【リク】アクション仮面vsハイグレ魔王 Side:LAB.

あー、まずはお詫びをば。
またしても香取犬は、次回こそはと宣言したお話を書くことができませんでした。
こんなグダグダな調子が続いてしまって(しかもこれ二週間ぶりの更新ですし)、誠に申し訳ありません。

なんだか記事の冒頭は謝ることが恒例になりつつありますが……今回の更新の内容紹介もしなきゃですね。
でもその前に一つ言わせて下さい。

当ブログは7月5日に5000HITオーバーを達成しました! 皆様ありがとうございます!

開設から二ヶ月。これからもこんな感じで頑張っていきますので、よろしくお願いします!

閑話休題。今回は何の予告もなしに投書箱リクスレ>>5さんのネタの文章化です。
映画では描かれなかったハラマキレディースの去った後の研究所の光景。彼らがしんのすけを迎えに行くまでに一体何があったのか。
なるべく映画にあった設定は使いつつ、しかし数えきれないほどの独自解釈を加えたSide:LAB.です。あくまで独自解釈です。
厳密にはこれも二次創作な気もしますが……まあこれくらいなら。それに5000HIT記念ということで、映画に敬意を払うのもいいかなと。

では残りの語りはあとがきの方で。



アクション仮面vsハイグレ魔王 Side:LAB. Original by >>5

目次
“さっさと洗脳されてくれないかしら”(冒頭から読む場合はこちらか、↓の続きを読むへ)
“このシェルターはもう持ちません”
“しんのすけを追いかけよう”

あとがきへ ※本編未読者非推奨
 


「リーダー! 何者かが、この場所から飛び出していったのが、レーダーに映っています!」
「アクションストーンを持って逃げたわね。――よし、追うわよ!」
「ラジャー!」
 ハイグレ魔王に対抗すべく活動を続けていた北春日部研究所は、たった数分のうちに敵の手に落ちた。
 アクション戦士としてこの次元にやって来たしんのすけは一人(と一匹)で、スーパー三輪車に跨って敵の本拠地である新宿を目指して飛び立った。
 その動きを察知したハラマキレディースは、ハイグレ魔王を脅かす危険性のあるアクションストーンを奪うべく、しんのすけを追うのだった。
「ハイグレ!! ハイグレ!! ハイグレ!!」
 そんなハラマキレディースの出発を送るのは、研究所内でハイグレ人間となった者達のハイグレポーズだ。
 しんのすけを含む野原一家はふたば幼稚園の先生や友人たちの乗るバスに乗り、北春日部博士と助手・リリ子の指示で研究所までやって来た。しかし、スパイとして紛れ込んでいたまつざか先生の手引きによって、研究所の位置はハイグレ軍に特定され、その侵入を許してしまったのだった。
 結果はこの光景を見れば明白である。園長先生は緑、マサオくんは赤、ネネちゃんはピンク、風間くんは青、ボーちゃんは黄緑、よしなが先生は黄色、ひろしは水色のハイレグ水着姿に変わり、股間を強調するコマネチポーズを無理矢理取らされていた。また、しんのすけ、みさえ、リリ子の三人を体を張って守り抜いた北春日部博士も、今は無残に紫のハイグレ姿を晒しており、そして博士以下の研究員たちも同様であった。
 地球人をハイグレ光線によってハイグレ人間にし、地球を征服する。それが宇宙からの侵略者・ハイグレ魔王の計画だった。ハイグレ光線を浴びた人間は「ハイグレ!」と叫びながらハイグレポーズを取るうちに洗脳されていき、最後にはハイグレ魔王に忠誠を誓うようになってしまう。
 まつざか先生がスパイとなって彼らをハイグレ人間にせしめたのも、そういう訳である。彼女は今、他の未だ洗脳されきっていない者たちとは対照的に達成感に満ち溢れた笑顔でハイグレをしている。
 その最中、脳裏には様々な思いが浮かんでいた。
(まさかしんのすけくんに逃げられてしまうなんて……。せっかく北春日部博士の研究所を暴いたのに、これじゃあ失敗したも同然じゃない。まあ、その博士やみんなをハイグレにできたことが、せめてもの救いかしら。まだみんなハイグレに染まりきっていないけれど、きっともうすぐでしょうね。後は――)
 ちらりと、一部分だけ引っ込んだ壁のシェルターのような扉を見やる。博士が巧妙に隠していた、悪あがきのような脱出経路。そこに三人は逃げ込み、しんのすけはアクションストーンと共に逃げてしまった。しかし抜け穴さえなければ、みさえとリリ子はまだそこにいる。二人を洗脳するためには、シェルターを開けねばならない。それが外側から出来る者がいるとすれば、北春日部博士だけだろう。つまりは、彼の洗脳が完全に済むことを待つ必要がある。
(……さっさと洗脳されてくれないかしら)
 心のなかで毒づきながらも、しかし彼女は満面の笑みでハイグレポーズをし続けた。

   *

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 ああもう。僕は一体何をしているのでしょう。
 ハラマキレディースとやらが突然目の前に現れて、ついつい見惚れてしまったが運の尽き。訳も分からぬ間に光線を食らって、この緑色のハイレグ水着姿にされてしまいました。
 僕のハイグレ化によって、場を酷く動揺させてしまいました。仕方ありません、こんなオジサンのあられもない姿なんて誰も見たくはありませんでしょうから。
 次々に同じ姿にされていく園児たちや皆さんには本当に申し訳が立ちません。か細い「ハイグレ」の声が耳に届くたび、増えるたび、重なるたび、僕は無力感に苛まれていきました。しかし僕には、したくもないハイグレポーズをする以外に何も出来なかったのです。
 こんなことで園長が名乗れましょうか。いえ、名乗れません。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 まつざか先生は、恐らく僕の妻と共にハイグレ星人の手に掛かっていたのでしょう。完全にあちら側の考えに染まりきり、そしてスパイとして潜り込んだ。恨んでいるわけではありません。それもこれも洗脳のせいですから。
 ただ一つ思うのは、僕や皆さん――ハイグレ光線を浴びた我々も、間もなくこのようになってしまうのだろう、ということ。それがとてつもなく悔しいのです。
 だってそうでしょう。先程届いたのは吉報でした。もちろん、しんのすけ君が新宿に向かったという、あれです。彼こそ僕たちの希望の星。しんのすけ君ならきっとハイグレ魔王を倒してくれる、そう今の僕は信じています。ですが洗脳が進めば僕は……きっとハイグレ魔王に仇なす彼を憎んでしまいます。
 今の時点でも、実は相当キています。恥ずかしながら、既にしんのすけ君を憎む気持ちと信じる気持ちが、半々くらいにせめぎ合っているのです。もう僕にはどうすることも出来ません。いくら抗っても、ハイグレに染まっていく身体と心を止められはしません。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 この無念は、一体どこへ行くのでしょうか。この世から消えてしまうのは、少し、寂しい気がします。
 ですが口から漏れるのはただハイグレというハイグレ人間の合言葉のみ。今やそれさえも、僕にとっては心地よいものになってきています。精神がハイグレに侵されて、染まっていくのが分かるのです。
 ああ、しんのすけ君。君の小さな身体に託すのは、大人として情けないことですが……どうか僕たちを、助けて……下さい……。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 本当は、ハイグレ魔王様のところへ向かう君を、止められたら良かったのですが。いくらなんでも危険過ぎます。しんのすけ君が魔王様に逆らって、もしも命を落とすようなことがあれば、僕は誰を憎めばいいのですか。そうなる前に、ここで僕たちと一緒にハイグレ人間になるべきだったのです。
 せめて君が無事にハイグレ魔王様にハイグレ姿にしていただけるよう、祈っています。

