【インスパイア】カメラが捉えた洗脳の瞬間、そして

火曜日に更新すると言ったな! あれは嘘だ!
台風が近づいてきた影響で一日家に篭っていたら、筆が進んで最後まで書き切ることが出来てしまいました
長らくおまたせして、本当に申し訳ありませんでした

更新順でこの記事がトップに来ていますので、こちらで告知させていただきます
【アンケート】次々回更新時書いてほしい作品は? を先ほど締め切りました。結果発表はアンケート記事の『続きを読む』(またはこちらをクリック)からどうぞ
・それに伴い、アンケート記事内のハイグレオリSS「敬語少女と姉と友達」は記事を独立させました。また、こちらをクリックしても全文を読めます

このインスパイア小説についてのあれこれは、あとがきにて書かせていただきます
今回、章が細かく分けられていますが、一つ一つはそれほど長くはありません(全部合わせると最長記事記録更新ですが)。ただしこのような演出上、視点と時間軸が追いにくい可能性がありますのでご注意ください



カメラが捉えた洗脳の瞬間、そして  Inspired by としあき

 

   ・あの日-中継映像-

 慌てた様子の若い女性アナウンサーが、中継画面中央に映る。アナウンサーは裏路地らしき場所でマイクを両手で持ち、冷静に淡々と訴える。
「はい、こちら現場の櫻井です」
 画面の右上には『速報 異星人襲来 新宿は今…生中継』という赤いテロップが表示されている。また、画面全体が小刻みに震えている。
「ご覧ください……私は現在、侵略者の手に落ちた新宿の街にいます」
 カメラがあおりの角度で、ピンクの面妖な形をした塔のような建造物を映す。櫻井の声が、オフで続く。
「先ほどまで私は新宿で取材をしていたのですが、突然あの建物が空からやって来て着陸し、そこから現れた異星人から辛くも逃げてきました」
 再び映像は櫻井にクローズアップする。
「異星人は空を飛び、装備している光線銃で次々に民間人を襲撃し、ハイレグ水着姿に変えてしまいました。我々は、その実際の映像の撮影に成功しました。どうぞご覧ください」
 と、手を促すように差し出すと、既に用意されていたVTRに切り替わる。カメラが上下左右に激しく揺れており、走りながら撮影していることが分かる。
『――んですか!?』
『撮るに決まってるだろ! こりゃ大スクープ間違いなしだ!』
『でもまずは逃げないと!』
『ほら牧野! あっち写せ!』
 カメラの近くで、女性二人男性一人の声がするところから、映像は始まる。慌てふためく群衆の中を、カメラは流れに従って進む。興奮気味の男性の言葉に反応し、カメラがやや右にパンする。
 その先には、ピンクと青に点滅する光に全身を包まれた三十代くらいの女性がいた。
『きゃあああああ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!』
 女性は光から解放されると、私服から水色のハイレグ水着姿に変わり、その場でコマネチポーズを繰り返しだした。表情は怯えと羞恥心に満ちている。
 彼女を尻目に、再び前方を向く。前を走る女性は、櫻井アナウンサーであった。
『こんなのもう……嫌です……!』
 そこで映像が別のものにクロスフェードする。
 悲鳴と怒号と「ハイグレ」の混ざった喧騒が、遠くから響いてくる。薄暗い路地のような場所から表通りへ歩んでいくにつれて、特に「ハイグレ」のボリュームが上がっていく。
 明るい場所に出たことで逆光を受けて、映像が一瞬白む。それが晴れると、
『『『ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!』』』
 車道まで埋め尽くす大量の人々が、ビル街の下で、色とりどりのハイレグを身にまとい一心不乱にハイグレポーズを取り続けていた。
 老若男女――小さな姉弟とその母親、小学生のグループ、若いカップル、禿頭の上司とさわやかな部下、老婦人会の面々、他にも文字通りありとあらゆる人々――が、あるは顔を真赤にして、またあるは真剣な表情で、一様に奇っ怪な行動を繰り返す異常事態が、そこには広がっていた。
『『『ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!』』』
 録画したVTRはこれだけで終わり、元の中継画面に戻る。櫻井アナウンサーは一度頷き、神妙に口を開く。
「ご覧のように、今新宿は、いえ、東京はかつてない異常事態に見舞われています。皆さま、どうか落ち着いて避難を――」
「こっ、来ないでぇっ!」
 レポートを寸断する声が、路地の向こうから聞こえる。咄嗟にそちらを振り向いたカメラが捉えたのは、あどけなさの残る高校生くらいの少女であった。
「あれはさっきの……」櫻井は一瞬素に戻ってしまったが、すぐに持ち直して、「女性が今、こちらにやってきています」
「! た、助け――あうっ」
 少女は何度も後ろを気にしながら走っていた。そのせいで足がもつれ、前のめりに転んでしまう。
「大丈夫ですか!?」
 反射的に駆け寄ろうとした櫻井だったが、しかし空を見上げピタリと止まった。カメラもその視線の動きを追うと、そこに静止の原因があった。
 ライフルのような銃を手にしてパンストを被り、おまるに跨って浮遊する、異星人が一人いたのだ。
 直後、カメラに映る景色が横にパンする。それはカメラが瞬時に振り向いたことを意味する。
「い、いやぁっ!」
 マイクの近くで拾われた声の正体は、このカメラを担ぐ小柄な女性のものである。カメラマンはまさに一目散に、その場から逃走する。
 映像は狭く人通りのない路地を走っているままだが、櫻井の持つマイクには現場の声が微かに届いていた。
「牧野さん!? ――と、とにかく離れましょう、谷さん。……谷さん?」
「このチャンスを逃すってか? バカ言うな、オレは撮る」
「はい!? ここにいたら谷さんも――」
「やられたところで死にゃしねぇだろ、良い画が撮れるならなんだっていい」
「わ、私は逃げますよ?」
「勝手にしろ!」
「……失礼します」
 これら一連の会話が終わる頃には、カメラは角を二つ曲がったところで立ち止まっていた。
「はぁ、はぁ、……わたし、何てことを……」
 震える呟きがマイクに拾われていることに、牧野は気づいていない。
 そして十数秒後、そこに櫻井が合流する。慌ててレンズが櫻井を映す。
「し、失礼致しました。先ほど私たちは異星人に遭遇し、その際撮影クルーひとりとはぐれてしまいました。クルー、及び女性の安否は不明です。このような事態が、現在東京のあちこちで発生していると思われます。しかし私たちは皆さまのために、撮影を続行したいと思っており――」
 努めて冷静に、状況を報告している櫻井。その額には汗が浮かび、極度の緊張状態にあることが窺われる。
 しかしその表情が、一瞬で凍りついた。
「み、見つかった!?」
 カメラの背後の虚空を見上げ、一歩下がる櫻井。映像も一瞬ブレる。
「わ、私たちは今、侵略者たちに囲まれています……!」
 その動揺具合は、これまで映っていた櫻井の様子とはあまりにかけ離れたものだった。完全に腰が引けている。
「私は、私は――助けて! 誰か助けてえええっ!」
「櫻井さん!?」
 右足を出す前に左足が出るような勢いで、櫻井はカメラに背を向けて無様に逃げ出した。しかし、
「きゃあああああああっ!」
 画面外から迸るピンクの光が正確に櫻井の背を貫いた。櫻井は点滅する光の中で、スーツとハイレグ水着の入れ替わりをさせられる。
 カメラが背後に振り返る。その眼前にいたのは、銃を構えた大量のパンスト人間。それを枠内に捉えた瞬間、動きは硬直した。
 直後、何条もの光線がカメラに――否、牧野に向かって発射される。
「あああああああああああっ!」
 牧野の長く尾を引く悲鳴も、ガシャンという硬質の激突音と共に中途で途切れた。
 …………………………
 ……画面が乱れる……
 …………………………
 再開。砂嵐はおよそ十秒程度であった。また、映像がぎこちなく小刻みにブレている。
 映っているのは中断直前と同じ、異星人の集団である。黒い月のような形をした双眸が複数、カメラを覗きこんでいる。
 その内のどれか、あるいはその全てが、妙に色っぽい音声を放った。
『ホホホ! 地球人よ! 早くアタシたちのハイグレ銃を浴びて、ハイグレにおなりなさァい♪』
 そしてパン。カメラが振り向くと、櫻井がピンクのハイレグ水着を着て、大きく股を開いて立っていた。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレはとっても気持ちいいですよ! だから全国の皆さん、ハイグレを着て、ハイグレ魔王様にハイグレを捧げましょう!」
 きつく切れ上がった水着の股ぐりの線を、恥ずかしげもなくなぞる櫻井の姿が映し出される。つい先程までそこにあった恐怖も使命感も完全に吹き飛び、今やハイグレ人間となってテレビの向こうの視聴者にハイグレを勧める櫻井は、真剣な表情であった。
 そして櫻井は、ゆっくりとカメラの方に歩み寄ってきて、
「ハイグレ人間になること、それが人間に与えられた最高の幸福なのです! ハイグレ! ハイグレ! ハイ――」
 プツン。
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 ――しばらく お待ち下さい――
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   ・あの日-秘蔵映像-

 ガサゴソ。物が擦れる音。
「このチャンス――? ――撮る」
「はい!? ここに――谷――」
 ガチャンガチャン。機械同士がぶつかる音。
「――死にゃ――ならなんだっていい」
「わ、私は――?」
「勝手にしろ!」
「……失礼します」
 ここでレンズのキャップが外され、周囲の様子が映し出される。光のあまり届かない、ピル街の合間の路地である。しかし画質は良くない。
 被写体となっているのは、地面にうつ伏せになっている高校生の少女である。服装は夏らしいホットパンツにノースリーブだ。
 カメラが僅かな手ブレとともに後ろに引いていく。ズームを駆使して少女を中央に捉えたままの移動であった。
 少女は、力の抜けた身体で、必死に立ち上がろうともがくが、果たせないでいる。
 そのすぐ側に、丸い影が落ちる。影は更に濃くなっていき、やがて降下してきた正体が映像内に映り込む。白いおまるに跨った、銃を持つ謎の人間である。
 ハッと少女が顔を上げる。目の前に突き出された銃口に怯え、慌てて壁際まで転がるように逃げていく。だが、銃は仰角を変えただけで、再び彼女を射程に捉える。
「やめて……! わ、わたしあんなの、着たくない……っ!」
 いやいやをするように首を振り、少女は目に涙を湛えて哀願した。その表情がクローズアップされる。
 それでも、謎のパンスト人間は立ち去ろうとはしない。おもちゃのようにしか見えないピストルの引き金に指がかかる所にフォーカスが移動し、それからズームアウトして少女中心に戻す。
「お兄ちゃん……助けてっ!」
 しかし、その場に兄と思しき人物はいない。少女の最後の声は、虚しくコンクリートの壁に吸い込まれた。
 少女が身を硬くした直後、銃口がピンクにフラッシュした。
「きゃああああああああああ!」
 一瞬遅れて金切り声がマイクを劈き、音声が音割れする。少女がピンクと青の輝きの中で大の字になっているが、そのシルエットが段々ボディラインそのものになっていく。
 やがて光から解放された少女は、苦しげに叫んだ顔と手足を広げた状態のまま、服装だけを赤のハイレグ水着に変えられていた。
「わたし……んあっ……!」
 自分の姿を見下ろし、愕然とする。同時にカメラは、過激な水着一枚の姿にされた彼女の首から下を、上から舐めるように撮影していく。鎖骨と肩紐から、控えめに膨らんだ二つの胸へ、次にくびれと水着のV字の境界線、へそ型に窪んだ水着生地、そして切れ込むデリケートゾーンまで。
 そのVラインに、両腕がそろそろと添えられる。ズームアウトして全身画に戻すと、既に足もガニ股に広げていたことが分かる。少女は自分のしていることが信じられないかのような、また、しようとしていることを拒んでいるかのような、悲壮な表情を浮かべていた。
 二筋の涙がその頬を伝い、地面に滴った。その瞬間だった。
「……ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 水着の切れ込みをなぞり上げる、ハイグレポーズを始めだす少女。一度ごとに、頬が上気していく。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 戸惑いと驚きに、目を見開く。一度俯くが、何も変わらない。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 だが少しずつ顔つきからも少しずつ抵抗の色が失せていき、恍惚の感情が表出してくる。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 初めはぎこちなく、無理矢理やらされている感のあった動きも、やがて自ら進んで行うようになっていく。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 こうしてカメラは少女が、満面の笑みを浮かべてハイグレポーズをする姿を収めるに至った。
 赤いハイレグを伸縮させるように上体を前後させながら、大きく大きく腕を上下させ一心不乱に――少女は頬に涙の跡を残したまま、ハイグレ人間となったのだ。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ……っ」
 そのとき、彼女の視線がレンズを真正面に捉えた。少女はハイグレを止めると突如目の色を変えて、ずんずんと手前に歩いてきた。合わせてカメラもゆっくり後退するが、少女の歩調のほうが早かった。ちらりと、少女の背後にパンスト男の姿が写り込んだ。
 だが唇を弓なりに曲げた彼女がバストアップの構図で映った直後、ガン、ガシャン、と連続で弱強二度の衝撃音が発生すると同時に画面が酷く荒れ、そして、
 プツン。
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   ・あの日-櫻井の視点・1-

