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【雑記】反抗声明【エセエッセイ】

記念すべき百記事目を、性別不詳の戦友へ捧げます。

とかカッコつけておいて、実体はただのノンフィクション風エセエッセイです。ハイグレ要素は微塵もありません。
以前書いた「ぼくとハイレグ」が印象に残っているという声を一部から聞いて、需要を勘違いして筆を執りました。
どんなメモリアルなハイグレ作品が来るのかな、と期待されていた全国二十万人の香取犬ファンには申し訳ありません。
まあ、個人ブログなんだから好きにやらせてね、ってことで。お気に障った方はブラウザバックするなり、リニューアルしたINDEXからお好きなハイグレ作品を探しに行ってください。
ではでは、過去最高にやまなし・おちなし・いみもなしのクソ重駄文、始めさせていただきます。



 家に帰ると、机の上に走り書きがぽつんと置いてあった。
 ――病院に行ってきます。これを読んだら戸締まりをして、ばーちゃんちに行ってください。 母より
 いつも録画していたドラマを観ていた母の姿はそこになく、黒いテレビの画面には呆然とした小学高学年の僕の顔が映っていた。
 父方の祖母宅は実家から一キロほどの距離にある。しかも小学校の方角だ。だから歩き慣れた道をとんぼ返りすることに文句を言う、ただそれだけしか考えずに済んだ。
 祖母は変わらぬ様子で迎え入れてくれ、既に弟はのんびりとくつろいでいた。父は僕を呼びつけ、こう話した。
「母さん、ガンかもしれないってよ」
 午前中に体調を崩して病院へ行き、検査を受け、結果そのまま入院コースになりそうだ、と。
 僕は、そっか、またか、とだけ思った。
 母は何度か肺炎を起こして入院をしたことがあった。だから今回もその程度のことで済むだろうし、母は何事もなく帰って来るだろうと楽観視した。楽観視するしかできなかった。
 当然、このくらいの歳であればガンがどれほど恐ろしい病気かは知っている。ましてや、父方の祖父は弟が生まれた直後にガンで死んでいるのだ。むしろ、ガン=死という方程式は僕の中にくっきりと存在していた。しかしなぜだか分からないが母のことを、その方程式に代入することはできなかった。
 こうして僕と父と弟は祖母宅に仮に居を移した。荷物と遊び道具を諸々車に詰め込んで運搬し、いつもと違う暮らしが始まることに密かに興奮していた。小学校は近くなり、朝起きる時間も遅くなった。祖母はお菓子を沢山用意してくれたし、ご飯も母のそれよりも豪勢だった。ちょっとだらしない態度でいると、くどくど小言を言う母のいない、自由な非日常がそこにはあった。
 数日後、男三人で初めて母の見舞いに行った。テレビカードを予備まで購入して寝っ転がりながら小さなテレビを眺めるその姿は、家にいたときと何ら変わりのないものだった。しかし、元々同学年の親より一回り年上である母が、更に一回りも老けて見えた。
「あんたたち勉強はちゃんとしてるの? ばーちゃんに迷惑かけてない?」
 ああ、またいつものうるさい話が始まった。僕は面倒がってうんうんと頷いた。
 しばらく子供たちの様子を伺うように話をしてから、母は本題を切り出した。
「子宮頸がん。ステージⅢだって」
 僕は首を捻った。子宮は知っているがケイとは何のことだろう。ステージ3って何のゲームの話だろう。
 次の分かりやすい一言で、そんな疑問は一気に吹き飛んだ。
「五年生存率、50%なんだって」
 過去に同じ病気になった人たちのうち、半分は五年後にこの世にいなかったということ。五年後といえば僕は高校生だろうか。そのときにこの母が側にいない確率が、半分。
 母は僕が生まれたときからずっと「母親」としてそこにいて、僕はその母の「息子」以外の何者でもなくここにいた。これからも永遠に続いていくと疑うことすらしなかったその関係が、崩れて消え去る可能性が、半々。
 頭を殴られたような衝撃が走った――とすればその子は大層利口な子だろう。愚かな僕は再び目を背けた。明確に死と重なりあった母を、僕が名残惜しむように目に焼き付けたり泣き喚き縋りつこうものなら、その行為こそが死神を呼んでしまうのではないかと感じたからだった。もしかしたらこれが最期になるかもしれないのに、と囁く声があった。だが、それに流されては本当に最期になってしまうかもしれないと恐怖した。
「そうなんだ」
 それだけ、辛うじて絞り出した。弟はおそらくまだ事の深刻さも何も分かっていないから、へらへらしている。理由は違えど取り乱さなかった息子たちに、母はこれからのことを話した。
「母さん、放射線治療受けることにした。抗がん剤も打つ」
「大丈夫なのか?」
 父が珍しく――それは息子である僕が驚くほどに――母と口を利いた。
 父と母は普段、喧嘩をしなかった。なぜなら、話もしないからだ。本当に必要最低限の会話を交わす程度で、下手すれば互いが伝えたいことがあったときに僕を言伝に使うことすらあるほどだった。しかも僕はこの歳になって尚、父と母が互いを何と呼び合っているかすら知らなかった。僕や弟に対し父が「母さん」と、母が「お父さん」と言うとき、そこには必ず「『お前の』母さん」「『お前の』お父さん」という三人称の含みがあることを、僕は感じ取っていた。
 それが僕にとって当たり前の両親の関係だった。だから父が母に声をかけたことは、それ自体が青天の霹靂であった。雷鳴はまだ止まない。母は頷いた。
「大分辛いみたいだけどね。髪も抜けるし、口中口内炎になるし、直接子宮に放射線撃つから被曝するようなもんだし、生理も止まる」
「だったら手術で切除するとかできるだろ」
「手術だと転移の可能性があるって。それなら放射線の方がいい」
「ユミが言ったのか?」
「あたしが言った」
 父に名前を呼ばれた母は、強く返事をした。それ以上、父が食い下がることはなかった。(なお、名前はもちろん仮名である)
 このとき、僕は初めて認識した。母は永遠に絶対的に「母親」なのではなく、「父の妻」でありそしてまた命に限りのある「一人の人間」だということを。
 途端に胸が苦しくなった。何とも言い表せない不安が僕を押し潰して、逃げようとしても逃げることはできなくて、ただじっと母を見据えた。
「頑張って」
 この人を喪う未来なんてなってたまるか、と、強く思った。

