【リク】転校生はハイグレ戦士 Scene2-2:潜伏

どうも香取犬です。そして8月です

夏バテはあまりしない質なので、頑張って色々書きたいというのが今年の夏の抱負です
たくさんのリクも来ていて嬉しい悲鳴を上げているのですが、しかし申し訳ない。自分のペースでこなさせてください
複数作品を同時並行なんて自分にはキャパオーバーかも、なんて弱音の一つも吐いてみたり
――だからこそこいつを進めねば!



アクション仮面vsハイグレ魔王 After If:転校生はハイグレ戦士 Original by >>2
Scene2-2:潜伏





 チャイムと同時に教室に駆け込んだ桜は、額に汗を浮かべている以外は何も変わらない様子で席に着いた。
 日直の業務は、想像していたよりは単純なものばかりだった。授業開始時と終了時の号令や黒板消し、あとは先生によって教材を運ぶよう指示してくる程度である。そのどれもを、桜は雫と協力してこなしていった。
 その間、桜の雫を見る目つきが時折鋭くなったり、表情が時折緩んだりしていたことを、雫は気付きはしなかった。
 昼休み。これまでのこの時間、一人きりだった桜の机の周りを二人の友人が囲む。
「沙羅ちゃん、こっちこっちー」
「お邪魔するよ、桜」
「うん、どうぞ」
 三人で弁当を寄せ合って食べる昼食は、桜にはとても美味しく感じられた。
 談笑の最中、雫がふと顔を教室の扉に向けた。つられて同じ方を見ると、二人の女子が連れ立って教室を出て行くところだった。今朝の話に出た、千種と文である。
「“お茶会”の招待かなぁ」
「まあそうだろうね。……お、隣のクラスっぽいな」
 廊下を歩いて行く二人の様子に、沙羅がそう推測する。桜は「招待?」と問うた。
「千石さん、誰かをおうちに呼ぶ日には、こうやって昼休みに直接その人のところに行って一緒にご飯を食べるの」
「それでお眼鏡に叶えば晴れてお呼ばれ、ってワケ。――っていうか何で千種、こんなこと始めたんかね」
 桜は続けて質問をする。
「その、千石さん? 性格に問題あるとか、とっつきにくいとかだったりするの?」
「うーん、別にそんな感じじゃなかったはずなんだよね。少なくとも夏休み前までは。なぁ雫」
「学校でお嬢様アピールしてたことなんてなかったと思うよ。友達も普通にいるし、わたしも話はするし」
 夏休みの間に何かがあった? そのように考えることまでは出来たが、真相の解明には至らない。
 とは言え、今日のことをきっかけに交友関係を増やしたい。ハイグレのこととは無関係に、一人の高校生として思う桜であった。
 だからこそ、もう一人教室から出て行く女子についても、興味を示してみた。
「今の人は?」
「えっと、御堂恵実さん、だったかな。実はわたしもまだ良く知らないんだ」
「雫、もう何回かアプローチ掛けてたよな。本当にとっつきにくい、ってのはこっちのことを言うんだよ」
 若い芝のようなショートカットの髪に氷のような瞳。トゲトゲとして近寄りがたい印象は、桜にも伝わってきた。
「まあいいじゃん桜、そんなに焦らなくても。時間はたっぷりあるんだしさ」
「そう、だよね」
 ……仲良くなれるかな。あの子をハイグレ人間にしたのなら。
 腹の奥でふつふつと煮えたぎるハイグレ人間としての欲求を、桜は慌てて抑え込んだ。そして箸でご飯を口に運ぶ。
 その様子に、雫が首を傾げた。
「桜ちゃん、変なこと聞くけど。そのお箸今――光ってなかった? ピンク色に」
「え?」
 自分の右手に握られた二本の箸を凝視する。弁当箱と同じ白いプラスチック製のそれは、特に変わった様子ではなかった。
「ホントに変なこと言うんだから雫は。メガネ拭いたら?」
 ごめんごめん、と笑いながら雫は沙羅の言うとおりにしたが、桜は内心引っかかることがあった。
 今回こそ気づかなかったが、今朝の登校中のことであればこの目で確認している。その時は鞄だった。そして今回は箸。どちらも手に持ったものであり、そして、
 ……どっちもハイグレのことを考えたとき?
 ハイグレ戦士になったことで、無意識の内にハイグレパワーが漏れ出るようになってしまった。勘の鋭い人にバレたら面倒なことになるだろう。雫には一度見られた。ならばやはり、急いでこちら側に引きずり込まなければいけない。
 今日のうちに終わらせよう。桜は決意した。