「以上で終わりです。インタビューのご協力、ありがとうございました」
 私が会釈をすると、彼らはこちらに手をひらひらと振って去っていった。
 今日はニュース番組のいちコーナー用の取材のために私を含めスタッフ3人で、新宿に来ていた。『夏のデートスポットの定番は?』ということで、要するに取材対象はこの暑い中でさえ互いにくっついてイチャイチャし、見ているこっちがアツくなるようなカップル。プライベートであれば「爆発しろ」と吐き捨ててしまうところをぐっと堪え、私は営業スマイルを維持し続ける。
「まだまだ終わりませんね……」
「しゃあねぇだろ。――おい、次はアレ行って来いよ」
 私は指示を受けるとハンカチで額に浮いた汗を拭い、カメラを担ぐ牧野さんと目配せをした。因みに私たちを顎で使っている偉そうな髭面の中年の男性は、ディレクターの谷さん。本来プロデューサーになっていてもおかしくない歳にも関わらずこの地位に甘んじているのは、どうにも運にも才能にも恵まれないからとのもっぱらの噂だ。
「……何だ、文句あんのか?」
「いえ、なんでもありません。牧野さん、行きましょう」
「あ、はいっ」
 牧野さんは背が小さく丸顔で、基本的にはおっとりした感じの人。けれど現場に来ると、大きなカメラを長時間担いで撮影をこなすタフさも持っている。その身体のどこにそんな力が、と私はいつも思わされる。彼女は今年入社したばかりで、私は入社二年目でこの番組のサブキャスターを任された。境遇も年齢も近く、良い友達でもある。
 そんな彼女と、谷さんが目をつけたあのカップルに声を掛けるため、やや混雑した人混みを縫うように進んでいく。やがて彼と、彼の左腕に抱きつくように寄り添い歩く彼女の背中が見えた。背は、彼の肩と彼女の頭が並ぶくらい。
 時々顔を合わせて談笑する二人には何となく割り込みづらい雰囲気を感じるが、これも仕事。悪いけどちょっとだけお邪魔しますよ、と。
「突然すいません。私たち○○テレビの者ですが、少々お時間いただけますか?」
 後ろからの声に、きょとんと振り向く二人。彼のほうが私と牧野さんを交互に見てから、
「えっと、僕らですか?」
「はい。今街頭インタビューを行っていまして、お二人にいくつか質問に答えていただきたいのですが」
「インタビューだって! ね、ね、答えようよっ」
 彼女は当たりくじを引いたことを喜ぶかのように、無邪気に笑って彼に言う。しかし彼はちょっとだけ困った顔をする。
「でも時間が……」
「手短に終わらせますので、どうしてもお急ぎなのでなければ是非」
「ねーえー! テレビ映れるかもだよ? 全国ネットだよ? みんなに自慢できるよ? してこーよー!」
 彼女は彼の腕を何度も引いて縋った。目の前で仲睦まじい姿を見せつけられて少々腸が熱くなるのを感じたが、我慢我慢。
 そして結局は、
「分かりました。お受けします」
 彼も折れてくれた。私は胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます」
「やった!」
 許可を取れたということで建物寄りの位置に移動してもらい、二人と牧野さんのカメラの準備を確認して、私は用意してある質問文を読み上げ始める。
「――それではインタビューを始めます。まずお二人の年齢を教えて下さい」
「15!」
「17です」
「お二人とも、高校生ですか?」
「はい!」
 部活の先輩後輩カップル、というところか。まあ、若者の意見のほうが番組的には重要だし丁度いいでしょう。
 ……それにしても彼女、本当に元気な子だなあ。服装はノースリーブにホットパンツにニーソックス、そして小さめのキャップを被っている。涼し気にまとまってはいるものの、おしゃれ頑張りました感が出てしまっているのは、本人の性格や発展途上の身体に依るところが大きそうだ。
 そのせいか、彼氏が相対的に非常に落ち着いて大人に見える。半袖ポロシャツとチノパンの組み合わせで、見た目に無難な印象なのも手伝っている。彼女と逆の手に持っている紙袋は、このあたりの女性服屋のもの。彼女と買い物をしてきたところに違いない。
 まあファッションチェックはこれくらいにして、本題に入らなければ。
「えー、ではお聞きします。ズバリこの夏、カップルの定番のデートスポットといえばどこでしょうか?」
 すると二人は揃って驚いた。直後、彼女は顔を赤らめ、
「で、デート……!? どうしよ、どこがいいのかな……っ」
 彼氏は怪訝そうにこちらを見る。
「――あの。ちょっといいですか?」
「何でしょう」
 次の瞬間口にしたのは、思いもよらない事実だった。
「僕ら、カップルとかじゃないですよ?」
「「へ?」」
 これには私も牧野さんも、同時に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「カップルを探していたのなら申し訳ないんですけど僕ら、兄妹です」
「え、何お兄ちゃん、どうしたの?」
「どうやらカップルに間違われたみたいだ」
「そ、そうだったの!?」
 と、大げさにのけぞる彼女――いや、妹さん、と言うべきだったか。
 確かに言われてみれば、顔つきはどことなく似通っていた。先程の驚いた表情だって、そっくりだった。ああもう、私のバカ。……いや待って、この二人にインタビューするよう言ったのは、谷さんだったような。
「櫻井さん、どうしましょう……」
 牧野さんが一旦カメラを止め、耳打ちしてきた。
「これじゃあ趣旨に合わないし、ダメでしょうね」
 カップルでないのなら致し方無い。また探し直しだ。私は二人に向き直り、頭を下げた。
「確認もせず話を進め、申し訳ありません。とんだ勘違いを……」
「あ、いや、別に謝ってもらわなくても」
「あのっ、インタビューはどうなっちゃうんですか?」
「私どもとしてはカップルの方にお話を伺いたかったので……そちらも無しということで」
「うぅ……」
 がっくりと肩を落とす妹さん。悪いけど、恨むなら谷さんを恨んで頂戴。
 その背中を、お兄さんがポンと押した。
「じゃあ僕ら、行きますね」
「はい。お時間をとらせてしまい、すみませんでした」
 私は再び頭を下げ、二人が人混みに消えていくのを見送った。そして牧野さんと長い溜息を吐く。
「なんだか、一気に疲れた気がする」
「そうですね……」
 すると、口笛を吹かんばかりに素知らぬ顔をした谷さんが現れた。
「話は聞いてたぜ。まあそのなんだ、そういうこともあるさ。んじゃ、張り切って次行こうや」
 あなたが言わないで下さい、と言う言葉は腹に留めておく。
 その瞬間、不意に周囲に黒い影が落ちた。私たちだけでなく、周囲の人達も皆、一斉に空を見上げた。
 そこに、あったものは――。


