【インスパイア】三人のアクション戦士・コロシアムの決戦!

 丁度一年前の定時スレでは、とあるやり取りが交わされていました。
 この設定いいな、と思いながらも当時は「変わりゆく若人たち」を書いていましたから、胸を踊らせながらもスルーしたものです。
 しかし今は違う。書きたい時に書けばいいじゃん!
 ……相申し訳ありません。「転校生~」や「帝後学園の春」はまた次の機会ということで。
 
 それでは、そのレスにインスパイアされた物語を、どうぞお楽しみください。

 ちなみにあとがきまで跳ぶ場合はこちらです。




三人のアクション戦士・コロシアムの決戦!  Inspired by としあき
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「ようやく辿りついたわっ!」
「覚悟しなさい、ハイグレ魔王!」
「あなたを倒して、皆を元に戻します……!」
 ハイグレ城、その最上階にある玉座の間に響く三つの声。
 日本が、ハイグレ魔王率いるハイグレ軍に突如襲撃を受けてから二週間。一億以上の人間は、そのほとんどがパンスト兵などによってハイレグ水着を着てハイグレポーズをとる、ハイグレ人間に変えられてしまっていた。そんな人間たちの最後の希望こそが、異次元の戦士・アクション仮面によって選ばれた三人のアクション戦士だった。
 滾る使命感を体現したかのような赤く乱れる短髪の、スレンダーな女性――アクションレッド。
 穏やかさと荒々しさを併せ持つ海の色の長髪を高く括った、長身の女性――アクションブルー。
 おっとりした雰囲気でウェーブヘアーの、小柄ながらも胸の大きな女性――アクショングリーン。
 年端も行かない彼女たちの夢枕に謎の戦士が立ったのと、地球のテクノロジーを遥かに超越した異星人の侵略が始まったのは、ほぼ同時であった。
 彼女たちは家族を、友人を失いながらも引き寄せ合って合流し、魔王配下の幹部たちを苦戦しつつも退けて、二週間の旅路の果てにここまでやって来た。力及ばずハイグレの魔の手に落ちた人々を救えるのは、今や自分達だけなのだ。その思いが、彼女たちの疲れ果てた身と心を突き動かしていた。
 対するハイグレ魔王は、奇妙な仮面とマントの出で立ちで、玉座に深く腰掛けている。ハイグレ戦士の登場に、微塵も焦った様子はない。それどころか肩を揺らし、くつくつと笑い声をあげているではないか。
「な、何がおかしいんだ!」
「ククク……ホーッホッホッホ!」
 そしてゆらりと立ち上がり、仮面の奥から彼女たちに話しかけた。
「よく来たわネ、可愛らしいアクション戦士たち。歓迎するわァ♪」
 パチンと指が鳴らされると、両者の間に床からテーブルとティーカップが四杯せり出してきた。ブルーはしかしキッと魔王を睨んで、
「ふん。貴様なんかにもてなしをされるつもりはない」
「どうせその紅茶の中にはあたしたちを洗脳する薬でも入ってるんでしょ? 引っかからないっての」
「ィやーねぇ。疑り深いんだから」
 ハイグレ魔王は大げさに肩を竦める。
「それだけのことを、あなたはしてきたんです。……絶対に、許しません」
 グリーンのか細く、しかし芯の通った声を聞いて、ハイグレ魔王は仮面を半分外し、厚化粧の瞳で直接彼女を睨んだ。
「許さないなら、何? アタシにどうしろって言うつもり?」
「お前はなんにもしなくていいのさ! いや寧ろなんもすんな!」
「わたしたちは、あなたを倒します!」
「そして平和を取り戻す――その為に来たのだから!」
 叫び、三人は戦闘態勢に入る。各々の色を基調にした、女性向けにスカート等の改良を施されたアクション仮面のコスチュームを身にまとう。ちなみに仮面部分はサークレットとなって彼女たちの額に装着されており、顔は隠されず表面に出ている。故にハイグレ魔王は、自分に向けられた殺気の目を直に受けることとなった。
 それでも、余裕の表情を魔王が崩すことはなかった。
「……とんだおバカさんねぇ。アンタたちも、アクション仮面も♪ 全力のアクション仮面ならいざ知らず、その力をチョコっと分けてもらっただけのアンタたちが、今のアタシに勝てるとでも?」
「勝てるか、じゃねぇ。勝つんだ!」
「ホッホッホ! 威勢が良いのは大いに結構だけど、勇気と無謀は違うのよ?」
「貴様こそ、その減らず口がいつまで叩けるか……思い知らせてやる」
「ヤダ、怖ぁい♪ だけど、そんなアナタたちが『ハイグレッ!』ってしちゃう姿、アタシ見てみたいわァ」
「負けません――絶対に!」
 今にも飛びかからんとするアクション戦士たち。しかし魔王は右腕を高く掲げ、そして再び指を打ち鳴らした。
 それを合図に城が鳴動し、周囲の景色がぐしゃぐしゃに歪んでいく。彼女たちは眩暈のような感覚に襲われ、思わず目を閉じた。
 十数秒で揺れは収まり、それから瞼を開いたアクション戦士は、自分達が円形の闘技場の中央に立っていることを認めた。100メートルはあろうかというバトルフィールドと、それを囲う階段状の観客席。そこは、色とりどりのハイグレ人間で埋めつくされている。怒号のような歓声に混じって、「ハイグレ魔王さま万歳!」「アクション戦士をぶっ潰してください!」「彼女たちにハイグレの洗礼を!」といった、魔王の勝利を願う言葉が聞こえてくる。
 どう見ても地球人である彼らが、自分たちの敗北を望んでいる。アクション戦士たちは絶望と怒りに震えた。
 魔王が仮面とマントを脱ぎ捨てて、その青い肌とピンクのハイレグ水着とブーツを晒す。次に床からせり出して来た四本のサーベルのうち一振りを掴んで、
「使いたければ使いなさい。正々堂々戦いましょ?」
 それに対してレッドは両の拳を打ち鳴らし、そして、
「必ずお前を倒してみせる! ハイグレ魔王ッ!」