「日直最後の仕事は、学級日誌をつけることと、教室掃除だよ」
 人もまばらになった教室の中を、桜と雫は箒を手に掃き掃除を行う。ちなみに沙羅は部活のため先に出た。
 毎日誰かが掃除をしているにも関わらずどこからか湧いて出る塵芥をちりとりに入れ、ゴミ箱へと投じる。そのタイミングで担任の女教師が二人に言った。
「申し訳ないんだけど瀬野さん、鈴村さん、今日だけ資料室の掃除もしてくれないかな? どうしても無理ならいいんだけど――」
「――いえ、やります!」
 即答したのは桜。それも目を輝かせて。教師は目を瞠るも、腕時計を一瞥して「じゃあよろしくー」と教室を後にした。
「……桜ちゃんどうしたの? ちょっとびっくりしちゃった」
「勝手に決めてごめんね、でも一緒に手伝ってくれると嬉しいんだけど」
「うん、別に大丈夫だよ。――ちょっと待って。日誌書いちゃうから」
 桜は待った。そそくさとシャーペンを走らせる雫の背中に、Uの字を思い浮かべながら。
 一分と経たず立ち上がった雫は、日誌を教室前方の棚にしまい、それから桜を手招きする。
「資料室まで連れてくよ。きっと知らないでしょ?」
「お願いします……」
 威勢よく返事をしたはいいものの、雫の言うとおり桜はその場所を知らなかった。ということでその言葉に甘えてついていく。
 もちろん、先生の依頼を二つ返事で受けたのは、資料室とか言う場所ならば人目につかないところで雫と二人きりになれるからである。タイミングを図りかねていた桜にとっては願ってもみない話だった。
 廊下を歩く桜の服の下のハイレグが擦れ、疼く。心臓もトクントクンと大きな音を立て始める。
 ……まだ。もう少しだけ、我慢……!
 今すぐその無防備な背中にハイグレ光線を撃ち込みたい。意識せず心のなかに生じた言葉に、しかし桜は疑問を抱く。
 ……ハイグレ光線? たぶん、魔王さまが私をハイグレ人間にしてくださったあの光線のこと、だよね。出せるんだろうか、私に。確か魔王さまは『ハイグレ戦士は念じるだけでハイグレパワーを使っていろんなことが出来る』って言ってたはずだけど。
 ハイグレ戦士になってから丸一日と経過していない桜は、その能力をまだよく把握していないのだった。
 ……そう言えば手のひらの光は、あの時の光線の色に似ていた。だったら手を光らせたまま雫に触ればいいのかな。……分かんない。けど、やるしかないか。
 最悪の場合、雫を駄菓子屋まで連れて行こう。資料室の前で桜は強く拳を握った。
「じゃあやろっか。はい、はたき」
 独特の古臭い匂いのするこぢんまりとした部屋で、桜が本や棚に積もった埃を落とし、雫がそれを集める、というコンビネーションで掃除を進めていく。最後に雑巾で濡れ拭きし、十分強で作業は完了した。
 しかし桜の仕事は、ここから始まる。
「桜ちゃん、お疲れさま」
「……」
「桜ちゃん?」
 資料室の鍵を内側から掛け、邪魔の入らないようにする。傾きかけの太陽の差し込む小さな部屋に、二人きりで対面する。
 雫の表情は怯えというよりは疑問だ。桜が何をしようとしているのか全く見当もつかない、という。そこに桜は一歩近寄る。雫は一歩下がる。
「――ねえ、雫」
「な、なに?」
 もう一歩。距離は縮まらない。
「朝の話、覚えてる? 駄菓子屋で」
「えっと、女の子がコマネチって話?」
「そう。それとそのあと雫、何て言ったっけ」
「……面白い、って」
 もう一歩。距離は縮まらない。
「ねえ、雫」
「ま、まさか桜ちゃん、わたしにコマネチさせようと……?」
 ここでようやく雫の頬に朱が掛る。戸惑う色を目にしても尚桜は止まることはなく、
「ちょっとだけ正解。でも、そうじゃないよ」
 もう一歩。距離が縮まった。雫が窓際に追い詰められたのだ。
「じゃあ、どういう……」
「こういうこと、だよ」
 言うと桜は胸元からペンダントを取り出し、両手で握りこんだ。目を閉じ、黄色と青の色をしたそれに念を込めると、徐々に白色の輝きを発して桜の体を包んでいく。
「きゃっ!?」
 視界を灼かれた雫は、思わず腕で顔を覆う。数秒後、恐る恐る再び瞼を開くと、そこにいた桜は一切制服のようなものを纏ってはいなかった。
 腕と脚には二重の長いグローブやソックス。体には刺激的なデザインの、光沢のあるピンクのハイレグ水着。髪も瞳もおよそ人間のものとは思えない薄ピンクに染まり、そして左頬には紅い星のマーク。
 雫は友人の余りの変貌ぶりに言葉を詰まらせた。その視線は桜の大胆にさらけ出された脚と腰、ピッタリとした水着を押し上げる双房、こんな格好にも関わらず真剣にこちらを見つめる瞳へとだんだん登っていく。
「さ、さくら――!?」
 桜の両腕が無言で伸びてきて、雫のなで肩をガシリと掴む。背中は窓枠に押し付けられ、身じろぎすらも出来なくなった。
「私、雫にお願いがあるの。それは――」
 雫の中にゾクリと電流が走る。不快であるのに同じくらい快感も感じる、不思議な奔流。それが両肩から流れ込んでいると知ったのは、桜が次の句を放った直後であった。
「――雫もハイグレ人間になろう?」
「え、あっ、きゃあああああああああああっ!」
 激しい輝きが、驚く雫を頭から爪先まで覆っていく。その中で身体を強ばらせる。
 彼女の素肌のすぐ上に、滑らかな布地が被さる。しかし皮膚には触れていない。微妙なラインを保ったそれは、どんどん特徴的なハイレグ水着の形になっていく。その布が、透け始めた学校の制服の奥に色を映す。空の青、即ち――水の色。
 ピカピカと点滅する光の勢いに呼応して、雫の制服と水着がその存在を入れ替えていく。同時に少しずつ水着が収縮していった。
「う……あはぁっ」
 雫の口から思わず声が漏れたのは、ハイレグが肌に密着した瞬間だった。ここから更に、入れ替わりは速度を上げていく。制服や下着は立体ホログラムのように仄かになってしまい、代わりにハイレグ水着がここが自分の居場所であると宣言するかのように雫に密着する。ハイレグは、居心地の良い締め付け具合を探るために肌の上で蠢いた。そのたびに雫は紅潮していく。
 そして、完全に水着は顕現してしまった。役目を終えた光は掻き消え、後には肩を掴まれたまま呆然と棒立ちしている水色の水着姿の少女が残された。
 桜は満足気に頷くと距離を取り、雫の動向を見守る。
「雫、気分はどう?」
 呼びかけると、だらりと下がった腕が一瞬ひくついた。それを皮切りに、眼鏡の奥の瞳にも生気が戻ってくる。
「……桜ちゃん、わたし……どうしちゃったの……?」
 訊ね、僅かに膨らんだ胸を圧迫する生地に触れる。下半身がムズムズとして落ち着かないのか、内股になって膝を擦り合わせている。
 そんな涙目の雫に、桜は嬉々として告げる。
「ハイグレ人間になったんだよ」
「そう言えばさっきもそんなことを言ってたような……」
「うん。私たちみたいにハイグレを着てハイグレをしてハイグレ魔王さまに従うのが、ハイグレ人間」
「ハイ、グレ……?」
 連呼された「ハイグレ」の単語に理解が追いつかない雫。桜はどこから説明するべきか一頻り悩むがしかし、
「とりあえず、ハイグレしてみよう? そしたらすぐ分かるから」
「えっと、ハイグレするって何のこと? もしこの水着のことなら、ハイレグって言うんじゃないの? わたしこんなの着たことなくって恥ずかしい――」
 言いつつ、雫は切れ上がった足回りの線を両手でなぞる。その瞬間、彼女は下腹部に強烈な快感を覚え、訳も分からずただ身体をガクガクと仰け反らせた。
「――っあ、ひあぅんっ!」
 桜の脳裏に昨日の自分の姿が浮かぶ。あの時も丁度このように、ハイグレの気持ちよさに一瞬で囚われたのだった。この津波のような衝動をモロに喰らって、耐えられるはずがないのだ。
 予想通り、雷に撃たれた雫は中途半端に肘を曲げた姿勢で硬直していた。
「このくらいでそんなになってたら、本当にハイグレしちゃったら大変なことになるかもしれないね」