   ・あの日-律花の視点・1-

「わたしが……お兄ちゃんと……うふふっ」
「律花、何をブツブツ言ってるんだ?」
「べ、別にお兄ちゃんには関係ないよ!」
 わたしが高校に入って初めての夏休みが始まった。新しい友だちも出来て、さあ一回限りの高1の夏を謳歌するぞーっ! と思ったんだけど、よく考えたら今まであんまりお出かけ用の服を持っていなくて、買いに行くことにした。折角なら新宿とかまで行ってみたい。でも、一人じゃ心細い。――ということで高3のお兄ちゃんに聞いてみたら、最初は嫌そうだったけれど最後には「僕もそろそろ参考書買うつもりだったし、本屋にも寄っていいなら」と言ってくれた。
 未だに兄妹二人で出かける、って話をしたら友達には驚かれるけれど、わたしにとってはそれが昔から普通のこと。お兄ちゃんも受験生でさえなければ、渋ることもないくらい付き合ってくれるし、兄弟仲は悪くないと思う。そもそもわたし、お兄ちゃんのことお兄ちゃんとしては大好きだし。
 で、今日は午前中に洋服屋さんに行って、店員さんにオススメしてもらったコーディネートを試着して、気に入ったからそのまま会計をしてもらった。高校生になったんだし、このくらい冒険してみたかったのもある。それに、お兄ちゃんも似合ってるって言ってくれたし。それ以外にも色々買って、今は元着ていたワンピースごとお兄ちゃんに持ってもらっちゃってる。いやぁ、本当にイイお兄ちゃんを持って、妹のわたしは幸せですっ。
 で、お兄ちゃんの目的の本屋さんの前に、とりあえずどこかでお昼ごはんを食べようかと話をしていたときに、後ろからテレビの人に声を掛けられた。テレビに出れると喜んだけれど、結局わたしたちをカップルと見間違えただけで、インタビューはなくなっちゃった。残念。
 だけどそれって、わたしとお兄ちゃんが恋人同士に見えた、ってことだよね? なんかちょっとだけ、うれしい……かも。
 そんなことをぼんやり考えていると、突然足元が暗くなった。ゲリラ豪雨? そう思って空を見ると、そこに雲はなかった。ううん、雲なんてまるで見えなくなっていた。
「なに……あれ……!」
「ピンクの飛行機……いや……」
 それは明らかにおかしかった。大きさも、色も、形も。
 東京タワーよりも大きなピンク色の何かが空から急降下してきて、都庁に跨がるように変形して立った。言葉にすればそれだけなんだけど、実際に見るとまるで特撮の怪獣が本当に現れたみたいな、超が付くぐらいものすごいスケール感だった。着陸の時の風圧が、街中を駆け抜けていく。こんなもの、まだ簡単には宇宙に行けないような人間が作ることが出来るんだろうか。
「宇宙船が塔に……」
 誰もが呆気にとられていると、その塔の真ん中あたりの扉が開いて、中から何かがわらわらと飛び出してきた。それらはいろんな方向に飛び散って、いくつかはこちらにやって来た。
 近づくにつれてその姿が見える。――空飛ぶおまるに乗って、赤服を着て銃みたいのを持ってパンストを被った人。何だあれ。周囲からは笑いも起こる。それくらい、そいつは変な格好をしていた。
 だけどそいつはいきなりこちらに向けて銃を構え、そして撃ったのだ。
「きゃあああああああああっ!」
 運悪く、近くのOLさんがピンクの光に当たってしまった。まさかビーム!? 当たったらドロドロに溶かされちゃうとか!? ……わたしと同じことを誰もが思ったのだろう、悲鳴を上げ目を背けたり、逆に目を離せなかったり、皆の反応はバラバラだった。わたしは後者だった。
 光は数秒続き、そして消えた。OLさんはちゃんとそこにいた。身体は消えていなかった。だけどスーツは、跡形もなくなっていた。OLさん自身も、自分に何が起きたか分からずにあたりを見回し、自分の姿を見下ろした。
 OLさんは、真っ青なハイレグの水着姿になっていたんだ。そして恥ずかしそうにしながらも、何故か足をガニ股に開いて腕をその間に寄せて、
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 コマネチのポーズを一心不乱に取りだした。そんなに嫌そうにするならやめればいいのに。それともそういう趣味? 訳が分からない。
 その直後。周囲の至るところから悲鳴と光が湧き上がった。
「うわああああ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「あああああっ! ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
「いやああああっ! はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ!」
 ここまでなってやっと分かった。あの銃は、人を男でも女でも構わず水着姿に変えて、あの変なポーズを無理矢理させるってこと。
 そして、パニックが巻き起こる。
「たっ、助けてくれええええええええええ!」
「嫌だ! あんなのにされたくない!」
「怖いよぉっ! 怖いよ――わああああ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「おい、しっかりしろ! ぐわあああ! ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
「逃げろ! 遠くに逃げろおおおお!」
 ハイグレという声と、悲鳴と怒号とが混ざって、逆に何も言葉として聞こえない。
 だからわたしは、お兄ちゃんの腕にしっかりしがみついた。
「お兄ちゃん、どうしよう……」
「とにかく逃げるしかない。手、繋ぐぞ」
「う、うん」
 わたしが手を取ると、お兄ちゃんはそれを強く握り返してくれた。温もりが全体に伝わってくる。
 わたしたちは必死に逃げた。土地勘もない迷路のような新宿を、少しでもあの塔から遠ざかるために。人の数は段々減っていく。別の方向に逃げた人もいるんだろうけど、それ以上にビームに撃たれてしまった人の方が多く思えた。行く先にも、ハイレグ姿の人達は数え切れないほどいる。もうどこにも安全地帯なんてないと絶望するのに、時間はかからなかった。
 電車の高架下の暗い歩道で、わたしとお兄ちゃんは壁に寄りかかって息を切らしていた。影に身を潜めれば、見つかる可能性は低いはず。ただ、声は響くので最小限で。
「……みんな、大丈夫かな。お父さんとかお母さんとか、友達とか」
「……大丈夫に決まってる。けど、今日はもう帰ろう。昼ご飯は帰ってから一緒に食おう」
「……分かった」
 正直、お腹が空いているとかは全く気になっていなかった。でも、「一緒に」って言葉が約束になってくれる。わたしとお兄ちゃんが、無事に家に帰るんだ、っていう。
 なのに、侵略者は休息すらも許してはくれなかった。わたしの頬の横スレスレを、あの光が通り過ぎていく。
「っ!?」
「逃げるぞ!」
 足のすくんだ私の手首を、お兄ちゃんは力ずくで引っ張った。それによってわたしは一歩を踏み出したけれど、急な挙動に帽子が耐え切れず、頭からはらりと落ちてしまった。
 あっ、と声を出したのがいけなかった。それを聞いたお兄ちゃんが前に進むのをやめて、転身して背後の帽子を拾いに行く。しかしその時には既に、さっきのパンスト男が二発目を用意していた。狙いは……わたしだ。
「いやっ!」
 わたしは思わず顔を覆った。水着姿にされた後のことを瞬時に考えて、悲観した。
 けれど、私に向かってきていたはずの光線は、私には届かなかった。なぜなら、
「うわあああああ!」
「お兄ちゃんッ!」
 お兄ちゃんがわたしの前に立ちはだかって、光線を代わりに浴びていたから。光の中でお兄ちゃんの服がなくなっていくのがぼんやり見える。そしてそれが晴れると、お兄ちゃんは黒のハイレグ水着を着させられていた。いくら高架下でも、肌色と黒の境目くらい分かる。お兄ちゃんの背中はU字に開き、おしりも半分見えている。男の人が着るには、恥ずかしすぎる服装だった。
 それでもお兄ちゃんは、こちらをちょっとだけ振り向いてはにかむ。
「無事か? 律花……」
「うん、でもお兄ちゃんが……っ!」
「あんまり見ないでくれよ、これでもハ――恥ずかしいんだからさ」
「ご、ごめんっ」
 言われ、わたしは慌てて背中を向いた。お兄ちゃんは続ける。
「……そのまま行け。ぜ、絶対に振り向くなよ」
 どういう意味か、わざわざ聞くまでもない。……そっか。
「分かったよ、お兄ちゃん」
「約束、だぞ?」
 わたしは大きく頷き、そして駆け出した。靴の音がトンネルの中に響く。
 高架を抜ける寸前、遠くから「ハイグレっ! ハイグレっ!」という声が聞こえた気がしたけれど、約束は破らない。
 涙を振り払って、わたしは一人新宿を走る。


   ・あの日-櫻井の視点・2-

 突如現れた謎の建造物から出てきた飛行生物、新宿を蹂躙。……夕刊の見出しはどうなるんだろう、なんて考えるのはただの現実逃避だ。でも、そうでもしなきゃ目の前の現実にパニックを起こしてしまいそうだった。
 人波に呑まれ揉まれながら、それでも元気な人物がただ一人。
「おい! 早くカメラ回せ牧野!」
「は、はいぃっ!」
 谷さんに急かされ、走りながら撮影を始める牧野さん。ただでさえカメラは重く、他にも荷物があるというのに、牧野さんは文句も言わずに従った。
 それを見て、私は少し谷さんに反感を覚えた。
「こんな時まで撮るんですか!?」
「撮るに決まってるだろ! こりゃ大スクープ間違いなしだ!」
「でもまずは逃げないと!」
「ほら牧野! あっち写せ!」
 いくら報道の現場、真実を伝える仕事とは言っても、撮影クルーの身に危険が迫っているときにまですることだろうか。……そう考えてしまうのは、キャスター失格だろうか。どうすればいいのか、わからなくなった。
 牧野さんがカメラを向ける先では、今まさに女性が水着姿に変えられているところだった。
「きゃあああああ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 確かにスクープかも知れない。だけどそれは、誰かのあられもない姿をネタにしてのもの。そんなことをして得た名声やお金に、意味なんてない。少なくとも私はそう思う。
 逃げきれず、水色のハイレグ姿にさせられてしまった女性は、恥ずかしそうに「ハイグレ!」と叫ぶ。恐らく映像では顔までは判別できないだろうけれど、だとしてもあんなものが全国ネットに流されることになったら、私なら死を選ぶかもしれない。
 牧野さんも複雑な表情をしている。女性が人垣に消えたため、カメラを下ろす。
「こんなのもう……嫌です……!」
「現場を嫌がるカメラマンってか? こいつぁとんだお笑い草だな!」
 そう吐き捨てる谷さんは、本当にニヤついていた。この混乱が、彼にとっては興奮の材料だとでも言うのだろうか。
 長い間谷さんを視界に入れるのも苛立ってしょうがないので、私は前を向く。すると左手側のビルの間に、通り抜けられそうな細い路地があるのを見つけた。
「あそこに逃げましょう!」
 言い、私は二人がついてきているかを確認するのも後回しにして、路地に駆け込んだ。影に入ったことで、人だかりの熱気から解放される。ここの存在に気付かず素通りしていく人が多いためか、他には人の気配を感じられなかった。やがて後ろに無事、牧野さんと谷さんもやって来た。
 私が先頭になって、とりあえずもう少々進む。ビル街の路地は入り組んでいるため、身を潜めるにはもってこいだ。角を二、三曲がると僅かにスペースがあったので、私たちはそこで一旦休息をとる。
「これから、どうしたらいいんでしょう……」
 しゃがみこんだ牧野さんが弱音を吐く。そこに谷さんが、休む暇はないと次の命令を出す。
「お前はさっきのVを局に送ってろ。オレは戻ってもう一つ撮ってくる」
「あの、私は」
「中継が繋がったときのために原稿考えとけ。――お、噂をすれば早速局からだ」
 と、このタイミングで鳴り出した携帯に応じながら、谷さんは忙しなく来た道を引き返していった。そして残された私たちは同時に大きな溜息を吐く。
「なんであの人、こんな時なのに生き生きしてるんでしょう?」
「知らないわよ。知りたくもないけど」
 仕方なく、私たちは指示通りのことをする。牧野さんは取材バッグからPCを取り出し、カメラと接続して映像を転送する。私は今の状況を、頭のなかで組み直して文章化していく。
 ――数分後、谷さんがしたり顔で帰還し、手にしていたハンディカメラを牧野さんに突き出す。
「ほら、これも送っとけ」
「谷さん、今、局はどうなっていますか?」
 先程の電話で聞いただろう情報を教えてもらうよう、求めた。
「当然、うちだけじゃなくどこも緊急特番差し替えだ。……まあ、某局はまだL字テロ止まりらしいがな。で、画像ならネットにゴロゴロあるとはいえ、現地の映像はまだまともなモンはどこも手に入れてないらしい。現状を報告したら、うちのお偉いさんはオレたちと中継を繋げたがってる。V2つ送り終わったら、速攻中継だ」
「分かりました」
 打ち合わせを続けていると、牧野さんが「谷さんのも送信できました」と報告した。
 谷さんは再び電話を耳に当て、局のスタッフとやりとりを開始した。牧野さんはカメラを手に立ち上がり、私はその前に立って出番を待つ。精神を落ち着けて、冷静にありのままを伝えよう。
 そう意気込み、待つこと少々。谷さんは五本の指を開く。
「中継入るぞ! 5、4、3、2……!」
 私はレンズをキッと覗き込み、なるべく普段通りにレポートするようにと自分に言い聞かせた。
「はい、こちら現場の櫻井です。ご覧ください……私は現在、侵略者の手に落ちた新宿の街にいます」
 今、私の姿と声は、カメラを通して全国に流れている。緊張しないなど無理なことだが、打ち合わせ通りにやれば大丈夫。
 カメラが私から、空に聳える宇宙船にスライドする。そのまま私は言葉を続ける。
「先ほどまで私は新宿で取材をしていたのですが、突然あの建物が空からやって来て着陸し、そこから現れた異星人から辛くも逃げてきました」
 ここまで言って、カメラは再び私に戻る。
「異星人は空を飛び、装備している光線銃で次々に民間人を襲撃し、ハイレグ水着姿に変えてしまいました。我々は、その実際の映像の撮影に成功しました。どうぞご覧ください」
 そして映像が切り替わる。今頃は撮りたてほやほやのVTRが流れていることだろう。
 だが緊張を緩めてはいけない。すぐに谷さんのカウントダウンが入った。
「ご覧のように、今新宿は、いえ、東京はかつてない異常事態に見舞われています。皆さま、どうか落ち着いて避難を――」
 その時、突然通りの方から女の子の声がした。
「こっ、来ないでぇっ!」
 私たちは思わずそちらを振り向く。見ると声の主は、見覚えのある女の子。そう、さっきカップルと間違えてインタビューをした、その妹さんだった。しかし、帽子は頭からなくなっており、お兄さんは前にも後ろにもいなかった。
「あれはさっきの……」と呟いてしまってからカメラに向き直り、「女性が今、こちらにやってきています」
 すると妹さんもこちらが顔見知りと気付き、一瞬顔を輝かせたが、
「! た、助け――あうっ」
 盛大に転んでしまった。私は慌てて起こしにいく。
「大丈夫ですか!?」
 けれど、踏み出した足は数歩で止まってしまった。彼女の後ろ上空には、あの侵略者が銃を構えて浮かんでいたから。
「い、いやぁっ!」
 私の気付きとほぼ同時に、牧野さんが短い悲鳴を上げる。振り返ると牧野さんはカメラを持ったまま、一目散に路地の奥へと逃げていってしまった。
「牧野さん!?」
 中継はどうするのだ、というか自分たちも一刻も早く逃げなければ。未だ伏せている妹さんを助けられないのは悔しいけれど、そうも言っていられない。
「と、とにかく離れましょう、谷さん」
 と呼びかけるも、谷さんはあろうことか先程のハンディカメラを取り出して撮影の準備をしだしていた。
「……谷さん?」
「このチャンスを逃すってか? バカ言うな、オレは撮る」
「はい!? ここにいたら谷さんも――」
「やられたところで死にゃしねぇだろ、良い画が撮れるならなんだっていい」
 何て頑固で馬鹿なんだ、この人は。
「わ、私は逃げますよ?」
「勝手にしろ!」
「……失礼します」
 そこまで言うような人のために、自分の身を危険には晒せない。私だってアナウンサー以前に一人の弱い人間なんだから。
 二人と侵略者を背にして、私は牧野さんの行った道を走り出す。


