2年はいなくて1年がカケルくん。あの寝ぼすけヤマトが4年生のお兄さんになってるんだから、時が経つのは早い。それに、あたしたちもこの春から高校生になるんだし。
 同級生であるミズキとマサヤとは、示し合わせたかのように同じ高校に合格し、行くことが決まっている。まあ、近隣で水泳が強いところといえばそこしかないのだけど。
 どうやら春になっても身の回りに大きな変化は起きないらしい。……まあ、1つだけ、あたしが起こしてやるけどね。
 と、色々思い返している内に大プールの扉の前に来た。もはや慣れた塩素の匂いの中に、あたしたちは入っていく。
 そして予想通り、友人たちはあたしの姿を見てざわついた。女子の反応は先のアイリちゃんタイプかサユちゃんタイプかに分かれ、男子は全員顔を赤くしながらもチラチラと視線を投げてきていた。マサヤに至ってはそっぽを向いて、見てないことを主張しているつもりなんだろうけど、一番興味津々なのはバレバレだ。
 そんなムッツリスケベに容赦無い肘鉄を食らわせてから、競泳水着姿のミズキがずいずいと迫ってきた。
「ハル、今日は随分……その、大胆だね」
 あたしの姿を肩から脚まで見てから言う。
「うん。新調してみたんだ」
「にしても、他に選択肢なかったわけ? 正直、今までのハルのイメージに合わなくて驚いてるんだけど」
 生来の面倒見の良さと親友ゆえの遠慮の無さが混ざって、絶妙な言葉で苦言を呈するミズキ。でも、あたしは怯まない。
「まあ水着は水着だし、コーチにもどんな水着で泳いでもいいって聞いたもん」
「でも――」
「それに」このタイミングであたしは、さっきも使った水泳選手にとって必殺の一撃を放った。「この水着を着ると、タイムがすごく縮むんだって」
 ミズキの眼の色が一瞬変わった。しかしすぐ元通りになって、
「そ、そんなことあるわけないでしょ」
「嘘だと思うなら勝負しよっか?」
「……本気で言ってんの?」
「悪いけど今なら、ミズキに勝てる気がするからね」
 言ってあたしは不敵に鼻を鳴らした。
 ハイグレの効果を全員に認めさせるには、この展開に持ち込むしかないと考えていた。ミズキがここの中学生以下で一番早いのは周知の事実。それをこれまで勝ったことのないあたしがいきなり打ち負かせば、水着を新調したお陰だと思うしかなくなる。
 しかも、ミズキはちょっとしたスランプに陥っている。自己ベストはだいぶ前から更新出来ていないし、この前の大会で予選落ちをして以来、練習ですら満足なタイムを出せていない。今一番、藁にも蜘蛛の糸にもすがりたいと思っているのはミズキなのだ。
 こちらを睨むミズキの瞳の中に、半信半疑の光が宿っている。きっと、その効果が本物ならいくら恥ずかしくても着てみたい、と思っているに違いない。
「……分かった。その勝負、受けるよ」
「じゃあ自由時間に――」
「但し、さ」真剣な表情で、ミズキは言った。「あたしが勝ったら、それ着るのはもう一度考えてくれない? 何て言うか、ハルが良くてもこっちが目のやり場に困るんだよ」
 その言葉にあたしは何故か笑いが込み上げてしまって、少々ミズキを不機嫌にさせてしまってから「いいよ」と返事した。
 唐突な決闘宣言に張り詰めていた空気。それを破ったのは遅れてきたケイタコーチの「うおっ。ハルちゃんすっげぇセクシーだなぁ」という浮ついた声だった。その後コーチが、あたしを除く女子中学生4人に袋叩きに遭ったことは言うまでもない。

 今日の1時間のレッスンはあたしとミズキにとって、単なるウォーミングアップに過ぎなかった。と言っても体力を温存する素振りなどどちらにもなく、相手に全力で挑むためにできることを全てしていた。