 そう、雫はまだ完全なハイグレポーズをしていない。桜がわざと意地悪そうにつぶやくと、雫の唇は何かを言いたげに震え、瞳は許しを請う子羊のように惑った。それでも必死に、言葉を紡ぐ。
「や……もっとなんて、嫌……っ」
 未だ余韻が全身を駆け巡っている雫の心の中は、口とは裏腹に既にめちゃくちゃだった。
 ……ちょっと水着を触っただけで、何でこんなに気持ちいいの……? もっと激しくやったら、もっと気持ちよくなれるのかな? でも、そんなことしたら自分が壊れちゃいそうで怖い……。それに、いくらなんでも恥ずかしすぎるよ。いくら桜ちゃんも水着だからって、わたしだけコマネチみたいなポーズを――。
 そこに思い至って、これまでバラバラだった疑問のピースが一気に組み上がっていった。「ハイレグ水着を着せられた自分」「コマネチで気持ちよくなってしまう」「駄菓子屋のコマネチ少女」そして「ハイレグ水着を服の下に着ていた桜」。ここから導きだされるのは、
「ま、まさか桜ちゃん、駄菓子屋の――」
「……もう隠す必要もないよね。その通りだよ」
 そう言って桜は脚を大きく外側に開き、腕を股間に添え、そして一気に引き上げた。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 ハイグレ戦士の格好で行うハイグレポーズに、胸元のハイグレストーンが反応して光が満ちていく。
 しかしそんなことより雫の目には、はしたない姿で滑稽なポーズを繰り返しとり、うっとりとしている友人が、恐怖と同時に羨望の対象として映っていた。
 ……これがハイグレ……! すごく気持ちよさそう。桜ちゃんと同じ格好で同じポーズをするなら、恥ずかしさなんて……!
 雫の中では、羞恥心よりも快への好奇心が今にも勝ろうとしていたのだった。
「ハイグレ! さあ、雫も一緒に! ハイグレ!」
「う、うん」
 恐る恐る股を開き、腕を下げる。この時点で肩紐と股間の布がキュゥと擦れ、雫は「んぁっ」と声を上げてしまう。未知の体験への恐怖は募る。だが、ハイグレの気持ちよさの片鱗を味わった者が、それを忘れることなど出来ないのだ。
 雫は意を決し、遂に初めてのハイグレを行う。
「はいぐれっ! ――はわぁっ!?」
 不完全なハイグレのときに感じたものとは比較にならないような痺れが、水着から身体の隅々まで走った。恥ずかしさなど感じている余裕もない。ただ早く再びハイグレで自分を染め尽くしたい、その一心で、
「はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」
 何度も何度も、水着の線をなぞり上げた。瞳はやがて快楽の中にトリップしていくが、それでも腕と口の動きだけは止めなかった。
 ……もうダメ、こんなの知っちゃったらもう、ハイグレなしじゃ生きてけない……っ!
「はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」
「どう? ハイグレって素晴らしいでしょ?」
「うん! わたしをハイグレ人間にしてくれてありがとう、桜ちゃん! はいぐれっ!」
 心からの感謝を述べる雫。そのハイグレコールに、突然桜のペンダントが発光反応を見せた。だが桜自身は現在ハイグレをしていない。と言うことは、
「やっぱり雫、ハイグレ戦士の資質があるんじゃ……!」
「はいぐれっ! はいぐれっ! どういうこと?」
 首を傾げても、ボーズは休まない。桜は答える。
「私のときもそうだったの。魔王さまにハイグレ人間にしていただいてハイグレをしていたら、同時に掛けられたこのペンダントがパッと光って、私をハイグレ戦士に覚醒させてくれたんだ」
「そっか、わたしのハイグレでそれが反応したから、もしかしたらわたしも……ってことかな。えへへっ」
 抑えきれないといった様子で、雫は笑った。どうしたの? と桜が問うと、
「だって、わたしも桜ちゃんとおんなじになれるかもしれないんでしょ? そしたら一緒に皆をハイグレ人間にしてあげられる。はいぐれっ!」
 もう、雫の思考は完全にハイグレ人間のそれに成り代わっていた。それが知れて嬉しくなる桜。
「じゃあ早速、魔王さまのところに行って、ハイグレストーンを戴こう?」
「わ、楽しみっ! ……あ」
 一瞬顔を輝かせた雫だったが、しかしある問題に気が付いた。
「服、どうしよう」
 ハイレグ姿を人間に見つかってはならない。それが魔王との約束だった。桜は悩み、魔王との会話を思い出し、そして解決策を思い出す。
「――私が雫を抱えて、空を飛ぼう」
「出来るのそんなこと!?」
「う、したことないから分からない……。けど、きっと出来る。魔王さまがそう仰ったんだから」
 それからハイグレストーンに溜まったハイグレパワーの残量を見た。朝から時々浪費して、今は半分程の弱さ。例えるなら豆電球だ。これがどのくらいなのか、空を飛ぶにはどのくらい必要なのか、見当は付かない。ならば、満タンまで回復させるしかない。
「雫、手伝って。一緒にハイグレしよう」
「――分かった!」
 雫は大きく頷き、そして二人同時に腰を下ろして、
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」
 狭い資料室に、ハイグレのコールの二重奏が響いた。繰り返し、一心不乱にハイグレを続ける。すると徐々にストーンの光は強さを増していく。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」
 そうしておよそ十五分。桜の胸元のストーンは先ほどまでとは違って煌々と輝いていた。顔を見合わせ、ガッツポーズをする二人。
「じゃあ桜ちゃん、お願いするね」
「了解。少し我慢してて」
 桜の制服を含め荷物は雫が持ち、その身体を桜が後ろから抱える。水着越しに柔らかな胸の感触が背中に伝わってきて雫は、ドキリとすると同時に嫉妬の感情も覚えた。そんな自分が恥ずかしくて、つい桜を急かしてしまう。
「は、早く行こ?」
 頷き、桜は部屋の窓を開いた。ここは三階だ。下に生徒がいないかを注意深く確認し、そして「飛べ」と強く念じた。
 瞬間、二人の間に挟まっていたペンダントが一層輝きを増す。と思うと、二人の足の裏から床の感触が無くなった。
「浮いた!」
「――行くよっ!」
 窓を勢い良く飛び出し、大気を切って一気に空まで上昇する。地上の人間が豆粒ほどにしか見えない高度に辿り着くと、少しは心に余裕も出来た。しかし、一瞬でも気を抜くとバランスを崩してしまいそうだった。浮遊にも慣れが必要なのだ。
「すごい! これがわたしたちの街なんだ!」
「だね。そして、これからハイグレ人間の街になる街……!」
 体を寝そべるように横に倒し、平行移動をしながら感慨に耽る。空から見下ろした街はとてもちっぽけで、そこに住む人間などひどく矮小な存在に思えた。ハイグレ人間こそ自分達生命体のあるべき姿。必ずここをハイグレ人間の街に作り変えよう……そんなことを考えた。
「あ」
 丁度桜が件の駄菓子屋を見つけた、その瞬間だった。二人の脳裏に直接語りかける声があった。
 ――ホホホ。どうやら順調のようね、桜。
「は、ハイグレ魔王さま!」
「この声が魔王さま……!」
 ――そーよ雫。早く会いにいらっしゃい。準備はできてるわヨ♪
 何気なく名前を呼ばれた雫は一瞬きょとんとし、すぐに歓びのため笑顔に変わった。
「ありがとうございます! はいぐれっ!」
「危ない雫っ! 揺れないで!」
「ご、ごめん桜ちゃん……」
 と、一度よろけながらも何とか体勢を安定させてから、自転車で坂を下る要領でスピードを調整させつつ、駄菓子屋の前に降り立つ桜と雫。店の扉は二人を招き入れるように開いている。
 桜にとっては一日ぶりの懐かしい匂い。雫は少し不安げな足取りで、桜の後に続いて入店した。途端に木戸がひとりでに閉じる。