   *

「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 何でボク、いつまでもこんなことしてるんだろう……。
 女の人の水着。しかも赤。ボクは男だし、こんな派手なの似合うはずないよ。体のあちこちがギューってしめつけられて、痛くはないんだけど変な気持ち。
 女の人はプールや海で、こんなのを着てたんだね。でも……ボクが着ることないじゃないか。
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 テレビは一週間前からハイグレの話題ばっかりで、何のアニメもやってなかった。「つまんないからしんちゃんたちと遊んでくる」って言うと、ママは決まって「家の中にいなさい」って言うんだ。「どうして?」って聞いても、難しい顔をして「なんでもよ」としか答えてくれなかった。ボクが行けたのは、幼稚園だけだった。
 テレビの中では東京が大変なんだって言ってたけど、ボクたちの春我部はいつもどおりだった。幼稚園でも誰も焦ってなんかなくて、「アクション仮面がやっつけてくれるから平気だよ」「アクション仮面、生で見れるかな」って感じ。ボクもそう思ってたから、心配性なママのせいで遊びに行けないのがちょっとイヤだった。
 だけど、アクション仮面は来ないまま、一週間がたっちゃった。幼稚園は夏休みに入って、ボクは本当に一歩も外に出してもらえなくなった。「埼玉の方にもハイグレの人たちが増えてて危ないから」って。東京以外は全然危なくないって言ってるテレビとママ、どっちが本当なのか、昨日のボクには分からなかった。
 そして月曜日の今日の朝、春我部は宇宙人におそわれた。ボクが窓の外を見ていたらニュースで見た通りのパンストの人たちが、空からいっぱいやって来たんだ。そのうち一人がボクの目の前に飛んできて――固まっていたボクをかばってママはハイグレ人間に……。
 ママは苦しそうに「逃げて」って言うから、ボクは家の外に出たんだ。そこにちょうど来た幼稚園バスに助けてもらった。
 それからなんだかんだあってこの研究所に着いたんだけど、まさかまつざか先生がハイグレ人間だったなんて。で、園長先生がハイグレにされちゃってビックリしていたら……ボクにも光線が飛んできた。
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 足を外側に広げて、水着の切れ込みを両手で何度もなぞる。やめようと思っても体が止まらない。
 でもどうしてだろう。なんだかさっきから、ちょっと楽しい気分になってきてる。ハイグレが楽しいことかもなんて、今まで考えたこともなかった。ただ、ママに恐ろしいことだって教えられてたからそう考えてただけで。
 自分でなってみて、初めて分かった。ハイグレってとっても楽しいんだって!
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 光線を浴びたママもおんなじだったのかな。今ごろ、どうしてるかなぁ。こんなボクを見たら、何て言うかなぁ……。「マサオもハイグレ人間になれたんだね」? 「これからはずっといっしょにハイグレしよう」? 「マサオの赤いハイグレ、かっこいいね」?
 どれでもいい。どれでもうれしいな。ママもしんちゃんもいっしょに、みんなでハイグレが出来たらすごく楽しいだろうなぁ……!

   *

「はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ!」
 恥ずかしいよ……誰か、助けて……!
 せめて着させられるならもうちょっとかわいいのがよかった。こういうセクシーな水着は、もうちょっと大人になってからじゃないと……。
 それにこのポーズ、どうして止まらないの? いつまでこんなことしてなきゃいけないのよ……。
「はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ!」
 今朝は、ママといっしょに玄関前でプールのためにバスを待ってた。なのにそこにあの気持ち悪い人たちが飛んできて、ママを水着姿に変えちゃったの。あたしはすぐにニュースで見たハイグレを思い出したわ。別にあたしたちには関係ない話だと思ってたのに。ママはテレビの中の人と同じように、目の前でハイグレをし始めちゃった。
 幼稚園バスが来たのはそのすぐ後。くやしそうな顔をした園長先生が、あたしをむりやりバスに引っぱり込んだのを覚えてるわ。ママが遠くに行っちゃったような気がして、あたしは久しぶりに泣いちゃった。バスには園長先生とよしなが先生しかいなかったから、誰かに見られる心配もなかったし。よしなが先生が頭をなでてくれて、それで少しずつ落ち着いてきた。それから聞いたの。「これからどうするの?」って。園長先生は、「とりあえずみんなの家を回って、みんなの無事を確認しましょう」って答えてくれた。
 でも結局、助けられたのは風間くんとマサオくん、それとボーちゃんだけだったわ。他の子たちはいくら呼んでも出てこなかったり、お外でお母さんといっしょにハイグレになっちゃってた。もう誰も残ってないかとバスの中は落ち込んでいたけれど、しんちゃんの家族はみんな無事で本当によかった。それといっしょに乗ってきた博士とリリ子ちゃんや、幼稚園から逃げてきたまつざか先生も乗せて、研究所ってところに着いた。途中、なんとか男しゃくにバスがつかまっちゃったときはもうダメかと思ったけど、しんちゃんのおかげで助かったわ。
 なのに……まつざか先生に裏切られて、研究所にはパンストの人が入りこんじゃった。ママをハイグレにしたビームもいっぱいやって来て、あたしは本当に恐かった。園長先生とマサオくんも、ハイレグ水着にされちゃった。となりの風間くんもすっごくふるえてた。博士とリリ子ちゃんが何かを話しているって思ってそっちを見たときに、あたしは光線に当たっちゃったの。
 服が消えて、代わりにハイレグ一枚にされた。まあ、あたしも女の子だから、この水着が絶対にイヤってわけじゃないんだけど……でもこのポーズだけは死んでもイヤ! だって恥ずかしいんだもん!
 風間くん、あんまり見ないで。っていうか早く逃げなさいよ。そう言いたくても言えないうちに、風間くんも女の人用の青の水着になっちゃった。それからみんなもやられていって、逃げられたのは三人だけのようだった。あたしたちはしんちゃんを追うハラマキレディースを、ハイグレしながら見送るしか出来なかった。
「はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ!」
 あれから何分たったのかな。もうずっとハイグレしている気もする。
 もうそろそろ限界……。ハイグレってするたびに体がじんじん熱くなって、気持ちよくなっていくのが分かる。ああ、これがハイグレになるってことなのかしら。
 どう頑張ってもハイグレをやめられないなら、こうしてガマンしてもムダよね。そうよ、そうなのよ。
 しんちゃんは……きっとあたしたちを助けてくれるはず。だってしんちゃんだもん。しんちゃんは、ハイグレ魔王さ……にだって負けないんだから!
 だからあたしはハイグレ人間になってもいいよね? ガマンしなくてもいいよね?
「はいぐれ! はいぐれ! はいぐれ!」