 武器を持たずに突進した。赤いグローブの左拳が、レッドの体重を全て載せて打ち込まれる。唸りをあげて迫りくる拳を、ハイグレ魔王は闘牛士を思わせる動きでひらりと躱す。
 だが、レッドの攻撃は終わらない。深く踏み込んでいた右脚をバネにして、現在地面と並行に近い体全体を反時計回りに捻り、大上段から落ちる左脚の回し蹴りを実現させる。踵が振り向く魔王のこめかみを完璧に捉え、頭蓋を揺らしつつ三歩後退させる。
 レッドがニヤリと笑って着地し、魔王が命中点を右手で忌々しげに抑えた時。すでにブルーとグリーンは細身の剣を手に追撃の構えに入っていた。
「ゃああああっ!」
「行きますっ!」
 グリーンの正確な刺突はハイグレ魔王の左大腿を浅く抉って体勢を崩す。そしてブルーは剣を横に寝かせ、首を取らんと通りぬけざまに一閃を繰り出した。肉を裂く感触が手に伝わってくる。
 二人は己の攻撃の成果を確認する。まさかこの程度で倒れるような相手だとは思っていない。与えたダメージを見て、すぐさま次の行動へと移る心づもりだ。
 ハイグレ魔王はゆっくりと三人の方を向き直った。――首は完全に健在。代わりに左腕に裂傷が走っていたが。
「ンフフ。ちょっと痛かったけど、これで分かったワ」
「……何の話をしている」
 魔王の瞳が、細く笑む。
「やっぱりアンタたちが、アタシに勝てないってコト♪」
 言うや否や、左の人差し指から一条のハイグレ光線を撃ち出した。レッドの足元に走るそれを、彼女は瞬時に跳躍して避ける。しかし、それが魔王の狙い。空中で自在に身動きがとれないのは、いかなアクション戦士であっても同じこと。右腕のサーベルにハイグレパワーを込めて、魔王は大きく踏み込んで上段から振るう。
 焦り、腕を交差させたレッドだったが、幸いにも彼女に刃が届くことはなかった。二人の間に、疾風が如く割り込んだブルーがいたからだ。ブルーは剣を構えて魔王のそれを弾く。重量感のある衝撃が両腕に、そして両足に伝わり、彼女は膝をついた。
「ブルー!」
 自分のせいでブルーが危ない。そう思ったレッドは借りを返すべく、着地と同時に姿勢を低くして地面を蹴り、ブルーの背中を強く突き飛ばした。そのブルーが寸前までいた空間に、ハイグレ魔王の斬り上げが閃く。宙に描かれるピンク色の軌跡に――レッドの右足首が呑まれていた。
「っ!?」
 痛みと、驚きと、そして熱に、レッドは目を見開く。対照的に魔王はニタリと笑う。
 レッドの華奢な体がうつ伏せのまま石の床をザザ、と滑る。悶えるレッドは、着地すら叶わなかったのだ。
「レ、レッド!?」
「しっかりしてくださいっ!」
 そこに二人は急いで駆け寄る。特に責任を感じるブルーの取り乱しようは酷かった。レッドを仰向けに横たえ、足の様子を診る。赤のブーツに紅い血が一筋流れている。そしてもっと問題なのは、その傷周辺がピンク色に妖しく光を放っていることだった。
 ワアアアアアアアアアアッ! これを見て、観衆が大いに湧き上がる。何千何万もの瞳がハイグレ魔王とアクション戦士の戦いを見世物として楽しんでいる。それが、新たな局面を迎えようとしていたからだ。
「完全には斬れなかったようネ。けど、時間の問題かしら」
「何が、ですか……!?」
 レッドをブルーに任せ、グリーンは一人立ち上がる。何が、と問いかけつつも脳内でははっきりと悟っていた。
「その赤い子。もうちょっと経てばハイグレ人間の仲間になる、ってことよ♪ 呆気なかったわねェ」
 判ってはいても、その断言は大きな衝撃をもって三人の耳に伝わった。
「ごめんなさいレッド……私のせいで……!」
 涙を零すブルーに、レッドは顰め面ながらも精一杯に微笑んで返答する。
「あたしは大丈夫。今はアクションパワーで抑えてっからさ。もう少し休んだら、傷も治る。だから安心してくれ」
「でも……」
「泣き言言ってる暇があるなら、パパっとあいつを倒しちゃってくれよ。……な?」
 強がりだ。そんなことはひと目で判る。しかし、このままレッドを眺めていても何も進展しないことは確かだ。ならばレッドが力尽きハイグレ姿にされるよりも先に、
「ハイグレ魔王――貴様を、この私の一刀のもとに斬り捨ててくれる!」
 涙を拭って咆哮し、剣を大上段に構えたまま精神統一を始めるブルー。それを見て、グリーンは己の成す役を見つけた。即ち、彼女が力を貯めこむまでの時間稼ぎ。数日前、敵の幹部の一人を瞬殺したのもこの技だ。それだけに、ブルー自身を含め三人はこれに絶大な信頼を置いていた。
「おかしなカッコ。そんな隙だらけじゃ、洗脳してほしいって言ってるようなもん――!?」
 死角から肩口を狙う切り払いを、魔王はすんでの所で刀身で受け止める。火花を散らせたのは、グリーンだ。
「あなたの相手はわたしです!」
「へェ。そんなお荷物ぶら下げて、よく動けるわネェ」
 空いている方の指で両の胸を指し示されたグリーンは、カッと顔を赤くした。羞恥心と共にサーベルを振りきり、距離を置く。
「だからなんですかっ! わたしだってアクション戦士です!」
「決闘の最中にお胸を隠してモジモジするのが、アナタの言う戦士なのね? ふぅーん」
 挑発するようにハイグレ魔王が笑う。同時に、周囲の観客たちの嬉々とした声が、グリーンにはやけに鮮明に聞こえるようになってしまった。この格好が当たり前、と思ってこれまで意識してこなかったが、端的に表せば全身タイツに近いコスチュームなのだ。ボディーラインは否応なしにくっきり浮き上がっており、胸当てはあとの二人と違って大きく双弓を成している。考えようによっては、あのハイグレとさして変わらないくらい破廉恥な姿なのではないか。それを今、こんなにも大勢の人に見られているのか。
 赤面しながらグリーンは自分に言い聞かせた。
 ……この格好とあの格好。比べるまでもなくあちらの方が恥ずかしい……!