「わっ!?」
「大丈夫だよ雫。落ち着いて」
 周囲は暗闇だ。しかし二人の姿だけは普通に見ることが可能である。これも昨日と同じ。やがて、家に置いてきたはずの仮面のカードが目の前に音もなく現れて、そこからヌウッとハイグレ魔王が飛び出した。マントもモヒカンも仮面も、昨日のままだ。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「あ、は、はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」
 桜と、一瞬出遅れた雫が、ハイグレ魔王にハイグレを捧げる。魔王は手を差し伸べて止めの合図をし、仮面を取り外した。どぎついアイシャドーを入れた目が、二人を見つめる。
『桜、まずはご苦労サマ。早くもこんないいコを見つけるなんて、流石はアタシの見込んだハイグレ戦士ね♪』
「ありがとうございます!」
『そして……初めまして雫。もうお分かりでしょうケド、アタシがハイグレ魔王。アナタ達ハイグレ人間を統べる支配者よォん!』
「はいぐれっ! 瀬野雫です! あの……魔王さまって、オカマさんなんですか?」
 雫が自己紹介と同時に訊ねると、魔王はみるみる唇を弓なりに曲げた。
『――っ! そうよそうなの! アタシはオカマさん! いいわ……アナタのこと気に入ったワ♪ 何でも言って頂戴。アタシ頑張っちゃうから』
 オカマ、の単語がそれほど嬉しかったのだろうか、魔王は上機嫌で雫の眼前にぐいと仮面を近づけた。彼女は臆することなく、
「じゃ、じゃあ魔王さま。わたしを桜ちゃんと同じ、ハイグレ戦士にしてください!」
 それを聞くと魔王は一歩下がり、両手をパンと叩いた。雫の首周りに光輪が現れ、それはすぐにハイグレストーンをあしらったペンダントに変わった。
『ゼェ、ハァ……。さ、さあ雫、ハイグレをして御覧なさァい。アナタの資質がホンモノなら、ハイグレ戦士になれるハズ、よ……!』
「魔王さま、大丈夫ですか!?」
 桜は慌てて、肩を大きく上下させる魔王に駆け寄った。昨日の魔王の発言――『ハイグレストーンを一つ生み出すのも今のアタシには一苦労』という言葉が頭を過ぎったのだ。二日続けてストーンを作ることの消耗具合がどれほどの疲労をもたらすのかは桜には分からないが、とにかく魔王が心配になった。
『えェ、大丈夫よ。このくらいで倒れる訳には、い、いかないんだから』
 プライドの高い魔王にこれ以上心配をかけるのは侮辱行為だと考えた桜は、雫の方に向き直った。彼女はハイグレポーズを前段階を構えていた。
「じゃあ、やってみます……!」
「頑張って、雫」
 コクンと首を振り、そして、
「……はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ!」
 水色のハイレグ一枚の姿で、一心不乱にハイグレを繰り返す。レンズ越しの目は至って真剣で、上半身の動きに追随してペンダントと二本のおさげが前後に揺れていた。
 それが数分続いただろうか。雫の表情は心なしか曇っていた。黄と青の対流するハイグレストーンは確かに光っている。光っていはいるが、先ほどからほとんど変化がない。
「はいぐれっ! どうして……? はいぐれっ!! はいぐれっ!!」
 焦りと、自分ではダメなのかもしれないという無力感が徐々に雫の心を蝕んでいく。だがそのような邪念が、余計に戦士化を阻んでしまうのだ。
『アナタにも桜と同じくらいの素質があるワ。アタシが保証する。だから今は、ハイグレだけに集中するの。いいこと?』
「は、はい!」
 気を取り直して、再びハイグレをする。その様子を桜と魔王は固唾を呑んで見守る。
 およそ二分後、その瞬間は突然やって来た。
「はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ! はいぐれっ! ――ああっ!?」
 少し前から輝きだしていたハイグレストーンから、カッと閃光が放出された。白い光は雫を飲み込み、しかしすぐに吐き出した。そのときには既に、彼女はハイグレ戦士の装備を纏っていた。
 縁に白色の輪をしつらえたロンググローブとニーハイソックス、そこに被せるように黒色のグローブとブーツ。髪は、スタイルはそのままに濃い水色に染まっており、ハイレグの生地も少し滑らかになっていた。そして何より、魔王とお揃いの左頬の紅い星のマークこそ、ハイグレ戦士たる揺るぎない証拠であった。
「やった……! なれたよわたし、ハイグレ戦士に!」
 自身の変化した姿に舞い上がる雫。文字通り飛んだり跳ねたり、ハイグレをしてみて感触を確かめる。
「おめでとう雫!」
「桜ちゃん、ありがとう! それにハイグレ魔王さま。さっきのお言葉のお陰で頑張れました! 本当にありがとうございます!」
 ハイグレ魔王は頭を下げる雫に言う。
『ホッホッホ! 礼など要らないワ、顔を上げなさァい♪ 感謝の意はアタシの手となり足となり、人間どもをハイグレにすることで示すのヨ。お分かりィ?』
「はい! ハイグレ戦士瀬野雫は、ハイグレ魔王さまのご命令に従います! はいぐれっ!」
 その返事に満足した魔王は、次に桜の方に顔を向けた。桜は慌てて気を付けの姿勢を取る。
『桜、今回はお手柄だったワ。まさかこんなにすぐにハイグレ戦士が増えるなんて思ってもなかったもの』
「そんな、たまたまです」
『タマタマでも何でもいいのよ。……そう言えばアナタ、少しはハイグレ戦士の能力を使いこなせてるのカシラ? さっきは飛んできたようだけど』
「私、飛んだのはあれが初めてで。まだちょっと自信がないです……」
『まあそれはゆっくりでいいわ。けど、ちゃんと練習しなさい。アクション仮面やアクション戦士との決戦のとき、足を引っ張ることだけはしないようにネ♪』
「アクション……戦士?」
 首を傾げたのは隣の雫だけでなく、桜本人も同じだった。
『アタシがアナタ達に力を授けたのと同じように、アンニャローも誰か手下を作ってそこら辺に放っているはずよ。そいつらもアナタ達同様、何かしらの特別な固有能力を持っているはず。正直、生半可な力では勝てないワ。だから仲間を増やすか、さもなくばアナタ達自身が強くなることよ』
「はい!」
 と返事をしたものの、何かが引っかかる。その正体を探ると、
「あの、魔王さま。今の口ぶりだと、私たちにも『特別な固有能力』がある、という風に聞こえたのですが」
 すると魔王は意外といった顔をした。
『アラ、言ってなかったかしらァ? ハイグレ戦士である二人にもあるはずよ。空を飛ぶとかハイグレ光線を出すのはあくまで基本能力。それ以外にもハイグレ戦士やアクション戦士は、それぞれ特別な技が出せるの。それはハイグレ光線にまつわるものかもしれないし、全く別の魔法のようなものかもしれない。アタシにも誰がどんな能力かは分からないから、アナタ達が自分で自分の能力を把握しとかなきゃならないの。これも大事な宿題よん♪』
「わ、分かりました」
 そんな特殊能力など自分にあっただろうか。桜が丸一日を思い返して、一番心当たりがあるのは手のひらの発光である。しかしそれは単なるハイグレ光線かもしれないし、判別が出来ない。このことを魔王に聞こうと思ったが、先に魔王が口を開いていた。
『とにかく、ハイグレ戦士が二人いれば侵略活動も大いに進むはずよ。協力して頑張りなさい。他のハイグレ人間たちも着々と侵略を続けてるようだし、これは思ったよりも早く復活の日が来るかも知れないワ♪』
「わたしたちの他にもハイグレ人間はいるんですか?」
『ええ。例えばそう、アナタ達と同じくらいの女の子で、名前は……千種、だったかしら。少し前にアタシが戦士候補に選んだコは』
「――千石さん!?」
 魔王の言葉に桜と雫は仰天し、思わず顔を見合わせた。
 同級生の千石千種は、既にハイグレ人間だったのだ。