   ・あの日-律花の視点・2-

 方向も時間も分からず走っている内に、どうやらわたしはあの建物に近づいてしまったみたいだった。さっきよりもあれが大きく見える。
「お兄ちゃん……」
 呟いても、誰も返事をしてくれない。代わりに聞こえるのは、水着姿にされてしまった人たちのハイグレコールだけ。
 呪いのように頭のなかまでも響くその単語から離れたくて、わたしは近くの路地に飛び込んだ。
 ここなら少しは静かだ。落ち着くまでここで休もう。そう思ったけど、パンスト男が路地の入口からわたしにあの銃を向けていた。
「――っ!」
 背筋が凍った。アレに撃たれたら、わたしもああなっちゃう。それだけは絶対に嫌だった。
 弾かれたように、暗い方へと走りだす。入り組んだ道を何度も曲がるけれど、パンスト男は光線を放ちながらずっと空をつけてくる。振りきれない。
「こっ、来ないでぇっ!」
 思わず叫んだ時、前方に人影が見えた。あれはさっきインタビューされかけた、アナウンサーの人!
「! た、助け――」向こうもわたしに気付いてくれた。嬉しくなったその瞬間、バランスを崩して地面が迫る。「あうっ」
「大丈夫ですか!?」
 ……膝と肘が痛い。ぶつけちゃってジンジンして、動かせない。立ち上がれない。
 アナウンサーの人が起き上がらせてくれるかと期待したのだけど、結局こちらには来ないでスタッフの人と何やらモメはじめてしまった。
 そしてアナウンサーの人は、先に逃げたカメラマンの人を追っていった。もう一人の男の人はすぐ近くの角に飛び込んだまま、見えなくなった。
 わたしは結局、一人になっちゃった。
 それを自覚した瞬間、ガチャンと銃を構える音がした。ハッとしてパンスト男と目が合うと、途端に恐怖が身体を支配してしまった。立ち上がらなきゃと思っても、力が入らない。
 パンスト男がわたしのすぐ近くに降り立つ。とにかく動かなきゃ。芋虫のように転がったけれど、そんなことで逃げられるはずもない。
「やめて……! わ、わたしあんなの、着たくない……っ!」
 今までに見た、ハイレグ水着の人たちを思い出す。あの光を浴びると水着にされた上、変なポーズまで取らされちゃう。
 怖くて仕方なくて、涙が溢れる。引き金が引かれていく。誰か――
「お兄ちゃん……助けてっ!」
 でも、わたしを助けてくれる人は誰もいない。
「きゃああああああああああ!」
 直後、わたしはピンクの光に包まれた。全身がピリピリ痺れる。ああ、買ったばかりの服が消えていく。
 苦しさが消えると、後には赤いハイレグ水着のきゅっとした感触だけが残された。みんあやお兄ちゃんとおんなじ格好。最近膨らんできている胸も、赤い生地に締め付けられていた。
「わたし……んあっ……!」
 ほんの少し身体を動かしただけで、水着が色んな所を擦って刺激してきて、ゾクゾクした。くすぐったいような、気持ちいいような。
 でも、こんな恥ずかしい格好で気持ちいいだなんて。こんな……見えちゃうそうな水着で……。
 突然、身体が勝手に動き出した。足が開き、腕がその付け根に添えられていく。どうして? 止められないよ! このままじゃ、あのポーズさせられちゃう!
 いや。嫌。イヤ。――でも、抵抗は無駄だった。
「……ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 どれだけやめてと念じても、一度始まった最悪の言葉とポーズを止めることは、わたし自身のことなのに出来なかった。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 股間を強調するようなはしたない動きを、何度も何度も繰り返す。嫌なのに。嫌なのに。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 なのにわたしは思ってしまう。どうしてこんなにハイグレは……気持ちいいの?
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 じわじわと身体の内側が暖かくなって、脳みそが蕩けるように熱くなる。
 怠さのない熱に浮かされているかのような、ぼんやりとした気持ち。だけど一つだけはっきりしてるのは、
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 もうわたしの身体は、ハイグレを受け入れてしまったということ。
 でもどうしてだろう。気持ちよさはちゃんと伝わってるのに、身体はわたしのものではないかのよう。分厚い上着か着ぐるみを着ていたらこんな感じだろうか。筋肉に動かすように命令をしても、反応がものすごく鈍くてもどかしい感じ。
 そして、とっても眠い。こうして考えているわたしは、まだ一応人間の考え方ができている。けれど光線を受けた瞬間に現れた『ハイグレ人間のわたし』が、わたしの身体と心を乗っ取ろうとしている……よく分からないけど、多分そうなんだと思う。身体はもう奪われた。心の方も今、潰されて眠らされようとしてるんだ。
 わたしが眠った後、『わたし』はどうする気なんだろう。……あぁ、だんだん意識が……それにしてもハイグレ、気持ちいいなぁ……。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ……っ」
 『わたし』はハイグレの途中で何かを見つけたようだった。視線の先には……なんだろう? それに近づくために、ハイグレをやめてしまう。
 向かった先は路地の角。そこには、何かを構える人間の男の人がいたみたいだった。怯えてるのかな、怒ってるのかな。
 わたしの口が『わたし』によって動かされる。
「まさか隠れて撮ってたんですか? わたしがハイグレ人間になるところ」
 自分の声が、耳の中でぐわんぐわんと響く。視界もぼやけて、もう本当に寝ちゃいそう。
「じゃあ見せてください! わたし、どうやってハイグレ人間になったんだろ?」
 『わたし』と男の人、何の話?
「……返せ」
「え?」
「オレのカメラを返せ! ――ぐああ!?」
 ……全然聞こえない。でも、どうしてかちょっとだけ気分がワクワクしたことだけは確かで、
「一度見たらちゃんと返しますって。……えっと、まずは録画停止しなきゃいけないのかな?」
 そこでわたしの意識は途絶えた。


   ・あの日-櫻井の視点・3-

 谷さんと妹さんを置き去りにして道なりに進むこと数十メートル。角を曲がるとそこには屈んで膝に手をついている牧野さんがいた。
 私と牧野さんの目が合う。彼女は私を見るや一瞬安心した表情をして、それからカメラを向けた。
 てっぺんに赤いランプが付いている。ならばと私は責務を全うすべく、荒れた息を必死に抑えてマイクを握りしめた。
「し、失礼致しました。先ほど私たちは異星人に遭遇し、その際撮影クルーひとりとはぐれてしまいました。クルー、及び女性の安否は不明です」
 どんな事情があろうとも、これが事実だった。そして私たちが直面している、悪夢のような現実だった。
「このような事態が、現在東京のあちこちで発生していると思われます。しかし私たちは皆さまのために、撮影を続行したいと思っており――」
 ……悪夢は、今度は前からやって来た。
「み、見つかった!?」
 私の声につられて、牧野さんも首だけ後ろを向く。そこでは大量の侵略者たちが、私たちを見下ろしていた。
「わ、私たちは今、侵略者たちに囲まれています……!」
 そして銃を向けてくる。アレに撃たれたら私も、ハイレグ水着にされてしまう――!
 もう、職務がどうとか言っていられる余裕はなくなった。早くここから逃げなくちゃ。そんなことを思ってしまう私はアナウンサー失格だろうか。
「私は、私は――助けて! 誰か助けてえええっ!」
 失格でも何でもいい。私は生き延びたい!
「櫻井さん!?」
 ごめんなさい牧野さん。今ならあなたの気持ちが分かる。でも、あなたも分かるでしょう? 私だってハイグレは――
 その瞬間、背中に形のない衝撃を受けた。 
「きゃあああああああっ!」
 視界が真っピンクに染まり上がる。かと思うと青になり、またピンク。……撃たれたんだ、私。
 スーツとタイトスカートが消えていくのは開放感もある。けれどその代わりに着せられるのがハイレグ水着なんて。この時代にハイレグとか、バカとしか思えない。しかもピンクよピンク。本当に……あり得ない。
 あり得ないけど、私はそのあり得ない格好にされてしまった。そして牧野さんも、
「あああああああああああっ!」
 振り返れない私には見えないものの、その悲鳴で全て理解できる。私たちは仲良く侵略者の手に落ちた、ってこと。
 派手派手な色とハレンチな角度が私を包んでいる。他には何も着させてもらえない。こんな恥ずかしいことが他にある?
 ……いや、ある。そしてそのもっと恥ずかしいことを、これから私はさせられるのだから。
 じわりじわりと、私の身体は私の意志を離れてあのポーズをとろうとしていた。悔しい、どうしてこんなこと……!
「ハ、イ……グレ……!」
 水着のV字と同じ線を両手で描く。二十ウン年の人生を振り返っても、こんなはしたない動きはしたことない。こんなことさせて、あいつらは何が目的なのよ……!
 ここに牧野さんとあいつらしかいないのは、まだ通りでやられた人よりはいいかもしれないけど。
 ――ちょっと待って。まさかカメラ、回ってないわよね? 首も動かないから牧野さんのカメラがどうなっているかも確認できないけれど、もしも私のこんな姿が映されていたら私、一生外を歩けない!
 く……と、止まらないぃっ……!
「ハイグレ……ハイグレ……ハイグレ……!」
 口も勝手にハイグレと言ってしまう。そう言えばどうしてハイレグじゃなくて、ハイグレ? と言うより、正に宇宙から来たような侵略者が、地球と同じハイレグ水着の文化を持っていたことを驚くべきなのかもしれない。
 と思ってから、自分の言葉に違和感を覚える。……彼らは本当に侵略者なのかしら。愚かな地球人を救うために、天から遣わされた救世主って可能性もあるのに。人間全員を平等な姿にして、同じ言葉を唱えさせて心を一つにする。それは素晴らしい世界に違いない。私も、その一部になっていく……。
「ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ」
 ……なんだか頭がぼーっとする。私さっき、何を考えてたっけ。ハイグレ……ハイグレがどうとか、思っていたような。もやもやして、思い出せない。頭が回らない。
 私の心が身体や脳からぷつりぷつりと切り離されていっているような感覚がする。『私』が遠のいていき、自分の思いが伝わらなくなっていく。私が『私』の奥底に、閉じ込められていく。
 そして『私』は私から自立して、勝手にこんなことを考えだす。
 ハイグレは、私がしなきゃいけないこと……ハイグレは、ハイグレ人間の証……私は、ハイグレ人間……。
「ハイグレ、ハイグレ――ハイグレ!」
 私はハイグレ人間。パンスト兵様にハイグレ人間にしていただいた……。
 私の使命は、ハイグレをすること。そして、まだハイグレを知らない人間に、ハイグレの素晴らしさを伝えること。何故なら私はハイグレ人間で……アナウンサーだから。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」
 さっきから聞こえていた牧野さんの声も、ようやくはっきりしてきた。身体がくるりと振り向くと、そこには白の小柄なハイグレ人間がいて、笑顔で大きくハイグレをしていた。
 牧野さんの持っていたカメラは今パンスト兵様の一人に使われていて、お仲間の方々を通してハイグレ魔王様のお声を全国に放送している最中だった。ハイグレ魔王様のことは国民のほとんどは未だ知らない。これから自分たちの仕えるべき主様のことは、前もって知っておくのが望ましい。
 ……『私』は一体、何を言ってるんだろう。何を思ってるんだろう。ただ靄の中で、『私』がカメラの前に立っていることだけは分かった。
 『私』は混じりけのない純粋な気持ちで、仕事に向きあおうとしている。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレはとっても気持ちいいですよ! だから全国の皆さん、ハイグレを着て、ハイグレ魔王様にハイグレを捧げましょう!」
 まさか、中継されてる? 今の私の姿が、全国に流されてるの? ……カメラのランプは、もうほとんど見えない私の視界の中で、赤々と灯っていた。
「ハイグレ人間になること、それが人間に与えられた最高の幸福なのです! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 やめて……いや……私を見ないで――もっと『私』を見て――見ないで……っ!
 そして白く暖かな恐怖の中に、私は落ちていった。