 そもそもが大人しくインドアな性格のグリーンは、アクション戦士に選ばれたときにも自分には荷が勝ちすぎていると感じ、乗り気ではなかった。ただ、事態が進行していくに連れて自分にしか出来ないことがあるのなら、と叱咤して立ち上がったのだ。そして遂にはここまで来た。
 ……今更わたしに怖いものなんてない。あるとすれば、ハイグレ魔王に負けることだけっ!
 負けてハイグレを晒されるのは嫌だ。だったら、
「覚悟してください!」
 グリーンは迷いを振りきってサーベルを腰だめに構え、魔王に肉薄する。突きから始まる踊るような連撃。身を翻す度に胸部が躍動し、たわむ。それでもグリーンはステップを止めなかった。
 湧き上がる歓声の中、ハイグレ魔王はしかし眉一つ動かさず、冷静に剣舞を弾き、いなし、あるいは受け止めていた。これはおかしい、とグリーンは冷や汗を流す。
 これが実力差なのか? 一対一ではこの程度なのか? いや、決して要因はそれだけではない。アクション仮面から授けてもらった自分の、そして自分達の力量は、個々でさえハイグレ魔王に勝るとも劣らないものだったはず。それは思い上がりではない。
 では何故か。思えば先ほど斬られたレッドも、あのタイミングならばブルーを突き飛ばし、彼女自身も無事に避けられたはずだ。にも関わらず斬られたのは、
 ……ハイグレ魔王が、強くなっている……?
「甘いワ♪」
 嵐のように繰り出していた剣の僅かな隙を突いて、ハイグレ魔王はグリーンの腹に掌底を打った。
「かはっ!?」
 たまらず、くの字状になって吹き飛ばされるグリーン。手から離れたサーベルがカランと乾いた音を鳴らし、次いで宙を舞っていたグリーンの身体が墜落する。
 意識は首の皮一枚繋がっていた。しかし、身体は自由を失った。朦朧とする視界の遠くに見える仲間に、グリーンは届くはずのない声を掛けた。
「……頼みます。ブルー……」
 どうか勝って下さい、と。
 少女一人をまた地に伏させ、満足気に鼻を鳴らした魔王。その刹那、狙い澄ました雷光のような一撃が襲い掛かる。
「はああああああああッ!」
 よくやったグリーン、とブルーは心の中で激励した。
 グリーンは見事に時間を稼ぎ、そして魔王に隙を作ってくれた。悪い言い方を承知で言えば、グリーンに攻撃を加えてくれたお陰で自分が技をぶつけるチャンスが生まれたのだから。グリーンが魔王を圧倒し、抑えこんでくれれば言うことなしだったが、どちらにせよブルーのすることに変更はない。
 アクションパワーを武器と身体に限界まで溜め込んだ一撃。その駆け抜けた跡には青き稲妻が迸るかのよう。
 裂帛の気合とともに、ブルーはハイグレ魔王を縦に割かんと神速で剣を振り下ろした。
 風が唸る。あと僅かで刃が届く。その時だった。
「ちゃあんと言ったでしょ? アンタたちは負ける。――アタシの下僕となって、ネ♪」
 魔王の身が、サーベルよりも速く沈み込んだ。そしてその右手にピンク色に発光する野球ボール大の球を発生させ、がら空きのブルーの懐に潜り込んだ。
「!」
「さようなら、アクションブルー」
 次の瞬間、驚愕するブルーの身体に直接、ハイグレ光線の塊が叩き込まれたのだった。
「うわああああああああああああああああああッ!」
 妖艶な光に瞬時に包まれたブルーが、情けない悲鳴を上げる。剣を取り落とし、大の字になってもがく。
「ブルー!」
「あ……ああっ!?」
 二人が、仲間の敗北に息を呑んだ。手負いのレッドやグリーンと違いダメージを受けておらず、且つ一撃必殺の技を持つブルーは打倒魔王の大きな要だった。それが呆気なく崩されたという絶望が、彼女たちの胸に満ちる。しかしそういう理論の問題以上に、大切な仲間を失った痛みの方が、ずっと大きかった。
 いかにハイグレに一定の耐性を持つアクション戦士と言えども、魔王のパワーを直に食らったら勝ち目はない。光の中で青のアクションスーツが融けていき、それが晴れたとき彼女は――元、アクションブルーだった彼女は、青のハイレグ水着を身にまとっていた。
「く……そっ! なんて醜態だ……! 私が、こんな姿に……」
 唇を血が出んばかりに噛み締めて、屈辱に顔を歪ませながらブルーは言った。
 水着。そう、確かに一見そのように見える代物だ。しかしブルーのそれは、他の普通のハイグレ人間のハイグレとは少々違った。アクション戦士のスーツの意匠がデザインに残されたまま、まるでハイレグ水着型に切り抜かれたように肩や腰が露わになっているのだ。肩から下、腿から下は薄手のグローブやソックスを身につけているようであり、そして胸当てとサークレットは消失していたのだった。
「ホッホッホッホ! こんな姿? 最高の格好じゃないの! さあ、早くハイグレを見せてちょーだい?」
「誰が貴様の言いなりになんか――ハイグレ!」
 反抗の言葉の直後、全く意図せずブルーはその最悪の行動を取ってしまった。
「い、嫌だ、身体が勝手に、ハイグレ! ハイグレ! 言うことを聞け! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 慄くブルーの身体は、彼女の意志に反して独りでにハイグレポーズをとりだす。精神は元の人格のまま肉体を洗脳する、というえげつない行為を、
「ゴメンナサぁイ、ちょびっと小細工しちゃった♪ けど大丈夫、ゆっくりだけど心もハイグレになれるから安心してね」
 魔王はウインクを飛ばす程の余裕をもってやってのけた。
「気の強いアナタはそこでハイグレをしながら、仲間がハイグレに堕ちていくのを見ていなさァい」
「ハイグレ! ハイグレ! こんなの、あんまりだ……ハイグレ!」