 ほぼ同時刻。場所は街の北西に位置する千石邸。
 門に備え付けられた呼び鈴を緊張した面持ちで鳴らしたのは、普段着ない白のワンピースを纏って気合十分の少女だ。数秒後、落ち着いた女性の返事が聞こえる。
『千石でございます』
「あ、あのっ。あたし、千種さんに呼ばれてきた、か、柿崎美智留と言います! その……千種さんはご在宅ですか?」
『はい。千種お嬢様は中でお待ちです。どうぞお通りください』
「どうもですっ」
 何度も噛みまくり恥ずかしい思いをしたがどうにか話は通じたようで、インターホンの向こうの女性は門を開くスイッチを押してくれた。重々しい金属音が鳴り響き、左右に分かれた隙間をそろりと通り抜ける美智留。
 左右に丁寧に刈り揃えられた芝の庭を見ながら、美智留は千種の邸宅の玄関へ歩いて行く。
 ……何で私なんかが突然、“お茶会”に呼ばれたんだろう。そりゃあ私だっていつか呼ばれてみたかったけど、特に千石さんと仲がいいわけじゃないし、あり得ないと思ってたのに……。
 豪華な装飾の扉の前のデッキで、自分の格好を改めて整える。胸元のリボンを結び直し、オレンジの前髪を手櫛ですき、サイドテールに触れていたその瞬間に扉が開かれた。
「柿崎さん。上がってください」
 ついさっき応対された声の主――そこに現れたメイドの顔を一目見て、美智留は「あっ!」と声を上げた。
「保倉さん! 本当に千石さんの家のメイドだったの!?」
「はい。私はずっと、お嬢様に仕えてきましたから。――さあ」
「お、お邪魔します……」
 絵に描いたような広大なエントランスに気圧されつつ、美智留はいつもどおり平然とした様子の文の先導で、千石邸を進んでいった。
「柿崎さん、いらっしゃるの早かったですね」
「ご、ごめん。待たせちゃ悪いかと思って焦っちゃって」
「いえ、悪いということはありませんよ」
「なら良いんだけど。……ところで保倉さん、わざわざ私にまで敬語にしなくてもいいのに」
「いえ、ここではあなたはお客様、私はメイドですから」
 そのように言われてしまっては、美智留は押し黙るしかなかった。それを振り返ると文は、
「……でも、ありがと。これからもお嬢様や私と、仲良くしてくれると嬉しい」
 素の調子に戻って微笑むのだった。そのギャップに、美智留はある種のときめきに近い感情を得る。
 しかしそれは一瞬のことで、文はすぐに仕事モードに戻ってしまった。
「さあ、ここがお嬢様の部屋です。――お嬢様。柿崎さんをお連れしました」
 ノックをすると内側から「どうぞ」と返答がし、文が扉を開く。いよいよ“お茶会”だ。緊張する胸を抑えて、美智留は千種を見るより早く頭を下げた。
「きょ、今日はご招待いただき、ありがとうございます、千石さんっ!」
「ようこそ柿崎さん。早速、こっちへ来てくれる?」
「はい!」
 力んだ返事ののち美智留が正面を向くと、そこには、
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 真っ赤なハイレグ水着で見覚えのある奇っ怪なポーズを繰り返す、同級生の令嬢がいた。
「ひぃっ!?」
 美智留は頭の理解が追いつかず、喉の奥から甲高い悲鳴を発す。腰が砕け、体を震わせながらズルズル後ずさると、背中が文にぶつかってしまった。
「ほ、保倉さんっ! あれ……あれッ!」
 千種を指さしてわなわなと文の足に縋った美智留だったが、メイド服のロングスカートの感触はなく、ただ生足の温もりだけがそこにあった。嫌な予感がして恐る恐る視線を上に向けると、やはり文も急角度の白い水着姿に変わっていた。
 文が美智留を見下ろす瞳は、普段と変わらずぼーっとしているようだが、その実まな板の上の鯉を見るように、何の感情もこもっていなかった。
「ほ、ほくっ……も……!?」
 既にろれつが回らなくなってしまった美智留に向かって、文はハイグレポーズをとる。
「ハイグレっ、ハイグレっ、ハイグレっ」
「――か、き、ざ、き、さん」
 突如耳元で囁かれ、美智留は「ぎゃ!」と一声発すると壁際まで転がるように逃げていき、ペタンと座り込む。ハイレグ姿の千種と文は、涙目の彼女にゆっくりと近づいていく。
 二人は胸元に右手をかざす。するとキラリと手元が輝いて、次の瞬間にはおもちゃのピストルのような物が握られた。
「何なの……何するのぉ……」
 怯える美智留に、しかし千種は笑顔で口を開く。
「うふふ。実は今日柿崎さんをご招待したのは、あなたとお話をして、もっと仲良くなりたかったからなの」
「それで、どうしてこんな……」
「そのためにはまず、私たちの仲間になってほしいのよ。――ハイグレ人間の、ね」
「ハイグレ……?」
 それは先ほど二人がコマネチをしながら唱えた単語だ。まさか自分も同じ格好にされるのか。そう考えた瞬間、美智留の頬が一気に赤面した。
 入れ替わりに文が言う。
「大丈夫。ハイグレの素晴らしさは、着てみれば分かります。何も怖くも、恥ずかしくもありませんよ」
「は、恥ずかしいに決まってるよ! 二人ともおかしいよっ!」
 思わず強い口調で反論してしまうと、ハイグレ人間たちは一度見つめ合い、そして銃を構えた。
「どうやら口で言っても分かってもらえないようね」
「ならやはり、こうするしかありません」
 そうして愕然とする美智留に向かって、二筋の光線が迸る。
「きゃあああああああああああああああああッ!!」