   *

「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 玄関を出た途端ママの声が聞こえて、急いでドアを開けたらそこにはハイグレ姿のママがいた。それがぼくが今朝見た光景だ。
 慌ててエレベーターに飛び乗って一階まで降りてみれば、道路には既にハイグレ人間となった人たちがたくさんいたんだ。知り合いもそうじゃない人も皆、テレビで見たのと同じように「ハイグレ」って言いながらポーズをとっていた。ぼくは気付くとどこへともなく走りだしていた。
 この世界にはアクション仮面がいて、どんな怪人もやっつけてくれる。それは子供でも知ってる常識だ。だけどそのヒーローはここ一週間というもの全く姿を現してくれなかった。そのせい、と言ってはいけないかもしれないけど、ハイグレ魔王は侵攻を続け、遂に春我部まで来てしまったんだ。まあ、ぼくはテレビが市民の混乱を避けるために嘘をついていることは分かっていたさ。
 ……だから何だって言うんだ。いくらぼくが賢くても、無力な子供であることは変わらない。ハイグレ星人に襲われれば為す術もなくハイグレにされてしまうはずだ。それが分かっているからこそ、余計に恐かった。
 商店街の入口でハイグレ人間に囲まれて腰を抜かしていたとき、運良く通りがかった幼稚園バスから降りてきたよしなが先生に、ぼくは助けられた。先にバスに乗っていたネネちゃんに泣く姿を見られて「まったく風間くんも子供なんだから」とバカにされたけど、全くその通りで言い返すことも出来なかった。でも、ネネちゃんの目も充血していたということをぼくはちゃんと気づいていたけどね。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 研究所に着いたからにはもう安心、とぼくは高を括っていた。だけど敵は身内にいたんだ。まつざか先生が本性を現し、ハラマキレディースというハイグレ軍の人を呼び寄せてしまった。すぐに研究所は阿鼻叫喚の地獄になる。
 光線の飛び交う中、博士が「しんのすけ君だけでも助けるんだ」と言ったのが聞こえた。それでぼくは全てを察した。しんのすけは助かるかも知れない。でも、ぼくらはここでハイグレにされるんだ、って。
 直後、隣のネネちゃんが光線に包まれた。悲鳴を上げ、そして辛そうにハイグレポーズをしだす。ぼくも今にこうされる。恐くて仕方なかったけれど、どうしようもないならと諦めた。すぐにぼくも、ハイレグに着替えさせられた。
 ピッタリと肌に吸い付くハイレグは、着心地だけで言えば正直ちょっと気持ちよかった。それに、一瞬で服からコスチュームに着替えるって、なんだか魔法少女のようでワクワクもした。……だけど、どんなに取り繕っても嫌なことに変わりはない。ハイグレ人間になった人は、性格が変わったようにハイグレ魔王に忠実なしもべになってしまう。あのまつざか先生のように。悪の手先なんて、ぼくは死んでも御免だ。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 今頃しんのすけは、アクションストーンとかいうやつを持って新宿に向かっているのだろう。しんのすけのママとリリ子さんは、きっとあの扉の向こうにいる。あいつだけは博士の言うとおり、ぼくたちを置いて無事に逃げおおせたというわけだ。良かったと思う反面、羨ましいというか、それを通し越して憎いという気持ちもある。
 なんでしんのすけだけ特別扱いなんだ。ズルいじゃないか。この研究所にいながら逃げることが出来たなんて。お前もぼくたちのように、ハイグレ人間になってしまえばよかったのに。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 くそ……ぼくにも光線銃があれば、今すぐあいつを追いかけて、ハイグレ人間にしてやるのに……!
 ぼくはここで、ハイグレをしているしか出来ないのか……!

   *

「ハイグレ ハイグレ ハイグレ」
 ハイグレ、か。ボク、ハイグレ人間に、されたのか。
 黄緑色の、ハイグレ……。それがボクの、ハイグレ。
 よしなが先生は、ボクをかばおうとしてくれた。けど、間に合わなかった。
「ハイグレ ハイグレ ハイグレ」
 ハイグレ魔王が、心に語りかけてくる、感じ。体も勝手に、ハイグレポーズ、する。
 でも、ボクは、ボクのままで……いたい。
 ボクは、人間だから。ハイグレを着ていても、人間、だから。
 だけど……。
「ハイグレ ハイグレ ハイグレ」
 ハイグレを着てハイグレポーズをするのが、ハイグレ人間なら、ボクももうハイグレ人間。なのかもしれない。
 両わきの風間くん、ネネちゃん、それにマサオくん、園長先生も、もう、笑顔。それか、真剣な顔。ハイグレに、なった。
 ボクだって、ハイグレ人間に、なるしかないんだ。
「ハイグレ ハイグレ ハイグレ」
 何か、変わった、かな。分からない、けど。まあ、いいや。
 ……ボー……。