   ・その後-幕間-

 7月某日、新宿に突如舞い降りたハイグレ魔王は、パンスト兵の大編隊を放って地球人を次々にハイグレ人間に転向させていった。
 最初の一日で都心の約百万人が。一週間で首都圏一千万人弱がハイレグ水着姿となり、魔王のしもべとしてハイグレポーズを繰り返す存在となった。
 各地の自衛隊も魔王城に対して攻撃を行ったが、敵の科学力のほうが圧倒的にそれを上回っており、返り討ちに遭った。
 最早当国に魔王軍の侵攻を防ぐ術はなかった。しかし、他国は自らのハイグレ化を恐れてあくまで内政不干渉のスタンスを崩そうとはせず、自国本土に攻めこまれたときの為に防御を固めるばかりで、救援も望めない。
 やがて更に一週間が経ち、本州の東側はほぼ壊滅状態となった。関西に本格的にハイグレの魔の手が延びるのも時間の問題、取り残された人々はただ審判の日を待つしかなかった。
 しかし、奇跡は起きた。ハイグレ魔王の襲来から15日、ある瞬間に全てのハイグレ人間はハイグレを止め、その場に昏倒した。それは魔王が地球侵略を諦め、城とともに宇宙へ帰還したことを意味していた。このニュースに、人間たちは湧き上がった。
 だが一体、何故ハイグレ魔王は帰還したのか。その後の噂では謎の仮面の男が一騎討ちに勝利したとか、愛と正義の美少女戦士がお仕置きしたとか、嵐の五歳児がカンチョーで撃退したなど様々に飛び交ったが、そのどれも根拠の無い話でしかなかった。真相は宇宙の彼方に消えていってしまったものの、ともかく地球の危機は去ったということだけは、誰もが認める紛れも無い真実であった。
 ちなみにハイグレ人間にされた人々は、魔王が飛び立つと同時に倒れ、数分で意識を取り戻した。その際服装は光線によって消された分まで全て元に戻っており、着ていたハイレグはそのままの形で体の下に敷いている状態であった。一人一着のハイレグは、魔王が残した置き土産となった。また、記憶の方は誰もが、ハイグレ光線を浴びた直後から徐々に眠くなったり靄がかかるようにして曖昧になっていき、ハイグレ人間となった『別の自分』がハイグレポーズを取るなど完全に身体を支配するところで、途絶えてしまっているという。ハイグレ人間として過ごした二週間の『記憶』は、ほぼ残っていなかったのである。それはある意味では、救いであったといえる。
 というのは当人の心の中だけの話。一億総カメラマン時代を越え、今や誰もが全世界に情報を発信する事のできるツールを持っている。そんな時代に、『記録』に残らないはずはないのだ。

 その前に、櫻井アナの中継映像にまつわる話をしておこう。
 中心地新宿から行われた文字通り決死の生中継は、局の緊急特番内で全国に放送された。それは他のどの局よりも早い映像であり、正体不明の侵略者の情報を知りたい国民はこぞってチャンネルを合わせた。そして目にしたのは、ハイグレ光線に撃たれて洗脳された櫻井アナの哀れな姿であった。この後多くのカメラが新宿に潜入したが、これほどショッキングな映像は撮影することは出来なかった(途中で撮影クルーがハイグレ化した事例も数知れない)。
 国民の多くは櫻井アナの身を案じ、そして同時に己に重ねて慄いた。だがしかし、正反対に得も言われぬ感情を抱いた者も少なからずいた。要するに――彼女の光の中で喘ぐ様子や、思想を一瞬で書き換えられてしまったこと、あるいは単純に水着一枚で羞恥的なポーズをとる姿に興奮を覚えたり、己もハイグレ人間になりたいと思ってみたり――ハイグレに目覚めてしまった者もいた。
 地上波で流された櫻井アナの洗脳映像は、瞬く間に動画サイトなどを通し全国に拡散。と同時にハイグレの性癖に覚醒する人の数も密かに増えていった。
 また、事態はそれだけでは収まらない。世相として当然のごとく、各種SNSには衆人の目に触れる形で、友人知人あるいは赤の他人のハイグレ画像や動画がアップロードされ、溢れかえった。そして蒐集家たちは掲示板でハイグレ情報を交換しあったり、画像サイトを作ってアクセス数を伸ばそうと目論んだ。ハイグレはたった二週間の間に、特殊性癖の1ジャンルとしての確たる地位を得てしまったのである。
 そして迎えた魔王帰還。再びテレビ業界に話を戻すがこの後、そもそもがハイレグ水着という際どい格好にさせられた人を、当人の知らないうちに無許可で撮影した映像であるため、プライバシーその他の問題について放送倫理委員会で話し合われた結果、例の二週間以内に撮影されたハイグレ関連の画像や動画はほぼ例外なく放送禁止、という措置がとられることに決定した。これには国民全員が妥当の判断を下した――ただし、ハイグレに目覚めた者達は密かに怒りを覚えていたが――。こうしてメディアが作った『ハイグレの話題はタブー』という風潮に、社会は流されていく。
 しかし、インターネットの世界にそのような常識は通用しない。どれだけ弾圧されようとも、アンダーグラウンドに隠れ潜もうとも、一度芽生え根ざした思いは消えはしないのだ。同好の士が集まってお宝を見せ合うサイトは、ネットを探せばいくらでも見つかるようになった。中でも櫻井アナの映像は、二度と地上波では流れない貴重なものであると同時に多くの人にとっての原点であるため、トップクラスの知名度を誇った。

 そんな中、櫻井アナと双璧をなす形で有名な、一つの動画がある。撮影者はテレビ局のディレクターで、谷という。彼は実は櫻井アナと同行していた撮影クルーの一人で、彼女とはぐれた際にハンディカメラで収めたものこそが、件の映像なのである。
 谷の映像には、とある少女が光線を浴び、そしてハイグレ人間として生まれ変わるまでの一部始終が、つぶさに記録されている。少女の一挙手一投足が、ハイグレ洗脳の恐ろしさと実態をありありと表現しているのだ。ちなみにこの映像が撮られた後、谷自身もハイグレ人間になったという。
 しかし、これは櫻井アナのもののように、どこかの番組内で放送されて有名になったのではない。谷は魔王の帰還後すぐさま、とある所にこの映像を持ち込んだ。その名は国際報道映像大賞――またの名を、キューリッツァー賞。時期が賞の選考締め切り間際であったことや、世界的にもとてつもなく関心の高い事柄であったことが功を奏し、谷の秘蔵映像『ハイグレと少女』は大賞を受賞した。その結果、この映像は全世界を駆け巡ることとなる。日本のテレビでも、流石にこのようになっては自粛など言っていられず、こぞって『ハイグレと少女』を放送した。このように、『ハイグレと少女』はその映像的価値もさることながら、テレビで唯一放送されるハイグレ映像としても有名になったのだ。8月下旬の話である。

 (中略)

 ハイグレ魔王の襲来は、社会のありように大きな衝撃を与えるとともに、多くの人々の運命を狂わせた。
 地球上に「ハイグレ」という言葉を産みだしてしまったハイグレ魔王の名前は、人間の歴史が続く限り伝えられていくだろう。
 ただし、再びハイグレ魔王がやって来ることによって人間の歴史が幕を閉じても、やはりその名は轟き続けるに違いない。

   ――『「ハイグレと少女」にみるハイグレ魔王の影響とインターネット文化』より一部抜粋――


   ・その後-櫻井の視点・9/2-

 背後におぞましい悪寒を察知して振り向くと、そこにはやはり谷さんがいた。
「櫻井、話があるんだが」
 谷さんは局の廊下でそう言って私を呼び止め、会議室に連れて行った。
 ハイグレ魔王が帰還した後、あの時一人残って妹さんを撮影した映像でキューリッツァー賞を獲り、一躍時の人となった谷さん。方方からの取材も冷めやらぬ中、会社は谷さんの功績を讃え異例の大幅昇進を決定、結果として社内でも相応の地位に立つこととなった。それがどのくらいかというと、番組表の二割を掌握する程度、と言えば分かりやすいだろうか。10月の番組改編期から始まる番組の多くは、谷さん主導によるものである。
 これほど追い風が吹いてトントン拍子でことが進んでいく谷さんを見ると、正直私は面白くない。妬ましい、とさえ思ってしまう。
 だって、方や女の子のハイグレ化を撮ったら有名人になり、方やハイグレ人間となってテレビに映ったら色んな意味で有名人。どこに行くにもどの番組に出るとも、私は最早『ハイグレアナ』だった。あれ以来もちろん、ハイグレポーズなど人前でしたこともないのにだ。
 家の周りでウォーキングをすれば、中年のおじさんに「ねーちゃん、ハイグレ見せてくれよ!」と笑われ、スーパーで買物をすれば子供に「あっ! ハイグレアナだ!」なんて指をさされ、電車に乗れば周囲にはざわめきが起きる。みんな、あの映像を頭に描いているのだ。みんなの目には私は、未だにハイレグを着ているように見えているのだ。
 確かにあれ以後、中継レポートの回数は増えたし、特番のMCを務めることも多くなった。だがそれは、局がハイグレアナとしての私を広告塔に使おうとしていることの現れ以外の何者でもない。出演すればするほど、ハイグレアナのイメージは固着する。その精神的デメリットは、有名税という言葉で収まるものではない。
 ……でも。悔しいことに私はこの仕事を辞めたくはない。アナウンサーは小さい頃からの夢だ。それが叶ったというのに、こんなことで諦めたり、局と対決するようなことはしたくない。矛盾する思いが心に渦巻く。今後の身の振り方を決めるターニングポイントは、今のような気がするのだけれど。
「それで、お話とは何でしょう」
「そう怖い顔するなよ、ハイグレアナさん」
「……やめて下さいと、何度も言っていますよね」
 語気を強めた抗議に谷さんは耳を貸すこともなく、自分の話に入っていく。
「オレも忙しいんでね、手短に話す。――櫻井に、10月からの新番組のMCをやってもらいたい」
 今は9月2日。10月頭の番組のためのロケをするにはギリギリに近い期間しかない。
 オファー自体は非常に嬉しい。けれど、何か裏があるような気がして仕方がない。
「どのような番組ですか?」
「これが企画書だ」
 大きな机にバサリと置かれたホチキス止めの資料には、『凸撃! あの人の現在は』という番組名が書かれていた。適当に目を通すとどうやら、一時期有名になったが最近はテレビの露出の減った有名人の現在に密着取材するという、言ってしまえばありがちなものだった。後ろには台本もついている。
 私が資料に目を落としている内に、谷さんは続けて話しだす。
「初回は2時間SP。そういう古典的な企画だからこそ、初回のインパクトが大事なんだ。番組なんてな、初め良ければ全て良しなんだ」
「SPがインパクト、ですか?」
 嘲笑の意を込めて言う。そして返されたのは、思いもよらぬことだった。
「んなワケないだろ。初回の目玉は――お前だ、櫻井」
「……っ!?」
「初回のトリはお前のロケだ。行き先は一般人の家。だが、お前もオレもよく知っている人の家だ」
 嫌な予感のサイレンが、頭のなかでけたたましく鳴り響く。
「……『ハイグレと少女』の少女、と言えば分かるだろう? ロケの内容はこうだ。『ハイグレアナと少女の再会、そして――!』」
 あえて言われなくても中身は分かる。こいつ、私とあの子にまたアレをさせるつもり? 
「彼女に取材許可は取ったのですか?」
「おう、昨日電話でな」
 俄には信じられないが、谷さんが嘘を言っているとは思えない。
「もし私が、この話をお断りしたら?」
「構わないが……お前をどうにでもできるくらいの権限が、今のオレにはあるんだぜ」
 即答してニヤリと気味悪く笑う谷さんの顔に、私はどことなくハイグレ魔王の仮面を思い出した。