 一人目のアクション戦士の陥落に、ハイグレ人間たちは大いに喝采を浴びせた。アクション戦士たちが守るべき民衆は皆洗脳されて、ハイグレ魔王の手下に成り下がって自分たちを敵視している。自分たちが不利になるたび、魔王が優勢になるたび万雷の拍手を起こすこの人たちを、救わねばならないのか。戦士たちの信念の根本が、揺らぎかけていた。
 完全なアウェーの中で、グリーンはよたよたと立ち上がる。
「ブルー……。わたしがもっと、魔王を止められていれば……!」
 何故かは分からないが、ハイグレ魔王は想定よりも遥かに強力な力を持っていた。それが全ての計算を狂わせた。しかし泣き言を言っても始まらない。どうにかして残る戦力で魔王を倒さねば。
 歯ぎしりするグリーンと離れた位置で倒れていたレッドも、ようやく復活する。足首に光を帯びたまま。
「いや。お前のせいじゃないさ、グリーン。あたしが弱かったんだ」
「レッド! 大丈夫なのですか?」
 グリーンに駆け寄られ、レッドは頷く。
「ああ。やっと戦えるくらいにはなった。……一足遅かったけどな」
 悔しげに吐き捨て、哀れな仲間を見やる。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 言いながらも、ブルーの表情は未だ苦痛に満ちていたことから、精神への侵食は始まっていないようではあった。とは言え魔王の言葉を信じれば、彼女が再びこちらの戦力となって戦うことはないのだろう。屈辱の思いを抱いたままハイグレポーズをさせられ続け、やがて洗脳が終われば――考えたくはないがブルーは敵となって立ちはだかるだろう。
「力を合わせよう、グリーン。それしか奴を倒す方法はねぇ」
「はい。ブルーを解放するためにも」
 レッドとグリーンは互いの拳を合わせた。それを見ていたハイグレ魔王が嘲笑する。
「あらあら、美しい友情ごっこだこと。なんだか余計に……イジめたくなっちゃう♪」
「ハイグレ! ハイグレ魔王、今に見ていろ。ハイグレ! ハイグレ! 必ず二人が、お前を倒す! ハイグレ! ハイグレ!」
 ハイグレの合間に、アクション戦士として宣言するブルー。
「けど、ハイグレしながら言われてもねェ。素直に『二人もハイグレ人間にしてあげて下さァい!』って言えばいいのに♪」
「誰が……! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! レッド、グリーン……勝ってくれ……っ!」
「ブルー! 待ってろ、必ず助けてやる!」
 レッドの咆哮にグリーンも柄を握り締めて応じる。
「ハイグレ魔王を倒し、平和を取り戻す。それがわたしたちの使命ですっ!」
 突撃。アクション戦士となり、常人離れした身体能力を手に入れた二人が、息を合わせて攻撃を繰り返す。グリーンが切り払い、体勢の崩れた魔王の腹にレッドがブローを見舞う。続けて回し蹴りを叩き込み、後退したところにグリーンの三連突が襲いかかる。少しずつ、浅い傷がハイグレ魔王の肌に増えていった。
 しかし有効打は与えられていない。それはレッドもグリーンも理解していた。
「ウフフ♪ どぉしたの? アンタたちってやっぱりこの程度?」
 手招く挑発には乗らず、二人は小声で話し合う。
「このままじゃラチが開かねぇ。やるしかねぇか? アレを」
「アクションビーム――アクション戦士の最後の切り札、ですね。でも、もしそれで倒しきれなかったら」
「分かってる。でも、時間がないんだよ。ブルーが耐えてくれてるうちはいいが、完全に洗脳されちまったらあたしたちに勝ち目はねぇ。それに……」
 レッドの視線の先には、自身の右足がある。グリーンも、彼女が言わんとするところを把握した。
「そう、ですね。では隙を突いて――」
「来ないならこっちから行くわヨ?」
 ミーティングを寸断する甲高い声。ハッと振り向けばもうそこまでハイグレ魔王が迫ってきていた。
「男らしくねぇぞ!」
「どーォいたしまして! アタシは男じゃないのっ。オ・カ・マ♪」
 着地と同時に繰り出したサーベルの突きを二人はギリギリで回避した。だが、切っ先が石畳を抉り取り、その扇状に撒き散らされた破砕礫によって二人は鈍い痛みを得る。
「ぐぅ……っ」
「な、なんて力……!」
 今度は、動きの止まったグリーン目掛けて魔王が左手から、
「ハイグレビィーんム!」
 ピンクの閃光を発射する。バリバリと音を立てて空を裂くビームに、グリーンは必死に体勢を立て直して構える。
「――アクションビーム!」
 胸の前でハの字を作ったその間から、黄金の輝きが炸裂する。正反対の性質を持つ二つの光線が空中で激突、スパークした。
 押しつ押されつ、拮抗状態となるハイグレビームとアクションビーム。しかし、それを放つ両者の表情には違いがあった。グリーンの顔が引きつっていくのと反比例して、ハイグレ魔王は口角を上げていく。
「強い、です……!」
「ハイグレ! グリーンっ! ハイグレ! ハイグレ!」
 ブルーの目にも、グリーンの劣勢は明らかだった。
「あたしも加勢する!」
 レッドはすぐさまグリーンの隣に駆け寄り、同様の構えをした。
 アクションビームは体内のアクションパワーを一気に使い尽くす代わりに、怪人の類には絶大な威力を発揮する技だ。但し当たらねばエネルギー切れを起こす諸刃の刃でもある。二人はタイミングを合わせ、確実に命中させて仕留めるつもりでいたのだが、魔王の不意打ちによってグリーンはアクションビームを撃たざるを得なくなってしまった。こうなっては出来ることは一つしかない。即ち、レッドのビームを重ねて、ハイグレビームを押し返すこと。
「お、お願いします、レッド!」
「任せろ! アクション――」
 レッドは意識を集中させビームを作りだそうとして――果たせなかった。まるで切れかけのライターのように、微かな火花が散るだけで。
 憔悴するレッド。再び挑戦するため両足を踏ん張った彼女は、そこで違和感に気づいた。
 ……右脚に、力が入らない!