   *

「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 守れなかった。私のクラスの子たち、誰一人。
 マサオくんのときは園長先生のハイグレ化によるショックで体が竦んでしまった。ネネちゃんと風間くんの位置までは、遠すぎた。せめてボーちゃんだけは。そう思っていたのに。
 またしてもハイグレなんて嫌、という気持ちが割り込んでしまったの。ごめんなさいボーちゃん。私はダメな先生ね……。
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 今日明日にも春我部が襲われるかもしれない、という話題は、幼稚園でもさんざん話し合われた。もちろん、夏季休業中のプールについてはどうするか、ということも。まつざか先生は事態が終息するまでは子供たちを自宅待機させるべき、と初めの頃から意見を曲げていなかった。けれど私は、ずっとそれに反対していた。春我部が無事なうちは、対処の必要はないと思っていたから。それに園長先生も、なるべくならば園児たちを遊ばせて安心させてあげたいという意見だった。
 そうして今日を迎え、私はこの先のことなどつゆ知らず園長先生と共にバスに乗り込んだ。――その直後だった。空をパンストおまるの大編隊が埋め尽くしてしまったのは。 幼稚園にはプールの用意をしていたまつざか先生と副園長先生、それと親御さんが連れてきた子供たちが既に何人か来ていた。その無事を祈りつつ、私たちは今できること、つまり園児たちの保護のために街中を駆けずり回った。
 結局バスに乗せることができたのは、僅か四人の子供たちとしんちゃんのお父様お母様、それと変な博士と女の子、あとは犬のシロだけ。それが私たちの限界だった。……悔しい。先生というものは、時に自分の身を呈してでも預かる子供を守らなければならない。なのに。
 なのに。
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 もう! 私は何をやっているのよっ!
 黄色のハイレグが私の体を締め上げてくる。と言っても私の持ってる水着は大概ハイレグだったりするわけだし、水着にこれと言った恥ずかしさはないのだけど。このコマネチポーズだけはちょっと……マズいかしら。
 そもそもハイレグというのは女の足をスラリと長く魅せるためのデザイン。ついでに競泳などにも使えるスグレモノ。だから本来の用途は観賞用か水泳用なわけで、こんな恥ずかしいポーズをするためのものじゃないのに!
 上半身を思いっきり反らしてハイグレするとお股の布が擦れて……こ、こんなので……っ!
 どうしちゃったのよ、私ってば。皆がすぐ側にいる中のに、う、ああっ! もうダメ!
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 ハイグレ最高! ハイグレ万歳! ハイグレ魔王様、私をハイグレ姿にしてくださってありがとうございますぅっ!
 どうかしんちゃんなんかに負けないで下さいね!

   *

「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 しんのすけは無事、逃げられたみたいだな。それに多分、みさえやリリ子ちゃんもやられちゃあいない。それだけは不幸中の幸いだと思いてぇな。
 ああ、ああ、どうせ俺はヤラレ役だよ。背後から撃たれてお前らに無様なカッコを見せちまった。流石に呆れてたよなぁ、あの顔。ホント情けねぇなぁ、俺は。
 水色のハイレグかぁ。俺が着ても誰も得しねぇよなぁ。やっぱハイレグ水着は、美人のおねえちゃんが着るに限るぜ。
 そう言えば今朝方駅前で見たおねえちゃんも、なかなかのナイスバディだったっけな。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 新聞の記事に違和感を覚えながらも普段通りに出勤した俺は、妙に道が静かなことに気付いた。夏休みに入って子供の姿が少ないのは分かるけど、大人の数さえ少ないのは変だ。例えるなら皆田舎に引き払ってしまったお盆の時期に近い。
 とは言え俺には関係のない話だ。そう思って駅まで辿り着いたとき……俺の目に飛び込んだのは天国であり地獄でもあった。
 美人のおねえちゃんも、ヨボヨボじーちゃんも、俺くらいのリーマンも、しんのすけくらいの子供たちも、みんなみんな、ハイレグの水着姿になっていたんだ。そして真剣だったり笑顔だったり苦しげだったり恥ずかしげだったりという表情の違いこそあったけど、とにかく一様に「ハイグレ!」と叫びながらコマネチを繰り返していた。それは本当に異様な光景だった。特撮の撮影? それにしては手が込みすぎてた。
 助けて! と叫ぶOL服の若いおねえちゃんがロータリーの向こうにいた。もしこれが撮影だったら、エキストラでもない俺が助けるのはマズいよなぁ、と思いながら彼女を目で追った。泣くおねえちゃんを追いかけていたのは、パンストを被って浮遊するおまるに乗り銃を構える怪人だ。訳の分からなさがアクション仮面級だった。
 おねえちゃんの悲鳴が次第に鬼気迫るものになっていく。おいおいプロでもあんな演技は殆ど見ねぇぞ、と舌を巻いていたのも束の間、俺は彼女と遠目に目が合ってしまった。――これは本物だ。俺が直感したその次の瞬間、彼女はパンストの撃った光線に包まれ、そして赤のハイレグ姿になってしまった。周りの人と同じようにコマネチをしだしたおねえちゃんを、俺は見捨てて踵を返した。
 申し訳なくて。訳が分からなくて。家族は無事か心配になって。そして、あの場に居たら俺も次に狙われるかも知れないと、怯えて。
 結局、しんのすけもみさえも無事だったが……リリ子ちゃんの言葉を借りれば、この並行世界に来てしまった時点で俺たちがハイグレ魔王と関わることになる運命は決まっていたんだろう。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 そして俺はハイグレ人間になった。あ、いやまだギリギリ心は俺のままだけど。
 みさえ、まだそのシェルターの中にいるのか? 俺、お前がこんな姿にされてハイグレってするとこだけは見たくないぞ。どうか逃げていてくれ。
 しんのすけ……後はお前に任せたぜ。父ちゃん、もうすぐお前の敵になっちゃうみたいだ。もし父ちゃんを見かけたら、容赦なくアクションビーム撃っていいからな。
 ……クソ、もう、限界か……!
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 ハイグレ魔王様、俺の息子の無礼を許してくれっかな。あいつ、きっと「オラが魔王を倒すんだ!」とか言ってるに違いねぇからなぁ。不敬罪で死刑なんかになったら……いやでも、魔王様に逆らったならそれでも仕方ない。けど、俺まで巻き添えにされるかもしれないと思うと……。クソ、お願いだしんのすけ、無事にハイグレ人間になってくれ。
 あとはみさえか。そのシェルターさえ開けば多分会えるんだろうが、肝心の扉はどうやって開けりゃいいんだ。
 北春日部博士なら知ってるはずだよな。あともう少し、待ってみるか。