 結局私は企画を呑んだ。出された条件もろくに聞かず、全てに頷いた。
 そしてぐったりげんなりの帰宅後。「ただいま」と声を掛けても、それほど広くないアパートの一室から返ってくる声はない。男の人と付き合っている余裕もないし、とりあえず今は仕事に打ち込みたいと思っている。
 私はいの一番にクローゼットの前に立った。そしてスーツ、ストッキング、ブラウスと順に脱いでいき、上下の下着のみの姿になる。これまで自分を縛り付けていた衣類がなくなったことで、開放感を味わう。……でも、まだ足りない。
 だからクローゼットを両手で開け、中から着替えを取り出した。私の部屋着は、今やこれじゃないと落ち着かない。
 色は鮮やかなピンク。上から下までひとつなぎにつながっていて、生地は滑らかによく伸縮する。そしてそのシルエットは――まさにハイレグ水着そのもの。その名も『ハイグレ』。
 私は下着をも脱ぎ捨てて裸になり心臓がバクバクと高鳴るのを感じながら、ハンガーから外したハイグレに足を通していく。胸の下まで引き上げてから、肩紐に腕を通す。そして姿見の前に行き、細い股布がちゃんとした位置に収まるように指で食い込みを正す。生地部分の締め付けと、露わになっている手足の涼しさのバランスが今日も心地いい。
 そしてこれも日課となってしまったアレを、数分間する。腰を落とし足をガニ股に開いて、両腕を切れ込みに添える。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ん……っ」
 光線で無理矢理させられたときほどの快感はない。それでも疲労と反比例して、じんわりと心のなかに満足感が溜まっていくのが分かる。私はハイグレ魔王の洗脳が解けた今でも、密かにハイグレの虜なのだ。
 あの日の私の中継映像があらゆる界隈でお宝扱いされていることは重々承知しているし、もちろんそのことは恥ずかしいと思っている。
 けど、それとこれとは別だった。一度ハイグレの快感を知ってしまった私の身体は、もうハイグレ無しではいられないのだった。
 解放の日、目が覚めると服装は元に戻り、ハイグレは脱げた状態でそこにあった。洗脳が解けたことに安堵したその次に私はこのハイグレをどうしようと思ったが、強制であれ、私が一度着てしまったものを放っておくことも出来ずに持ち帰った。そして処分に困って眺めている内に着たいという欲望が溢れてきて、結果こうなってしまった、という話。
 とはいえ、ネットで調べるとこれは私だけに起きていることではないらしい。ほとんどの人は私同様にハイグレを放置せず持ち帰っているようで、その後トラウマとして廃棄する人もいれば、そのまま仕舞っていたり、あるいはこのように気持ちよさに気付いてしまう人もいた。現在はハイグレという単語自体が忌避されているため、表立って公言することは誰も出来ないが、今なお潜在的には多くのハイグレ人間がいるのである。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 自分でもバカだと思う。侵略者の魔の手がせっかく去ったのに、自分から被侵略者の格好をするなんて。でも、やめられないものは仕方がなかった。
 実を言うと谷さんから先程の話をもらったとき、まんざらでもなかったのだ。また合法的にハイグレが着れる、出来る。今度は仕事で仕方なく、という免罪符付きで。
 また全国に痴態を晒すことになるのは分かりきっているけれど、それでもいいやと思えた。私はどうしようもなくハイグレ人間なんだな、と改めて認識した瞬間だった。


   ・その後-律花の視点・9/1-

 ……結局夏休みは、あの後どこにも出かけなかった。って言うか、出かけれなかった。
 新宿でハイグレ人間にされて二週間。目が覚めた時には表の通りでお兄ちゃんと一緒だったけれど、ずっとハイグレをしてたんだと思う。だけどその間のことはほとんど覚えてない。覚えてるのは一番最初、路地に逃げ込んだところでパンスト兵に撃たれてハイグレ姿になって、すっごい嫌だったのに身体が勝手にハイグレさせられたこと。
 その瞬間をカメラに撮られてたってことをわたしが知ったのは、洗脳が終わった後。わたしと同じ顔をした女の子が赤いハイグレでハイグレをして、カメラに迫っていくところで終わる映像を見たときだった。しかもそれが世界的な賞を獲ったらしく、8月中はずっとわたしの映像がテレビに流れっぱなしだった。
 賞のことはすごいことかもしれないよ。でも、勝手に撮られて知らないうちに全世界の人に見られた、わたしはどうなるの? しかも、あんなハイグレのシーンを、だよ。
 こんなんで外に出れるわけない。出たらきっと、色んな人に気付かれる。……一応ハイグレは持って帰ったけど、しまったきり怖くて一度も見てもない。ハイグレは、わたしのトラウマになった。
 でも、原因はそれだけじゃないけど。

「なあ律花。始業式、行かないのか?」
「……っ」
 お兄ちゃんがわたしの部屋に呼びに来た。言われなくても分かってる。夏休みは昨日で終わった。今日から二学期の授業が始まるんだ。
 あの映像が賞を獲った直後から、友達からはメールや電話がひっきりなしだった。ハイグレの話題に触れられないうちは普通に話せたけど、みんなが本当に聞きたいのはあの話。ハイグレの単語が出たときには涙が溢れてきて、ゴメンと言って一方的に打ち切った。こんな調子でクラスに顔を出したらどうなっちゃうだろうって、怖かった。
 でも、それは2週間前の話。わたしの心は、今はどうにかマシにはなった。心の中であの経験の整理がついたというか、折り合いがついたというか、開き直れるようになったっていうか。今ならチラチラ見られたりちょっとからかわれたりする程度なら、笑ってごまかせる。……ただ、あのポーズへの嫌悪感だけは、全く抜けていないけれど。
「まあ、どうしても無理なら――」
「――バカにしないで! わたしを誰だと思ってるの?」
 お兄ちゃんとわたしは同じ高校に通っているから、登校は春からいつも一緒。登校中は少なくとも、お兄ちゃんが守ってくれる。頼れる兄。
 わたしはそんなお兄ちゃんのことが好き。でも――今までどおりお兄ちゃんを心の底から信頼できるか、自信がないんだ。
 だけど、嫌われたくはない。見放されたくない。だからわたしはパジャマのまま扉を開けた。学ラン姿で困り笑いをしたお兄ちゃんがそこにいた。
「まったく、律花は本当に強いよな」
「エヘン。もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
 ……嘘。わたしは弱い。まだまだ胸の奥で傷がジュクジュク傷んでる。それを必死に隠して、虚勢を張って笑ってるだけなんだから。

 家から歩いて三十分の、わたしたちの通う高校。通学路を通りすがる人たちのほとんどは、わたしの顔をちらりと見てくる。もう慣れっこだけど。そんなときは決まって、お兄ちゃんがそいつのことを睨み返す。まるで「こいつは僕のものだ」と言うかのように。嬉しいけど……ね。
 新宿からは十何駅も離れてるけど、ここも一応都内。だからここらへんの人たちもほとんど、一度ハイグレ人間にされている。今素知らぬ顔をしている人も、少し前まで水着姿でハイグレをしていたんだ。そう思うとすごく落ち着かなくてそわそわする。
 そうこうしている内に学校に着き、ほっと息を吐いた。お兄ちゃんとは昇降口で別れ、わたしは四階の教室まで階段を上っていく。やっぱり、すれ違う同級生や先輩がわたしに目を向けてくる。悪気がないのは分かってるから責める気もないけど、どうしてこうなっちゃったんだろうって思うことはある。
 ようやく四階に着いたとき、段下から「律花!」と呼ぶ声がした。
「あ――美南、久しぶり!」
 そこにいたのはクラスメートで一番の親友、美南。わたしより落ち着いてるとは思うけど似たような性格で、4月の初登校日から気が合って仲良くなった。夏休み中の苦しい時期にも、決して美南はハイグレって単語を使わずに話してくれた。わたしが立ち直れたのは、美南のおかげと言っても過言じゃない。
「だねー。って大丈夫? 顔色悪くない?」
「な、夏休みが終わっちゃったのが残念でさっ! また授業かーって思うと憂鬱で憂鬱で」
「まあそうだけどさ。あたしはずっと暇だったから、皆に……律花に会えるのが楽しみだったよ?」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。ま、わたしも楽しみにしてたけど」
「さっきと言ってること違くない?」
 返事の代わりに、わたしは美南に正面から抱きついた。美南は少し背が高くて、抱きつくには丁度いい。一応言っておくけどわたしだってこんなこと、お兄ちゃんと美南くらいにしかしないんだからね。
「ちょっと律花、何でいきなり!?」
「いいからいいから。これはありがとうのぎゅーなの!」
 戸惑う美南を、感謝の気持ちを込めて制服の上からきつく抱いた。なんだか抱き心地に違和感があった気がするけれど、その正体は分からない。
 十秒くらいで満足して、放してあげる。
「もう……本当に変わらないんだから」
「人は変わらないよ、たった一ヶ月じゃあね」
 何気なく言ってから、猛烈に心がざわついた。
 普通なら、わたしの言ったことは大体正しいはず。でも、日本の人たちは、ううん、わたし自身も一ヶ月前とは全然変わってしまった。……ハイグレ魔王のせいで。
 わたしは湧き上がる嫌なもやもやを掻き消すように、一際大きな声を出した。
「――さ、教室行こー!」
「さっきからなんなのよ!?」
 叫びながら意気揚々と我が教室に突撃。クラスの半分以上がもう登校していて、わたしの声を聞いて一斉に振り向くと、あっと驚いた。まあ、そうだよね。夏休み中にメールをした人もそうでない人もみんな、あの映像の少女がわたしってことくらい気付いてる。
 わたしは教室を見回した。何人かは気まずそうに目を逸らし、何人かは視線がぶつかっても気にせずジロジロ見続け、そして何人かのデリカシーのない男子は、
「よっ、久しぶり! っつっても俺はそんな気しねぇけど」
「見たぜお前の動画。あれヤラセ?」
「なあ、ちょっとやってみせてくれよ。――ハイグレ!」
 寄ってたかってわたしの傷をピンポイントで抉ってきた。扉の敷居を跨いだまま、足が固まる。表情が凍る。それでも彼らは呼びかけ続けてくる。身体の芯がカッと白熱してくる気がした。
「さっきから聞いてればあんたたち……!」
 けれどそれが爆発する前に、わたしの横を通り抜けて美南が勢い良く躍り出た。制服の裾が翻る。
「律花がどんな気持ちでいると思ってるの!?  あんなことになって嫌じゃないわけがないでしょ!?」
「おめぇに言ってるわけじゃ――」
「あんたたちだってハイグレ人間になったなら、あれがどんだけ恥ずかしいか分かるでしょ!? ちょっとは人の気持ち考えなさいよ! バカ!」
 普段見せない美南の剣幕に、男子たちはおろかわたしまで竦んでしまった。そして男子たちは言い返せなくなり、眉をハの字にしてすごすごと踵を返した。
 言いたかったことを全部言われてしまったけれど、この件に関してはものすごく胸がスッとした。やっぱり美南はわたしの親友だ。
 ――じゃあ、何で。
「ごめん律花、勝手に言っちゃって……」
 申し訳無さそうに手を合わせて振り返る。同時に再び裾が翻り、その内にチラリと見える、黄色の生地。
 そう、わたしが美南に竦んだのは、怒鳴り声のせいだけじゃない。
 ――じゃあ何で美南も、制服の下にハイグレを着てるの?