 見れば、足首の光は今や腰の近くまで這い上がってきており、少しづつスーツを侵食し始めていたのだ。言うことを聞かない足は、
「や、やめろ! 避けてくれグリーン!」
「え!? ――きゃあぁっ!」
 前方に集中していたグリーンの無防備な脇腹を、勢い良く蹴りあげた。クリーンヒットの重みがレッドの身体に伝わってくる。放物線を描くグリーンに、なんと詫びればいいのか。レッドは頭の中が真っ白になった。
「よくやったわァ、アクションレッド♪ さあ……お仕置きの時間よォッ!」
 叫び、ハイグレ魔王はビームを発射した。空中で、何が起きたのか把握しきれず動揺するグリーンに、寸分違わず。
「いやあああああああああああああああっ!」
「グリーン! ハイグレ!」
「……すまん……っ!」
 ハイグレ型のアレンジを加えられたスーツ姿で地面に叩きつけられたグリーンは呻く。そして座り込んで自分の姿を見て、絶望した。
「うぅ……。わ、わたし……ハイグレに……!?」
 股間は細い布地で最低限度隠されているのみ。脇や背中はがら空きで、大きな双房を強調するように締め上げる。ハイレグ水着を着させられたグリーンは、自分の恥ずかしい部分を両手で必死に隠した。
「見ないで、ください……っ!」
 そのいじらしい抵抗に、観客が更に快哉を叫んだ。ハイグレ人間であろうと男は男。やはり見るところは決まっている。女性のハイグレ人間たちは、単純に敵戦士の陥落に喜んでいた。
「あぁ、そうそう。アナタはちょっと頑張ったから、チャンスをあげたわ」
 嬉しそうに告げるハイグレ魔王を、グリーンは涙を湛えた上目遣いで見つめる。
「な、何ですか……?」
「実はそのハイグレ、脱ぐことが出来るの。そしたらアナタは洗脳されることも、ポーズをとることもなくなるワ」
 ただ、最後にはもう一度撃っちゃうけどネ、と魔王は付け足した。
 グリーンは肩紐に手を掛ける。その誘いが本当ならば、今すぐこんな水着を脱ぎ捨ててしまえばいいのだ。それでレッドと共に戦えるかは分からないが、寝返るよりはマシだ。
 だけど。
「脱いだらわたし――」
「えェえ。マッパね」
 胸元の生地を少しめくると、生まれたままの姿がそこにはあった。
 替えの衣装や服や、タオル一枚もない。つまり、何万もの衆人環視のなかで、
 ……素っ裸にならないといけないんですか……!?
 それはグリーンにとって、女性にとって、死にも値する耐え難い恥辱であった。緊急時であるとか、仲間の危機だとか、地球の平和とか、それらと女の尊厳は別の問題だ。
 ただでさえアクション戦士のコスチュームに恥ずかしさを覚えていたグリーン。彼女はポーズや洗脳を抜きにしても、ハイレグ水着姿になること自体が嫌だった。なのに今度求められたのは裸を晒すことである。
 全裸か、洗脳か。
 究極の選択を突きつけられたグリーンの耳に、声が聴こえる。
 脱ーげ! 脱ーげ! 脱ーげ! 「脱げ、グリーン!」 脱ーげ! 「ハイグレ! 脱ぐんだ!」 脱ーげ! 脱ーげ!
 好奇の目をしたハイグレ人間だけでなく、仲間たちまでもがグリーンに素っ裸になることを要請していた。
「……!」
 脱げ、という言葉を投げかけてくるレッドとブルーさえも、今の彼女には敵のように感じられた。
 ……どうしてそんなことを言うんですか? 裸を見られるくらいなら、いっそこのままでもいいです……っ!