   *

「ハイぃグレ! ハイぃグレ! ハイぃグレ!」
 ワシの寸胴な体に、紫のハイレグがキュッと張り付いておる。研究していたまさにその対象に落ちぶれてしまうとは、皮肉なもんじゃとしか言い様がない。ただ、いつかはこんな日が来るような予感はしておったがの。
 リリ子君はなんとか大役を果たしてくれたようじゃった。それもワシの体を張った足止めのお陰。ワシの時間稼ぎによって、世界の命運は首の皮一枚繋がったと言って良いじゃろう。ハッハッハ!
「ハイぃグレ! ハイぃグレ! ハイぃグレ!」
 ハイグレ魔王は、アクション仮面が最も恐れていた敵の一人。その存在を知っていたからこそワシは、来る日に備えて様々な施設や武器、そして対抗手段を考えてきた。どうか役に立つ日が来ませんようにと願いながらじゃ。
 アクション仮面の出自をワシは知らない。真相は本人と郷博士のみが知るところじゃろう。ワシは彼の協力者、普通の怪人ではない特殊な奴ら相手の兵器開発担当なだけじゃからな。その事もあって、ハイグレ魔王という侵略者のことを聞くことができたのじゃった。
 しかしワシに完成させられたのは、トリモチガンなどという致死性に欠ける武器、耐荷重三十キロの空飛ぶスーパー三輪車、誰にでも簡単にオン・オフ可能なバリアやシェルターを備えた研究所、そして自分をモデルに操縦席を設計してしまったためワシ以外に操縦できない多人数乗り浮遊カプセル……見事に完璧には一歩及ばない代物ばかりじゃった。
 ハイグレ魔王は、ワシにそれらの改良の時間を与えてはくれなかった。しかもあちらの世界でアクション仮面を無力化してからこちらを襲撃するという敵ながらあっぱれの作戦だ。郷博士との共同制作の賜である時空転移装置や時空間電話を用いて、なんとかあちらからアクション戦士を呼び寄せたはいいものの……アクションストーンを飴玉と間違えるような少年に果たして大役が務まるじゃろうか。……いや、今となっては務めてもらわねばならん。
「ハイぃグレ! ハイぃグレ! ハイぃグレ!」
 ワシが洗脳されてしまえば、対ハイグレ魔王用の知識などは全て彼奴に掌握されてしまう。そうなってしまえば、日本はおろか世界中が瞬く間にハイグレの手に落ちる。それを防ぐには、しんのすけ君が新宿に辿り着き、アクション仮面をこちらに呼び出し、そしてハイグレ魔王を倒すしか方法がない。文字通りこれが最後のチャンスなのじゃ。
 あとはシェルターの中のリリ子君としんのすけ君の母君か。彼女らには気の毒だが……洗脳されたワシが初めにすることは、シェルターのロックを解除することじゃろう。リリ子君も覚悟しているはずじゃろうて。
 しかし、出来ることならこのような惨事は避けたかった。……やはりワシは、今一歩注意力が足らんのじゃな。
「ハイぃグレ! ハイぃグレ! ハイぃグレ!」
 そんなワシでも、ハイグレ魔王様のお役に立てるじゃろうか。ワシはハイグレをしながら悩み、そして二つのすべきことを思いついた。
 一つ目は、この場に残ったパンスト兵様に、リリ子君たちをハイグレ人間にしていただくこと。もう一つは、浮遊カプセルに乗って新宿へ向かいスーパー三輪車を撃墜すること。アレの弱点ならばワシはいくつも知っておるからな。そうすれば魔王様の天下は安泰。ワシの功績も鰻上りじゃろう。うまくやればワシのこれほどの罪をも洗い流してくれるやもしれん。
 待っていてくだされ、ハイグレ魔王様!

   *

「しんのすけは無事かしら……」
「大丈夫ですよ。しんのすけ君ならきっと、無事にハイグレ魔王を倒してくれます!」
 リリ子は唇を噛みしめるみさえを、強く励まし続けていた。
 もうしんのすけの出発から十分ほどが経過している。恐らくハラマキレディースには追いつかれ、空中戦を繰り広げている頃だろう、とリリ子は予想していた。ヘマさえしなければ三輪車が何とかしてくれるはず。博士曰く、体重の問題以外にスーパー三輪車に死角なし。あの博士の言うことだからまた嘘なのではないかとは思うものの、今はそれに縋るしかなかった。
 また、十分と言えばハイグレ光線の洗脳がほぼ確実に終了する頃でもある。足止めというにはあまりに貧弱な無駄死にをした北春日部博士も、ハイグレの魔の手に堕ちてしまう時間だ。
 最早リリ子たちに逃げ場がないことは、リリ子はよく分かっていた。シェルターには今は閉じられた三輪車発進用の煙突と、大扉しか出入口はない。しかし大扉は、内側あるいは外側に備え付けられたボタンをひと押しするだけで、簡単にロックを解除出来てしまう作りになっているのだ。博士にせめて外のボタンは取り外すよう進言したこともあるが、博士は「何らかの事故で内側に閉じ込められたら大変じゃろう」と言って聞かなかった。そもそも事故を想定せねばならないシェルターに安全性もへったくれもあるものか、とジト目で睨んだが、決して口には出さなかった。そしてこのザマである。
 扉に耳を当てて澄ませば、微かにハイグレコールが聞こえてきた。しかしそれは過去の話。今はもう聞こえない。それはつまり、ハイグレコールの強制性がなくなり、洗脳が全員完了したことを表していた。
「あの、みさえさん」
「なあにリリ子ちゃん」
 みさえはなるべく平静を装って返事をした。しかし数秒後、リリ子の言葉に再び顔を引き攣らせることになる。
「……申し上げにくいんですが、このシェルターはもう持ちません。間もなく外側から開けられてしまいます」
「そ、それって――」
 リリ子は神妙に頷く。
「外には間違いなくパンスト兵が控えています。わたしたちもすぐに、ハイグレ人間にされてしまうでしょう」
 言う彼女も、喉が詰まる思いだった。自分だって当然、ハイレグ姿になるのは嫌なのだ。ましてや彼女は年端もいかない少女である。裸同然の格好でハレンチなポーズを取ることに抵抗がないわけがない。
 しかし、みさえは一瞬の驚きの他は妙に冷静であった。それこそ、しんのすけの心配をしているとき以上に。
「……そう」
「驚かないんですか?」
「別に構わないわ。私が今更やられたって世界は何も変わらないでしょう。しんのすけはアクションストーンを持って新宿に向かった。それを見送れたのだから、私はもう充分よ」
 半分本気、半分諦観の言葉に、リリ子も納得してしまう。そう、自分達のハイグレ化するしないは、この大きな流れの中では些細なことに等しいのだ。スポットライトが当たる必要もないくらいどうでもいいこと。しんのすけが勝てば世界は救われ、負ければ世界はハイグレに染まる。自分たちが再び舞台に立つとき、しんのすけが導いた結果に合わせた服を着ていればいいだけの話なのだ。
「……そう、ですね」
 リリ子は笑った。
 次の瞬間、シェルターの扉からプシュゥと音がした。密閉されていた空気が僅かな隙間から漏れだす音だ。咄嗟に二人は身構える。
 そして扉は開かれる。光の向こうには、色とりどりのハイレグ水着を着てこちらを窺う、変わり果てた姿の九人がいた。
 その隙間を縫うように、二条の光線がリリ子とみさえ目掛けて迸った。彼女たちは避けることも許されず、
「きゃああああああああ!」
「ああああああああああ!」
 光線をその身に浴びた。