 結局この後一日、視線を投げかけてくる以外に直接誰かから何かを言われることもなく、放課後の美化委員の仕事を終わらせて帰途に就くことができた。注目される理由さえ考えないように努めれば、丸一日有名人気分を味わえたけど。でも、この生活がまだまだ続くだろうことは、簡単に想像できる。はぁ、と一人、ため息を吐いた。
 でも、頑張らなきゃ。これ以上ハイグレ魔王に負けたくないし、それにお兄ちゃんにも心配掛けさせたくないから。
 お兄ちゃん、と思ったとき、2週間弱前のあの光景が脳裏に鮮明にフラッシュバックした。
 ……あれは、あの映像の受賞から二、三日後。悪夢にうなされて眠れずに、夜中のベッドの中で悶々としているときだった。
 頭が冴えてどうしようもなかったので、わたしは水を飲みに静かに部屋を出た。すると廊下のすぐ向かい側、お兄ちゃんの部屋のドアが少しだけ開いていて、中からうっすらと光と声が漏れていた。その正体を確かめるべく、隙間から中を覗き込む。そして薄暗がりの中で目にしたのは、
『ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!』
「……ハイグレっ、ハイグレっ、ハイグレっ、ハイグレっ、ハイグレっ」
 パソコンのモニタであの映像を再生しながら、わたしのハイグレに合わせて黒のハイグレ姿で一心不乱にハイグレポーズをとる、お兄ちゃんの姿だった。
 ハイグレを持ち帰った人の中には、またハイグレを着てしまう人がいると、ネットで見た覚えがある。けどまさかそれが、お兄ちゃんのことだったなんて。しかも見てるのが、妹のわたしのハイグレ映像。そのショックは、お兄ちゃんへの長年の信頼を打ち砕くには充分だった。
 部屋に戻っても寝付けるわけもなく夜を明かし、早朝もう一度お兄ちゃんの部屋を覗くと、ベッドの上にはパジャマ代わりにハイグレを着て眠る、一人のハイグレ人間がいた。
 朝ごはんを家族で食べたとき、お兄ちゃんは部屋着に着替えていた。でもそのTシャツには、黒い肩紐の色がうっすらと見えていた。
 わたしのお兄ちゃんはわたしを守ってハイグレ人間にされてしまった。だけど今は、自分からハイグレ人間になることを選んだ。わたしのお兄ちゃんはここにいるけど、わたしの好きなお兄ちゃんはどこかに行っちゃったんだ。
 これが、わたしがハイグレを余計に嫌いになり、そしてお兄ちゃんを信じられなくなった最大の理由だ。
「……ただいま」
「おかえり、律花」
 リビングで受験勉強の息抜きをしていたお兄ちゃんが笑う。
 ……何であっても、この人はわたしのお兄ちゃん。その服の下にハイグレ着てるの? なんて、嫌われるのが怖くて聞けなかった。わたしはお兄ちゃんの、妹でいたいから。
 その瞬間、玄関の電話がジリリリと鈴を鳴らした。慌てて受話器を取りに行く。
「はい、もしもし」
 電話口から聞こえたのは、中年のおじさんの声だった。聞き覚えがあるような、ないような。
「突然失礼します。小田原律花さんでいらっしゃいますでしょうか」
「……はい、そうですけど……」
 気味が悪い。何かの勧誘? だとしたら返事はまずかったかな。
 けれど次のおじさんの言葉に、わたしは心臓を飛び上がらせた。
「私、○○テレビの谷と言います。実はあなたのことを撮影し、国際報道映像大賞を受賞したのも私なんです」
「え――」
「あのときは非常事態ではあったものの、許可もとらずにカメラを向けたこと、申し訳有りませんでした。また、無断で賞に応募したこともお詫び申し上げます。あなたのことを探そうにも、時間が足らなかったのです。ですがあの映像は、国際的に資料的価値を認められました。これはひとえにあなたのお陰であると確信しています。事後承諾となってしまったことは心苦しいのですが、どうか私の事情をご理解いただければと思います」
「は、はぁ」
 頭の処理が追いつかない。今、慇懃無礼な谷さんが言ったのは要するに、「あの映像を勝手に撮っちゃったけど許してね」ってことだよね。
 あなたのせいで、などと反論する間も与えられず、わたしは続けざまに早口でまくし立てられた。
「さて、今回あなたにお電話差し上げたのは、もう一つ理由があります。実はこの秋放送を予定している番組に、あなたに出演してほしいと考えているのですよ。『凸撃! あの人の現在は』という番組なのですが、少し前に有名になった方の現在を取材するというコンセプトでして、その初回放送であなたのことを取り上げたいのです。あなたであれば知名度は抜群ですし、私としてもぜひお願いしたいと思っています。もちろん、ご出演の対価もお支払い致します」
「そ、その……インタビューってこと、ですか?」
 恐る恐る、番組の内容を聞いてみる。
「はいそうです。ちなみに顔出し出演となりますが、コンセプトがコンセプトですのでご理解ください。内容をご説明いたしますと、我々スタッフとリポーターがお宅に伺いまして、そこでご本人様にインタビューをいたします。質問は事前にお伝えしますし、撮影の前に回答内容をお聞きしてこちらで手直しもしますので、その点はご安心ください。何しろ録画ですからいくらでも撮り直しはききますし、焦らなくて結構です。で、ここからが本題なのですが――」
 谷さんは一度勿体つけたように息を継ぎ、そして言った。
「インタビュー後、あなたのハイグレポーズを、もう一度撮影させていただきたいのです」
「へ……!?」
「番組は有名人の過去と現在を比較するコンセプトで進むので、あなたの場合どうしても現在のハイグレ姿が必要になるのです。カメラの前で二回、それだけで構いませんから、どうかご協力お願い致します。……あ、もし赤のハイグレをお持ちでないのでしたら、こちらで用意いたしますので」
「そ、そういうわけじゃ、――ちょ、ちょっと待っててくださいっ!」
「はい、お待ちしております」
 叫び、わたしは電話の保留ボタンをぐいと押し付けた。そしてペタンと床に座り込む。運動もしていないのに、息が切れていた。
 何? え? わたしまた、ハイグレ着るの? で、それがまた日本中に放送されるの?
 そんなの……そんなのって……。ハイレグのキツく滑らかな感触を思い出し、身体が震えだした。
 断らなきゃ。立ち上がり受話器をとろうとしたとき、リビングからお兄ちゃんがやって来た。
「どうしたんだ? 電話、誰からだ?」
「あ、あのね」
 そしてわたしは内容をかいつまんで説明した。相手があの映像を撮った谷さんであること、番組の出演依頼だったこと、その中で……ハイグレをするよう言われたこと。
 話が終わるとお兄ちゃんは、わたしの肩をがしりと掴んで、いつにない真剣な表情でこう言った。
「――絶対受けろよ、その話」


   ・その後-放送映像-

 CM明け。ガヤの拍手の音が消えるのと入れ替わりに、クローズアップされるMCテーブルの櫻井アナが喋り出す。
「では最後の凸撃です。今回の凸撃リポーターは私、櫻井です。そして、その調査対象者は……!」
 傍らのディスプレイが『凸撃! あの人の現在は』という派手な番組ロゴから、『「ハイグレと少女」再び! ハイグレアナと少女の再会、そして――!』という太字ゴシックに変わる。櫻井はそれをそつなく読み上げた。
「それではご覧下さい。どうぞ!」

 拍手の中、VTRが切り替わる。画面隅にはスタジオのゲストが映るワイプが置かれていた。
 モザイクの掛かった住宅街を、櫻井アナが一人歩いている。
『凸撃リポーター櫻井が向かったのは、都内某所の閑静な住宅街。ここにあの有名人が住んでいるという情報を聞きつけた我々は、すぐさま調査に向かった』
 渋い声のナレーターがこのように実況する間に、櫻井アナは一軒家の扉の先に辿り着いていた。
 呼び鈴を押す。すると「はい」と少女の声がして、扉が開かれた。
「あっ、小田原律花さんですか?」
「はい、そうです」
 彼女の顔が映ったところで場面が静止、下に名前と年齢のテロップが表示される。
『彼女が調査対象者である小田原律花さん、15歳。彼女が有名になったのは、つい一ヶ月半前の事である』
 再び映像が変わる。直後、
『やめて……! わ、わたしあんなの、着たくない……っ!』
 壁際で何者かに必死に哀願する、律花の姿が映し出された。キューリッツァー賞受賞映像作品『ハイグレと少女』の一幕である。
 それから律花は無慈悲にハイグレ光線を浴びせられ、幾十のハイグレの末、完全にハイグレ人間として洗脳されてしまった。
『そう、彼女こそあの「ハイグレと少女」の少女なのだ』
 ここで、律花と櫻井アナが家のリビングで向かい合って座るVTRに移る。
 櫻井アナが律花に、質問を投げかける。
「では小田原さんにお話を伺いたいと思います。まず、あの時は何故新宿に?」
 律花は傾けられたマイクに対し、口角を上げながら答えた。
「兄と二人で買い物に来ていたんです。そうしたら突然ハイグレ城が降りてきて……」
 ここから二人の質問と回答の応酬が続いていく。途中で声だけはそのままに画面だけはしばしば、資料映像と称して全面モザイクを掛けたハイグレ人間たちの複数の映像に切り替わっていた。
「それで逃げたのですね。逃げている最中はどう思っていましたか?」
「絶対にハイグレ人間にはなりたくない、って思いながら、兄と逃げていました」
「映像にはお兄様はいらっしゃらないようですが、お兄様は?」
「兄は途中でわたしを庇って、ハイグレ姿に……」
「そうでしたか……。小田原さんはそれからどうされたのですか?」
「一人で街中を走り回っていたらいつの間にか路地に迷いこんでいました。でも、パンスト兵に狙われてることに気付いて、慌てて逃げようとしたら転んでしまって」
「映像のシーンはそういうことだったのですね。――洗脳の最中は?」
「もちろん恐かったし、すごく恥ずかしかったです。身体が勝手に動いて、ハイグレ姿であんなポーズを……」
「私も洗脳された瞬間を生中継されたので、お気持ちはよく分かります。中継といえば、小田原さんはカメラに気づいていらっしゃいましたか?」
「あ、えっと……はい。撮られたことも、その、賞にノミネートされたことも知ってました。まさかこんなに有名になっちゃうなんて、思ってませんでしたけど」
「なるほど。『ハイグレと少女』がキューリッツァー賞を受賞したことは、小田原さんにとっても予想外だったのですね」
「はい」
「では、受賞後周囲の反響などが大変だったのではないでしょうか?」
「た、確かにしばらくはすごかったですけど、今はもう……それほどではないです。わたしももう、き、気にしてませんしっ」
 インタビュー後半になり、とちりが少々目立ってくる。が、対談型のインタビューはここで終わった。
 律花に先導され、階段を上る櫻井アナを追いかけるカメラ。
『続いて我々は、彼女の部屋を見せてもらうことにした』
「どうぞ」
「お邪魔します。――わ、結構綺麗ですね」
 フローリングにカーペット、窓際にはベッドやクッション類があり、別の壁際には勉強机と教科書、本、マンガなどが整然と並べられた本棚がある。散らかってはおらず、質素でありながらどこか女の子らしさもある部屋だった。
 少々部屋内を二人で回った後、櫻井アナがクローゼットに手を掛けた。
「では、服を見せてもらってもよろしいですか?」
「は、はいっ」
 扉が開かれる。その裏には帽子がフックにかかっており、クローゼットの中にはワンピースや秋冬用のジャケットがハンガーに吊るされていた。その、並びの中に、
「あれ、これって――」
 櫻井アナが何気なく手に取ったのは、赤い色をしたハイレグの水着であった。対して律花は少し頬を染める。
「あ、それわたしの着てたハイグレです。あれから一度も着てないんですけど、どうにも捨てられなくてしまってあるんです」
「じゃあ」
 櫻井アナはニヤリと笑うと突然、カメラの前でスーツを脱ぎだした。ブラウスをはだけたその中には、あろうことかピンクのハイグレを着込んでいたのだった。
「せっかくなので私と一緒に、ハイグレしませんか?」
 キャアともワアとも付かないスタジオの声が被さる。と、ここで画面が暗転。
『なんとハイグレを着ていたハイグレアナ! 果たしてその要望は彼女に届くのだろうか?』