「まだ迷ってるのォ? 早く脱がないとハイグレ人間になっちゃうわよ♪」
「そうだ! お前までハイグレになったら!」
「ハイグレ! ハイグレ! 私の身体が動けば、無理にでも脱がせるのに……!」
 コロシアムのど真ん中で素肌を晒して立つ自分を想像して、グリーンは鳥肌が立った。やはりいくらなんでも、耐えられない。
「やめて、くださいっ」
「グリーン!?」
 ハイレグ水着姿で腰を上げたグリーンは、頬を真っ赤に染めながら宣言した。
「ごめんなさいレッド、ブルー。わたし、こんなところ裸になるのは……どうしても無理、です……」
「でも、ハイグレさせられるんだぞ!?」
「全裸よりマシです!」俯き、目をギュッと瞑って叫んだ。でも、「ハイグレだって、したくはないです。洗脳されるつもりも、ありません」
 ハイグレ魔王は駄々をこねるグリーンに訊ねる。
「じゃあどうするの?」
「耐えてみせます――はうっ!?」
 直後、ドクンと脈打った何かに彼女は悶えた。衝動的に腕が足の付け根に添えられ、脚がガニ股に開く。タイムリミットだった。
「だから、レッド。お願いします。うっ……ハイグレ魔王を――倒して下さい」
 微笑む頬を流れた二筋の涙が、グリーンの本心の現れだった。
「……分かった。約束する」
 レッドの言葉を聞き届けたグリーンは、
「頼みました、よ。……くぅっ……嫌……ハ、ハイグレ、ハイグレ、ハイグレっ」
 ゆっくりと、ハイグレポーズを取り始めた。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! 何もしてやれなかった……! ハイグレ! あぁっ、ハイグレ!」
 自身もハイグレをしながらも、ブルーは無力感に打ちのめされる。そんな彼女の心も、少しずつハイグレ化の兆しを見せ始めていたが。
 そんな仲間たちのあられもない姿を見て、強く拳を握るレッド。
「ブルー、グリーン。二人とも、あたしのせいでハイグレにされちまった。本当に、すまねぇ……!」
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
「……勝負だ、ハイグレ魔王。仲間を、そして皆を返してもらう!」
 宣戦布告を受けた魔王が、レッドの方を向き直る。
「哀れねェ。結局独りぼっちになっちゃって。――どォ? 大人しく負けを認めれば、苦しまずにハイグレを着せてあげるけど♪」
「断る! あたしは最後まで諦めねぇ!」
「それは残念。じゃあ」
 ハイグレ魔王は、サーベルを床に突き立てた。そして身構えるレッドに照準を合わせ、両手をかざした。
 ……最後は一対一のビーム対決か。へっ、分かりやすくていいぜ!
 レッドもアクションビームを放つ準備に入る。全ての力を振り絞り、結集させて真っ向からハイグレ魔王にぶつける。力が優れば勝ち、劣れば負けという単純な勝負の構図だ。
 最終決戦が、今始まる。
「アクションッ――」
「ハイグレぇェ――」
「「ビーーーム!!」」
 二条の稲妻のような光が、再び衝突した。
 しかしすぐにレッドは目を瞠った。ハイグレビームが予想より――いや、先程のグリーンに対して放たれた時より、遥かに強大過ぎる。
 ……何故だ!?」
 先ほど程度のビームなら自分でも、そしてグリーンも邪魔さえ入らなければ押し返せただろう。だが目の前のこれは、
「まさか、まだ全力ではなかったってのか……!?」
「違うわ」
 と、即座に否定を返された。
「まだ分からないの? アタシはハイグレ魔王! アタシに忠誠を誓う者の数だけ、アタシは強くなれる! アンタたちアクション戦士の、そしてあの憎きアクション仮面の失敗は、アタシがこの日本中のハイグレ人間の力を手に入れて、強くなっていることを知らなかったことよ!」
 バン、バン、とハイグレビームが続けざまに二回り太くなった。それによって均衡は完全に崩れ去る。
「何――!」
 黄金の光線は、うねるピンクの蛇に丸呑みにされて消えていく。
 勝負は、決した。
 パァン! 破裂音に近い大きなこの音こそ、アクションレッドにハイグレビームが命中した音だった。
「ああああああああああああああああああああああっ!」
 コロシアムに響く断末魔。観客が喝采しても掻き消えないほどの大声で、レッドは己の敗北を知らしめた。
 ピンクの輝きが収まると、そこには放心状態のレッドが立っていた。彼女の格好は、ハイレグの形をした赤いアクションスーツだ。
 それを眺めてハイグレ魔王が、満足そうに頷く。
「無駄に時間が掛かったけれど、結局はこうなる運命だったのよ! さあアクションレッド――いいえ、ハイグレ戦士・ハイグレレッド! アタシにハイグレを捧げなさァい♪」
「……嫌だ」
 おお? と観衆も、魔王も、似たような声を出した。極太のハイグレ光線を浴びて、未だにそれだけの意識を繋ぎとめているとは、思いもしなかったのだ。
 しかし、それは現在の話に過ぎない。遅かれ早かれ、彼女はハイグレに堕ちる。それだけは確定した事実なのだから。ならばそれまでの時間を、せいぜい楽しんでやろう。ハイグレ魔王はおもちゃを与えられた子供のように心を踊らせる。
「嫌と言われても。アナタ、もう戦えないでしょ?」
「戦う! あたしは負けないんだ……! テメェをぶっ倒すまでは!」
「でもハイグレ姿じゃない」
「だからどうした! あたしは絶対にハイグレなんかしない!」
「ンフフ、往生際が悪いんだから♪ でも、これならどうかしら?」
 指が鳴る。すると斜め前方から、ハイグレ魔王のものではないハイグレ光線が、レッドに向かって放たれた。レッドは自由の効かない身体を無理矢理捻って、なんとか躱す。
 その相手は、
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
 真剣な表情でハイグレを繰り返す、ブルーだった。
「ブルー、まさかお前っ!」
「気安く呼ぶな。それに私は貴様の呼んだアクションブルーではない」
 一息、
「私はハイグレブルー。ハイグレ魔王さまに仕える、ハイグレ戦士だ! ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「……ハイグレ魔王っ!」
「なァに?」
「何じゃねぇ! よくも……よくもブルーを!」
 一歩、前に出る。レッドはどうしてもあのニヤつく顔をこの手で殴ってやりたかった。だが、身体は最早鉛だった。
 そして思わぬところから、反論を食らう。
「私は本心から、私を洗脳してくださった魔王さまに敬服している。魔王さまに歯向かうならば、貴様は私の敵だ! 貴様も早く完全なハイグレ人間になり、魔王さまのご威光を受け入れろ!」
 ブルーの腕から飛来した光線は、今度こそレッドにヒットした。
「ぐわあああああああああっ!」
 かつての仲間の一撃が、身に染みていく。それでも、
「あ、たし、は……ハィっ……戦うんだぁっ!」
 苦痛に顔を歪め、精神も侵されつつあり、身体は今にもハイグレポーズをしかけながら、レッドは闘志を絶やしてはいなかった。
 ハイグレ光線を二発も受けてなお抗うレッドに、観客からも賞賛の声が上がる。だが、それは魔王に勝ってくれという応援ではない。どこまで耐えられるか見せてくれ、抗う姿で楽しませてくれという、観戦者特有の感情だ。
 自分が見世物にされていることなど、初めから判っていた。そもそもこの闘技場自体がそういう場所なのだから。誰もがハイグレ魔王を応援している中でそれを倒せば、
 ……どんなに気持ちいいだろうな。
 その思いで戦ってきた。しかし魔王は自分たちの及ばないくらいの力を身につけていた。遅かったんだ、ここにたどり着くのが。もっと早く勝負ができていたら一般人の被害も減らせたし、三人がかりで勝てていたはず。今更悔いても仕方のないことだが。
 ……いや、弱気になるなあたし! 勝てばいいだけの話だろう!