 あたしも当然そうした。そして実際に泳いでみて、ハイグレとハイグレ人間の凄さを改めて感じた。水の一掻き一蹴りに明らかに勢いが増していたことに一番驚いたのは、多分あたし自身だっただろう。実際は水着そのもののお陰というよりは、ハイグレ人間になったことのお陰なのだろうけど。
 競泳水着と似ていても、ハイグレの心もとなさは天と地の差。隠すところなんて必要最小限かそれ以下しか隠れていないから、羞恥心なんて持っていたら絶対に着れない代物だ。数日前の人間のあたしだったら、どれだけハイグレが大好きでもこんな大胆な行動はとれなかった。でも今のあたしは、魔王さまに洗脳していただいた本物のハイグレ人間。ハイグレを着ることを誇らしくこそ思えど、恥ずかしくなんて全く思わない。
 あたしはハイグレ人間で、ミズキたち人間より優れた存在。人間たちをハイグレ人間にすることで救ってあげるのが、魔王さまやあたしの使命。
 そのためにあたしは、負けるわけにはいかない。

 練習中のあたしの泳ぎを見て、下馬評の意見は五分五分程度になったようだ。
 規定の練習が終わった後に与えられる自由時間のプールは今日、あたしとミズキの貸し切りとなった。コーチまでもがベンチでこちらを興味津々で見ていた。60秒が計れる大きなスポーツタイマーまで持ちだされている。
 そんな後に引けない雰囲気の中、あたしとミズキはスタート台の前に並んだ。
「種目はハルが決めていいよ」
 それはハンデのつもりだろうか。まあ、ここは有難く決めさせてもらう。選ぶのはあたしの得意な、
「じゃあ、50ブレで」
 ターンなしの50メートル平泳ぎ。平均はもっと落ちるものの、ベストタイムはあたしが37秒台、ミズキは確か33秒台。いくら得意種目と言っても、地区大会を突破できるレベルのミズキに対して勝算はない。ただ、それは競泳水着での話だ。
「ハル、本当にやるの?」
「怖気づいた?」
「バカにしないでよ。知ってるよね? 私、今までハルに直接対決で負けたことないよ?」
「うん。今までは、ね。でも、これを着たあたしにミズキは勝てない」
「水着を変えただけで速くなるなんてあり得――」
「――るよ。これから証明してあげる」
「……やっぱお喋りは無駄だね。勝負で決着、付けようか」
 売り言葉に買い言葉。これ以上の盤外戦は必要ないと判断して、ミズキはゴーグルを掛けた。
 ミズキには、水泳歴の長さというプライドもあるのだろう。水泳を始めてたかだか3年のあたしに、たかだか水着を変えただけで負けるようになるなんてこと、口で何と言われても信じられないに決まってる。だからこそその自信を、敗北の二文字を見せつけて砕かなくてはいけない。
「……ハイグレ――ぁ」
 あたしは小さくハイグレポーズを取る。それは、初大会のときから欠かさず行っている、準備の総仕上げ。なるべく目立たないようにストレッチの流れに組み込んでカモフラージュしているものの、恐らくみんなには、あたしがコマネチをしているとバレているだろう。まあ、試合前に平常心を保つためのジンクスのような一連の行動は誰でも持っているものだから、そこでちょっと変なことをしていても咎められることも怪しまれることもない。
 ただ、
「ど、どうしたの?」
「何でも……ない……!」
 ハイグレの気持ちよさに膝が抜けて倒れたら、流石に心配されてしまうけれど。
 でもこれで身体中に力が満ちた。負ける気なんて全くしない。あたしは立ち直り、スタートの合図を待った。
 審判役のマサヤが笛を鳴らす。ピッ、ピッ、ピッ、ピピー! 長い音で台に上がり、構える。ハイグレが容赦なく食い込んできて声を上げそうになったけど、ギリギリで飲み込む。
「用意!」
 溜め込んだ力と緊張を、次の瞬間、
 ――ピッ!