『でも残念なことに、彼女は資質が足りなかったのよォ』
 ハイグレ魔王は、困ったように頬に片手を添えつつ腕組みをした。
「それで、その子はどうしてるんですか?」
 桜の問いに、魔王は答える。
『戦士になれないと知って、千種はとっても悔しそうにしていたワ。だから彼女にも出来る限りの活動を頼んだの。普通のハイグレ人間にも、ハイグレ光線銃を生み出して光線を撃つことは出来るわ。ハイグレ戦士のそれには劣るけどね。だからそうやって、少しでもハイグレ人間を増やして侵略を手伝って頂戴、ってネ。それが大体二週間弱前のことだったかしら』
「夏休み明け……桜ちゃんが来た頃だね。それに、千石さんが“お茶会”を始めた頃……!」
「じゃあ“お茶会”って、招待した人をハイグレ人間にするための口実だったってこと?」
「うん、きっとそうだよ!」
 気付かぬうちに、いや、桜や雫がハイグレ人間になるよりも早く、この街にはハイグレ人間が潜伏していたのだ。そして今もジワジワと侵略は行われている。同志の活躍に、二人は胸を躍らせざるを得なかった。
 魔王は『ともかく』と話をまとめにかかる。
『アナタたちも千種に負けないように頑張るのよ。と言っても勝負じゃないし、アタシとしては彼女と協力することをおすすめするけどネ。まあ、結果さえ挙げられればなんだっていいワ♪ ――次の目標はハイグレ人間数百人単位。そのくらいのハイグレパワーが集まれば、こんな街くらいすぐに征服できるワ』
 軽く言うが、このペースで洗脳を続けていたら何年掛るか分からない。桜はハイリスクハイリターンの賭けを、やはり実行に移そうと考えた。
 ……学校の生徒をハイグレ化させる。雫や千石さんがいれば、きっと上手くやれる……!
 あとは自分達の固有能力とやらも見つけなければいけない。することは山積みだが、決して悲観はしない。世界征服を必ず成し遂げるのだと、心に決めているから。
『……じゃあ二人とも、その意気で頑張って頂戴♪ あぁそうそうその前に雫。アナタの服を返してあげなくちゃネ』
 制服を出現させた魔王は、するすると闇の中に消えていった。完全にその姿が消え失せると、周囲の景色も色を取り戻す。
「あ、魔王さま! ……行っちゃった」
 雫はしょぼんと肩を落とす。しかし、
 ――アタシはいつでもアナタ達を見守っているワ。安心しなさァい♪
 という声が聞こえると、パッと明るさを取り戻した。桜は笑い、その肩に手を置いた。
「これから頑張ろうね、雫」
「うん!」