 一人でも戦う。己を奮い立たせ、拒む身体を押さえつけ、意のままにハイグレ魔王へと駆ける。
「く、らえっ!」
 必死の思い。しかし小学生の徒競走くらいのスピードでしかないその走りは、魔王を退屈させるに充分だった。
「――グリーン!」
「分かりました! ハイグレ魔王さまっ!」
 背後から聞き慣れた声がして振り返ったレッドの背に、無慈悲に三度目のハイグレ光線が注ぎ込まれた。
「くうううあああああっ!」
 目前に魔王。鼻先にハイレグ。レッドはそこで光線を浴び、そして腰を深く落とした。
「ハ……ハイッ……!」
 その苦悶の表情を視界に収めようと、魔王は三歩退く。レッドの顔には抵抗の色が未だ濃く残っているが、身体はようやく大人しくなったようだった。
「ほーら、そろそろ限界でしょォ? さっさと楽になっちゃいなさい。あの子のようにね♪」
 あの子、と呼ばれた者が、ハイグレ魔王の隣に駆け寄った。
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ! レッド、ハイグレはとっても楽しいですよ? わたしたちと一緒に、ハイグレしましょうよ!」
「グリーンまで……!」
「わたしはハイグレ人間になれて今、とても幸せなんですよ? 裸を晒して恥ずかしい思いをすることと、ハイグレ姿でハイグレをすること。今思えば迷う余地もない問いでした。もしあなたの言うことに従ってハイグレを脱いでいたらと思うと、ゾッとします」
 アクションスーツの成れの果てである緑のハイレグ風スーツを着たグリーンは、臆面もなく言い切った。レッドは、もうそこにグリーンがいないということを悟った。そしてブルーも。
 ……あたし、独りか。
 背中を支えてくれる人もいない。守るべき人もいない。ならば何故、倒せない敵に立ち向かおうとする?
 自問の声に答える術を、レッドは持っていなかった。
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ!」
 ……すまん、皆。あたしはもう……戦えない。
「ホッホッホッホッホ! 苦しむのはもう終わりにしましょうか、アクションレッド。アナタを解放してあげる。だから――」
 正面に魔王、それを挟んで左にブルー、右にグリーン。三者がガニ股のレッドに向かって、腕を構えた。
「――ハイグレにおなりなさァい♪」
「「ハイグレビーム!」」
 レッドの虚ろな瞳に映っていたのは、自分のこれから辿る運命と、そこへと誘う道筋であった。
「あああああああああああああああああっ!」
 バチバチと炸裂するピンクの光の中、レッドの身にこれ以上の変化は発生しない。代わりに光が晴れたとき、彼女の心には大きな変化が起こっていた。
 レッドは赤のハイグレで股間を魅せつけるように脚を大きく開き、腕を鋭い切れ込みに沿って動かした。
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ!」
 それがレッドの、第二の人生の産声だ。
 ブルーとグリーンの顔が輝く。やっとレッドも仲間になれた。共にハイグレ魔王さまの配下になれた、と。
 ハイグレ魔王もやれやれ、と言った体で肩を竦めるも、決して不満そうな顔つきではない。寧ろ、新たな同胞の誕生を心から祝福しているかのようだ。
 当然これを受けて、コロシアムの群衆のボルテージも最高潮に達した。遂に、ハイグレ魔王に楯突くアクション戦士が屈服したのだ。これでもう魔王の勝利は確実。即ち、地球はハイグレ魔王のものとなる。これを喜ばないハイグレ人間はいない。
 そう、洗脳されたての者であっても。
「ハイグレッ! ハイグレッ! アクションレッド改めハイグレレッド、只今洗脳完了! あの、最後まで抵抗していたあたしが言えたもんじゃないのは分かってるけど……ハイグレ魔王さま、あたしを魔王さまの配下として働かせていただけませんか!?」
 レッドは、精一杯大きなハイグレポーズをして誠意を伝え、ついさっきまで憎んでいた魔王に向かって哀願した。
 魔王の口が、弓なりに曲がる。
「……いいでしょう。ハイグレレッド、ハイグレブルー、そしてハイグレグリーン! アナタたちはハイグレ戦士として、抵抗を続ける哀れな人間どもにハイグレの素晴らしさを教えてあげなさァい♪ それが、アタシに歯向かったアナタたちの贖罪でもあるの。――いいことォ?」
「ハイグレッ! ハイグレッ! ハイグレッ! ありがとうございます、ハイグレ魔王さま!」
「ハイグレ! ハイグレ! ハイグレ! 私たちのような反逆者に対して余りある寛大な処分、感謝致します」
「ハイグレっ! ハイグレっ! ハイグレっ! 必ずや三人で、魔王さまのご期待に添える結果を上げてみせます!」

 こうしてアクション仮面の戦士たちは虚しくハイグレの魔の手に落ちた。
 対抗する手段を失った人類は、その更に二週間の後には全員がハイグレ人間に転向した。
 その迅速な洗脳の裏には、ハイグレ戦士となった三人の女性の活躍があったという――。


   *完*



 ああ、また寄り道してしまった。
 本来は「転校生はハイグレ戦士 Scene2」を書きたかったのだけど、今週末には間に合わないと判断したので、代わりとなる短編を書こうと思い立ったのが昨日で――そしたらこのザマですよ、ええ。
 大まかな小説の分類としては短編のボリュームだけど、いざ書くと(読むと)それなりにありますよね。嗚呼休日哉。
 
 自分はわざわざログを全て取っているわけではなく、単に読んでいて「これいい!」と思ったものを勝手にコピペして保存していました。
 それを始めたのが、上記のレスからでした。いつか書いてみたいなと思いつつ、ずっとデータの肥やしになっていました。
 昨日、何かアイデアがないかとそのテキストを開いたところ、このやり取りがピッタリ一年前であることに気付いたのです。
 ああ、こりゃ書くしかない。→しかしこれら複数パターンをただのパンスト兵にやらせるのは少し気が引けた。→ならば魔王さまに頼むしかない! →そしたら一般人では対峙もできない。→だったら戦える人材、アクション戦士を出せばいい!