 解き放つ。
 両者同時に飛び込んでからは、隣との差も、ギャラリーの声援も気にする余裕はない。ただ全力で一心不乱に水を掻き分けるだけ。手足と息継ぎのリズムを崩さないよう慎重に、且つ大胆に。
 そしてやはり、これまでの泳ぎの速度とは段違いに速くなっている。1ストロークで進む距離も確実に伸びている。それこそ――ミズキなど相手じゃないくらいに。
 あたしは、行けるという確信を持って、ゴールの壁に手を触れた。
「ぷはっ!」
 顔を上げて横を見たとき、ミズキは丁度壁をタッチしたところだった。
「は、ハルの勝ちっ!」
 マサヤによる大声の宣言が、残響を伴って室内に轟いた。
 あたしの記録は自己新を一気に塗り替えて33秒台をマーク、ミズキはやはりベストには届かず34秒台、ということだった。
 この大金星には誰もが驚き、プールサイドに上がったあたしはみんなから勝利者インタビューを受けることになった。何を聞かれても「水着のお陰」としか言えないあたしを尻目に、ミズキは黙って先にプールを後にした。
 コーチもずしすしとやって来て、
「凄かったなぁハルちゃん! 本当に水着を変えただけで速くなるなんて俺、思わなかったぜ」
「あ、ありがとうございます」
「なぁ、俺でもそれ着たら、速くなるかな?」
 何気ない一言にあたし以外の全員が5歩コーチから距離をとってしまい、コーチは「じょ、冗談だって!」と慌てて否定した。
 でもあたしは、冗談だとは思わない。
「これをくれた人が言ってました。男でも女でも関係なく、強くなりますよ」
「ハルちゃんを見たら信じねぇわけにはいかないよなぁ。着るだけでこんなにタイム縮められるなら、正直言って競泳水着の革命だぜ」
 珍しく指導者らしく真剣な表情で腕を組むコーチ。でもそれは一瞬のことで、
「よし皆、全員明日からこの水着を……あの、えっと、ジュンちゃんたち、目が怖いぜ? 冗談だからな? マジに思わないで――痛ぇっ! ごめんマジごめんっ!」
 怒れる思春期の女子たちに追い回される姿は、やっぱりいつものケイタコーチだった。
 他の子たちがそれを見て笑っている間、何故かアイリちゃんだけはあたしの方をずっと向いていた。

   *

 その後、女子更衣室で一斉に着替えを始める。あたしは「着替えが遅いから」と理由を付けて、いつも最後に一人になる瞬間を作っていた。当然、服の下に水着を着込むためだ。替えが競泳水着だった以前とは違って今日は、緑色のハイグレを持ってきていた。
 あたしは濡れたハイグレにタオルを巻いた姿のまま、備え付けのドライヤーで髪を乾かすなどして時間を潰す。大体年齢が高い順に着替えを終えて部屋を出て行き、
「ハルちゃん、まったねー!」
「ばいばーい」
 サユちゃんたち3年生組に手を振ってお別れし、これであたし一人きりになれた。
「……」
 念のため、最後の人としての責務を兼ねて忘れ物チェックをして回る。この後想定してない誰かが戻ってきて覗かれたら大変だから。……よし、大丈夫。
 ロッカーの前でタオルを落とし、ハイグレ人間として生まれたままの姿になる。新たなハイグレに足を通す前に、一瞬でも裸になってしまうことを惜しんでハイグレポーズをしておく。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 魔王さまに与えられたハイグレは、普通の水着に比べて異常に乾きが早い。とはいえプールから上がって20分程度ではまだ湿り気が残っている。水に濡れた水着は肌にぴったり張り付くから好きだ。
 それはともかく、これからどうしようかと考える。幸い事前の計画は問題なく進行している。今日のパフォーマンスも結果は上々、ハイグレの凄さをアピールすることには完全に成功した。
 まさかコーチが、冗談とはいえあんな提案をしてくれるとは思わなかった。なし崩し的に提案がボツになったことは流石にしょうがないけれど、やっぱりみんながそう簡単にハイグレを着る気にはなってはくれないことが知れただけで十分だった。
 残念ながら、初日の今日以上にインパクトのあるアプローチをあたしから仕掛けることは二度と出来ない。今後は地道にハイグレを着続けて成績を伸ばして、誰かの気が変わることを祈る他ない。
 正直、一番声をかけてくる可能性が高いと踏んでいたミズキを逃してしまったのは痛かった。勝負の前に挑発しすぎたのかもしれない、と反省する。もし「何としても自力でハルにリベンジしてみせる」なんて思われたら、狙いとは全く逆の展開になってしまう。そうなってしまうとミズキにハイグレを着せるには、それこそハイグレをスクール指定水着として確定させる以外の方法がなくなるからだ。