   *

「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 うげぇ、いざ自分でやってみると流石に恥ずかしいわね……。
 しかもオレンジ無地のハイレグ。海辺でなら健康的に見えるかもしれないけど、ここは室内だしそれにこのポーズ。まともの人間ならやらないわ。
 それを無理矢理にやらせるってところが根性ひねくれてるわ、ハイグレ魔王って人は。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 しんちゃん……。
 リリ子ちゃんは大丈夫って言ってくれたけど、私はやっぱり心配だわ。あの子の肩に地球の未来がかかっているなんて、想像もつかないわ。でも実際そうなんだから、それは受け入れなくちゃいけない。最悪、生きて無事に帰って来さえすれば、母親としてどんな姿のしんのすけでも受け入れましょう。
 だからお願い、無事でいて。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 ごめんね、ママはもうハイグレになっちゃう。
 もしパパとママとお友達と、そして世界中のみんなをしんちゃんが救ってくれたら――
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 ううん、そんなことはあり得ない。だって魔王様のご威光には誰も逆らえないのだから。
 しんのすけ。無事、ハイグレ人間になるのよ。それだけがママの望みです。

   *

「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 わたしはハイグレをしてる。パンスト兵の光線を浴びて、スカートと同じ空色のハイレグ一枚を身にまとって。
 アクション仮面のパートナーとして戦うことになった時から、危険とは常に隣り合わせだった。怪人に捕まることも一度や二度ではなかった。
 でもその度に、必ずアクション仮面は助けてくれた。だから安心していられた。……だけど今この世界に、アクション仮面はいない。
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 妹のミミ子の住むあちらの世界は、アクション仮面も怪人も存在しない平和な世界。代わりに忙しさがあるかもしれないけれど、恐れるのは事故や怪我くらいのもの。でも、こちらの世界は違う。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者――そんな本物の侵略者たちがしばしばやってくるんだから。
 だから常日頃から、わたしは死や監禁や洗脳と隣り合わせ。自分達の侵略を阻むアクション仮面のか弱いパートナーだもの、怪人たちがわたしを狙うのも当然よね。
 そうは分っていても、このハイグレだけは絶対にしたくないと思ってた。だってこんなに切れ込みの激しい水着で、コマネチのポーズをさせられるなんて……わたしだって一応、女の子だから。
 でも、結局はこうなってしまった。アクション仮面が助けてくれるかは、しんのすけ君の活躍に掛かっている。もしそれがダメだったら、わたしもみんなも一生ハイグレ人間として生きることになるんだ。洗脳されたわたしたちはそれを喜ぶかもしれないけど、そんな世界は間違ってるわ。
 ……お願いアクション仮面。そしてしんのすけ君。ハイグレ魔王を倒して……!
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 もうやだ、こんなポーズ……!
 恥ずかしいのに、どうして? とっても体が熱くなって、気持ちいいの。ハイグレの生地のせい? それともハイグレ魔王様への忠誠のポーズだから?
 ――今わたし“魔王様”って考えた? ウ、ウソよそんなのっ! わたしが魔王様のこと魔王なんて呼ぶはずがない!
 ああああ! どうしちゃったのよわたし! これがハイグレの洗脳の力……? 
 もう我慢できないわ……。ごめんねアクション仮面、ミミ子。わたし、ハイグレ人間に変わっていくことが――すごく気持ちいいの!
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 よしっ。洗脳完了! 私はハイグレ魔王様の忠実なるしもべ、桜リリ子よ!
 魔王様に抗っていたときのわたしは本当のわたしじゃないわ。今の、ハイグレ人間として目覚めたこの姿が、本当のわたしなの。
 しんのすけ君もアクション仮面も、ハイグレ魔王様に逆らう悪い敵。わたしは正義の味方として、未洗脳者を懲らしめなくちゃ!