 僕たちの祖母宅での生活は、二ヶ月ほどで終わった。母は退院し、自宅での元通りの生活が始まった。
 母の様子で変わったことと言えば、黒い長髪は見事になくなり、家から生理用品は姿を消し、一日一箱空けていたタバコの消費量は10本まで減ったこと。
 そして僕は以前よりも母に協力的になり、同時に母を見下し疎む気持ちを初めて抱くようになった。母が一人の人間に見えるようになり、いっとき距離を置いたことで、母の言動のうちで僕の尺度に合わない部分に気付くことができた。今までは絶対的な母の権力に盲目的に従っていただけだったが、そうでない部分をはっきり言い返せるようになった。
 反抗期などは一度もなかったが、それはこのときにすでに親離れをしていたからだったのかもしれない。

 時は移ろい五年、十年、十X年。50%の賭けに勝った母は、白髪染めをした長い髪を一つに結び、今も居間で録り溜めたドラマを観ているはずだ。
 はず、というのは息子はもう独立してしまったから、というだけの意味である。母のことくらい自分は側にいなくてもよく知っている。

 そして遠くない未来、父と母は離婚する。結局のところこの夫婦は長年、子供を育てるという義務だけで成り立っていた関係だったのだ。かすがいがなくなれば分解するであろうことは、息子たちはよく知っている。
 いずれそのときが来て、仮に「あんたはお父さんとお母さん、どっちについていくの?」と聞かれたとして、自分はこう言おうと心に決めている。
「あなたたちが自分の父と母でなくなるのならば、自分もあなたたちの息子ではなくなってやる」
 運良く勝ち取った50%をむざむざ捨てるくらいなら、どちらかを選ぶ二択ではなく、どちらも選ばないという選択を。
 それが今の自分にできる、両親に対する一番の反抗だと信じている。



 というわけで最後に、この物語はフィクションです、という紋切り型の文言でも貼っつけて、冗談でしたチャンチャン、でお話を締めくくりましょう。
 それではまた次回。こんなのトップに長々置いとけないから、さっさと次を更新しちゃいたいですね。ではー。
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香取犬

Author:香取犬
ハイグレの洗脳を受けて早幾年
遂に自らハイグレ小説を書くようになってしまいました
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