 とにかく、今日できることは終わった。明日からまた頑張ろう。
「ハイグレ! ハイグレ! ……ふぅ」
 十数度のハイグレで一旦やめて、いざ肩紐に手を掛けた――その瞬間。
「……ハル?」
「み、ミズキ……!?」
 突然扉を開けたのは、既に私服に着替えを済ませているミズキだった。あたしはあまりに予想外の展開に、喉を詰まらせた。なんでこのタイミングで。
 確実にハイグレの声は聞かれた。こうなったらもう計画なんて言ってられない、無理矢理にでもこちら側に引きこむしかない。
 そう決意してロッカーに右手を突っ込み緑のハイグレを掴むと、先にミズキの方から歩み寄ってきた。
「ハル。私の話、聞いてくれない?」
 ハイグレポーズに対して何の反応も無い。ミズキの目を覗き込むとまさに心ここに在らずで、切羽詰まった雰囲気を感じた。そうさせたのは間違いなくあたしなのに、そのあたしに頼ってくるなんて。
 まさか、という期待が膨らむ。右手に力がこもる。
「ど、どうしたの?」
 するとミズキは普段とは違い、たどたどしく語り始めた。
「……さっきのブレ、凄かったよ、ハル。……私多分、ハルを見くびってたんだと、思う。色々言っちゃってほんと、ごめん」
「ううん、あたしも調子に乗って言いすぎた。ごめん」
 こちらも地雷を踏まないように、慎重に言葉を選んでいく。
「……ねえ。本当にあれは、水着のお陰なの? 実は沢山練習してたとか、元々才能があったとか……たまたま調子が良かった、とか」
「確かにコンディションは最高だったよ。けど、練習だっていつも通りにしかしてないし、本当に才能があるならもっと大会で勝ててるよ」
「うん……」
 ミズキは俯き、そして決心したようにあたしを見据えてきた。
「あのさ、私が今更言うのは虫が良すぎるけどさ。……その」
 あたしの鼓動も、否応無く速くなる。言え。言っちゃえ。
 願いは、
「――その水着、私も着てみたい。試してみたい。だから、どこで買ったのか、教えてくれない?」
 通じた。
「っ!」
 まさかこうもトントン拍子に進むなんて。喜びに笑いがこみ上げてくるけど、必死に我慢する。
 あとはもう簡単だ。丁度持っている緑のハイグレを渡して、今ここでミズキを洗脳してやる。
 記念すべき洗脳第一号が親友だなんて。疼く身体を抑えて、あたしは言った。
「その必要はないよ」
「え?」
「このハイグレはいっぱい持ってるから、予備を一枚ミズキにあげる」
 ハイグレをミズキに突き出す。ミズキはその小さな水着を恐る恐る、両手で受け取った。
「あ、ありがとう。でも本当にいいの? お金とか」
「大丈夫大丈夫。あぁ、けどもし良かったら―― 一度ここで着てみてよ」
 う、と短く唸って顔を赤らめるミズキ。どうやらハイグレが欲しいとは言ってもまだ、着て誰かに見せる覚悟まではしていなかったらしい。
 あたしは、もっともらしい理由をこじつけて水着を着させようと試みた。
「ほら、サイズが違ったら別のを持ってこなきゃいけないから。念のためにさ」
「そ、そっか。なら……試しに一度だけ。うん」
 ミズキは自分に言い聞かせるように何度も頷いた。それからあたしの前で躊躇いなく服を脱ぎ捨てていく。
 あぁ、これからミズキもあたしと同じハイグレ人間になるんだ。ずっとずっと孤独だったあたしの世界に、ミズキが来てくれるんだ。
 下着すらも取り外すと、ミズキのスレンダーで引き締まった身体が完全に露わになる。それは同性のあたしであっても惚れ惚れするような、カッコ良いプロポーション。
 ひたすらに速さを追い求めるミズキが、恥ずかしさを必死に堪えて自ら、速さを手に入れられる代わりに常識外に恥ずかしい水着に足を通していく。頬はこれ以上ないほどに真っ赤になっている。
 股間に細い紐が引っかかり、下腹部にハイレグカットが形成されていき、胸が伸縮する生地の中にしまい込まれ、そして肩紐に腕が通される。この段階を経てミズキは晴れて、あたしと同じ感覚を全身に味わった。
 生まれて初めてハイグレを着たミズキの感想は、
「――っぁ! ぅぅんっ! っはぅっ! んあぁぁ!?」
 どうやら言葉にならないくらい気持ちよかったようだった。すぐに膝が笑い出して立っていられなくなり座り込んだけど、その僅かな動きにまた「ひぅ!」と声を出してしまう。あたしもハイグレの着心地を常日頃からシミュレートしていなければ、夢の中でこんな風になっていたかもしれない。それくらい、ハイグレの初体験は衝撃的なのだ。