   *

「ハイグレ!!! ハイグレ!!! ハイグレ!!!」
 こうして北春日部研究所内に人間はゼロ人となった。
 ハイグレ人間たちは自分達の完全転向を祝って、声と動きを揃えて笑顔でハイグレを繰り返していた。
 それを見届けた残留パンスト兵たちも、元来たドリル型突入口を逆に伝って通常任務に戻っていく。
 やがて、紫のハイグレの北春日部博士が全員に呼びかける。
「――さて。これからワシらがすべきことを説明しよう。皆、改めて言われずとも分かっておるじゃろうが、現在、しんのすけ君がハイグレ魔王様の居城へと向かっている最中じゃ」
 タイミングを合わせ、ハイレグ姿の研究員たちは近未来的なディスプレイにレーダーマップを表示する。中心の家のマークが現在地、そして南東の方角へと家から遠ざかるように移動する丸が見える。
 空色の水着のリリ子が助手として説明を引き継いだ。
「しんのすけ君は今、アクションストーンがお腹の中に入ったままスーパー三輪車で新宿に行こうとしてるわ。そこが、あちらの世界と位相が一番近いところなのよ。新宿でアクション仮面をこちらに召喚し、魔王様を倒すという計画なんだわ。そして……見て」
 丸い光に重なって赤いトゲトゲの点が現れた。しんのすけを示す点は進み続けるが、赤い方はその場で留まっているようだ。
 青いハイレグの風間くんが、嫌な予感を抱きつつ訊ねる。
「これは?」
「……スーパー三輪車の交戦の印よ。でも、三輪車は今も新宿に進んでいる」
「え、ちょちょそれって」
「しんのすけ君はハイグレ軍の誰かと戦って、そして勝った、ということですね」
「この位置で戦いになるということは……まさかハラマキレディース様たちが!?」
 それぞれ黄色、緑、赤の水着を着たよしなが先生、園長先生、まつざか先生が、同じ一つの推論に達する。リリ子は沈んだ面持ちで「そうとしか考えられないわ」と告げた。
 嘆息に満ちる研究所。ハラマキレディースは、自分達をハイグレ人間にしてくれた恩人でもあるのだ。
 重い空気を打開せんと声を張り上げたのは、赤いハイレグ姿のマサオくんだった。
「……悪いのはしんちゃんなんだよね? だったらボクたちで、しんちゃんをやっつけようよ!」
 その言葉にピンクのハイレグを着たネネちゃんの顔が輝き出す。
「そうよ! しんちゃんをハイグレにしちゃえば、アクション仮面が来ることもないし、魔王様のお手伝いも出来るじゃない!」
「でも、どうやって」
 言葉少なに反論したのは、黄緑の水着のボーちゃんだ。あ、と喉を詰まらせ、ネネちゃんとマサオくんは固まってしまう。
 しんのすけが駆っているのは超技術を用いた発明品だ。速度はフルスロットルで乗用車程度とは言え、空の道を往くため新宿まではそれほど時間がかからない。
 オレンジ色のハイレグをまとったみさえが、申し訳無さそうにする。
「ごめんねみんな、ウチのしんちゃんのせいで……」
 そんなことないよ、と子供たちがみさえを慰める最中、「実はのぅ」としたり顔でスイッチを作動させる博士がいた。
「こんなこともあろうかと、こいつを用意しておいたんじゃ」
 ギギギと軋む音を上げながらシェルターとは別の壁が沈み込み、その奥に見えたのは球状の乗り物であった。分離させたガチャガチャのカプセルを軸で繋ぎ、頂点に操縦席を設置、そして上部に複数のプロペラを搭載したようなシルエットの、いかにもトンデモな乗り物である。大きさは、11人が乗るには充分過ぎるほどだ。
 先程とはうって変わって「おおっ」と声を上げる一同。
「こいつならばスーパー三輪車に追い付くことも不可能ではあるまいて。ただ、操縦できるのがワシだけなんじゃがな」
「いや、充分っすよ博士。ささっ、早速しんのすけを追いかけようじゃないですか!」
 ワクワクという感じで水色のハイレグのひろしは北春日部博士を急かす。博士もそれに応じ、
「元よりそのつもりじゃ。時間も惜しいしの。――では皆、乗り込んでくれたまえ!」