「えぐ……恥ずかしいよ……」
 嗚咽を漏らし、あられもない黄色のハイレグ姿で身を捩る美智留。なかなかハイグレを始めないのは、ハイグレ人間の手による洗脳はハイグレ戦士のそれに比べて非力だからである。とは言ってもハイグレを着せられた時点で人間はまともな反抗はできなくなり、どんなに遅かろうとも最終的には完全なハイグレ人間に生まれ変わるのだが。
「柿崎さん、なかなかハイグレしませんね」
「あら、文だってそうだったじゃない」
「……忘れてください。過去の話です」
 からかう千種に、拗ねる文。二人のハイグレ人間のやり取りを見せつけられながら美智留は、自分の中に芽生えだしていた衝動と戦っていた。
 ……嫌……こんな変な水着着て、あんなポーズしたくない……!
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
「ハイグレっ、ハイグレっ、ハイグレっ」
 ……なのに何で、千石さんたちが羨ましく感じちゃうの……!?
 勝手に、そろりそろりと腕が下がり、少しずつ股が開いていく。抗おうとしても、どこかで従おうとする心があって邪魔をする。葛藤は、しかし後者が着実に勢いを増していた。
 ……ハイグレってしたら、二人の仲間になれるのかな? でも、そんな恥ずかしいことするなんて……!
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
「ハイグレっ、ハイグレっ、ハイグレっ」
 千種は恍惚の表情を浮かべてハイグレポーズを繰り返している。それに対し文は真剣な眼差しを崩してはいなかったものの、薄く朱のかかった頬が快楽を感じていることを如実に示していた。
 恥辱などかなぐり捨てて、自分のしたいようにできたらどんなに楽しかろう。そんな思考が脳裏を掠める。
 ……ハイグレしたい。あたしもハイグレ、してみたいよぅ……。
 ドクン、ドクン。目の前に差し出された誘惑。たった足の付け根を擦るだけで得られる快楽。それを考えると居ても立ってもいられない。もう美智留は、後戻りできないところまでやって来ていた。
「……ハイ……んっ」
 腰を低くし、股間に生地の感触を味わう。これから自分はハイグレをする。ハイグレ人間になる。その瞬間を、自ら迎えようとしていた。
「……ハイグレ!」
 勢い良くハイレグをなぞる。グイッと引かれたV字の線から生まれた衝撃が、全身に伝わって美智留を一瞬でハイグレの虜にしてしまった。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! あんっ、ハイグレぇっ!」
 もうハイグレのことしか考えられない、と言わんばかりに、ハイグレポーズをし続ける美智留。
 千種と文は、新たな仲間の誕生を盛大なハイグレで祝った。
「ハイグレッ! おめでとう柿崎さん! ハイグレッ! ハイグレッ!」
「これで柿崎さんも、私たちの仲間です。ハイグレっ、ハイグレっ」
「ハイグレ! ハイグレ! あたし、ハイグレ人間になれたんだ……!」
 それを自覚すると、美智留の心に幸福感が押し寄せて、更にハイグレがしたくなった。
 三人で揃ってハイグレポーズを取ること数十分。千種たちの消耗したハイグレパワーも完全に回復したところで、部屋のソファに座って今後の話を始めた。
「さて、柿崎さん。あなたをここに呼んだのは、ただハイグレ人間にするためだけじゃないの。一つ、訊ねたいことがあるのよ」
「あたしに答えられることなら……」
 自信なさ気な美智留に、千種は頷いて迫る。
「分かる範囲で構わないわ。教えてちょうだい。……あなたが昨日、駄菓子屋の中で見た光景を」
「そのことを間室さんに話したのですよね。同じ話で構いませんから、お聞かせください」
 美智留ははたと気付いた。あのとき見た同級生がしていた行為こそ、
「……そっか、あれがハイグレだったんだ……」
 こほんと咳払いをして、美智留は当時の様子を思い出しながら語り始めた。
「あれは帰り道のことだった。いつも通り北町商店街の裏道を抜けて歩いていたら、珍しく駄菓子屋が開いてて。そっと中を覗いたら、髪の長い女の子がピンクのハイレグ水着姿で立ってたの。その子はあたしに気付かないまま、水着の上からうちの高校の制服を着ていった。そしてそれが終わると、突然『ハイグレ!』って三度コマネチ――ううん、ハイグレポーズをとったんだ。で、あたしは驚いちゃって、そのせいで気付かれて。この人に関わったらマズいと思って逃げ出したの。……結局、ほとんどその子の顔は見てない。ハイグレの最中は、こっちに背中を向けてたから」
 ここまで言って、ふう、と息を吐く。
 もう少し聞きたいことが、と、今度は文の番となった。
「もし次にその人を見たら、この人だと言えますか?」
「……多分。髪の毛がそのままなら」
「では、他にこのことを話した人はいますか?」
「朝、沙羅に話した以外には、あたしからは言ってないよ。どうせ信じてくれないと思ったし、自分でも見間違いかと思ったから。――けど今ならあれが本当だったって分かるよ。だって自分もそのハイグレ人間なんだもん」
 ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! と三度ポーズをとる美智留の前で、千種と文が話し合う。
「目標は二つに絞れましたね、お嬢様」
「ええ。駄菓子屋のハイグレ人間の捜索と、間室さんのハイグレ転向……!」
「これから、柿崎さんも手伝っていただけませんか? 我々の、そしてハイグレ魔王さまの悲願の達成を」
 文に差し出された手を、美智留はすぐさま掴んだ。断る理由などどこにもないのだ。
「もちろん! あたしはもう、二人の仲間だからね!」