「大丈夫?」
 あたしはミズキに手を差し伸べた。上目遣いにそれを掴むミズキ。いつもならリーダーの風格があって落ち着いているミズキが、今まで見せたことがないような蕩けた顔をしていた。
「ありがと――ぁん! は、ハル、もしかしてずっと、こ、こんなの着てた、の……?」
「まあね。大丈夫、ミズキもすぐにそれが当たり前になるから」
「そ、それはそれで、変態みたいだけど――あぅ!」
「あたしたちは"変態"じゃない」
 そのことだけはハッキリさせておかなくちゃいけない。あたしはミズキの肩を掴んで強く訂正した。
「あの、ハル、これ、もしかしたら――」
「――小さいくらいが丁度良いんだよ、それ」
 とサイズについて先回りして釘を差してしまうと、ミズキはもう何も文句を言わなくなった。それから何度も吐息を漏らしながら、準備運動や水泳の泳法の真似をしてみて着心地を確かめだす。頷いているのは、ハイグレに満足しているからだろうか。
 ひと通りこなしてから、ミズキはこちらに向き直った。既にハイグレの快感には順応し始めているようで、本来の雰囲気が戻りかけている。
「着てみて初めて頭で理解できたよ。本当に着てるだけで、力が溢れてくる気がする」
「……でも、それだけじゃ終わらないよ」
 ぎくり、とミズキが一歩退く。まだ何か残っているのか、と。もしかしてもっと気持ちよくなってしまうのか、と。
 そう。ミズキはまだ完全なハイグレ人間じゃない。
「ただ着ただけじゃダメなの。あたしのようなハイグレ人間になるには、しなきゃいけないことがある」
 ハイグレ人間、と聞き覚えのない単語を恐る恐る反芻するミズキ。
「……どうすれば、いい?」
 遂にこの瞬間が来た。
「これから教えてあげる。あたしと同じようにして。絶対だよ」
「う、うん」
 あたしは息を大きく吸い込んで――
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「!?」
 足を開き、水着の線に沿って何度も腕を動かした。掛け声もハッキリと、ちゃんとミズキに伝わるように。
 しかし本気のハイグレポーズを目の当たりにしたミズキは困惑して、口をあんぐりさせて固まってしまった。だからあたしから発破をかける。
「ハイグレ! ハイグレ! ほら、ミズキもっ! ハイグレ!」
「いつもハルがしてたやつ……。これを、わ、私も……?」
「そう! やらないと速くなれないよ! ハイグレ! ハイグレ!」
「……うぅ」
 再び頬を染めて小さく唸りつつも、そろそろと股間に手を添えていくミズキ。腰も少し落ちた。そこで動かなくなる。
 あとは宣言するだけなのに。あたしは、ミズキが最後の一線を超えるための、後押しをしてやった。
「ハイグレっ! ミズキ!!」
 すると、
「――は、ハイグレッ!!」
 ミズキは目を強くつぶり、ぎこちないものではあったけど思い切り、ハイグレポーズをとった。そして、決死の覚悟に等しい恥ずかしさを超えた先にある極上の快感を知って、身を捩らせる。
「あ、ぅあああぁ……! なにこれ、すっごい……」
「ほら、休まないで続けて! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「わ、分かったよ……ハイ、グレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 あたしとミズキ、2人分のハイグレコールが更衣室にこだまする。
 初めは固かったミズキの表情や動作は、ハイグレを繰り返していく度に徐々に和らいでいった。きっと心の中から「速さを手に入れるために仕方なく」という言い訳じみた抵抗感が薄くなって、純粋にハイグレの気持ちよさに溺れだしているのだろう。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! はぁ……っ!」
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! んぁぁっ!」
 ハイグレがミズキにとって初体験であるのと同時に、あたしにとっても誰かと一緒にするハイグレは初めてだ。あの映画でもハイグレシーンはほとんど集団で行っていたように、複数人でするハイグレはあたしの長年の憧れだった。それが今、本当のハイグレを着て本当のハイグレ人間となれて、叶っている。
 ミズキと一緒のハイグレが、こんなに気持ちいいなんて……っ!