   *

 浮遊カプセルが都庁に跨るハイグレ城を目前に捉えたのは、太陽が沈みかけた頃だった。
 一行は中途で、地表で楽しげに会話をしているハラマキレディース三人衆を見かけた。その顔は完全に毒気を抜かれており、まるで改心をしたかのようだった。カプセル内ではハラマキレディースを負かし骨抜きにしてしまったしんのすけに対する怒りが渦巻いた。
 そして博士にもっと急ぐよう頼み、その通りにしてしまったところで、カプセルはオーバーヒートを起こした。そう言えば、とバツが悪そうに博士が「このカプセル、推奨乗員は三人なんじゃった」と呟いたおかげで大顰蹙を買った。「墜落せず飛んでいるだけで奇跡じゃないか」という二の句は、ただ火に油を注いだだけに終わった。
 ともかくノロノロ進む以外に手のない一行は、気球のような空の旅を続けたのだった。
 イライラは、ハイグレポーズによって幾分鎮まった。代わりに焦燥感が一層強くなる。魔王を信頼していないわけではない。どちらかと言うと、しんのすけが殺されやしないか、無事にハイグレにしていただけるだろうか、という方が大きかった。ハイグレ人間になり思考が変わろうとも、やはり彼らはしんのすけの最大の味方なのだった。
 ……聳え立つハイグレ城を間近で見上げた瞬間。彼らに異変が起きた。
「う、ぐぅああぁ……っ!?」
「ど、どうしたんですか園長せ――きゃぁっ!? 何これ!」
 体がカッと熱くなり、肌や、ハイレグからブスブスと煙が上がっている。それは例外なくその場の全員――いや、日本中のハイグレ人間にされた者たち全ての身に、同時に発生していた。
「あああっ! どうして、こんなこと……!」
「いや! 溶けちゃうぅ!」
「熱いよ……体が、ハイグレが熱いよぉ……!」
「ボ、ボー……」
 あまりの苦痛に何人かは立っていられず倒れ伏し、それ以外の者も体を捩って悶えた。
「は、博士、一体どういうこと……なんですか……?」
「一つだけ、うぐ、か、可能性がある。考えたくないことだが……ハイグレ魔王様が、倒されたのかも、しれん」
 リリ子と博士の会話に、その場の全員が戦慄した。ハイグレ魔王が、しんのすけとアクション仮面に敗北した。俄には信じがたい悲報であった。しかし、体中から何かが抜けていくことを思うと、これを否定することはできなかった。
「そんな、間に合わなかったの? ああ、ハイグレ魔王様……っ」
「しんのすけは無事、だったか。でも……素直に喜べねぇな、クソぅ……!」
 彼らの意識は徐々に朦朧としていく。ハイレグの感触もどんどん無くなっていく。
「い、嫌よ、あたしのハイグレが消えてく……! ハイグレ、ハイグレ、ハイグレ……っ!」
 最後に残った力を振り絞って、ハイグレポーズを取るまつざか先生。しかしそれも、すぐに止まった。
 そして重い瞼を無理矢理に開いても、視界は真っ白な霧に覆われているばかりとなっていった。やがて、意識は白い闇の中へ落ちていく。
 霧の正体はハイグレ人間の体から立ち上る、湯気のような煙である。しんのすけとアクション仮面の活躍によってハイグレ魔王が倒された瞬間、ハイグレ人間のハイレグ、及びその洗脳状態を維持していた魔王の支配力が切れてしまったのだ。それによってハイレグは分解、洗脳も解除されてだしているのだった。ハイグレ人間から人間へと戻っていくその姿を外側から見ると、実体のない繭に包まれて変態中であるかのようだった。
 ハイグレ光線は人間の服を消去してハイレグ姿に変えるが、元の服の情報はハイレグの中に別の形で存在している。故にハイレグが分解されれば、光線を浴びたときの服装に戻るというわけだ。
 操縦者である博士が意識を失ったことで、浮遊カプセルは自動運転モードに切り替わり、不時着できる最も近い場所をひとりでに探して着陸した。そこはハイグレ城の上層テラス。元はスーパー三輪車であった金色の破片が散乱する場所だ。そしてまた、シロがじっと飼い主の帰りを待っている場所でもあった。
 シロは突然おかしな形状をした乗り物が降り立ったことに驚いたが、自分のよく知る匂いを嗅ぎ取り、一声鳴いてカプセルに飛び乗った。シロの目に飛び込んだのは何の変哲もない洋服姿で昏倒している、研究所を最後に別れたひろしやみさえやその他知り合いたちだった。
 シロは近くのひろしを前足で揺すってみたり、何度も何度も鋭く鳴き声を上げた。すると続々と、倒れていた者達は意識を取り戻していく。
「う……シ、シロじゃねぇか。お前、どうしてこんなところに?」
「アンッ!」
「っていうかあなた。私たち、さっきまで……」
 未だクラクラする脳で記憶を遡る一同。
「確か私たち、研究所で襲われてハイグレにされたんじゃ……」
「ええ、よしなが先生。僕もそこまでははっきり覚えているのですが」
「あたしなんか幼稚園にいたところから記憶が曖昧よ。でも、なんだかとんでもないことをしてしまったような……」
 しかし服装は元通りで、思考も人間のそれであった。
「ボクちょっとだけだけど、ハイグレってやってたところ、覚えてるよ……」
「ボクも。……恥ずかしい」
「ぼ、ぼくはハイグレなんかしてないからなっ!」
「ウソよ。風間くんだって一緒にハイグレしてたじゃない」
 彼らの記憶には、ハイグレ人間であった最中のことは朧げにしか残っていなかった。いや、本当は全て残っているのだ。理性がそれを想起することを拒否しているだけで。
 そのときカプセルが――カプセルが接地しているハイグレ城が、鳴動し始めた。エンジンの駆動音のような音もする。
 博士はそれに気付いて、急いで操縦桿を握った。
「いかん、宇宙船が動き出すぞ! 皆、しっかり掴まっておれ。離陸じゃ!」
 横方向に掛る急激な重力に、乗員は振り落とされないように必死にしがみついた。浮遊カプセルは全速力でハイグレ城から距離を取る。城の宇宙船形態への変形、そして発射の衝撃波に巻き込まれないよう、充分に。それでも大気の震えによって、カプセルは荒波に揉まれる漁船の如く振り回された。この一連の流れの中、誰一人軽傷さえもなく済んだのは幸いであった。
 一同は夕焼けの空に消えていく侵略者の船を、豆粒ほども見えなくなるまで見上げていた。
 それから何かを思い出したようにカプセルの外を見渡すリリ子。彼女は現在の高度よりも少し下を指さし、顔を輝かせて叫んだ。
「――あそこ! アクション仮面と、しんのすけ君がいるわっ!」
 リリ子が目にしたのは、都庁の屋上に立つ二人のヒーローの姿であった。

   *完*



こんな感じでどうでしょうか>>5さん!?
一応、映画後半を見返したりクレヨンしんちゃんのWikipediaを流し読んだりはしたのですが、キャラの口調や映画設定等に齟齬があったらすいません。どうか見逃してください。
最近はアニしんも見てないので、キャラがこんな感じで大丈夫かちょっと心配です。……ボーちゃんパートとかどうしろと。

各キャラのパートには、「こちらの世界」の一週間やこの日の様子を書き加えてみました(というか分量的にそっちのが多いかも)。そういうことも、映画ではほとんど教えてくれませんでしたからね。
異星人に侵略されはじめて一週間が経過して、まだ東京近郊に人がいるなんてあり得ない。ということはメディアが東京以外は危険ではないと吹聴していたに決まってる、とか。
幼稚園バスはどのようにして子供たちを回収したのか。「夏休みだけど幼稚園でプールの日」とは語られていたため、そこからこの日の朝がどんなだったかを色々想像したり、とか。
しんのすけを迎えに来たぽっと出のヘンテコカプセルは何なんだ。あれにも博士のことだから何か欠点があるはず、とか。
そのカプセルにはシロも乗っていたが、いつの間に回収したんだ、とか。
そもそもどうやって彼らはハイグレから人間に戻ったのか。魔王が洗脳を解いたか支配が切れたからであるのは間違いないにせよ、服まで復活しているのはどうしてだろうか、とか。
……そこら辺は全部勝手な妄想で埋めさせていただきました。いやはや大変だった。

今回も書き出したときはすぐ終わるかと思ったのに、ズルズルと長く長くなってしまいました。こんなことなら同じ時間「転校生~」書きゃよかったかも、と思ったり。あ、別にこの作品を書いたこと自体を後悔してるわけではありませんが。
次に「転校生~」を更新したときは、もしかするとちょっと中途半端なところで終わりになるかもしれません。

それではまた~。
更新速度は遅いですが(代わりに文章量は少なくはないはず――ですよね?)、引き続きご贔屓していただけると嬉しいです。
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5000HITおめでとうございます!いつも楽しく読ませて頂いてます!
特にハイグレに憧れた少年はお気に入りです。
もしよろしければ、side:labのIF展開でアクション仮面がハイグレ洗脳されてしまうSSもリクしてもいいですか?

バッドエンド希望

もし、お時間があれば、しんちゃんのバッドエンドを書いていただきたいです!よろしくお願いします
プロフィール

香取犬

Author:香取犬
ハイグレの洗脳を受けて早幾年
遂に自らハイグレ小説を書くようになってしまいました
いつでもネタ募集中です
酉◆RYenwqtp9Y

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 →ハイグレアイドル候補生!
ハイグレ小説王国
 →変わりゆく若人たち
 →帝後学園の春


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ハイグレ小説を書きたいだけの人生だった……。 by0106
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