 そんな感じの構想を経て、こんな物語が出来ました。
 アクション戦士の登場や、アクションシーンや、ハイグレ戦士への転向などは元レスにはない設定だったのですが、これらこれまでちゃんと書いていなかった(というかこれから「転校生~」などで書くつもりだった)要素も結果的に混ざり込んでしまいました。一瞬、もうこれで立て替えちゃおうかという邪念がよぎりましたが、「転校生~」は書きますのでご安心ください。
 ちなみに今回のような「リクエストではないが他人のアイデア」を作品化する時には、カテゴリは「オリジナル」内に増設した「インスパイア」枠に入れることとします。オリジナルを名乗るのも気が引けますが……まあそういうことで。

 レス転載について。
 初回の記事にもボソリと書いたことなのですが、これってアリなんでしょうか?
 昨今の掲示板転載禁止の流れは少々知っていますから、批判を避けるため今回はレスのコピペは遠慮しておきました。
 でもネタ元の明記をしないのは信条に反しますし、マナー違反と思います。ですので日付などだけは転載をお許し下さい。
  としあき 13/06/22(土)23:04:18 No.18741280
  としあき 13/06/22(土)23:24:23 No.18741462
  としあき 13/06/22(土)23:37:08 No.18741616
  としあき 13/06/23(日)00:02:33 No.18741909

 以上四レスよりアイデアを頂きました。誠にありがとうございました。
 「転載不可の明記なし」「アフィブログではない」を根拠としていいのならば、今後はインスパイア元レスを貼り付けたいと思います。今回の分のレスも公開します。
 また、もしこのようなアイデア拝借もマズいようであれば、それなりの対応をしようと思います。
 できればこの件についてご意見がほしい(特にとしあきの皆さんの)ので、良かったらコメントまたはメールにてお願いします。

 アクションシーンについて。
 量は多くないとは言え、折角アクション戦士とハイグレ魔王のバトルなので、少々力を入れてみました。
 最近、某鈍器でヘビーなライトノベルを読み返しているため、それに倣って緻密な書き方をしてみたくなったのです。初めて氏のラノベを読んだのが五年ほど前で、今やその文体の一部は自分の中に染み込んでいます。まあ、敵うだなんて微塵も思ってはいませんが。

 作品内設定について。
 語る必要性はありませんが一応、本文中に書けなかったこともあるので。
 ・アクション仮面は何かしらの事情があってこの次元には来られない。代わりに三人の戦士を選出した。
 ・侵略開始から三人が合流するまで一週間。幹部を倒しつつハイグレ城にたどり着くのに更に一週間。
 ・ハイグレ魔王はハイグレ人間の数だけ力を増す。侵略開始時よりも強くなっていたのは、侵略が進行していたことが原因。最終的にブルー及びグリーンのハイグレ化によって、魔王は更に強化されていた。
 ・アクションパワーとハイグレパワーは+と-であり、対極にある。アクション戦士はハイグレ光線をアクションパワーの限り防御することができるが、屈すると同じだけ強力なハイグレ戦士に生まれ変わる(+に-をかけるイメージ)。
 最後のものは、今後も使う機会があると思います。


 では最後に次回更新について。
 先ほど書いたように、次回は「転校生~ Scene2」の予定です。ここ一週間今後の展望を考えていまして、それが金曜ごろにようやく固まったのです。そりゃあ週末に更新は間に合いませんわ。
 あともう一つ原因を挙げるとすれば、今更初めて「キャラクターなんとか機」をDLしてみて、その着せ替えで遊んでいたことでしょうか。楽しくなってつい素材をDLしまくって、何時間も組み合わせて遊んでいました。
 模写ならいざしらずオリ絵を書く技能は自分にはありませんし、カス子を導入するPCスペックとお金と根気も持ちあわせておりません。自分はランダム作成ボタンを無心に押して、いい感じの子が出来たらニヤニヤするくらいしかできません。
 そんなこんなで試しに作った“鈴村桜”、「Scene2」公開時に同時に貼り付けてみます。


 ではでは、また次の更新でお会いしましょう。
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遂に自らハイグレ小説を書くようになってしまいました
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 →ハイグレアイドル候補生!
ハイグレ小説王国
 →変わりゆく若人たち
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