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 ミズキも、もう完璧に自分の意志でハイグレを繰り返していた。邪念を捨て去って、ただひたすらにハイグレをする。それがハイグレ人間の本来の姿。
 あたしもミズキも、ハイグレ人間だ。
 もっと――もっとハイグレしようよ、ミズキ!
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 ……声と動きを揃えて数分、2人でハイグレをし続けた。
 だけど、このままここに居ることは出来ないということをあたしは経験から知っていた。何故ならここは水泳教室の全コースの女性が共用で使う更衣室。プール掃除などをするために設けられた、各コースごとのインターバルは1時間。今日の小中学生コースの次には一般成人コースが行われるため、間もなく仕事帰りのOLさんとかが来てしまう。時計の針は、もう限界を示していた。
 そのことに、ハイグレに夢中になっているミズキは気づいていない。申し訳ないけど、
「……ミズキ、そろそろ出よう」
「ハイグレッ――ど、どうして?」
「次の人達に見つかったらマズいでしょ。あとは帰りながら話そう?」
「……そっか」
 ミズキは名残惜しそうにハイグレの姿勢を解き、そろそろと肩紐に手を伸ばした。だけどそれを外す動作をしようとはしなかった。あたしは判断の間で迷うミズキを見て、笑った。
「あははっ! ハイグレを脱ぎたくないなんて、ミズキもすっかりハイグレ人間だね!」
「私が……ハイグレ人間? ハルと、同じ?」
「うん、ミズキもあたしの仲間! あたしたちはハイグレ人間!」
「そっか、そうなんだ……!」
 自分を認めてくれる仲間の存在は、互いに安心感を与えてくれる。無事にミズキがハイグレ人間になってくれて、あたしも本当に嬉しかった。
「ほら、早く服着て出なきゃ」
 あたしはうっとりしているミズキを急かし、ハイグレの上に服を重ねていった。ちなみにあたしの青のハイグレはもうほぼ完全に乾いていた。
「あ、そうすれば脱がなくていいんだ」
「まあね。ハイグレを脱ぎたくなんかないでしょ」
 ミズキは頷き、素早く服を着込んだ。
 春の訪れはもう少し先という今の時期だから、防寒対策のために上着は必要だ。実際は、ハイグレ人間の環境適応能力があればこの程度の寒暖は全然苦にならないんだけど、普通の人間として振る舞うためにはやっぱり必要だ。
 あたしたちは荷物をまとめ、上着まで着てスイミングスクールを後にした。
 ミズキの家はあたしの家とは離れているけれど、スイミングからの帰り道は半分ほど、自転車で言うと約10分ぶん共有している。その道すがらあたしは、これまでのことをかいつまんでミズキに話して聞かせた。
 小学5年であの映画を観てハイグレに目覚めたこと、実は水着目当てでスイミングに通いだしたこと、つい2日前の朝に魔王さまにハイグレ人間にしていただいたこと、そしてあたしの使命とこの先の作戦を。
 ミズキはその全てにちゃんと反応してくれた。あの映画は見たことなかったとか、結構ハイレグな競泳水着なのに最初から恥じらいがなさそうで不思議だったとか、私も魔王さまに会ってみたいとか、絶対にハルに協力する、とか。
 やっぱりミズキはあたしの親友だな、と思った。そんなミズキがあたしの最初の仲間で本当に良かったと、心から思った。
 ……ハイグレ人間は本能でハイグレポーズをとる。でもただの人間はハイグレのような普通と違う行為を認めようとせず、排斥する。だからハイグレ人間は、自分の居場所を作りだすために、人間を洗脳して同じ考えに染める。ハイグレ人間が洗脳活動をするのは、そもそもの大元を辿ればハイグレ魔王さまのご意思に従うことが責務だからであるけれど、短絡的にはそういう理由がある。