 CM、120秒間。

「じゃあ、せっかくなので私と一緒に、ハイグレしませんか?」
『なんとハイグレを着ていたハイグレアナ! 果たしてその要望は彼女に届くのだろうか?』
 キャアともワアとも付かないスタジオの声が被さる。そしてカメラは律花をアップにした。
「……はい、します」
 律花は頷き、赤のハイグレを手に取った。ズームアウトすると、櫻井アナはスカートを脱ぎ去るところだった。ハイグレを持つ私服の律花と、ハイグレ一枚の姿の櫻井アナが肩を並べていた。
 すると再び、櫻井アナが妖しい笑みを見せ、律花に人差し指を向けた。
「では行きますよ? ハイグレ人間になぁれ~っ!」
「きゃあああ!」
 なれ、という言葉の直後、映像がピカッとピンク色に埋め尽くされる。安っぽい編集効果が終わるとそこには、赤いハイグレを着て顔を同じくらい赤らめた、律花が立っていた。
「ということで小田原さんにも久しぶりに、ハイグレ人間になって頂きました! 小田原さん、どうですか?」
「やっぱり恥ずかしいです……。で、でも、ハイグレ人間ですから、あれしなきゃですよねっ」
 と、意気込んで胸の前でガッツポーズをする律花。それから腰を落とし足を大きく開き、腕を水着のV字にピタリと添える。カメラは範囲いっぱいに、彼女を余すところなく捉えている。
 そして律花は、あの屈辱の動きを再びカメラの前で見せるのだった。
「――ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 ひどく恥ずかしそうな表情ではあったが動きにはキレがあり、少なからず楽しそうな雰囲気を感じられるハイグレポーズであった。
「いいハイグレですねぇ、久しぶりとは思えないですよ」
「なんだか身体が覚えてるみたいで、ちょっと気持ちいいかもです……」
「それでは私もご一緒させてくださいますか?」
「はい、もちろんです!」
 再びカメラが引き、枠内に二人のハイグレ姿の女性が映し出される。律花と櫻井アナは示し合わせたかのように動きを揃え、
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 破廉恥な水着姿で下品なポーズを、延々ととり続けたのだった。
 顔はそのうちに緩んでいき、どちらもとろけたような笑顔に変わる。完全にそれは、ハイグレ魔王の洗脳下にあるハイグレ人間と同じ状態であった。
 そして小田原家で収録したVTRは、このようなナレーションと共に幕を閉じた。
『ハイグレ魔王去るともハイグレは去らず。今や全国に知られるハイグレ人間である二人は再びハイグレに身を包み、幸せそうにハイグレポーズをし続けるのだった――』

   *

 放送後、この番組は方方で賛否両論の嵐を産んだ。
 反対派の意見は「放送倫理に反しているのではないか」「そもそも公然わいせつに反しているのではないか」「露骨なハイグレで視聴率を稼ごうとしている」「(小田原律花の態度がたどたどしいため)ヤラセではないのか」などなど。
 対して賛成派はこれらを全て根拠の無い憶測と一蹴しているが、反対派に言わせれば「お前らはハイグレ動画が見たいだけだろう」とのことである。
 この議論を受けて局や谷プロデューサーは、「放送内容に問題はない」とコメントを述べた以外、黙秘を続けている。
 議論は結局、時とともに風化していった。そして番組は以降ハイグレ関連の話題を取り扱うことはなかったものの、同時間帯内では最高の視聴率をキープし続けた。この状況だけを鑑みれば、反対派の敗北と言うことはできそうである。
 最終的にこの初回放送と、それに起因する不毛な議論の結果、残された事実は一つだけであった。
 それは、二人のハイグレ映像がまたしてもインターネット上で拡散されていった、ということである。

   ――『「ハイグレと少女」にみるハイグレ魔王の影響とインターネット文化』より一部抜粋――




今回のインスパイアは「洗脳の瞬間を撮られてしまった少女と、中継されてしまった女子アナ、そして魔王の去った世界で彼女たちは」という感じです
アイデア元は以下の2レスとなります。(谷さんなみの勝手さですが)いいネタありがとうございました。いつかは書きたいネタではあったのですが、レスを見た途端ピンと来まして、すごく楽しく書かせていただきました
 としあき 14/09/21(日)12:57:15 No.19842122
 としあき 14/09/21(日)14:26:36 No.19842303


で、内容について
今回は「映像パート」についてはただの三人称よりもより無機質に描写するよう、心がけてみました。また、今まで使ったことのない……や――の表現も用いてみました。このような“最近のラノベwww”的なやつですが、それが作者が効果的だと思ったならいいんじゃないですかね、とは感じます。まあ、やり過ぎるくらいなら文章である意味がないですけど
そして、冒頭に注意書いたように「変わりゆく~」ばりの頻度の視点・時間軸移動も久々にやってみました。時間をさかのぼってでも、その後パートでは櫻井→律花の順で描きたかったのです。お兄ちゃんがハイグレを着込んでいることを先に明かしてしまったら、櫻井アナもそうだと言ってもインパクトが弱くなりますし
あとはそうですね、今回は主人公二人が中心だったので、牧野さん、谷さん、そしてお兄ちゃん(名前は亘といいます)や美南(みなみ)などの描写は最低限しか書けませんでした。構想段階では「あの日-中継映像-」か「あの日-櫻井の視点・3-」で、先に洗脳の終わった櫻井アナにまだ洗脳中の牧野さんの洗脳を実況させたかったのですが、文が長くなりすぎることや局がそんな中継は切ってしまうだろう(今でもギリギリですが)と判断し、ボツとなりました。……でも中継中にスタジオも洗脳されてれば問題なかったですかね
牧野さんならあと、『凸撃!』のVTRを撮影したのも彼女ですね。彼女は多分、ハイグレを着込んではいません
谷さんについては、とりあえず「魔王襲来を機に幸運街道まっしぐら」的なポジションです。何でこんな奴がと思わせるためのヒール役、とでも言うのでしょうか
そんな彼ですが、「あの日-極秘映像-」で書いたもののボツになった部分があるのでここで供養させてください

(洗脳のほぼ完了した律花に谷はハンディカメラをはたかれ、手放してしまう。カメラは壊れず、壁側を向いて止まった)
 音声の録音だけはしかし、マイクの方向が違っていてくぐもっているとはいえ、続いている。
「まさか隠れて撮ってたんですか? わたしがハイグレ人間になるところ」
 返事は聞こえないが、少女の声は進む。
「じゃあ見せてください! わたし、どうやってハイグレ人間になったんだろ?」
 と、カメラがひょいと持ち上げられ、好奇心に満ちた少女の顔がアップになる。
「……返せ」
「え?」
 男の低い声に応えるように、少女は横を向いた。すると、
「オレのカメラを返せ! ――ぐああ!?」
 少女の背後で光が閃き、男は短い悲鳴を上げる。
「一度見たらちゃんと返しますって。……えっと、まずは録画停止しなきゃいけないのかな?」
 プツン。

お兄ちゃんと美南は律花の支えとなる人物で、だからこそそれが素で既にハイグレ人間だと律花にダメージがでかい、てな話です
一応本編解説。「(取材を)絶対に受けろ」と言ったお兄ちゃんは、妹のハイグレ姿をもっと見たいという一心でした。よしんば一緒にハイグレできたら、なんて常日頃から考えています。一方律花がオファーを承諾したのは、一重にお兄ちゃんの言うことを破って嫌われたくないから。ハイグレ人間だろうとお兄ちゃんですから、それだけは辛抱ならなかったのですね
美南に抱きついた時の変な抱き心地の正体は、お分かりの通りハイレグ生地です。書いていて本家サイトのけいおんSSを思い出しました

ハイグレ銃の効果、魔王帰還後の世界について
「~Side:LAB.」では魔王の洗脳効果が切れると、ハイグレ人間は苦しんで倒れ、白い靄の中で元の服装に戻りハイグレは消える、記憶は途中のものぼんやり残る、というように描写しました。が、今回は少々違って、すぐさま昏倒し(戻る途中の様子は未設定)服は元に戻り、ハイグレは脱げてその場に残る、洗脳は完了すると眠るように意識が途絶えしまう(本人の人格がねじ曲げられるのとは少し違う)、という感じです
こうした方が、今回は「自分の意識のない内にカメラの前でハイグレしている」「ハイグレを持って帰れる」ということを描けるなと思ったのです
そもそも原作映画では語られていない点なのでいかようにも設定できますから、今後も描く機会があればその都度都合よく改変していきます
また、その「Side:LAB.」を除けば初めて、魔王が帰った後の世界(と侵略進行中の世界情勢)を書きました。これも想像の余地があり、とても面白かったです。まず、「ハイグレフェチの爆発的増加」は間違いない。それによってレスにあったように「ハイグレ映像はお宝化」するでしょう。そして映された人々はハイグレフェチの肥やしとなり、恥ずかしい思いをする。しかしTVなどでは放送自粛をするでしょうから、余計に映像の価値が上昇する。他にも、侵略中なぜ他国が地球の危機にも関わらず助けてくれなかったと言えば、自国本土が攻撃されていない以上は日本国内の問題であるとみなしたからだとか、書いてはいませんが帰還後は日本の経済はボロッボロでしょう。そこから立て直すには、1年じゃ済まないのではないでしょうか、エトセトラ……
自分は設定厨とまで呼ばれる存在ではないつもりですが、こうして物語世界のバックボーンを考えるのはやはり執筆の醍醐味ですよね

プロットと追加点について
「物語の大筋はプロットを書いておき、洗脳描写はその場のノリで」というのは自分のやり方ですが、実は執筆最中も結構色々物語や展開に追加追加をしていってしまいます。その方が面白くなる、と思うアイデアならプロットから少し脱線しようともお構いなく付け足していきます
例えば「その後-律花の視点・9/1-」での美南や男子たちの描写も、初めは単純に「クラスメートが律花を囲んで映像について聞きまくる」という程度でした。が、「自分を庇ってくれた親友がハイグレを着込んでいた」という方が律花のショックも大きく、お兄ちゃんの話に繋げられると考え、変更しました
が、この部分が執筆が一瞬ストップした原因でした。プロットの変更によって後ろの「お兄ちゃんのハイグレを見た夜を思い出しながら帰宅」に繋げる予定の流れが切れてしまったので、それを軌道修正するのに時間がかかったのです

結局プロットの書き方・書き込み方なんて人それぞれですから、自分がやってみて一番やりやすい方法・程度でいいと思います。でも、本文には出来得る限り妥協はしてはいけません
文章力という不確かなものは一朝一夕にどうにかなるものではありませんが、安易なコピペや使い回し、見づらい文章の段組み、間違った記号の使い方、誤字脱字なんかは誰でもなくすことが可能です。正直自分は、下手な文章よりもこれら文章になっていない文章、文章を冒涜した文章の方が読んでいていたたまれなくなります
……と、こんなことを書いてしまったので、これから過去記事を読み直して、誤字脱字だけは修正してこようと思います。数日後にももし誤字脱字を見つけたら、容赦なくコメントしていただいて結構です(但し小説本文に限る。あとがきは見逃してください。あと、算用数字/漢数字とかも)。なるべく迅速に対応しますので
そういえば小説王国の「変わりゆく~」のどっかに「菜々さん」が「奈々さん」のままになってるところがあったなぁ。せっかく最後に全面修正してやったのに残ってやがった。あそこは記事修正でもageられてしまうので、悔しいけど放置しておきます


ほいではこんな感じで終わりにしましょう
次回作品についてはアンケートの結果の方をご覧ください。ちゃんと頑張りますので
ではでは~

……そういえば今、FC2がヤバイんでしたっけ?
まさかブログサービスまで(しかもこんなにも健全なブログに)飛び火はしないと思いたいですが……もしものためにhtmlとっておこうかなぁ
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香取犬

Author:香取犬
ハイグレの洗脳を受けて早幾年
遂に自らハイグレ小説を書くようになってしまいました
いつでもネタ募集中です
酉◆RYenwqtp9Y

関連リンク
新興宗教ハイグレ教
 →ハイグレアイドル候補生!
ハイグレ小説王国
 →変わりゆく若人たち
 →帝後学園の春


*応援しています*
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悪堕ち・洗脳・ハイグレ 絵とSSのひととき by正太郎
ハイグレ帝国史 byソラ
ハイグレストーリー! byナッシー
ハイグレ小説を書きたいだけの人生だった……。 by0106
ハイグレSS秘密研究所 byぬ。
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