 ハイグレ人間の数は決して減ることなく、少しずつ確実に増え続けている。
 次に千種が狙ったのは、間室沙羅。
 奇しくも沙羅の二人の友人こそが、千種のなれなかったハイグレ戦士であることを、彼女は知らない。
 そして知らないことがもう一つ――。

「……ハイグレッ!」
「……ハイグレっ」
「……ハイグレ!」
 千石邸の、千種の部屋のすぐ壁の外で、この一部始終に聞き耳を立てている者がいた。
 ……やっとしっぽを掴んだぞ、ハイグレ人間共……っ!
 彼女は忌々しげに唇を噛み、それから全身が光ったかと思うと、緑のアクションスーツに身を包んで空へ飛び去っていった。

   *Scene2-3:発覚に続く*



   *登場人物紹介・2*

転校生_瀬野雫_戦士
ハイグレ戦士・瀬野雫

転校生_千石千種_制服
千石千種(せんごくちぐさ)

転校生_千石千種_水着
ハイグレ人間・千石千種

転校生_保倉文_メイド
保倉文(ほくらあや)

転校生_保倉文_水着
ハイグレ人間・保倉文

転校生_柿崎美智留_私服
柿崎美智留

転校生_柿崎美智留_水着
ハイグレ人間・柿崎美智留

転校生_御堂恵実_制服
御堂恵実(みどうめぐみ)

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なんか久しぶりに洗脳シーンを書いた気がする……
前回も前々回もそういうのじゃなかったし、言ってしまえば前々々回も完全オリジナルではないし
それだけに楽しくなって、ついカットするつもりだった美智留のシーンまで書いてしまいました
物語展開の表現としては「美智留の悲鳴で終わった後桜たちに場面移動、そして視点が戻った時には洗脳済み」というのは結構ショッキングに魅せられるのですが、どうせ皆洗脳されることは既定路線ですからね。ならせめてハイグレ小説らしく、描写してやるのが愛というものかなと

伏線、というかいろんなオリ設定が次々現れだしました。ハイグレ戦士vsアクション戦士の構図や、異能力バトルの影がチラチラ見え隠れしています。一体何やってんだか
>>2さんのリクエストする町のシーンに辿り着くまでにまだもう少し寄り道をしますが、お待ちいただければと思います
というか既に原型も危ういような……いいや何とか軌道に戻しますから!
こんなにScene2が長くなるなら、分割でも仕方ないですね。うん。……書きたいように書いていたらいつの間にか伸びていたというのが実情ですが

登場人物が増え始め、紹介コーナーも肥大してきましたが、もしかすると今後これ関連で何かサプライズがあるかもしれません。確定ではないですけど

【8月5日】
ブログ「悪堕ち・洗脳・ハイグレ 絵とSSのひととき」の正太郎氏より、鈴村桜の立ち絵の支援を戴きました!
正太郎氏支援絵_鈴村桜_制服 正太郎氏支援絵_鈴村桜_水着
リンク先は氏のブログになっていますので、フルサイズの閲覧はそちらからお願いします
正太郎氏にかかるとこんなに肉肉しくなるのか、こりゃたまんねぇ! 谷間のハイグレ生地の張りとか太ももの質感が噴血ものですはい
正太郎氏のブログではSS付きえるたその洗脳シーンをはじめ、ハイグレ絵、ハイグレSSなどがたくさん掲載されておりますので是非読んでみて下さい
合わせて当ブログScene2-1の人物紹介も、こちらの絵にすり替えてあります(旧絵のリンクもあります)
記事初回更新時に間に合わなかったのは自分が確認を怠ったからですサーセン


因みに文は学校では普通の制服で、普通の口調で過ごしています。メイドさんなのはあくまで千石家の中だけ(但し学校でも千種に対しては召使状態)です。念のため
千種が魔王によって洗脳されたすぐ後、家に帰って何も知らない文を洗脳した、という経緯ですね


さて、次回更新は既に50日近く放置しているアチラの続きをそろそろ書きたいなと思っています。思っているだけです
その場合ブログの方は、過去記事の更新という形になります
さもなければ、別のリクかオリかをしれっと書いているかもしれません

最後に、研究所ジェネレータのDLをしてくれた方々、ありがとうございます。使い勝手は悪いかもしれませんが、時々妄想の糧にしていただければと思います
あと、記事も少々増えてきたので、ブログ右(PC表示時)の関連リンクの中に、全記事リストを追加しておきましたのでご報告まで

明日は明日の風が吹く。まあ今の時期は生ぬるい熱風ですよね
ではまた次回~
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

tag : リクエスト 転校生はハイグレ戦士

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待ってました!!

更新お疲れ様でした!いや~面白くなってきましたねw

洗脳描写こそやっぱりハイグレの醍醐味ですよね。美智留の洗脳シーンは最高すぎます!!抵抗しつつも、のパターンは王道ですよね。

絵も載せてくださって感謝です!雫がかわいすぎてやばい・・・

次回更新も楽しみにしています☆それではまた(^^)
プロフィール

香取犬

Author:香取犬
ハイグレの洗脳を受けて早幾年
遂に自らハイグレ小説を書くようになってしまいました
いつでもネタ募集中です
酉◆RYenwqtp9Y

関連リンク
新興宗教ハイグレ教
 →ハイグレアイドル候補生!
ハイグレ小説王国
 →変わりゆく若人たち
 →帝後学園の春


*応援しています*
ハイグレ第参ホール by参式
悪堕ち・洗脳・ハイグレ 絵とSSのひととき by正太郎
ハイグレ帝国史 byソラ
ハイグレストーリー! byナッシー
ハイグレ小説を書きたいだけの人生だった……。 by0106
ハイグレSS秘密研究所 byぬ。
くもりのちはいぐれ byなまもの
ZweiBlätter by空乃彼方
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