 故に、ハイグレ人間同士には何ものにも代えられない連帯感が生まれる。自分がありのままの自分で居られる場所が、ここにはあるのだ。ミズキはあたしを必要とし、あたしはミズキを必要とする。そしてより多くの居場所と仲間を得るために、更に大勢を洗脳をし続ける。
 まだハイグレ人間はたった2人きり――そう、全ては始まったばかりなんだ。
 別れ際、人気のない交差点で。あたしは自転車を止め、ミズキに聞いてみた。
「ねえミズキ。明日のスイミングの水着は――」
「もちろん」言い切る前に、ミズキは宣言した。「ハイグレで出るよ。そりゃ脱ぎたくないのもあるけど、本当にこれならハルみたいに新記録が出せそうだし!」
「でしょ?」
 するとミズキは深く首を縦に振った。のかと思ったらそのまま頭を下げてきた。
「ハル、改めてありがとう。あと、本当にごめん!」
「ミズキ……」
「ハルを疑って、ハイグレの力まで疑って。許してもらえるとは思わないけど、私、頑張るから。だから――」
「あたしは怒ってなんてないってば。でも、これから一緒に頑張ろう?」
「……うん!」
 大切な仲間を疎むはずがない。ましてミズキとの関係は、ハイグレ人間になる以前から続いてるんだから。
「じゃあミズキ、また明日」
「うん、またね」
 そして、
「――ハイグレ!」
「――ハイグレッ!」
 厚い服の下に確かにあるハイグレを感じながら、あたしたちはハイグレポーズで別れを告げた。
 今から明日が楽しみだ。ミズキまでもがハイグレを着たら、みんなはどう反応するだろう。すぐにハイグレを着たがるかな、それともまだ時間がかかるかな。
 どっちでも構わない。だってあたしはもう、一人じゃないから。

   *続く*




(この上ラストシーンにつき、アンカーで飛んできた方は注意)

人物紹介

・学年は"ハルがスイミングに入会したとき→ハルが魔王と邂逅したとき"で表記

小6→中3 ハル アキの姉。慎重さと大胆さを併せ持つ。ハイグレ人間に憧れ続け、魔王から洗脳を受ける
小2→小5 アキ ハルの弟。純粋で、どこか抜けている。ハイグレ人間に憧れていることを必死に隠している
・1歳→年長 ルリ マサヤの妹
2歳→小1 カケル 人の意見に流されるタイプ
年長→小3 アイリ 少しおませさん
年長→小3 サユ 歳相応に無邪気
年長→小3 リュウゴ 暴れん坊。ヤマトを慕っている
小1→小4 ヤマト 人懐っこく、寝ぼすけ
小2→小5 レイ ジュンの妹。人見知りが激しい
小4→中1 アズサ 元気で怖いもの知らず
小4→中1 マナミ いつもアズサに振り回される
小5→中2 ジュン レイの姉。ツンツンしていて排他的
小5→中2 タクミ リーダーシップがある、引っ張り役
小5→中2 シンタロウ 合理的に物事を考える。礼儀正しい
小6→中3 ミズキ 人付き合いが良い。水泳は地区大会クラス。ハルの親友になる
小6→中3 マサヤ 面倒事を抱え込むタイプ。水泳経験者。ハルの小学校に転入してくる
・中1→高1 アンズ ハル達がまもなく入学する高校の先輩。水泳部所属
ケイタ スイミングのコーチ。大柄でおおらか。軽口が多いが指導の腕は一級



あとがき(別記事へ)
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もうすぐ2月かぁ・・・早いなぁ(遠い目
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Author:香取犬
ハイグレの洗脳を受けて早幾年
遂に自らハイグレ小説を書くようになってしまいました
いつでもネタ募集中です
酉◆RYenwqtp9Y

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新興宗教ハイグレ教
 →ハイグレアイドル候補生!
ハイグレ小説王国
 →変わりゆく若人たち
 →帝後学園の春


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